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GX-ETS(排出量取引制度)をわかりやすく解説|仕組み・算定方法・今後の展開

基礎知識

2024年12月、日本企業における排出削減のさらなる促進に向けてGX-ETSの強化を要請する内容の声明を、自然環境保護団体であるWWFジャパンが発表しました。GX-ETSは、GHGの排出削減を目的とした市場メカニズムの一つとなっており、政府は「成長志向型カーボンプライシング構想」の一環として、この排出量取引制度であるGX-ETSを2026年度に本格稼働させるべく検討を進めてきました。

この声明の中では、現行の政府が示す排出量取引制度を具体化した方向性案には賛同しつつも、当該方向性において残存している問題点の改善を通じ、GX-ETSが企業の脱炭素化をいっそう強く後押しして競争力強化にもつながる制度となることを要請しています。

具体的な改善内容は、以下の3点です。

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(1)まず対象部門の総排出量に1.5度経路に沿った上限(キャップ)を設けるべき

(2)予見可能性はキャップの縮小ペースをもって提示するべき

(3)排出削減の実効性を強化する制度設計を:①法人ではなく事業所単位で規制、②研究開発投資費用はGX-ETS制度外で支援するべき

WWFジャパン:【WWF声明】日本企業の排出削減のさらなる促進に向けてGX-ETSの強化を要請するより一部抜粋

—–

このように、随所で様々な検討が重ねられながら、GX-ETSの本格的な稼働に向けて注目が集まっています。

そこで本コンテンツでは、GX-ETSに関する理解を深めるにあたり、前半では概要として本制度の建て付けや意義などを解説し、後半ではGX-ETSの現在のフェーズにおける算定方法や自主設定目標に関する情報の中で押さえておくとよいポイントを紹介していきます。

排出量取引制度(GX-ETS)の概要について

Green Transformation Emissions Trading Schemeの略で、経済産業省が設立したGXリーグにおける排出量取引の枠組みとなっています。GX-ETSは、企業の競争力を維持しながら脱炭素化を進めるための重要な手段と位置付けられており、参画企業(※1)が自主設定した排出削減目標達成に向けて、サプライチェーン上での排出削減やGX製品の市場投入に取り組んでいます。EU-ETSが、対象となる事業所や施設に対して、あらかじめ排出枠が設定される義務的な取り組みであるのに対し、GX-ETSは企業が自主的に目標を設定し、取り組み状況について第三者による評価を受けながら排出量を削減していくことが特徴です。このGX-ETSは最終的に、企業間の排出枠の取引を通じてコスト効率よく排出量を削減することを目指しています。

また、GX-ETSの実⾏のため規程やガイドラインは現時点で3つ存在しており、GXリーグ規程(第6章 GX-ETS 第1節 排出量の報告)の「第22条 排出量の算定・報告」と「第23条 排出量の検証」の中で以下のように定められています。

  • 第22条 排出量の算定・報告

① 基準年度排出量算定ガイドライン
∎ 温対法に基づく算定・報告・公表制度での算定データからの抽出の考え⽅
∎ GHGプロトコルに基づく算定データから抽出の考え⽅
など

② 算定・モニタリング・報告ガイドライン
∎ 算定対象活動の考え⽅
∎ モニタリングの⽅法
∎ 報告の⽅法・様式
など

  • 第23条 排出量の検証

③ 第三者検証ガイドライン
∎ 保証⽔準の考え⽅
∎ 検証⼿続の考え⽅
∎ 検証機関の登録⽅法
など

一方で、現行のGX-ETSは下図の第1フェーズに記載されているように「試行」の段階となっており、2026 年度の本格稼働に向けて更なる検討が続けられています。プレッジ(誓約)・アンド・レビュー(評価)の性質を持っており、この第1フェーズの中で、①プレッジ、②実績報告、③取引実施、④レビューの4つの段階的な項目に分かれています。

