建設業界のGHG排出量とは?主要な削減策と持続可能な未来への道

CO2削減

建設業界は私たちの生活に不可欠な存在ですが、同時に環境への影響も大きい産業です。本記事では、建設業界におけるGHG排出の現状と、その削減に向けた革新的な取り組みを探ります。エネルギー効率の高い設計、低炭素建材の使用、先進的な建設技術の採用など、業界が推進する対策を紹介します。また、これらの変革を後押しする政策や規制の役割についても考察します。

気候変動という喫緊の課題に対し、建設業界はどのように持続可能な未来を築いていくのか。技術的・経済的な課題を乗り越え、環境と調和した建設の在り方を模索する業界の姿を、本記事を通じてご覧いただきます。

はじめに

建設業界の環境影響の概要

建設業界は経済発展に不可欠な役割を果たす一方で、環境に大きな影響を与える産業の一つです。
現在、国内の産業部門のCO2排出量(全体の35%)のうち1.4%を建設業が占めています。

参照 国土交通省 (建設現場における脱炭素化の加速に向けて -モデル工事「カーボンニュートラル対応試行工事」を実施-)
https://www.cbr.mlit.go.jp/kisya/2021/07/0709.pdf

そのため、業界はこれらの課題を認識し、持続可能性に向けた取り組みを進めています。グリーンビルディングの推進、リサイクル材料の使用、エネルギー効率の高い設計など、環境負荷を低減するための努力が、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて続けられているのです。

建設業界のGHG排出における内容

1. 建設資材の製造
建設資材の製造過程は、GHG排出の最大の源の一つです。
– セメント製造:セメントの製造は化学反応(石灰石の焼成)と高温処理を必要とし、大量のCO2を排出します。セメント産業は世界のCO2排出量の約8%を占めると言われています。
– 鉄鋼生産:鉄鉱石から鉄鋼を生産する過程で大量のエネルギーを消費し、CO2を排出します。
– その他の建材:アルミニウム、ガラス、プラスチックなどの製造も、エネルギー集約的なプロセスでGHGを排出します。

2. 建設機械の使用
現場での建設作業中、様々な重機や車両が使用されます。
– 掘削機、ブルドーザー、クレーンなどの重機:主にディーゼルエンジンを使用し、CO2を排出します。
– 運搬車両:資材や廃棄物の運搬に使用されるトラックも、GHG排出の重要な源です。

3. オンサイトエネルギー消費
建設現場では、様々な目的でエネルギーが消費されます。
– 仮設電源:発電機などの仮設電源は、しばしば化石燃料を使用し、GHGを排出します。
– 照明と空調:夜間作業や仮設事務所での電力使用もGHG排出につながります。

4. 土地利用変化
建設プロジェクトに伴う土地利用の変化も、GHG排出に関連します。
– 森林伐採:建設のための森林伐採は、炭素吸収源を減少させるとともに、土壌中の炭素を大気中に放出させる可能性があります。
– 湿地の開発:湿地は重要な炭素貯蔵庫であり、その開発はGHG排出を増加させます。

5. 廃棄物処理
建設廃棄物の処理もGHG排出の一因となります。
– 埋立処分:有機物を含む廃棄物の埋立処分はメタンガスを発生させます。
– 廃棄物の輸送:廃棄物の収集と処理施設への輸送も、車両からのCO2排出を伴います。

6. 建物の運用
完成後の建物の運用段階も、長期的なGHG排出源となります。
– 暖房・冷房:建物のエネルギー効率に応じて、空調システムの運用がGHG排出に大きく影響します。
– 照明と電気機器:建物内で使用される電力も、発電源に応じてGHG排出に寄与します。

7. 解体と再利用
建物のライフサイクル終了時の解体作業も、GHG排出を伴います。
– 解体機械:解体に使用される重機からのCO2排出。
– 廃材の処理:解体後の廃材処理(リサイクルを含む)にも、エネルギーが必要です。

建設業界では、これらのGHG排出源に対して様々な削減策が講じられています。例えば、低炭素セメントの開発、電動建設機械の導入、エネルギー効率の高い建築設計、現場でのリサイクル推進、グリーン建築認証の取得などが挙げられます。今後も、新技術の導入や業界慣行の改善を通じて、建設セクターのGHG排出削減が進むことが期待されています。

GHG削減に向けた主要戦略

ZEH水準とZEB水準

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)が、最先端の省エネ建築基準として注目を集めています。

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)

ZEHは、住宅の省エネ性能を極限まで高めた上で、太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入することで、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指す住宅です。

