バーチャルPPAとは?仕組みとメリットを徹底解説!
2024年5月、 福岡県にある自然電力株式会社とGoogle社との間で、大規模太陽光発電所、いわゆるメガソーラープロジェクトにおけるバーチャルタイプのオフサイト型PPAを締結したことが発表されました。バーチャルPPAとは、仮想電力の購入契約を表しており、今回締結されたPPAの契約期間は20年間で、自然電力株式会社とそのパートナー企業であるBison Energy株式会社が共同開発した20MWACの太陽光発電所に由来する環境属性証書を、Googleに供給する取り決めになっています。
このように、昨今注目が集まっている新たな電気の売買契約のPPAですが、その歴史は2020年まで遡ります。また、本コンテンツで取り上げるバーチャルPPAにおいては、制度改正を経て、2022年4月1日以降に運転を開始した発電設備に限り、需要家が発電事業者と直接バーチャルPPAを締結できるようになっています。このように、海外では主流になりつつあるバーチャルPPAですが、日本においては再生可能エネルギー電力の調達方法として今後普及が期待される手段の一つです。
そこで本コンテンツでは、バーチャルPPAの理解を深めるために、バーチャルPPAの概要や特徴、フィジカルPPAとの違いほか、国内企業における先行事例などを中心に紹介していきます。
バーチャルPPAとは
Virtual Power Purchase Agreementの略で、仮想電力購入契約を指します。具体的には、需要家の敷地外で発電された再生可能エネルギー電力の「環境価値」を、仮想的に需要家が調達する手段を表しています。もう少し厳密にいうと、需要家の敷地内で発電されたオンサイトPPAによる余剰電力についても、系統(電線)に流れたのち、流れた先が小売電気事業者であればフィジカルPPA、電力市場(JEPX)であればバーチャルPPA(又は単純な市場売電)とすることが可能です。以前、CARBONIX MEDIAの「オフサイトPPAについて、その他のPPAの特性もまじえて解説」でも、PPAについて取り上げました。PPAを含むキーワードはオフサイトPPAを含めて5つ存在しており、バーチャルPPAの位置づけとしては、オフサイトPPA、オンサイトPPAの一つとしてそれぞれ分類することが可能です。
出典:環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ:オフサイトコーポレートPPAについて(2021年3月作成・2022年3月更新版)
©https://www.env.go.jp/earth/off-site%20corporate.pdf
また、ここでいう再生可能エネルギー電力の「環境価値」とは、CO2を排出せずに作られた電力、すなわち省エネルギーやCO2の排出抑制を実現する電力の付加価値を表しています。因みに、非化石証書とは、この「環境価値」の部分を証書化したものになります。
次に、バーチャルPPAのスキームとしては、以下の通りです。
① 顧客が再エネ発電事業者と、固定レート(ストライク価格)でバーチャルPPAを締結。
② 再エネ発電事業者により、同発電アセットから生じた電力は卸売市場に販売。
③ 再エネ発電事業者と顧客間のバーチャルPPA契約に基づき、差額決済を実行。
(差額決済=市場価格-ストライク価格)
④ 顧客は既存の電力料金を支払う一方、バーチャルPPA契約を締結することによって市場連動メニュー等に変更しコスト削減を図ると共に、環境価値を用いScope 2の排出量を削減。
環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ:オフサイトコーポレートPPAについて(2021年3月作成・2022年3月更新版)
© https://www.env.go.jp/earth/off-site%20corporate.pdf
これらの流れからもわかるように、バーチャルPPAは、再エネ発電事業者と需要家の間で実際の電力のやり取りが行われていない点が特徴です。需要家は、スキーム全体で見ると電力と非化石証書を固定価格で受け取ることを目指すため、再エネ発電事業者と需要家の間では①非化石証書の移転、②差額決済の2つのやりとりが発生します。そのため、本コンテンツでは詳しく取り上げませんが、バーチャルPPAは新たな電力の購入形態として会計の観点からも注目を集めています。
