企業のネイチャーポジティブ戦略と30by30目標について解説!

環境問題と一言で表すと、気候変動問題が真っ先に思いつく人が多いでしょう。しかし日本は現在、二つの大きな環境目標に同時に取り組んでいます。
「気候変動対策について我が国は、『2050 年カーボンニュートラル』の目標の下で、2030 年度に温室効果ガスを 2013 年度から 46%削減し、さらに 50%の高みを目指して挑戦を続けることを宣言している。生物多様性においても、世界目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組を踏まえ、我が国における 2050 年の『自然と共生する社会』に向けて、2030 年までの新たな目標を掲げることが求められている。これら二つの持続可能性のための目標を、相反させずに、同時に達成しなければならない」
そして環境省は、これら二つの課題を別々のものとせず統合的に解決する方針を示しています。
「生物多様性損失と気候変動は『二つの危機』と呼ばれており、この二つの危機に対して統合的に対応することが喫緊の課題となっている」
このような背景のもと、生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」という考え方が注目されています。その実現に向けた重要な取り組みが
「30by30目標」です。
これは、「2030 年までに、世界の陸と海の 30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標である 30by30 目標を達成すること」を重要な柱としています。
引用 生物多様性国家戦略 2023-2030、p.1-3
https://www.env.go.jp/content/000124381.pdf引用 30by30 – 環境省
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/
目次
30by30目標の構造とOECMの役割
30by30目標は、昆明・モントリオール生物多様性枠組のグローバルターゲットの一つとして位置づけられており、世界共通の目標となっています。
日本国内での具体的な達成目標として、国家戦略では次のように定められています。
「陸域及び海域の 30%以上を保護地域及び OECM により保全するとともに、それら地域の管理の有効性を強化する」
ここで注目すべきは、「保護地域」だけでなく「OECM」という新しい概念が含まれていることです。なぜOECMが重要なのでしょうか。その理由について、政府の方針の中で以下のように述べられています。
「健全な生態系の確保のためには、可視的な種に着目した保全施策だけではなく、水、大気、光等の無機的環境や目に見えない微生物等も含め、生態系をエリアベースで保全し、効果的に管理し、それらをつなげなければならない。そのため、我が国では、国立公園等の保護地域の拡張と管理の質の向上及び「保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM:Other Effective area-based Conservation Measures)」の設定・管理を、この 30by30目標を達成するための中心施策に据える。これらの取組は、国や地域、事業者そして一人ひとりの力を結集し、進めていくものである。」
つまり、従来の国立公園などの保護地域だけでは効果的に30%という目標を達成することが困難であり、OECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)を活用することで、民間セクターを含めた幅広い主体の参画が可能になるのです。
OECMの意義は、単なる面積確保にとどまりません。
「OECMの導入は、地域の経済・社会・環境問題の同時解決につながるNbS(Nature-based Solutions:自然を活用した解決策)のための、健全な生態系を確保する基盤的・統合的アプローチの一つ」
とされており、経済活動と環境保全を両立させる仕組みとして期待されています。
引用 生物多様性国家戦略 2023-2030、p.64 行動目標 1-1
https://www.env.go.jp/content/000124381.pdf参照 30by30 – 環境省
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/
企業連携の具体策:「自然共生サイト」制度
では、企業は具体的にどのように30by30目標に貢献できるのでしょうか。その答えとなるのが、日本独自の制度である「自然共生サイト」です。
自然共生サイトについて環境省は以下のように述べています。
『環境省では、「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を「自然共生サイト」に認定する仕組みを令和5年度から開始し、更に本年4月には、自然共生サイトを法制化した「地域生物多様性増進法」が施行されました。』
重要なのは、企業がすでに所有・管理している土地も対象になることです。OECMの区域となり得る事例として、
「環境省では、企業の森や里地里山、都市の緑地など「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を「自然共生サイト」として、認定する取組を令和5年度から開始しました 」
と示されています。つまり、企業は新たな土地を取得する必要はなく、既存の資産を適切に管理することで貢献できるのです。
参画するメリット
企業にとって気になるのは、「認定を受けることで何が得られるのか」という点でしょう。これについても、明確な記載があります。