ZEH水準の主な特徴:
1. 高断熱・高気密:外壁、屋根、床、窓などの断熱性能を極めて高くし、熱の出入りを最小限に抑えます。
2. 高効率設備:暖房、冷房、給湯、換気、照明などに高効率機器を採用します。
3. 再生可能エネルギー:主に太陽光発電システムを導入し、エネルギーを自給します。
4. HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム):エネルギーの使用状況を可視化し、最適な制御を行います。

ZEHの分類:
– 『ZEH』:100%以上のエネルギー削減を実現
– Nearly ZEH:75%以上100%未満のエネルギー削減
– ZEH Oriented:再生可能エネルギー導入が困難な場合に、省エネルギー性能のみで評価

参照 ZEHの定義(改定版) <戸建住宅>
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/assets/pdf/general/housing/zeh_definition_kodate.pdf

ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)

ZEBは、建築物の省エネ性能を極限まで高めつつ、再生可能エネルギーを導入することで、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指す建築物です。

ZEB水準の主な特徴:
1. 高性能な建築外皮:断熱性能の向上、日射遮蔽性能の最適化により、空調負荷を低減します。
2. 高効率な設備システム:空調、照明、給湯などに最新の高効率機器を採用します。
3. 再生可能エネルギーの活用:太陽光発電、地中熱利用などを積極的に導入します。
4. BEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム):エネルギー使用の最適化と可視化を行います。

ZEBの分類:
– 『ZEB』:100%以上のエネルギー削減を実現
– Nearly ZEB:75%以上100%未満のエネルギー削減
– ZEB Ready:再生可能エネルギー除く50%以上のエネルギー削減
– ZEB Oriented:大規模建築物(10,000m²以上)で、再生可能エネルギー除く40%以上のエネルギー削減

持続可能な設計と建材

● エネルギー効率の高い建築設計
エネルギー効率の高い建築設計は、建物のライフサイクル全体を通じてエネルギー消費を最小限に抑えることを目的としています。以下に主要な設計戦略を示します。

1. パッシブデザイン

パッシブデザインは、機械的なシステムに頼らず、自然の力を最大限に活用する設計手法です。
● 建物の向き:太陽光や自然風を最適に利用するための建物の配置
● 自然光の活用:大きな窓や光井戸による昼光利用の最大化
● 自然換気:クロス換気や煙突効果を利用した空気の流れの最適化
● 断熱と気密性:高性能な断熱材と気密シーリングによる熱損失の最小化

2. アクティブシステム

最新のテクノロジーを活用して、エネルギー効率を高めるシステムを導入します。
● 高効率HVAC(暖房、換気、空調)システム
● スマート照明システム(LED照明、人感センサー、調光機能)
● エネルギー管理システム(BEMS/HEMS)による最適制御

3. 再生可能エネルギーの統合

建物自体でクリーンエネルギーを生産することで、外部からのエネルギー依存を減らします。
● 太陽光発電システム
● 地中熱利用システム
● 小型風力発電

4. グリーンルーフとクールルーフ

屋根の熱吸収を軽減し、建物の冷却負荷を減らす技術を採用します。
● グリーンルーフ:植物で覆われた屋上庭園
● クールルーフ:高反射率・高放射率の屋根材

● 低炭素建材の使用
建材の選択は、建物の環境性能に大きな影響を与えます。低炭素建材の使用は、建築物のライフサイクルCO2排出量を大幅に削減する可能性があります。

1. 再生可能資源由来の建材

● 持続可能な森林管理から得られる木材
● 竹、わら、コルクなどの急速再生可能な素材
● バイオプラスチック

2. リサイクル・アップサイクル建材

● リサイクルスチール、アルミニウム
● 再生骨材コンクリート
● リサイクルガラス
● 古材の再利用

3. 低炭素セメントと代替結合材

● 高炉セメント(副産物の高炉スラグを利用)
● フライアッシュセメント(石炭燃焼の副産物を利用)
● ジオポリマーセメント(アルカリ活性化材料を使用)

4. 自然素材

● 土壁(土、わら、砂を混ぜた伝統的建材)
● ヘンプクリート(麻の茎と石灰を混ぜた新しい建材)
● 羊毛断熱材

5. 地域調達材料

● 輸送に伴うCO2排出を削減するため、建設地近隣で調達できる材料を優先使用

建設プロセスの効率化

建設業界では、デジタル技術や自動化システムの導入により、プロセスの効率化と品質向上を図っています。以下に主要な技術と、それらがもたらす利点について説明します。

● 先進的な建設技術の採用
BIM(Building Information Modeling)
BIMは、建築物の3Dモデルを中心に、設計、施工、維持管理に関する情報を統合的に管理する手法です。BIMの活用により、設計の可視化、干渉チェック、数量算出の自動化が可能となり、施工段階での手戻りを大幅に減少させることができます。また、各専門分野間の連携が強化され、プロジェクト全体の効率が向上します。