ここまで、バーチャルPPAに関し、簡単に概要についてお伝えしてきました。以下にお示しするように、国内における再生可能エネルギー電力の調達方法は主に5つの種類が存在し、特にバーチャルPPAは、フレキシビリティが高い調達方法であることが分かります。
自然エネルギー財団(バーチャルPPA 検討から実践へ)を元に筆者作成
バーチャルPPAのメリット・デメリットについて
1章でもお伝えしたように、バーチャルPPAは基本的には優れた仕組みとなっています。
例えば、メリットとしては以下の2点が挙げられます。
① 既存の電力契約をそのままいかしながら、継続することができる
② 再生可能エネルギー電力を、利用する拠点で自由に選ぶことができる
バーチャルPPAでは、再生可能エネルギー電力の環境価値のみを購入するため、既存の電力契約をそのまま継続することが可能です。そのため、フィジカルPPAと違い、電力契約を変更する必要はありません。これは、特に複数の事業所を抱える企業にとって、大きなメリットになります。例えば、電力契約を一括で締結し、企業全体で電気代を節約している場合、フィジカルPPAでは、電力契約の変更によって電気代の割引を受けられなくなるリスクがあります。しかし、バーチャルPPAの場合はその影響を受ける必要がなくなります。
また、ビルのテナントとして入居している場合においても、企業側には電力契約を変更する権限がない場合が存在します。このような場合においても、既存の電力契約をそのまま維持することが可能なバーチャルPPAであれば、環境価値だけを購入できるため、再生可能エネルギー電力としての電力利用が可能となっています。
一方で、以下の3点がデメリットとして見えてきます。
① 市場価格に応じて、需要家が負担するコストが常に変動する
② 会計処理上の課題が生じる
③ 経済産業省の補助金の対象にならない
バーチャルPPAの場合、PPA契約価格と市場価格の差金を相互に補填しあい、契約期間を通じて 価格変動リスクをシェアするスキームになっています。つまり、市場価格が下落トレンドにある場合、市場価格が契約価格を下回ることが常態化するため、電力の購入者から発電事業者に対する補填が一方通行化する可能性があります。これらは、カリフォルニア州や日本の九州エリア等、日中の市場価格の下落が進行する地域においては、既に日中の売電収入に依存する太陽光発電は大きなリスク要因となっています。
また、バーチャルPPAは商品先物取引に相当するため、いわゆるデリバティブ (金融派生商品) 取引に契約に該当する可能性があり、別途企業会計の処理が必要となる場合があります。
加えて、バーチャルPPAの契約を結んでも、経済産業省が実施しているオフサイトPPAの補助金の対象にはなりません。経済産業省は、太陽光発電によるオフサイトPPAを対象として、設備導入費用の一部を補助する制度を2021年から開始しています。補助金に割り当てられた予算は、2021年からの2年間で計約500億円にも上りますが、この補助金は、需要家に電力を供給することが要件の1つとなっているため、バーチャルPPAは制度の対象外となっているのが現状です。
環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ:オフサイトコーポレートPPAについて(2021年3月作成・2022年3月更新版)
© https://www.env.go.jp/earth/off-site%20corporate.pdf
バーチャルPPAの先行事例について
ここからは、民間企業による具体的なバーチャルPPAの先行事例について紹介していきます。冒頭でもお伝えしたように、国内でのバーチャルPPAの取り組みは、制度改正を経てまだ日が浅く、まだまだこれからです。しかし、国内企業における海外での再生可能エネルギーに対する取り組みは、既に数年前より開始しています。ここでは、北米で締結された3社のバーチャルPPAの先行事例についてお伝えします。
<武田薬品工業株式会社>
