Race to Zeroとは?日本の大学におけるCO2削減計画と参加要件の解説

CO2削減

皆様、「Race to Zero」という言葉をご存じでしょうか。これは、2020年6月5日の世界環境デーに開始された国際キャンペーンとなっており、国内でも様々な非政府の団体(企業や自治体、投資家、大学など)が参加しています。例えば、未来を担う若者たちを育成する教育機関の一つとして国内大学では、2021年2月の千葉商科大学を皮切りに、同年10月には東京大学(※1)、2023年8月には公立鳥取環境大学が参画し、徐々にこのキャンペーンを通してCO2の削減目標に向けた実行計画を策定・発表し始めています。

しかし一方で、2023年末時点において、グローバル全体で参画している大学が約1,200校あるうち、日本の大学がまだわずか3校に留まっているという現状もあります。そのため、国内においても今後一層、この「Race to Zero」に関する認知度を高めこれを一つのきっかけとし、脱炭素社会の実現に向けてCO2の削減目標に向けた実行計画検討していく必要があります。

そこで本コンテンツでは、Race to Zeroに関する理解を深めるために、Race to Zeroの概要や5つの「P」(参加要件)について、また具体的なRace to Zeroへの参加、及び削減対策のプランの事例を紹介していきます。

(※1)但し、東京大学は1章で紹介するRace To Zero Circleには属していません。

Race to Zeroの概要について

ゼロへのレースと訳されており、2030年までにGHGの排出量を実質半減させるための活動を喚起することを目的とした国際キャンペーンを表しています。このキャンペーンの参加対象は、世界中の企業や自治体、投資家、大学などの非政府アクターとなっており、2023年末時点においては参加団体がグローバル全体で約13,000となっています。

また、本キャンペーン公式パートナーとして、Race To Zero Circleが結成されています。これは、JCI(※2)のメンバーサークルとして位置づけられており、JCIの参加団体はRace To Zero Circleへの参加誓約を通じ、Race to Zeroに参加することが可能となっています。

因みに、類似のキャンペーンとしてRace to Resilienceがありますが、これは2030 年までに、気候リスクに対して脆弱なグループやコミュニティに属する40 億人の人々のレジリエンスを高めるため、非国家アクターの適応対策を促進することを目標としています。Race To Zeroに関連するキャンペーンとして、2021年1月に発足しました。Race to Resilience に関しては、CDPが発行する「2022 Cities Questionnaire」の中でも度々取り上げられていますので、興味のある方は合わせてご覧ください。

(※2)JAPAN CLIMATE INITIATIVEの略で、気候変動イニシアティブを指す。気候変動対策に積極的に取り組む企業や自治体、団体、NGOなど、国家政府以外の多様な主体のゆるやかなネットワークを表しています。因みに、米国でも、企業、州政府、自治体などが “We Are Still In” というネットワークが作られており、JCIはこのような国際的な動きと連携するものになっています。

5つの「P」(参加要件)とは

環境関連の取り組みの中で5つの「P」と言われると、SDGs(持続可能な開発目標)の17個の目標を分類する考え方とされている”People(人間)”、”Prosperity(豊かさ)”、”Planet(地球)”、”Peace(平和)”、”Partnership(パートナーシップ)”を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、Race to Zeroにおける5つの「P」とは、非政府アクターがRace to Zeroにメンバーとして継続的に参加するため求める、以下の5つの要件を表しています。本キャンペーンに参画しているメンバーは、これらの要件に適合することが求められています。特に、⑤Persuade:説得に関しては、2022年の6月、Race to Zeroの活動における方針や働きかけを行う上での非国家アクターの役割を確認することを目的として、新たな参加要件として加えられました。

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①Pledge:誓約
・・・2030年までにGHGの排出量を半減し、遅くとも2050年までにネット・ゼロを達成することを誓約する。

②Plan:計画
・・・2030年までの行動を含むアクションプランを公表する。

③Proceed:前進
・・・ネット・ゼロを達成するために行動を起こし、目標の達成に向けて、業界や関連市場などの躍進に貢献する。

④Publish:公開
・・・UNFCCC(気候変動枠組条約)のGlobal Climate Action Portal(国連気候変動枠組条約によって 2014 年に開設された Web ポータル)で、目標と行動の進捗状況を公表する。

⑤Persuade:説得
・・・2030年までに排出量を半減させ、2050年までに排出量をゼロにするという、所属団体(Race to Zeroの活動に参画している非国家アクター)のポリシーとエンゲージメントの合意形成を行う。

