脱炭素にも関連するTCFDとは|企業としての対応は?わかりやすく解説!
地球温暖化による気候変動は異常気象を招き、各地で甚大な災害を発生させ、経済にも多大な影響を及ぼします。
そのため企業は、気候変動に対する影響を想定した経営戦略を練る必要があります。そこでG20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)によりTCFDが設立されました。
TCFDとは「気候関連財務情報開示タスクフォース」のことです。しかし、TCFDに取り組むと言ってもどうすればいいかわからない特に中小企業がほとんどではないでしょうか。
そこで今回はTCFDについて、必要性や業界別のガイダンス、そして企業事例までわかりやすく解説していきます。TCFDについての知識を得たい方には大いに参考になります。
目次
TCFDと脱炭素化推進はどう関連する?
気候変動の情報開示タスクフォースであるTCFDと脱炭素化にはどのような関連があるのでしょうか。脱炭素推進のきっかけとなったパリ協定と、脱炭素化への取り組みとして重要性の高いカーボンオフセットをご紹介しながら関連性を解説していきます。
パリ協定とは
パリ協定とは、2015年に採択された温室効果ガスを2020年度以降削減するための国際的な枠組みのことで、これを機に世界中が脱炭素に向かって対策を開始しました。このような世界的な環境問題や気候変動対策への意識の高まりを背景に、TCFDも2017年に「TCFD提言(最終報告書)」を公表しました。
カーボンオフセットとは
カーボンオフセットとは、簡単にいうとCO2をはじめとする「炭素」をオフセット(相殺・埋め合わせ)する仕組みや考え方のことです。
例えば企業は自社の経済活動において多くの温室効果ガス(カーボン)を排出しています。それらの温室効果ガスの削減努力を行いつつ、やむを得ず排出される分については、排出量に見合ったクレジット等の取引で排出量を相殺する方法がカーボンオフセットです。そして、カーボンオフセットで取引を行うことを、「オフセット取引」といいます。
カーボンオフセットは、気候変動対策となるCO2削減につながる取り組みとして近年注目され、多くの企業が取り組んでいます。
気候変動対策に脱炭素推進は必須
前述したようにパリ協定もカーボンオフセットも、最終的な目標は地球温暖化を抑制することです。地球温暖化を抑制するためには要因となる温室効果ガス排出の削減を行わなくてはなりません。
地球温暖化と気候変動は密接な関係があります。そのためにもTCFDに取り組む企業が増えることが大切なのです。
現時点での対象は大企業だが、中小企業にも関係する可能性が
TCFDは大企業プライム上場企業だけが取り組めばいいわけではありません。大企業のサプライチェーンを占めるのは多くの中小企業です。そのため、今後は中小企業に対する情報開示が求められていきます。
TCFDにおいて情報開示が必要な項目は4つ
TCFDにおいて行われる情報開示はTCFD開示と呼ばれ、次の4つの項目から成り立ち、これらに対する気候関連の情報を開示することが必要です。
1.ガバナンス
2.戦略
3.リスク管理
4.指標と目標
それぞれを詳しく解説していきましょう。
ガバナンス
気候関連のリスクや機会に対しどのように監視・管理していくのかという自社のガバナンス体制の情報を開示します。特に経営陣である取締役会による監督体制や、経営陣の役割が重要な項目と言えます。
【推奨される情報開示の具体例】
□ 気候変動を考慮した経営の意思決定が行われているか
□ 気候変動対策を行う委員会や役員が社内に設置されているか
□ 気候変動対策に関する活動の報告が経営陣や取締役会に共有されているか
□ 気候変動対策の委員会の責任範囲や取締役会への報告状況の確認がされているか
□ 経営陣は気候変動関連問題をどのようなプロセスで受け取り、そしてモニタリングを実施しているか
戦略
戦略では、気候関連により自社にどのようなリスクや機会があるのか。そして推奨されているシナリオ分析の具体例を開示することが求められます。
【推奨される情報開示の具体例】
□ 組織が短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会を特定するプロセスについて
□ 特定した気候関連リスクが、組織の事業や戦略、財務計画に及ぼす影響について
□ 気温上昇を2℃以下に抑えるための目標などの気候シナリオを考慮した組織戦略の強靭性について
リスク管理
気候関連リスクに対し、自社としてどのような評価やマネジメントを行っているかを開示します。
【推奨される情報開示の具体例】
□ 気候関連リスクに対する管理プロセスや評価の状況について
□ 気候関連リスクを特定し、評価するための組織のプロセス及び、マネジメントのための組織のプロセスについて
□ 気候関連リスクの識別・評価・管理プロセスが組織全体としてどのように統合されているかについて
指標と目標