内閣官房:排出量取引制度の本格稼働に向けた検討の方向性(令和6年9月3日)
© https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/carbon_pricing_wg/dai1/siryou3.pdf

 GXリーグ:GX-ETSの概要(2023年2月14日)
© https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX-ETS%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81.pdf

そこで、二章ではGX-ETSをより深く理解するために、この第1フェーズのルールの具体的な内容について詳しく説明していきます。

(※1)2024年4月時点で日本のCO2排出量の5割超を占める企業群がGXリーグに参画しており、Group GとGroup Xの2つに分けられています。この2つのグループは、排出量以外にも、段階的に活動を行う上での細かな規定が異なっています。
Group G:組織境界における2021年度の直接排出量が10万t-CO2e以上の参画企業
Group X:組織境界における2021年度の直接排出量が10万t-CO2e未満 の参画企業

GXリーグ:GX-ETSの概要(2023年2月14日)
© https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX-ETS%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81.pdf

因みに、GXリーグにおける業種別参画状況は以下の通りです。自主参加となるため、業種ごとに参画割合に差があるのが実態となっています。航空運輸業や鉄鋼業、パルプ・紙・紙加工品製造業がほぼ100%の参画を示しているのに対し、電子部品・デバイス・電子回路製造業や水運業は低い割合を示しています。

内閣官房:排出量取引制度の本格稼働に向けた検討の方向性(令和6年9月3日)
© https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/carbon_pricing_wg/dai1/siryou3.pdf

第1フェーズのルールの具体的な内容について

GX-ETS における第1フェーズのルールは、複数回にわたる学識有識者検討会で出された意⾒や賛同企業との対話の内容をもとに検討が行われてきました。そこでここでは、一連のフェーズの中で押さえておくとよいポイントを以下の6つに絞って解説していきます。

自主目標と基準年度の設定について

自主目標として参画企業が設定する目標は、以下の3つです。

①第1フェーズ(2023年度〜2025年度)の国内直接/間接排出削減⽬標(排出量のみ)の総計
②2025年度の国内直接/間接排出削減⽬標(排出量・削減率・削減量)
③2030年度の国内直接/間接排出削減⽬標(排出量・削減率・削減量)

この際、基準年度は原則2013年度としており、参画企業は、⽬標の野⼼度や超過削減枠の創出判断、本枠組みの実効性把握等のため、この基準年度の排出量を算定・報告する必要があります。

排出量の算定・モニタリング・報告について

GHGの「算定」と、「モニタリング・報告」では、それぞれ参考にする手法が異なります

∎ 算定:温対法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)の手法
∎ モニタリング・報告:⾃主参加型国内排出量取引制度(JVETS)や排出量取引の国内統合市場の試⾏的実施(試⾏実施)など、過去に政府が実施した類似の取り組みを用いた手法

GX-ETSの算定ルールとGHGプロトコルとの関係について

GXリーグには、GHGプロトコルに基づき⽬標値や実績値を算定している企業も多数賛同していることから、GX-ETSの算定ルールを遵守することを前提に、GHGプロトコルで算定したデータも活⽤できるように定められています。具体的には、GHGプロトコルに基づく排出量の算定範囲がGX-ETSの算定範囲を包含していることを条件に、GHGプロトコルに基づく算定も認めることとしています。その際、GX-ETSの算定ルールに整合するよう、⼀部の排出量データに関しては、変換や補⾜を行う必要があります

GXリーグ:GX-ETSにおける第1フェーズのルール(令和5年2⽉)
© https://x.gd/NJcbl

∎ 留意箇所(上図における相違点1、2)

▷GX-ETSの算定ルールでもGHGプロトコルのScope1・2でも算定対象としているが、両者で算定⽅法が異なる排出量
該当箇所:廃棄物の原燃料利⽤の扱い、他⼈から供給された電気・熱の使⽤に伴う排出量の算定⽅法