2022年9月、国内の製薬大手の武田薬品工業とイタリアの大手電力会社エネルの子会社であるエネルノースアメリカの間で、12年間の契約期間にのぼるバーチャルPPAの締結を発表しています。エネルノースアメリカは、再生可能エネルギーの推進・発電などを手掛けている企業で、エネルの所有するオクラホマ州のセブン・カウボーイ・ウィンド・プロジェクトの79MW分から電力グリッドに送出される電力が、長期的なバーチャルPPAの対象とされました。
その結果、最大で年間35万MWhの再生可能エネルギーのクレジット創出、並びに削減可能な温室効果ガスの排出量は10万t以上を見込んでいます。本契約により創出される35万MWhは、米国における一般家庭の年間消費電力約3万世帯分に相当するため、米国で見込まれる武田薬品の電力需要を十分に満たすと予測されています。
参照:武田薬品(米国における再生可能エネルギーの推進に向けたEnel North America社との バーチャル電力販売契約(VPPA)の締結について)
参照:JETRO(武田薬品、米国企業とバーチャル電力購入契約(VPPA)締結)
<株式会社ジェイテクト>
2023年11月、JTEKTの北米統括会社であるJTEKT NORTH AMERICA CORPORATIONは、World Kinect Corporationをアドバイザーとして迎え、欧州の再生可能エネルギーの独立発電事業者であるGreenaliaの米国部門Greenalia Power USの子会社にあたるExcel Advantage Services, LLCを通じて、バーチャルPPAを締結しました。
本契約により、Greenaliaはテキサスに太陽光発電所を新設し、そこで再生可能エネルギーを発電することで生まれる142.8MW相当の環境価値をJTEKT NORTH AMERICA CORPORATIONが受領します。この環境価値は、北米の全ての生産事業所で使用する全電力使用量に相当する年間約12万4,600tのCO2排出量をオフセットすることが見込まれています。
参照:JTEKT(北米でバーチャルPPAを締結)
参照:日経BP(ジェイテクト米子会社、新設太陽光でバーチャルPPA)
<富士フイルムホールディングス株式会社>
2023年11月、将来にわたり追加性(※1)のある再エネ電力を長期に安定的に確保するため、北米エリアの富士フイルムグループ全42拠点(米国・カナダ)にバーチャルPPAを導入し、すべての使用電力を実質的に再生可能エネルギーに転換することを発表しています。北米エリアの富士フイルムグループ全拠点の電力調達を担うFUJIFILM Holdings America Corporation は、米国のエネルギー企業であるNational Grid Renewables社から15年にわたり、同社が米国テキサス州ブレビンスに建設予定の太陽光発電設備から発電される約30万MWh/年の再エネ電力証書を購入し、グループ全体の2022年度CO2排出量の約9%にあたる年間約9万トンを相殺することを見込んでいます。なお、ナショナル・グリッド・リニューアブルズ社の太陽光発電設備稼働は、2025年後半を予定しています。
参照:FUJIFILM(北米の富士フイルムグループ全拠点の使用電力を再生可能エネルギー化)
参照:日刊工業新聞社(北米42拠点全量に再生エネ導入、富士フイルムが活用する「バーチャルPPA」とは?)
(※1)企業などが選択したエネルギーの調達方法が新たな投資を促し、再エネ電源を拡大させる効果があること。
まとめ
本コンテンツでは、バーチャルPPAについて、その概要や特徴、フィジカルPPAとの違いほか、国内企業における先行事例などを踏まえながらお伝えしてきました。
バーチャルPPAに関する理解を更に深めるにあたっては、2022年4月より開始したFIP制度、つまりFIT制度のように固定価格で電力を買い取るのではなく、再生可能エネルギー電力の発電事業者が卸市場などで売電したとき、その売電価格に対して一定のプレミアムを上乗せすることで再エネ導入を促進する手法にも注目する必要があります。なぜなら、バーチャルPPAの導入に際しFIP制度を組み合わせることで、固定価格と市場価格の差額調整を行わない契約も可能となるためです。FIP制度に関しては、次回以降のコンテンツで改めて詳しく紹介していきます。
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