DER(分散型エネルギー)とは? 仕組み・メリット・導入事例を徹底解説
近年、エネルギー供給のあり方が大きく変わりつつあります。従来の中央集権型の発電・供給システムに対し、分散型エネルギー(DER: Distributed Energy Resources)の導入が進んでいます。太陽光発電や風力発電、蓄電池、EV(電気自動車)を活用し、地域ごとにエネルギーを生産・管理するDERは、電力の安定供給やカーボンニュートラル実現に向けた重要な要素となっています。
本コンテンツでは、DERの基本概念や仕組み、導入メリット、そして実際の事例を詳しく解説します。分散型エネルギーがもたらす可能性と、今後のエネルギーシステムの変革について、一緒に考えてみましょう。
目次
DER(分散型エネルギー)とは?
DER(Distributed Energy Resources)とは、分散型エネルギーリソースの略で、発電や蓄電、需要管理を個別に分散したエネルギーシステムを指します。従来の電力供給が中央集権型の大規模発電所を主体とする一方、DERは太陽光パネルや風力発電機、蓄電池、燃料電池、マイクログリッドなど小規模なエネルギー設備を利用し、各地域や施設でエネルギー供給を自律的に行います。
この分散型エネルギーの特性により、DERは中央集権型電力システムの一部ではなく、地域ごとにエネルギーの供給・消費を制御し、効率的な電力運用が可能となります。また、災害時や停電などのリスクが低減されるため、DERはカーボンニュートラルの達成やエネルギー自給率の向上に向けた重要なシステムといえます。
配電網が直面する課題と変革の必要性
日本の配電システムは、需要家側における劇的な変化に直面しています。特に、再生可能エネルギーの急速な普及とEVの本格導入により、従来の一方向の電力供給を前提とした配電システムでは対応が困難な状況が生まれています。
引用 経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/jisedai_bunsan/pdf/001_05_00.pdf
最も顕著な課題は、太陽光発電の導入拡大に伴う逆潮流の増加です。経済産業省の調査によると、住宅用太陽光発電の累積導入量は2023年までに約100万件を超え、晴天時の昼間には局所的な電圧上昇が発生するケースが増加しています。これは従来の電圧調整機器では十分な対応が難しく、配電網の安定運用に新たな課題を投げかけています。
さらに、EVの普及が配電網に対して二つの大きな課題に繋がる可能性もあります。
- 充電需要による局所的な負荷増大
- 急速充電設備の設置増加
- 夜間の集中充電によるピーク形成
- 変圧器容量の制約
- 移動型蓄電池としての新たな役割
- V2H(Vehicle to Home)の実用化
- V2G(Vehicle to Grid)への期待
- 需給調整リソースとしての活用可能性
加えて、データセンターやAI関連施設など、新たな大口需要家の増加も配電網の課題を複雑化させています。これらの施設は、従来の工場などと異なり、都市部に立地するケースも多く、既存の配電容量では対応が困難なエリアも出始めています。
このような需要構造の変化は、以下のような新たに必要な要件を配電システムに突きつけることになります。
- リアルタイムでの双方向の電力潮流制御
- きめ細かな電圧品質の維持・管理
- 柔軟な需給調整機能の実装
- 予測困難な需要変動への対応
- 分散型リソースの統合制御
従来の配電システムは、安定した需要パターンを前提に、比較的シンプルな制御で運用されてきました。しかし、今後さらに加速する需要構造の変化に対応するためには、よりインテリジェントで柔軟な制御が可能なシステムへの進化が不可欠となっています。この課題に対して、DERの導入とそれを支えるデジタル技術の活用は、最も有望な解決策として注目されているのです。
DERの種類とその仕組み
DERの主要な種類
- 太陽光発電(PV)
屋根や空き地に設置された太陽光パネルを用いて太陽エネルギーを電力に変換し、家庭や施設の電力供給を支えます。
- 風力発電
風の力で風車を回して発電するシステムで、特に風が強い地域や沿岸部で導入が進んでいます。
- 燃料電池
水素や天然ガスを利用して電気と熱を同時に生み出す発電装置で、CO₂排出が少なく環境負荷が低いのが特徴です。
- 蓄電池(バッテリー)
発電した電力を蓄えて必要な時に利用するシステムで、電力の安定供給に寄与します。家庭用から産業用まで幅広く使用され、電力のピークカットや非常用電源として活用されます。
- マイクログリッド
地域単位で電力を供給・消費する小規模な電力網で、外部の電力網に依存せずに電力を自給できる仕組みです。地域内のエネルギー需要を満たし、余剰電力は売電することで地域経済の活性化にもつながります。