Race to Zero:5つのPのポスター
” RACE TO ZERO’S STARTING LINE CRITERIA  (ALSO KNOWN AS THE 5 P’s) ”
を元に筆者の翻訳により作成

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ここからは、それぞれの要件について、もう少し詳しく見ていきます。

①Pledge:誓約
まずは、可能な限り早く、遅くとも2050年までに、地球の温暖化を1.5℃に抑えてオーバーシュートを起こさない、あるいは気温の上昇を抑えるために必要な世界的な取り組みに関する科学的なコンセンサスに沿って、GHGを正味ゼロにすることを組織のトップにより誓約する必要があります。また、そのためには、地球規模での公正な行動変容の一環として、化石燃料を段階的に削減し、廃止することが求められています。

そこで、2030年までに世界全体でCO2を半減させる、またはそれ以上の結果を生み出すために、最大限の努力を反映した形での公正な役割分担が必要です。また、それらを踏まえ、今後10年間に達成すべき中間目標を設定する必要性が、本項目では述べられています。その上で、設定される目標は、すべてのGHGの排出量をカバーするものでなければならないとされており、以下の4つが挙げられています。

1. 企業やその他の組織のScope1、2、3を含む
2. 都市と地域については、すべての領域からの排出を含む
3. 金融団体については、すべてのポートフォリオ(金融機関が間接的に関与する企業の排出や金融機関が直接的に関与するプロジェクトの排出も含む)からの排出を含む。
4. 土地や地上からの排出を含む。

▷積極的な取り組みとして求められること

I. 残余排出量をゼロにするか、自身が生み出す以上のGHG排出量の除去方法を確保し、ネット・ゼロまたはそれ以上のGHGの排出削減の状態を目指す。全体的な活動を通し、累積で生産ベース(※3)、又は逆に消費べ―ス(※4)の排出量が多い場合においては、包括的なバウンダリーを採用することを推奨する。

Ⅱ. GHG排出量の削減と除去の2つの目標を設定する。

Ⅲ. IPCCの第6次評価報告書に沿って、2030年までにメタンの排出量を少なくとも34%削減することを約束する、といった削減にむけた誓約を行うことで、地球温暖化係数の高いGHG排出量の短期削減の具体的な目標を設定する。

Ⅳ. 森林破壊を食い止め、生物多様性を保護し、気候変動に適した対策の実施を誓約する。

Ⅴ. 2030年のブレークスルー(ここでは、世界全体でCO2を半減させる、またはそれ以上の結果を生み出すことを指す)に向けた、関連する業界や市場などのセクターごとの目標を設定する。

②Plan:計画
次に、Race to Zeroへの参加後12カ月以内に、今後のプラン、又はまたはそれに相当するものを公表することが求められています。また、具体的な行動ベースでは、2030年までの直近12カ月以内と2-3年以内の計画の策定も必要です。

▷積極的な取り組みとして求められること

Ⅰ. 2030年までにGHGの排出量を半減させるというグローバル全体での目標の達成に向けて、地域社会との連携(不公平さを極力減らして公平な未来を構築する上で、いかに協力してもらい、どのような支援をおこなうのか)方法について説明を行い、相互理解に努める。

Ⅱ. 生物多様性条約に基づき、(生物多様性の)保全と持続可能な利用を関連する計画やプログラム、政策に組み込む。

Ⅲ. 地域社会内外の他のステークホルダーが自らの目標を達成できるようにするために、どのような行動をとるかを説明し、ステークホルダー自身が積極的に行動を行うことができるようにサポートする。

③Proceed:前進
②で設定した中間目標の達成と整合性を保ちながら、ネット・ゼロの達成に向け、利用可能なあらゆる手段や方法を通じて、直ちに行動を起こすことが求められています。また、関連する業界や市場などが目標の達成に際し困難な課題に直面している場合は、そのサポートを行い、状況を打破することに貢献するよう促しています。

▷積極的な取り組みとして求められること
Ⅰ. 自らのバリューチェーン、またはテリトリーを超えて、ネット・ゼロに向けた排出削減のための努力を行う。
Ⅱ. 現存する森林を保護するためにも、最もGHG排出量の多いセクターの排出量を早急に減らすべく、排出量が集中している部門の対応を優先する。
Ⅲ. 新しい技術やビジネスモデル、政策へのアプローチ等、ネット・ゼロの達成に寄与する気候変動対策の幅を積極的に拡大する。
Ⅳ. 資金調達や能力開発、知識の共有、資源へのアクセスなどを通じてリソースを提供し、エコシステムを強化する。特に金融機関に対しては、新興市場や発展途上国への投資を拡大する。

