滋賀県のカーボンニュートラル戦略|企業の脱炭素取り組み事例

このシリーズでは、実際に日本各地で企業により行われている脱炭素やカーボンニュートラルに関連する取り組みを取り上げ、地域に即したカーボンニュートラルを目指す活動についてお伝えしています。今回取り上げる都道府県は、古来より湖国として水資源が豊富な滋賀県です。
滋賀県では、2020年10月に菅内閣総理大臣によってカーボンニュートラル宣言がなされる前に、2050年CO₂排出量実質ゼロ(CO₂ネットゼロ)を目指す、しがCO₂ネットゼロムーブメント・キックオフ宣言を、同年1月に行っています。それに加え、CO₂ネットゼロに向けた取り組みを通じて地域や産業の持続的な発展をも実現する「CO₂ネットゼロ社会づくり」を推進し、より豊かな滋賀を次の世代に引き継いでいく、滋賀県CO₂ネットゼロ社会づくり推進計画も策定しました。また、県庁所在地である大津市においても、2022年3月に、2050年までに二酸化炭素排出量実質ゼロを目指す「大津市ゼロカーボンシティ」を目指す表明がなされています。
そこで本コンテンツでは、地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する施策、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みへの理解を深めるために、まずは、滋賀県の温室効果ガスの排出状況と排出構造、今後の方向性について確認していきます。その後、県庁所在である大津市が目指すべき姿や排出削減における目標値をお伝えし、最後に県内における取り組みの実態について順を追って解説していきます。
(本シリーズは、各自治体や行政機関から公表されている情報、並びにライターによるインタビューを元に作成しております。)
滋賀県の温室効果ガスの排出状況と排出構造、今後の方向性について
県内の温室効果ガスの排出状況としては、今まで確認してきた他県と同様の傾向が見られており、総排出量は、「滋賀県 CO2ネットゼロ社会づくり推進計画」で基準年度として定めている2013 年度以降減少傾向にあり、そのうちCO2が全体の92.5%と大部分を占めています。現在最新のデータとして公表されている2021年度における温室効果ガスの総排出量は1,052 万 t(CO2換算)であり、2013 年度比では、26.0%減(370万t減)、前年度の2020年度比では3.5%減(38万t減)となっています。これは、2030 年度の削減目標(711 万t)に対する進捗状況という観点から考えると、52.0%の進捗率を表しています。
(単位:万 t-CO2)
2013年度 実績 | 2030年度削減目標 | 2021年度実績 | ||||
目標値 | 削減率 | 排出量 | 削減率 | 進捗率 | ||
温室効果ガスの総排出量 | 1,422 | 711 | ▲50.0% | 1,052 | ▲26.0% | 52.0% |
滋賀県域からの温室効果ガス排出実態(2021年度)をもとに、筆者作成
また、これらの温室効果ガスの排出構造は、以下の通りです。
滋賀県HP:滋賀県域からの温室効果ガス排出実態(2021年度)について
© https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5451640.pdf
一方で、県内におけるエネルギー消費量の排出構造を見てみると、2021 年度においては、産業部門が50.9%と半数以上を占めており、次いで運輸部門が21.8%、家庭部門が14.5%、業務部門が12.8%という順になっています。
滋賀県HP:滋賀県域からの温室効果ガス排出実態(2021年度)について
© https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5451640.pdf
このように、最も多くのエネルギー消費量を占めている産業部門ですが、そのCO2排出量のうち9割以上(96.1%)を占めているのは製造業です。しかし、製造業におけるエネルギー消費量そのものは2021年度が4,441千tとなっており、2013 年度比28.0%減、前年度比2.5%減となっています。これは、重油から都市ガス等、CO2の排出がより少ない燃料への転換が進んでいることを表しています。
滋賀県HP:滋賀県域からの温室効果ガス排出実態(2021年度)について
© https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5451640.pdf
その上で今後の方向性としては、2050年のカーボンニュートラルを目指し、滋賀県の温室効果ガス排出量の削減目標は次のように定めています。
〔2030年度の各計画における目標数値と進捗実績〕
令和4年度滋賀県CO₂ネットゼロ社会づくり推進計画 関連事業の実施状況(案)について
(令和5年11月22日 滋賀県総合企画部CO₂ネットゼロ推進課)
© https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5438392.pdf
〔2050年〕
「CO2ネットゼロ」の達成を目指すとともに、そのための取り組みを通じて、県民生活の豊かさ、地域や経済の持続的な発展などにもつなげる「CO2ネットゼロ社会づくり」を推進。
大津市が目指すべき姿や排出削減における目標値について
県の中心都市である大津市では、カーボンニュートラルな社会の実現に向けて、市民や事業者、行政との連携、協働のもと、2022年度から2030年度の 9年間を計画期間と定め、「大津市環境基本計画(第3次)」を策定しています。この「大津市環境基本計画(第3次)」の中では、①協働、②生物多様性、③循環、④脱炭素、⑤健全の5つの基本目標とそれに付随する11個の施策が掲げられており、特にカーボンニュートラルに関連する内容については、基本目標4の脱炭素の中で具体的に示されています。