DERの仕組み
DERは、発電・蓄電・消費を地域単位で行うため、中央の電力網を通さずにエネルギー供給が完結します。電力需要と供給を適切にバランスするために、DERの運用にはエネルギーマネジメントシステム(EMS)が重要な役割を果たします。このEMSによって、電力需要や太陽光発電の発電量をリアルタイムで管理し、効率的に電力供給が行われるため、エネルギーの浪費が防がれます。
DERの有効な活用方法
DERの有効な活用方法としてデマンドレスポンス(DR)とバーチャルパワープラント(VPP)の2点をご紹介します。
デマンドレスポンス(DR)
デマンドレスポンス(DR)は、主に需要家側の電力消費パターンを制御することで電力システムの安定性を向上させる手法です。具体的には、電力需要がピークを迎える時間帯に、スマート家電やEV充電、産業用設備の稼働を調整することで、電力網の負荷を軽減します。例えば、夏の猛暑時や冬の電力需要が集中する時間帯に、家庭や事業所のエアコンの温度設定を自動的に調整したり、EV充電を一時的に抑制したりすることで、電力系統の負荷を平準化します。電力会社は需要家にインセンティブを提供することで、このような協力を促進します。
デマンドレスポンス(DR)に関しては、CARBONIX MEDIA内の「デマンドレスポンスとは?仕組みからメリット・導入事例まで徹底解説!」でも取り上げていますので、こちらをご覧下さい。
バーチャルパワープラント(VPP)
一方、バーチャルパワープラント(VPP)は、分散型エネルギーリソース(DER)を集約し、あたかも一つの発電所のように統合的に制御・運用する仕組みです。太陽光発電、蓄電池、EV、デマンドレスポンス対応の需要家設備などを、高度な情報通信技術とAI制御によって一元的に管理します。VPPの最大の特徴は、これらの分散リソースを電力市場で取引できる単一の発電設備として機能させる点にあります。
VPPは以下のような複合的な機能を持っています。
- 電力需給のリアルタイム調整
- 系統周波数の安定化
- 電力市場での取引
- 再生可能エネルギーの出力変動への対応
- 電力系統のレジリエンス(強靭性)向上
具体的な運用例としては、太陽光発電の出力が急激に低下した際に、蓄電池の放電とデマンドレスポンスによる需要抑制を組み合わせて電力系統の安定性を維持するといったことが挙げられます。
DRとVPPは相互に補完的な関係にあり、共に分散型エネルギーリソースの価値を最大化し、より柔軟で効率的な電力システムを実現する重要な手法となっています。これらの技術は、再生可能エネルギーの大量導入、電力システムの脱炭素化、そしてエネルギーの地産地消を推進する上で、極めて重要な役割を果たすことが期待されています。
DERのメリットとデメリット
DERのメリット
- 電力供給の安定化
地域ごとにエネルギーを供給できるため、停電や災害などのリスクを軽減し、電力の安定供給に貢献します。
- 環境負荷の低減
再生可能エネルギーを中心に構成されるため、化石燃料の使用を削減し、温室効果ガスの排出を抑えることができます。
- エネルギー自給率の向上
地域でのエネルギー自給が可能なため、エネルギーの輸入依存度が減少し、エネルギーセキュリティが向上します。さらに送電がしにくい離島へも届けることができます。
- 電力料金の削減
発電した電力を蓄電池に蓄えることで、ピーク時の電力消費を抑え、電力料金の削減が期待できます。
- 経済の活性化
地域内でエネルギーの生産・消費が行われることで、売電収入や地元企業の活性化など、地域経済にも良い影響を与えます。
DERのデメリット
- 初期導入コストの高さ
太陽光パネルや蓄電池、風力発電設備などの導入には高額な初期費用が必要となるため、一般家庭や中小企業には負担が大きくなりがちです。
- 天候依存のリスク
太陽光や風力は天候に大きく依存するため、気象条件が悪い場合には電力供給が安定しない可能性があります。
- エネルギー管理の難しさ
複数のDERシステムを組み合わせて運用する場合、電力の需給バランスをリアルタイムで管理する必要があり、高度なマネジメント技術が求められます。
DERの導入事例
日本での先行事例 | |
横浜市 | 横浜市では、「横浜スマートシティプロジェクト」として、みなとみらい地区で大規模なスマートグリッドの実証実験を実施しています。太陽光発電、蓄電池、EV充電設備を統合し、エネルギーマネジメントシステムによる地域全体の電力最適化を目指しています。 |
福島県 | 福島県では、「福島新エネ社会構想」のもと、阿武隈地域で風力発電とソーラーパークを中心としたDERの大規模実証が行われています。災害に強い自立分散型エネルギーシステムの構築を目指し、地域の復興とエネルギー転換を同時に推進しています。 |