▷GX-ETSの算定ルールでは算定対象としていないが、GHGプロトコルのScope1・2では算定対象としている排出量
該当箇所:地理的範囲、算定対象活動

排出量の第三者検証について

前提として、第1フェーズでは国内直接/間接排出に対して限定的保証⽔準の検証を受けることと定められており、よりワンランク上の合理的保証⽔準の検証が求められるケースとしては、超過削減枠を創出する場合が挙げられます。すなわち、合理的保証については第三者検証の品質を確保する必要があるため、GXリーグ事務局へ登録された検証機関から検証を受けることが必要となっていますが、限定的保証については、第三者検証機関に関する特段の要件は求められていません

 GXリーグ:GX-ETSにおける第1フェーズのルール(令和5年2⽉)
© https://x.gd/NJcbl 

自主目標の達成基準について

フェーズ終了後、実排出量が⾃主⽬標排出量を下回ることが理想的ではありますが、超過した場合も⾃主⽬標を達成したことになるケースがあります。それは、実排出量が⾃主⽬標排出量を超過した場合、⾃主⽬標排出量と実排出量の差分につき超過削減枠等(超過削減枠及び適格カーボン・クレジット)の調達を行うケースです。このケースは、⾃主⽬標を達成したことになります。

また、NDC(※2)相当排出量よりも削減する⾃主⽬標排出量を掲げていた場合は、NDC相当排出量と実排出量の差分につき超過削減枠等の調達を⾏えば達成とみなされます。なお、⾃主⽬標は不達成であったが、NDC相当の排出量を達成できている場合においては、超過削減枠等の調達も不要となります。

∎ 自主目標が達成とみなされるケース
①実排出量<⾃主⽬標排出量(理想ケース)
⇒追加の対応は不要。

②実排出量>⾃主⽬標排出量かつ、NDC相当排出量<⾃主⽬標排出量
⇒⾃主⽬標排出量と実排出量の差分につき超過削減枠等の調達を行う。

③実排出量>⾃主⽬標排出量かつ、NDC相当排出量≧⾃主⽬標排出量
NDC相当の排出量と実排出量の差分につき超過削減枠等の調達を行う。

GXリーグ:GX-ETSにおける第1フェーズのルール(令和5年2⽉)
© https://x.gd/NJcbl 

年度・フェーズ終了後のスケジュールについて

年度・フェーズ終了後のスケジュールは、下図の通りです。各年度単位を算定対象期間とし、算定結果については、検証ガイドラインに準拠した第三者検証済み排出量をGXリーグ事務局へ提出する必要があります。この時点では、直接排出につき単年度の⾃主⽬標を超過したとしても、直ちに超過削減枠の調達義務は⽣じず、超過削減枠特別創出期間内に参画企業は、GXリーグ事務局へ超過削減枠の特別創出を申し出る流れになります。

∎ 年度終了後のスケジュール

 GXリーグ:GX-ETSにおける第1フェーズのルール(令和5年2⽉)
© https://x.gd/NJcbl

∎ フェーズ終了後のスケジュール(2025年度終了後)

 GXリーグ:GX-ETSにおける第1フェーズのルール(令和5年2⽉)
© https://x.gd/NJcbl

(※2)国が決定する貢献を指します。

まとめ

本コンテンツでは、GX-ETSとその周辺知識の理解を深めるために、①本制度の概要と、②制度の移行期間である今、押さえておくとよいポイントの2本立てに絞ってお伝えしてきました。

GX-ETSは、日本が持続可能な社会を実現するための重要な枠組みです。GXリーグに参画する企業も、またそうではない企業も、自主的にかつ積極的に排出削減に取り組むことが、今後の経済成長と環境保護の両立に繋がっていきます。GX-ETSが、様々な検討や検証を重ねながら透明性を確保しつつより良い形に進化していくことで、国内外でのさらなる排出削減の促進が期待できると考えられています。そのため、多くの企業にとっても本制度は、新たな価値創出の機会となっていくことでしょう。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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