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サステナビリティリンクローン(SLL)とは? 基本的な原則から事例まで解説!

サステナビリティリンクローン(SLL)とは? 基本的な原則から事例まで解説!
基礎知識

近年、事業とサステナビリティの両立は、もはや不可欠な経営課題となっています。環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みは、企業のレピュテーション向上だけでなく、新たな事業機会の創出にも繋がります。

そうした中、今注目を集めているのが「サステナビリティリンクローン(SLL)」です。これは、借り手企業のESGに関する目標(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット:SPTs)の達成・改善状況と融資条件が連動しているローンです。従来のグリーンローンなどとは異なり、資金使途が限定されないため、より柔軟に資金を調達できるのが大きな特徴です。

本コンテンツでは、このサステナビリティリンクローンのメリットや活用事例について、企業の皆様に分かりやすく解説します。ぜひ、貴社の持続可能な成長と資金調達戦略の新たな選択肢としてご検討ください。

サステナビリティリンクローン(SLL)とは?

サステナビリティ・リンク・ローンとは、借り手が野心的なサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)を達成することを奨励するローンです。具体的には、①借り手の包括的な社会的責任に係る戦略で掲げられたサステナビリティ目標とSPTsとの関係が整理され、②事前に定められた、重要業績評価指標(KPIs)で測定される適切なSPTsによってサステナビリティの改善度合を評価・測定し、③それらに関する融資後のレポーティングを通じ透明性が確保されたローンです。すなわちKPIsは目標の達成状況を測るための指標であり、SPTsはその指標において達成すべき水準を意味します。この仕組みにより、企業はサステナビリティの改善に積極的に取り組むよう促されます。従来の融資と最も異なる点は、資金の使途が特定の環境プロジェクトなどに限定されない点にあります。

参照 環境省「グリーンファイナンスポータル」
http://greenfinanceportal.env.go.jp/loan/sll_overview/about.html

世界における誕生と普及

SLLの概念は、2019年に、「サステナビリティ・リンク・ローン原則(Sustainability Linked Loan Principles)」をLMA(Loan Market Association:ローン・マーケット・アソシエーション)、LSTA(Loan Syndications & Trading Association)、APLMA(Asia Pacific Loan Market Association:アジア太平洋ローン・マーケット・アソシエーション)の3つの団体が共同で策定した策定したことにより、国際的な枠組みが整備されました。これは、融資の目的が特定のプロジェクトに限定されないSLLの特性を明確にし、市場の透明性を高めるためのものです。以下の章で詳しく説明していきます。

この原則の策定により、金融機関と企業の間でSLLに関する共通の理解が形成され、この時期の 2016年から2021年にかけて欧州を中心に融資件数や融資額が急増しました。

LSTA HP SLL
https://www.lsta.org/content/guidance-on-sustainability-linked-loan-principles-sllp/

参照PRI HP
https://www.unpri.org/pri-blog/sustainability-linked-loans-a-strong-esg-commitment-or-a-vehicle-for-greenwashing/10243.article

日本への導入

日本においては、世界的な潮流を受けてSLLへの関心が高まり、グリーンローンの環境改善効果に関する信頼性の確保と、借り手のコストや事務的負担の軽減との両立につなげ、国内におけるグリーンローンの普及を図ることを目的として、2020年3月にグリーンローンガイドライン2020年版を作成しました。その後、2022年には環境省が各種国際原則の改訂と整合を図るため改訂を行い「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2022年版」を策定し、国内におけるSLLの普及をさらに後押ししました。続けて2024年、2025年と改定を続け、国際原則の改訂を反映及び市場の現状を踏まえた解説の追加や制度の動向が記されました。

参照 環境省「グリーンファイナンスポータル」
https://greenfinanceportal.env.go.jp/loan/guideline/guideline.html

これにより、SLLは特定の環境・社会課題に取り組む企業だけでなく、幅広い業界の企業が利用する資金調達手段として定着しつつあります。特に、脱炭素やダイバーシティといった目標を経営の根幹に据える企業にとって、SLLは事業成長とサステナビリティを両立させるための重要なツールとなっています。

SLLの原則

サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)が世界的に広がる中で、その信頼性と透明性を確保するために策定されたのが「サステナビリティ・リンク・ローン原則(SLLP)」です。この原則は、SLLの取引に関わる主要な金融機関が中心となって作成された自主的なガイドラインで、貸し手と借り手の双方が従うべき枠組みを定めています。