プレハブ工法と モジュラー建築
工場での部材の事前製作と現場での組み立てを主体とするプレハブ工法やモジュラー建築は、現場作業の削減と工期短縮を実現します。品質管理が容易になるだけでなく、天候に左右されにくい施工が可能となり、作業効率と安全性が向上します。さらに、材料の無駄を減らし、現場での廃棄物を最小限に抑えることができます。

ドローンと3Dスキャニング
ドローンや3Dスキャナーを用いた測量・点検技術は、高所や危険箇所の調査を安全かつ効率的に行うことを可能にします。これらの技術により、正確な現況把握と進捗管理が可能となり、問題の早期発見と迅速な対応が促進されます。

AI(人工知能)とロボット技術の導入
AIと機械学習の活用により、工程管理の最適化、リスク予測、資源配分の効率化が可能になります。例えば、過去のプロジェクトデータを分析することで、より正確な工期予測や予算管理が実現できます。また、現場の安全管理にもAIを活用し、危険予知や事故防止に役立てることができます。さらに、建設現場でのロボット技術の導入も進んでいます。自動化された溶接ロボットや、レンガ積みロボット、自律型の建設機械などが開発されているのです。これらの技術は、作業の精度向上と効率化、労働力不足の解消、危険作業の削減に貢献するでしょう。

● 現場でのエネルギー管理
エネルギーモニタリングシステム
リアルタイムでエネルギー使用量を把握するモニタリングシステムの導入により、無駄な電力消費の特定と削減が可能になります。データ分析を通じて、ピーク時の電力需要を管理し、効率的な機器の運用計画を立てることができます。

高効率な仮設設備
LED照明や高効率な空調システムなど、エネルギー効率の高い仮設設備を使用することで、現場全体の電力消費を抑制できます。また、断熱性の高い仮設事務所や作業所を採用することで、空調負荷を軽減することができます。

再生可能エネルギーの活用
太陽光発電パネルや小型風力発電機などを現場に設置し、クリーンエネルギーを活用することで、化石燃料への依存を減らすことができます。特に長期プロジェクトでは、これらの設備投資が有効です。

アイドリングストップと省エネ運転
建設機械や車両のアイドリングストップを徹底し、効率的な運転方法を指導することで、燃料消費と排出ガスを削減できます。ハイブリッドや電気式の建設機械の導入も、エネルギー効率の向上に貢献します。

スマートグリッドの活用
大規模な建設プロジェクトでは、現場内にスマートグリッドを構築し、電力の需給バランスを最適化することが可能です。蓄電システムと組み合わせることで、ピーク時の電力需要を平準化し、電力会社からの購入電力を削減できます。

建物のライフサイクル管理

● 運用時のエネルギー効率向上
建物のライフサイクル管理は、設計から解体までの全段階で環境負荷を最小限に抑えつつ、建物の価値を最大化する取り組みです。

運用時のエネルギー効率向上

建物の運用段階は、そのライフサイクル全体で最もエネルギーを消費する期間です。

エネルギー効率を向上させるための主な戦略には以下があります:

1. スマートビルディング技術の導入
センサーやIoTデバイスを活用し、照明、空調、エレベーターなどの建物設備を最適に制御します。

2. 高効率設備への更新
LED照明、高効率HVAC(暖房、換気、空調)システム、省エネ型の電気機器への更新を行います。

3. 建物外皮の改善
断熱性能の向上、遮熱ガラスの採用、屋上緑化などにより、建物の熱負荷を軽減します。

4. エネルギーマネジメントシステム(BEMS)の活用
BEMSを導入し、エネルギー使用状況の可視化と分析を行います。

5. 再生可能エネルギーの導入
太陽光発電システムや地中熱利用システムなど、建物に適した再生可能エネルギー源を導入します。
これらの戦略を組み合わせることで、建物のエネルギー消費を大幅に最適化することが可能になります。

循環型経済モデルの導入

循環型経済モデルは、資源の効率的な利用と廃棄物の最小化を目指すアプローチです。

建築分野での主な取り組みには以下があります:
1. デザイン・フォー・デコンストラクション(DfD)
建物を将来解体しやすく、部材の再利用が容易になるよう設計します。