「③30by30の経営への組込みに向けた仕組みづくり、サステナブルファイナンス等の推進 OECMを推進するため、自然共生サイト(仮称)の環境価値を見える化し、認定やその維持管理を経済的に支援する方法をはじめ、インセンティブを高める仕組みについて検討する。
また、サステナブルファイナンスの観点から、30by30目標への事業者等の取組が、国内外で金融機関等に適切に評価されるよう、ポスト 2020 生物多様性枠組等の目標 設定や情報開示に係る国際的議論にも積極的に参画する。あわせて、30by30目標達成に向けた取組を盛り込んだ国内の事業者や金融機関向けのガイダンスの作成やモデル事業等を行う。さらに、保全活動に取り組む事業者等を高く評価する社会的風土の醸成を進める。 」
環境貢献が可視化され、企業価値向上に直結する仕組みとなっているのです。
さらに、この制度は法的基盤も整備されています。環境省による自然共生サイトの報道発表によると、令和7年4月1日に施行された『地域生物多様性増進法』に基づく認定制度として、環境省に加え、農林水産省、国土交通省も連携して推進されることになっており、複数省庁が横断的に関与する国家プロジェクトとして位置づけられています。
また、企業の参画を促進するため、協働の枠組みも用意されています。
「30by30目標達成に向け、今後日本として現状の保護地域(陸域約20%、海域約13%)の拡充とともに、民間等によって保全されてきたエリアをOECMとして認定する取り組みを進めるため、有志の企業・自治体・団体の方々による「生物多様性のための30by30アライアンス」を発足しました。 」
30by30のHPからは、30by30のアライアンスに関する概要と参画企業の一覧が確認できます。
これにより、企業は孤立することなく、多様なステークホルダーとともに取り組みを進めることができます。
引用 環境省 地域生物多様性増進法に基づく「自然共生サイト」の認定(令和7年度第1回)について
https://www.env.go.jp/press/press_00761.html
ネイチャーポジティブ経済と脱炭素のシナジー
ここまで見てきた生物多様性保全の取り組みは、単なる環境対策ではありません。国家戦略は、これを経済の根幹に関わる課題として位置づけています。
「地球の持続可能性の土台であり人間の安全保障の根幹である生物多様性・自然資本を守り活かすための戦略」
この考え方を具体化するため、基本戦略の一つとして掲げられているのが、
「ネイチャーポジティブ経済の実現(自然資本を守り活かす社会経済活動の推進)」です。
ネイチャーポジティブ経済への移行は、企業がすでに取り組んでいる脱炭素経営とも深く結びついています。
注目すべきは、その費用対効果の高さです。
「森林や湿地をはじめとする自然由来の緩和ポテンシャルは、パリ協定の 2℃目標の達成に必要な二酸化炭素緩和策の約 3 分の 1 を有し、費用対効果が高いことが指摘されている」
企業にとって、生物多様性保全への投資は、気候変動対策としても経済合理性のある選択となり得るのです。
環境省 biodic 生物多様性国家戦略 2023-2030
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/initiatives/index.html
農林水産分野との連携を通じたサプライチェーンの持続可能性
企業のネイチャーポジティブ戦略を考える上で見逃せないのが、サプライチェーン全体の視点です。特に、原材料の生産を担う農林水産分野との連携が重要になります。
農林水産省も独自の戦略を策定し、30by30目標への貢献を明確にしています。
農林水産省生物多様性戦略改訂の検討状況の資料にて、次期生物多様性国家戦略素案のポイントとして以下のように述べられています。
「30by30 目標達成を含めた取り組みにより健全な生態系を確保し、生態系の恵みを維持し回復させ、自然資本を守り活かす社会経済活動を広げる」
この戦略には、サプライチェーンのに全体における具体的な目標が含まれています。
「今後の食料・農林水産業の発展のためには、サプライチェーン全体で生物多様性の保全に取り組み、食料システム全体の持続可能性を向上させることが重要であり、あらゆる主体がこうした課題に積極的に対応することが必要であると考えられることから、農林水産省としても、「みどりの食料システム戦略」に基づき、この流れを後押ししていく。」
農林水産省は、食料システムの構築を目指す「みどりの食料システム戦略」という政策を掲げており、その方針にも基づくことから協同を示しています。
農林水産省生物多様性戦略改訂の検討状況 資料 P13
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/c_bd/bds_maff/attach/pdf/index-95.pdf
引用 農林水産省生物多様性戦略
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/c_bd/bds_maff/attach/pdf/index-49.pdfみどりの食料システム戦略トップページ
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/
まとめ
30by30目標への参画は、単なる環境コンプライアンスを超え、企業の未来の競争優位性を確立する戦略的な投資です。
自然共生サイトの認定やサプライチェーンを通じた保全活動は、気候変動緩和(脱炭素)と相乗効果を生み出し、事業リスクの回避と新たな価値創造を両立します。
この取り組みを通じて、企業は自然資本の回復に貢献し、経済活動と生態系保全が共存する「ネイチャーポジティブ経済」の実現を牽引することとなるでしょう。30by30の達成こそが、人類共通の土台である生物多様性を守り、真に持続可能性のある未来を社会全体に開く、決定的な行動となります。