④Publish:公開
少なくとも年に1回、②で設定した中間目標および長期目標に対する進捗状況、ならびに実施中の行動を、UNFCCCのGlobal Climate Action Portal上で公表する必要があります。

▷積極的な取り組みとして求められること
Ⅰ. 短期および長期の目標達成のために、バリューチェーン、またはテリトリー内外における具体的な行動内容(リソースや能力の分配方法を含む)と排出削減状況の進捗を報告する。

⑤Persuade:説得
Race to Zeroへの参加後12カ月以内に、2030年までに排出量を半減し、2050年までにグローバル全体でネット・ゼロを達成するという目標に向けて、対外的な方針や協会へのRace to Zeroへの参加に関する内容を含むポリシーとエンゲージメントの合意形成を行うことが求められています。

▷積極的な取り組みとして求められること
Ⅰ. 1.5℃目標の達成を目指すために、自らが野心的な目標を実施することで、同業者や利害関係者、政府が追随するよう働きかける。
Ⅱ. 1.5℃目標が全ての関係者にとって共通認識となるように、適切な規制と促進策を提唱し、ネット・ゼロに関する考え方を主流化する。

(※3)各国の領土内から排出されたGHGの排出を対象としている。
(※4)自国内で発生するGHGの排出だけではなく、国内で消費または使用される商品の生産に伴う排出を、その発生場所に関わらず対象としている。

具体的なRace to Zeroへの参加、及び削減対策のプランの事例について

ここでは、冒頭でも取り上げた公立鳥取環境大学が具体的に示している対策プランの事例を紹介します。公立鳥取環境大学は、国内の公立大学としては初めて、Race to Zeroに参加した大学となります。

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公立鳥取環境大学 脱炭素実行計画

1. 背景

●2023年4月28日、鳥取市をはじめとする、本学を含む4者の共同提案が、環境省の脱炭素先行地域に採択された。本学は再エネ導入、ZEB化等による省エネでキャンパスの脱炭素化を目指している。
●2023年8月1日、CO2削減目標を定め、CO2削減の国際キャンペーンRace to Zeroへ参加しており、目標を達成するための具体的な実行計画の策定が必要である。なお計画策定はRace to Zeroの要件でもある。

<参考>Race to Zeroが示す計画の要件
・目標設定後1年以内に移行計画を策定、公表すること
・1年後、2-3年後、2030年までの行動を記載すること

2. CO2削減目標

●2030年度
・Scope1,2 :2022年度比44%削減、2013年度比60%削減Scope3 :2022年度比20%削減

●2050年度
・Scope1,2,3:実質ゼロ

3. 考え方
教育と研究の質を維持する。快適性、使い勝手を低下させず、向上を目指す。
排出量が大きい分野で、削減効果・実現可能性が高いものを優先して取り組む。

4. 主な対策
太陽光発電の導入【Scope1,2】
断熱改修(屋上、外壁、窓ガラス) 照明改修(LED化等)、空調改修 【Scope1,2】

5. 進め方等
サステイナビリティ研究所が中心となり、学内(教職員、学生)、学外の意見を聴取して進める。
毎年の排出実績、取組の進捗状況を踏まえ、環境マネジメントシステム(ISO14001)を活用し、実行計画を毎年見直し、公表する。

6. 今後の検討課題
●Scope1,2
・再エネの追加導入、再エネ電力の調達
●Scope3
・CO2排出量算定方法の検討(精度を高め、実態に近づける)
(例 調達先と連携し量/活動当たりの排出係数を入手するなど)
・調達先、委託先など学外の関係者と連携した削減対策
(例 グリーン購入、環境に配慮した建築工事、脱炭素交通など)

公立鳥取環境大学 脱炭素実行計画を引用、抜粋

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まとめ

本コンテンツでは、Race to Zeroを理解する上で重要な5つの「P」(参加要件)にフォーカスし、その他の章では、このキャンペーンの概要や具体的な取り組みにおける事例を紹介してきました。

昨今ではRace to Zeroのように、脱炭素社会の実現に向けてアプローチするための切り口は多岐に渡ります。まずは、自社にとって取り組みやすいと感じる方法で、このような環境対策に臨まれることをお薦めいたします。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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