SLLPは、ローン・マーケット・アソシエーション(LMA)、アジア太平洋ローン・マーケット・アソシエーション(APLMA)、ローン・シンジケーション&トレーディング・アソシエーション(LSTA)という世界の主要なローン市場団体によって2019年に策定され、その後も市場環境の変化に合わせて継続的に改訂されています。最新版(2025年版)は、SLLの核となる5つの要素で構成されています。

SLLPを構成する5つの核となる要素

SLLPに準拠したSLLを組成するためには、以下の5つの要素を遵守する必要があります。

  1. 重要業績評価指標(KPIs)の選定

SLLの信頼性は、どのような目標を設定するかにかかっています。SLLPでは、KPIは企業の事業全体に深く関わり、中核的で重要(マテリアル)であること、そして企業のサステナビリティ戦略と整合していることが求められます。また、KPIは測定や定量化が可能で、外部検証が可能なものであるべきとされています。具体的には、温室効果ガス排出量、再生可能エネルギー導入比率、女性管理職比率などが該当します。

  1. サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)の設定

SPTsは、設定したKPIの具体的な目標値のことです。SLLPは、SPTsが「真摯かつ誠実」に設定されることを求めています。つまり、単なる現状維持ではなく、事業の成り行きBAU(事業の成り行き)シナリオや法規制で定められた目標を上回る、野心的な目標でなければなりません。目標設定にあたっては、自社の過去の実績だけでなく、同業他社の動向、あるいは科学的根拠に基づいた目標(例:パリ協定と整合する目標)などを参考にする必要があります。

  1. ローンの特性

SLLの最大の特徴である、ローンの財務的または構造的特性が変動する仕組みに関する要素です。最も一般的なのは、設定したSPTsの達成度に応じて金利が変動するケースです。目標を達成すれば金利が引き下げられ、達成できなければ現状維持または金利が引き上げられる、といった契約内容が一般的です。

環境省は、グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドラインに、「連動させる貸出条件等の主な例」として以下の内容を紹介しています。

  • 関連するローン契約において、1年毎に期日更新するような短期貸出の場合には、その期日にあわせて借り手が事前に設定したSPTsを達成した場合に金利を引き下げる、又は達成しない場合には引き上げる。
  • 関連するローン契約において、期日まで1年超の長期貸出の場合には、借り手が事前に設定したSPTsを達成した時点で金利若しくは融資関連手数料を引き下げる、又は借り手と貸し手が合意した定期的な貸出条件見直し時点において達成しない場合には引き上げる。連動させる貸出条件としてその他にも、貸出期間の延長や貸出金額の増加が考えられるが、これらに限られるものではない。
  • SPTs達成時に、達成した事実やサステナビリティ経営に積極的な企業である旨、貸し手のHP等で開示する。
  • 外部機関からSPTs達成時に達成した事実やサステナビリティ経営の高度化が認められる旨の意見書やそれに類する書類の発行を受ける。
  • 借り手がSPTsを達成しない場合には、例えば借り手が引き上げる金利相当額を拠出する等を通じて社会のサステナビリティの向上に資する取組を行う。
  1. レポーティング(報告)

借り手企業は、SPTsの達成状況について、少なくとも年1回、貸し手である金融機関に報告する必要があります。報告書には、KPIのパフォーマンスや、ローンの特性に与える影響などを明確に記述することが求められます。情報開示の透明性を高めるため、可能な限り統合報告書やサステナビリティレポートに含めて一般に開示することが推奨されています。

  1. 検証

SLLPでは、設定したSPTsに対するパフォーマンスが、独立した第三者機関によって検証されることが必須とされています。これは、借り手企業が自己申告する情報に客観性と信頼性を与えるための重要なプロセスです。金融機関と借り手企業の間で事前に合意したKPIの測定方法やSPTsの達成状況が、公正に評価されます。

SLLPは、SLLの誠実性を確保し、市場の健全な発展を促進することを目的としており、その結果としてグリーンウォッシュの防止にも貢献しています。

参照 環境省SLL原則
https://greenfinanceportal.env.go.jp/loan/related_info/sll_principle.html

サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)のメリット

サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)は、借り手が設定した野心的なサステナビリティ・パフォーマンス目標(SPTs)の達成度合いに応じて、融資条件(主に金利)が変動する仕組みを持つ融資です。この仕組みは、借り手、貸し手、そして社会全体に多岐にわたるメリットをもたらします。今回は環境省の発行しているグリーンファイナンスポータルにて発表されているメリットを参考にご紹介いたします。

環境省グリーンファイナンスポータル
https://greenfinanceportal.env.go.jp/loan/sll_overview/about.html

借り手のメリット:企業価値向上と資金調達の強化

サステナビリティ・リンク・ローンを利用する借り手には、企業の経営基盤を強化し、市場における評価を高める以下のようなメリットがあります。

1. サステナビリティ経営の高度化

  • 野心的な目標設定(SPTs):ビジネス全体にわたる野心的なSPTsを設定し、達成に向けて強く動機付けられることで、組織内のサステナビリティに関する戦略立案、遂行、リスクマネジメント、ガバナンス体制の整備が促進されます。
  • ESG評価の向上:この取り組みはTCFDなどのESG情報開示要請に応える一助となり、中長期的なESG評価と企業価値の向上に繋がります。
  • 差別化:野心的で信頼できるKPIsとSPTsは、競合他社とのサステナビリティ評価における差別化に役立ちます。
  • サプライチェーン強化:自社だけでなくサプライチェーン全体でのESG課題への対応が強化され、サステナビリティ経営が浸透します。

2. 社会的な支持の獲得

  • サステナビリティに関する野心的な目標と、環境・社会面で持続可能な経済活動の推進に対する積極性をアピールでき、これにより社会的な支持を得やすくなります。

3. 貸出条件等におけるインセンティブ

  • SPTsの達成に連動して金利が変動するなどのインセンティブがある場合、サステナビリティ・パフォーマンスを向上させることで、ESG融資を選好する金融機関から比較的有利な条件で資金を調達できる可能性があります。

4. 資金調達基盤の強化

  • サステナビリティ・リンク・ローンの受け入れと情報開示を通じて、ESG融資に関心を持つ金融機関との新たな関係を築き、結果として資金調達の基盤強化につながります。

貸し手のメリット:経済性と持続可能性の両立

サステナビリティ・リンク・ローンを提供する金融機関(貸し手)は、経済的な利益を得ながら、社会的な役割を果たすことができます。

1. ESG金融としての融資

  • 環境・社会面で持続可能な経済活動へ積極的に資金を供給・支援していることをアピールでき、社会的な支持の獲得につながります。

2. 経済的利益と環境・社会面からのメリットの両立

  • 融資による利益を得ながら、資金供給を通じて持続可能な社会の実現に貢献できます。

3. 借り手のサステナビリティ・パフォーマンス向上の動機付け

  • 融資を通じて、借り手が貸出期間にわたって自社のサステナビリティ経営を高度化するよう動機付け、持続可能な社会の実現に貢献できます。

4. 借り手とのサステナビリティに関する深い対話(エンゲージメント)

  • SPTsやサステナビリティ目標について借り手と深く対話することで、借り手のニーズに合ったソリューションを提供し、多層的な関係構築や新たなビジネス機会の獲得に繋げることができます。

環境・社会面からのメリット:持続可能な社会の実現

サステナビリティ・リンク・ローンの普及は、個別の企業や金融機関の枠を超えて、社会全体の持続可能性に貢献します。

1. 地球環境の保全への貢献

  • SLLの普及により、借り手におけるサステナビリティ経営の高度化・維持への動機が内部化され、環境面で持続可能な経済活動に関する事業への民間資金の導入が拡大します。これは、温室効果ガスの削減や自然資本の劣化防止に資します。

2. サステナビリティ・リンク・ローンを行う金融機関に預託する個人の啓発

  • SLLの普及は預金者への啓発につながり、個人の資産を受託する金融機関がより積極的にSLLを行うことへの動機付けになります。

3. サステナビリティ・リンク・ローン推進を通じた社会・経済問題の解決への貢献

  • 持続可能な社会の形成に資する経済活動に関する事業の推進が促され、エネルギーコストの低減、地域活性化、災害時のレジリエンス(強靭性)向上など、社会・経済問題の解決に貢献します。

サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)の国内事例

導入事例から学ぶサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)の活用

企業のサステナビリティ経営を加速させる金融手法として注目されているサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)。その具体的な活用方法や目標設定の考え方は、企業の業種や規模によって様々です。ここでは、環境省によるグリーンファイナンスポータルに記載された事例を通して、SLLの多様な側面を見ていきましょう。