海外での先行事例 | |
米国カリフォルニア州 | DER導入において世界をリードしています。特にサンディエゴ市では、地域全体でのVPP(バーチャルパワープラント)構築に取り組んでおり、住宅用太陽光発電、蓄電池、スマート家電を統合的に制御するシステムを展開しています。 |
ドイツ | ドイツのプロシュマー(生産消費者)モデルは、DER導入の先駆的事例として知られています。再生可能エネルギー法の後押しにより、農村部を中心に市民主導の分散型エネルギーシステムが発展。地域cooperative(協同組合)による太陽光・風力発電の共同運営が特徴的です。 |
オーストラリア | オーストラリアでは、電力価格の高騰を背景に、家庭用太陽光発電と蓄電池の導入が爆発的に進んでいます。特に南オーストラリア州では、テスラ社と連携し、世界最大規模のリチウムイオン蓄電池システムを構築。電力の安定供給と再エネ導入に成功しています。 |
オランダ | オランダのアムステルダムスマートシティプロジェクトは、都市型DERの先進事例として注目されています。住宅、オフィス、公共施設に分散する再エネリソースをAIで統合管理し、地域全体でのエネルギー最適化を実現しています。 |
国際的な企業の取り組み
グローバル企業も、DER導入に積極的です。グーグルは、自社データセンターで100%の再生可能エネルギー利用を目指し、さらにVPPシステムの構築に投資しています。アップルも、再生可能エネルギーと蓄電システムを活用し、企業運営における脱炭素化を推進しています。
これらの事例は、DERが単なる技術革新を超えて、エネルギーシステムの社会的・経済的変革を牽引していることを示しています。地域特性に応じた柔軟な導入と、技術・制度・社会システムの統合的なアプローチが、DERの可能性を広げているのです。
日本と世界におけるDERの取り組み
日本でのDERの取り組み
日本では、政府が「グリーン成長戦略」や「カーボンニュートラル2050」を目指し、DERの導入を積極的に進めています。地域主導でのエネルギー自給率向上を目的とし、自治体や企業が協力してDERを導入しています。
- 再生可能エネルギーの普及支援
太陽光や風力などの再生可能エネルギー導入支援策が充実しており、DERの導入も推進されています。
- スマートシティの推進
スマートシティプロジェクトでは、DERとIT技術を融合させ、効率的なエネルギー管理を行い、地域の持続可能性を高める取り組みが進められています。
- エネルギーマネジメントシステムの導入支援
EMSの導入が支援され、地域のDER管理が効率化されています。
世界でのDERの取り組み
- 欧州連合(EU)
EUは「グリーンディール」に基づき、カーボンニュートラルの達成に向けてDERの普及を推進しています。特に、地域単位での再生可能エネルギー供給とマイクログリッドの導入が進められ、安定的かつクリーンな電力供給を目指しています。
- アメリカ
アメリカでは、DERの普及を支援する政策が進んでおり、州ごとに独立したエネルギー供給体制を構築することで、エネルギーセキュリティの向上を目指しています。
- アジア
インドや中国でもDERの導入が進められており、特に農村部や都市部で再生可能エネルギーの普及が進展しています。
カーボンニュートラルに向けたDERの可能性
DERがカーボンニュートラルに貢献する理由
DERは、再生可能エネルギーを活用することで、化石燃料の消費を減らし、CO₂排出を大幅に削減できる点でカーボンニュートラルに貢献します。特に、地域単位でエネルギーを自給できるため、輸送時に発生するCO₂排出も削減でき、持続可能なエネルギー供給が実現します。また、蓄電池の活用により、再生可能エネルギーの不安定性も克服できるため、安定的かつ効率的な電力供給が可能です。
DERを活用した未来のエネルギーシステム
将来的には、再生可能エネルギーのさらなる普及により、DERが電力供給システムの主軸となる可能性があります。各家庭や地域が発電・消費を行い、余剰電力をスマートグリッドを介して相互に共有することで、カーボンニュートラルなエネルギーインフラが実現するでしょう。政府や企業が積極的にDERの導入支援策を講じることで、地域の脱炭素化が進み、温暖化防止にも大きな貢献が期待されます。
まとめ
DER(分散型エネルギー)は、地域単位でのエネルギー自給やカーボンニュートラル達成に向けた有望な手段です。再生可能エネルギーを活用し、エネルギーの消費と供給を効率化することで、GHG排出の削減に貢献します。エネルギーの地産地消が進むことで、地域経済や環境保護にも良い影響をもたらし、持続可能な社会実現への重要な要素となるでしょう。