CO2削減対策の新たな選択肢「ブルーカーボン」について徹底解説!

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、日本でも政府や企業が脱炭素に向けた取り組みを加速させています。脱炭素においては、CO2排出量そのものを削減する取り組みに加え、排出削減だけでは対応しきれない残余排出を見据え、既に大気中に存在するCO2を回収・除去する技術の重要性が高まっています。
こうした大気中CO2除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)技術には、BECCSやDACCSなどがあり、近年ではMicrosoft社のように、カーボンネガティブの達成を目標に掲げる企業も現れています。
本コンテンツでは、こうしたネガティブ・エミッションの取り組みの一つとして注目されるブルーカーボンを取り上げます。ただし、ブルーカーボンの定義には幅があり、すべての海藻や海洋植物が対象となるわけではありません。
そこで、本コンテンツを通じてブルーカーボンへの理解を深め、自社の温室効果ガス対策にどのように活用できるかを検討いただく機会としていただければ幸いです。
参照 Microsoft社
https://www.microsoft.com/en-us/corporate-responsibility/sustainability/carbon-removal-program
目次
ブルーカーボンとは
沿岸・海洋生態系が光合成によりCO₂を取り込み、その後海底や深海に蓄積される炭素のことを、ブルーカーボンと呼びます。2009年に公表された国連環境計画(UNEP)の報告書「Blue Carbon」において紹介され、吸収源対策の新しい選択肢として世界的に注目が集まるようになりました。ブルーカーボンの主要な吸収源としては、藻場(海草・海藻)や塩性湿地・干潟、マングローブ林があげられ、これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれています。
また、地球上で生物が吸収する炭素のうち、55%は海洋生物が担っています。特に注目すべきは、海洋面積のわずか0.5%以下に過ぎない沿岸域が、海洋全体のCO2貯留ポテンシャルの80%近くを占めるという事実です。さらに、沿岸生態系の面積当たりのCO2の吸収速度は、森林生態系に比べて5~10倍も高く、このような地球上で最も高い生産性が、ブルーカーボンが注目されている理由の一つです。

引用 環境省 「ブルーカーボンとは」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/blue-carbon-jp/about.html
ブルーカーボンの種類と吸収のメカニズムについて
ブルーカーボンを隔離・貯留する海洋生態系として、海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林が挙げられており、これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれています。それぞれの生態系の特徴は、以下のようになっています。
ブルーカーボンの種類
1. 海草藻場
海草は種子植物で、砂泥質の海底に育ちます。海草や海藻がしげる場所を「藻場」といいますが、海草の代表種であるアマモ類の藻場は、とくに「アマモ場」と呼ばれます。
海草や、その葉に付着する微細な藻類は、光合成でCO2を吸収して成長し、炭素を隔離します。また、海草の藻場の海底には有機物が堆積し、「ブルーカーボン」としての巨大な炭素貯留庫になっています。密生する海草が水流を弱めて浮遊物をこしとり、網の目のように張った地下茎が底質を安定させているためです。
瀬戸内海の海底の調査では、3千年前の層からもアマモ由来の炭素が見つかり、アマモ場が数千年単位で炭素を閉じ込めていることが分っています。
2. 海藻藻場
海藻も日光で光合成をし、CO2を吸収する植物です。日本には、ガラモ場(ホンダワラ類)、コンブ場(寒流系のコンブ)、アラメ・カジメ場(暖流系のコンブ類)などの海藻の藻場があります。
海藻は、ちぎれると海面を漂う「流れ藻」になります。根から栄養をとらない海藻は、ちぎれてもすぐには枯れません。とくに葉に気泡があるホンダワラ類は遠く沖合まで漂流し、やがて寿命を終えて深い海に沈み堆積。深海の海底に貯留された海藻由来の炭素も「ブルーカーボン」です。
3. 塩性湿地・干潟
湿地・干潟には、河川から栄養塩が流れ込むうえ、千出により日光や酸素も豊富に存在します。ヨシや塩生植物がしげり、光合成によってCO2を吸収します。
また、塩生植物、海水中や地表の微細な藻類を基盤に、食物連鎖でつながる多様な生き物がいます。その体を構成するのも炭素です。そして、植物や動物の遺骸は海底に溜まっていき、「ブルーカーボン」として炭素を貯留しています。
4. マングローブ林
マングローブは、熱帯・亜熱帯の河口など潮間帯に育つ掛木です。日本には7種があり、鹿児島県と沖縄県の沿岸に分布しています。