基本目標4 脱炭素 脱炭素に向け、温室効果ガス排出量が削減されている 概要:低炭素な建物や交通ネットワークで構成され、省エネライフスタイル・ビジネススタイルが定着し、気候変動に適応したまちを目指す。 | |
施策7 | 低炭素型のエネルギー利用の推進 |
概要:2030年度における温室効果ガスの排出量を46%削減、2050年におけるCO2排出量の実質ゼロに向けて、より一層の省エネルギー対策と低炭素型エネルギーの利用を進める。 | |
施策8 | 環境負荷の少ない都市基盤の整備 |
概要:交通ネットワークをより低炭素なものへと変えていくインフラ整備を進めるとともに、市民・事業者の交通手段についても自動車の依存度を下げるために自転車利用を促進する。また、主要な駅や交通手段の乗り継ぎ場所などの交通結節点について、特に公共交通機関や自転車の利用増加を目指して、アクセス性の向上や駐輪場の整備などを図る。 | |
施策9 | 気候変動による影響の低減 |
概要:既に大津市において生じている気候変動の影響と、これから予測される影響を踏まえ、適切な適応策を推進し、気候変動の影響に対し強いまちづくりを進める。 |
大津市環境基本計画(第3次) 概要版をもとに、筆者作成。
県内における取り組みの実態について
県が推進する「CO2ネットゼロ社会づくり」に向けた情報発信を行うゼロナビしがの中では、県内の企業や団体の行っている省エネやネットゼロに関する実際の取り組み事例が紹介されています。そこで、ここでは計8つの事例を、取り組みの内容ごとに大きく3つに分類してお伝えします。
取り組み内容 | 地域 | 企業名 | 業種 | 概要 |
自社のネットゼロに関する取り組み | 湖南市 | 甲陸ロジスティクス株式会社 | 運輸業、郵便業 | バイオディーゼル燃料を自社倉庫の発電機に活用。また、トラック由来のCO₂削減に向け、共同配送化や燃費向上のための運転状況の点数化などを推進。 |
米原市 | アストラゼネカ株式会社 米原工場 | 製造業 | 太陽光発電設備の稼働と再エネ電力メニューへの切り替えを経てRE100を達成。 | |
犬上郡(多賀町) | 共栄社化学株式会社 滋賀工場 | 製造業 | メーカーが主導となり、顧客や運送会社、近隣や到着地の事業者までを含めた物流のサプライチェーンを確立。 | |
高島市 | 新旭電子工業株式会社 | 製造業 | 基板製造ラインにおける新規工法の導入で省エネ・省力化を実現。 | |
自社製品・サービス | 犬上郡(多賀町) | HIJ.株式会社 | 建設業、製造業 | 太陽熱を利用した木材乾燥の省エネ化に貢献する製品を製造。 |
草津市 | 川重冷熱工業株式会社 滋賀工場 | 製造業 | 水素エネルギーの活用に向けた製品を製造。 | |
高島市 | 有限会社橋本燃料 | 製造業、卸売業(小売業) | びわ湖を想う滋賀県民のやさしさからスタートした石けん運動の流れを汲んだ廃食用油をリサイクルした業務用アルカリ洗剤を製造。 | |
再エネ | 湖南市 | 株式会社サンユ技工 | 製造業 | 2023年3月からリニューアブルディーゼル(※1)の実証実験を開始。 |
その他にも、サプライチェーンの脱炭素化を進めることを目的として、県内に多くのパートナー企業を有する株式会社SCREENホールディングスと滋賀銀行、そして滋賀県が連携して、「サステナビリティ向上に資する脱炭素化に関する協定」を締結しています。協定に基づく具体的な取り組みは、以下の2つ(※2)です。
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①脱炭素化の啓発に関すること
例:SCREENホールディングスのパートナー企業向けセミナーの開催
脱炭素に係る支援施策等の情報共有・提供
②脱炭素化支援に関すること
例:省エネ診断・設備導入補助金の実施、CO₂排出量算定ツールの提供
脱炭素に向けた助言・伴走支援の実施
一部抜粋
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このように、政府の掲げる2050年までのカーボンニュートラルの達成には、脱炭素に向けた取り組みを各企業が単独で行うだけではなく、サプライチェーン全体へと広げていくことも重要であると考えられています。
取組事例の紹介
(ゼロナビしが:取組事例(企業・団体一覧))
URL:https://zeronavi.shiga.jp/company/action/examples/
(しがCO2 ネットゼロムーブメント:滋賀県、株式会社SCREENホールディングスおよび株式会社滋賀銀行とのサステナビリティ向上に資する脱炭素化に関する協定について)
URL:https://zeronavi.shiga.jp/files/shiga-co2-netzero-movement/files20230609165705.pdf
(※1)主に、廃食用油・廃動物油・廃魚油・廃植物油を原料として製造される燃料で、CO2排出の実質ゼロを実現できる地球環境にやさしい燃料。
(※2)協定項目としては、この2つの取り組み他、「その他、三者が協議し合意した事項」が含まれています。(計3項目)
まとめ
本コンテンツでは、地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する施策、またそこで展開されている企業の取り組みへの理解を深めるために、県全体⇒市全体⇒企業単位の順に、カーボンニュートラルに対するそれぞれの立場からのかかわり方について、具体的な目標や取り組み事例をもとにお伝えしてきました。
次回は、岡山県に関する地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する取り組み、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みを紹介していく予定です。
本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