2. 材料パスポートの導入
建物に使用されている全ての材料とその特性を記録し、将来の再利用や適切なリサイクルを促進します。

3. モジュラー設計とフレキシブルな空間
用途変更や改修が容易な設計を採用し、建物の長寿命化を図ります。

4. リサイクル材料の積極的な使用
再生材料や再利用部材を積極的に採用し、新規資源の使用を最小限に抑えます。

5. 廃棄物管理と資源回収
建物の運用中や改修時に発生する廃棄物の分別とリサイクルを徹底します。

6. シェアリングモデルの導入
オフィススペースや共用施設のシェアリングを推進し、建物の利用効率を高めます。

これらの取り組みにより、資源の効率的な利用が促進され、建築業界における循環型経済の実現に近づくことができるでしょう。

規制と業界の取り組み

政策と規制の役割

持続可能な建築と都市開発を推進する上で、政府の政策と規制は極めて重要な役割を果たしています。

I. 建築基準法の改正
多くの国では、建築基準法を改正し、エネルギー効率や環境性能に関する最低基準を引き上げています。

例えば
● 日本:2020年に施行された改正建築物省エネ法では、中規模以上の非住宅建築物に対して省エネ基準への適合を義務付けました。
● EU:2021年に改訂されたEPBD(建築物のエネルギー性能に関する指令)では、2030年までに全ての新築建築物をゼロエミッション化する目標を掲げています。

II. 税制優遇措置
多くの政府が、持続可能な建築技術の採用を促進するために税制優遇措置を導入しています

● 米国:エネルギー効率の高い商業ビルに対する税額控除(179D控除)を提供しています。
● ドイツ:エネルギー効率の高い住宅の建設や改修に対して低金利ローンや補助金を提供しています。

III. グリーンビルディング認証制度の推進
政府は、LEED(米国)、BREEAM(英国)、CASBEE(日本)などのグリーンビルディング認証制度を支援し、時には公共建築物での採用を義務付けています。これにより、民間企業での普及も促進されています。

先進的な企業の事例紹介

多くの先進的な企業が、規制の要求を上回る取り組みを自主的に実施し、業界をリードしています。以下にいくつかの注目すべき事例を紹介します。

Daiwa House Industry(大和ハウス工業)- 日本
大和ハウス工業は、2030年に温室効果ガス排出量を40%削減(2015年度比)、2050年にカーボンニュートラルを実現する目標を掲げています。

● すべての事業用建物で事業活動における温室効果ガス排出量の削減に向けて、「省エネ」「電化」「再エネ」をキーワードに
● 住宅系・建築系の両分野において、全棟「ZEH・ZEB+太陽光発電搭載」をキーワードに、目標を設定
● 主要サプライヤーの90%以上とパリ協定に沿った温室効果ガス排出量の削減目標を設定

参照 大和ハウスグループHP
https://www.daiwahouse.co.jp/sustainable/eco/decarbonization/index.html

Skanska – スウェーデン
建設大手のSkanskaは、循環型経済モデルの採用で業界をリードしています。

● 2045年までにバリューチェーン全体でのカーボンニュートラル達成を目指す
● 建設現場での廃棄物を95%以上リサイクルする取り組み
● 再生可能エネルギー100%で稼働するオフィスビルの開発

参照Skanska (Annual and Sustainability Report 2023 )
https://group.skanska.com/493370/siteassets/investors/reports-publications/annual-reports/2023/annual-and-sustainability-report-2023.pdf

Grosvenor Group – 英国
不動産開発会社のGrosvenor Groupは、歴史的建造物の保存と持続可能性の両立で知られています。
● 2030年までに全ポートフォリオでカーボンネットゼロを達成する目標
● 既存建築物の改修による省エネ化と歴史的価値の保存の両立
● テナントとの協働による建物運用時のエネルギー消費削減

Grosvenor Group HP参照
https://www.grosvenor.com/about-us/sustainability

まとめ

建設業界は、地球温暖化対策において重要な転換点に立っています。これまで見てきたように、材料革新から施工プロセスの最適化、エネルギー効率の向上、そして循環型経済の推進に至るまで、業界全体が多面的なアプローチでGHG削減に取り組んでいます。

しかし、この課題は一企業や一業界だけで解決できるものではありません。建設業界におけるGHG削減においては、Scope3での削減が大きな鍵となっているため、政府、企業、そして建築物を利用する私たち個人を含む社会全体が協力し、持続可能な未来の構築に向けて行動を起こす必要があります。

今後は、これらの先進的な取り組みがさらに普及し、標準的な実践となることが期待されます。同時に、新たな技術やアイデアの継続的な探求も不可欠です。建設業界のGHG削減への取り組みは、単なる環境保護策ではありません。

それは、より健康で持続可能な社会を築くための基盤となるのです。私たちの住む建物や都市が、地球環境との調和を保ちながら、人々の暮らしを豊かにする。そんな未来の実現に向けて、建設業界の挑戦は続いています。

 

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