気候関連リスクに対処するための目標値と、それを評価するための指標はどうなっているかの具体的な情報を開示します。
【推奨される情報開示の具体例】
□ 事業活動のために使用する水・エネルギー・土地等の利用における気候関連リスクへの指標と目標の開示
□ 自社の低炭素経済向けの製品・サービスにおける収入への指標について
□ GHGプロトコルに準拠したスコープ1.2、該当する場合はスコープ3の温室効果ガス排出量についても、経年変化や計算方法等も含めた情報を開示
□ 気候関連のリスクとプロセスをマネジメントするための組織目標、さらに目標に対してどのようなパフォーマンスを行うのか
最も難しい「戦略」の項目の作成は、業種別ガイダンスや事例が参考になる
情報開示が必要な項目の中でも特に難しいと考えられる「戦略」については、業種別のガイダンスや実際の事例が参考になります。
ここでは業界別のガイダンスや企業事例について、ご紹介します。
業界別ガイダンス
業種ごとに気候変動に関する機会やリスクは違うため、戦略の示し方も異なってきます。ここでは業種固有の推奨される開示項目や開示例を、10の業種に分けて解説していきますので、該当する業種の方は参考にしてください。
業種 | 推奨される項目や開示例 |
自動車産業を含む運輸グループ | ●技術の研究開発に対する投資や多様な種類の輸送機器への需要変化の可能性 ●在来の輸送機器、自動車、船舶、飛行機、鉄道に対して、より厳しい温室効果ガス排出基準と強化された燃料効率要件に対処するための新技術を使用する事業機会 |
鉄鋼業を含む素材と建築物グループ | ●CO2排出量またはカーボンプライシングの規制強化とそれに伴うコストへの影響 ●建築物グループは運営環境に影響を与える気候変動に対する重大性の増加および水不足に関連するリスクを評価 ●エネルギー削減による効率化、循環型製品によるソリューションをサポートする製品やサービスの機会 |
化学産業を含む素材と建築物グループ | ●CO2排出量またはカーボンプライシングの規制強化とそれに伴うコストへの影響 ●エネルギー削減による効率化、循環型製品によるソリューションをサポートする製品やサービスの機会 ●化学業界は製造段階での温室効果ガス排出量が多いため、製造プロセスにおける排出削減の取組が重要 |
電機・電子(デバイス系と組立系の2タイプに分けられる) | ●デバイス系 半導体や電子部品等の製造を主に行うデバイス系企業の場合、製品単体では使用されないためサプライチェーンにおける温室効果ガス排出量の削減が重要 ●組立系 最終製品を製造する組立系企業の場合、製造段階と比較して使用段階でのエネルギー消費に伴う温室効果ガス排出量が多いため、その段階での排出削減で気候変動問題への貢献を示す |
エネルギー | ●老朽化した低効率施設等の運営の費用、リスク、または機会の変化 ●再生可能エネルギー利用拡大による消費者と投資家の期待変化 ●再生可能エネルギーや炭素回収・貯留技術に対する投資の増加等の資本投資戦略の変更 |
食品産業を含む農業・食料・林業製品グループ | ●単位生産量あたりの炭素および使用する水の原単位の水準を低下させることにより効率を高める ●バイオプラスチック等の低炭素で水の原単位による新製品やサービスの開発 |
銀行 | ●気候変動によるリスクを定量化し、リスクコントロールするための枠組みと合わせて明示 ●シナリオ分析に基づいた物理的リスクや移行リスクによる将来的想定リスク量や、炭素関連資産の集中度合などの具体的な数値などの開示 |
生命保険 | ●気候変動による人命や健康分野への影響を把握し、事業への影響を検討 |
損害保険 | ●自然災害リスクに対応する新たな商品やサービスの提供 ●気候変動対応策を促す商品の提供や防災・減災を支援する各種サービスの提供 |
国際海運 | ●高効率船舶や代替燃料船等の新技術適用船舶の活用・転換に向けた造船メーカーや船主との協力に関する取組 ●脱炭素化に向けた荷動きの変化に対応する取組 |
参照:TCFDコンソーシアム「業種別ガイダンス」
参照:気候変動適応情報プラットフォーム「TCFDに関する取組事例」
まず取りかかるべきは「指標と目標」の項目のCO2排出量の算定
TCFDに取り組むにしても、まずは自社のCO2排出量がどのくらいなのか調査し、把握することからはじめることが重要です。
CO2排出量はライフサイクル全体で把握しなくてはならないため、企業独自で行うのはたいへん困難です。
そのため、次のようなツールを利用して算定を行うことをおすすめします。
まとめ
TCFDについて、企業がどのように対応したらいいのかを含めて総合的に解説しました。大企業がTCFDに取り組めば、サプライチェーンの輪の中にいる中小企業も無関係ではいられません。
もはや、気候変動への対策や脱炭素化推進はどのような企業にも社会的責任があると言えます。本コンテンツでTCFDについての知見を深め、ぜひ気候変動対策への一歩を踏み出してはいかがでしょうか。