引用 環境省「グリーンファイナンスポータル」
https://greenfinanceportal.env.go.jp/loan/sll_issuance_data/sll_issuance_list.html

事例1:TAIHOホームと四国銀行

【概要】

  • 業種: 不動産・建設
  • 貸付人: 四国銀行
  • KPI: ZEH(ゼッチ)水準住宅の受託率
  • SPTs:
    • 2025年度:98%
    • 2026年度:99%
    • 2027年度以降:100%を維持
  • 特徴:
  • 明確な定量的目標
    住宅のZEH化という、環境に直接的に貢献する具体的な目標を設定。各年度の目標値を細かく設定することで、進捗管理がしやすくなっています。
  • 達成時の金利優遇
    各年度の目標を達成した場合、金利が引き下げられる仕組みです。達成インセンティブが明確に設定されています。
  • 透明性の確保
    SPTsの達成状況を確認出来る資料を書面にて年1回、毎年3月末日までに貸付人に提出。さらにレポーティング内容を年1回、貸付人(四国銀行)のウェブサイトで公表することになっており、第三者への情報開示を通じて企業のサステナビリティへのコミットメントを明確に示しています。

この事例は、自社の本業と直結したKPIを設定し、環境貢献という具体的な成果を追求するSLLの好例と言えるでしょう。

事例2:きうち牧場と千葉銀行

【概要】

  • 業種: 農業・林業・漁業
  • 貸付人: 千葉銀行
  • KPI: 売上高1億円当たりの二酸化炭素排出量の削減率
  • SPTs: 2033年度までに2023年度比で▲27.0%削減(各年度の目標値を設定)
  • 特徴:
  • 長期的な目標設定
    2033年度までの約10年間にわたる長期的な目標を設定している点が特徴です。CO2排出量削減という、継続的な取り組みが必要なテーマに対して、段階的な目標を設けています。
  • 金利の上下変動
    目標達成状況に応じて金利が引き下げられるだけでなく、達成できなかった場合は金利が引き上げられる可能性があります。これにより、企業のコミットメントをより強固なものにしています。
  • 非公開のレポーティング
    TAIHOホームの事例とは異なり、レポーティング内容は公開しない方針です。これは、企業の競争戦略や機密情報保護の観点から、貸付人との間でのみ情報を共有する選択をした事例と言えます。

事例3:マイナビブリッジと七十七銀行

【概要】

  • 業種: 金融
  • 貸付人: 七十七銀行
  • KPIs:
  • ① 有給休暇取得率
  • ② 女性管理職割合
  • SPTs:
  • ① 2028年9月期までに80%以上にする
  • ② 2028年9月期までに25%以上にする
  • 特徴:
  • 社会的な課題をKPIに設定
    環境分野だけでなく、働き方改革やダイバーシティといった社会的な側面の課題をKPIに設定している点が特徴です。これは、SLLがESGの「E」(環境)だけでなく「S」(社会)にも焦点を当てられることを示しています。
  • 金利の上下変動と非累積設計
    SPTs達成時には金利が引き下げられ、未達成時には同水準だけ金利が引き上げられます。さらに、一度引き下げられた金利は累積しない設計となっており、毎期ごとの目標達成へのインセンティブを維持する工夫が見られます。
  • レポーティングの柔軟性
    レポーティング内容の公表は企業の任意となっており、企業の判断に委ねることで、外部開示のメリットとデメリットを考慮した柔軟な対応を可能にしています。

まとめ

ここまで見てきたように、サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)は、企業のサステナビリティへの取り組みを資金調達に直接結びつける、革新的な金融手法です。従来の資金使途が限定されるローンとは異なり、企業の経営目標と密接に連動したKPIs(重要業績評価指標)とSPTs(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)を設定することで、事業活動全体をサステナブルな方向へと導くことができます。

本記事で見てきた事例からもわかるように、その活用範囲は環境分野にとどまらず、社会的な課題にも広がっています。

SLLの導入は、金利優遇による経済的メリットだけでなく、ESG経営を加速させ、企業価値を高める重要な一歩となります。自社の強みや社会的な役割を再認識し、持続可能な成長と社会貢献を両立させるための新たな選択肢として、SLLの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

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