マングローブ林は、成長とともに木として炭素を貯留するうえ、海底の泥の中には枯れた枝や根を含む有機物が堆積し、炭素を貯留しつづけます。
参照国土交通省 P.5
https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001742416.pdf
ブルーカーボンのメカニズム
ブルーカーボン生態系は、海中に溶けているCO2を光合成によって吸収し、主に次に示す4つのプロセスにより有機炭素を隔離・貯留します。その結果として海中のCO2濃度が減り、大気中のCO2の吸収を促進することで大気中のCO2の減少に寄与します。なお、マングローブ林や湿地など陸上植生では、直接大気中のCO2を吸収することができます。
1. 堆積貯留
枯れた海草・海藻が藻場内の海底に堆積し、⻑期間貯留される。
2. 難分解貯留
枯れた海草・海藻,その細分化された破⽚が流出し,⻑期間CO2に戻らない難分解性の細⽚(粒⼦状)となり,藻場外の沿岸域に堆積して⻑期間貯留される。
3. 深海貯留
波浪などでちぎれた海草・海藻が流れ藻となって沖合に流出し、浮⼒を失って深海へ沈降し⻑期間貯留される。
4. RDOC貯留*
海草・海藻が放出する難分解性の溶存態有機炭素が⻑期間にわたり海⽔中に貯留される。
*難分解性溶存態有機炭素(Refractory Dissolved Organic Carbon)の頭⽂字からRDOCと呼びます。
国⽴研究開発法⼈ ⽔産研究・教育機構 海草・海藻藻場のCO2貯留量 算定ガイドブック
https://www.fra.go.jp/gijutsu/project/files/bluecarbon_guidebook2023.pdf
今後期待されるブルーカーボンのメリットについて
メリット
- CO₂吸収・固定機能
ブルーカーボン生態系は、光合成によって大気中のCO₂を吸収し、炭素として海中の堆積物などに長期間固定する能力を持ちます。沿岸域は、海洋全体のCO₂貯留ポテンシャルの約80%近くを占めるとされ、面積当たりのCO₂吸収速度は森林生態系に比べて5~10倍も高いと言われています。
- 多面的な価値と副次的効果(コベネフィット)
水産資源の活性化:藻場や干潟は「海のゆりかご」とも呼ばれ、多くの海洋生物にとって産卵場所や稚魚の成育場所となります。これにより、水産資源の保全と回復に貢献します。
水質浄化機能: 生態系が持つ自然の浄化作用により、海水の水質が改善されます。
生物多様性の保全: 多くの生物の生息地となるため、生物多様性の維持に不可欠な役割を果たします。
地域活性化: 漁業・観光・教育・レジャーの場を提供し、地域経済の発展にもつながります。
- カーボンクレジット制度の活用
藻場や干潟の保全・創出活動によって創出されたCO₂吸収量を評価し、Jブルークレジットなどのカーボンクレジットとして売買する仕組みが構築されています。これにより、企業や自治体が環境活動への資金を調達する新たな手段となり、持続的な保全活動の推進が期待されます。これについては、最新の動向について次に章で深く触れていきます。
参照 ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)
https://www.blueeconomy.jp/credit/
ブルーカーボンのクレジット化について
2024年4月、GXリーグ事務局が「GX-ETSにおける適格カーボン・クレジットの活用に関するガイドライン」を策定しました。このガイドラインでは、炭素除去・吸収型のクレジットとして、沿岸ブルーカーボン(海草・海藻藻場など海洋生態系のCO2吸収・貯留プロジェクト)が、DACCS、BECCS、CCU(炭素回収・利用)と並んで適格方法論として整理されました。将来的なNDC(国が決定する貢献)への貢献が期待される分野として、これら4分野(CCU、沿岸ブルーカーボン、BECCS、DACCS)が優先的に位置づけられています。
Jブルークレジットの最新の動向
Jブルークレジット(ジャパンブルーエコノミー技術研究組合が管理・運営)は、2025年10月に認証・発行済みのJブルークレジットがGX-ETS第1フェーズで利用可能な適格カーボン・クレジットとして正式承認されました。
参照 ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE) プレスリリース
https://www.blueeconomy.jp/wp-content/uploads/press/20241016JBE-press.pdf
登録状況(2026年3月時点)
GXリーグの公式リストに、Jブルークレジット由来のプロジェクトが多数登録されており、ほとんどがブルーカーボン関連(海藻・海草藻場、海洋生態系保全)となっています。
主な例
- 志津川湾ネイチャーポジティブな養殖とまなびの場創出プロジェクト(ブルーカーボン、養殖連携)。
- J-Power若松総合事業所周辺護岸に設置したブロックによる藻場造成プロジェクト(海藻藻場造成)。
- 姫路市網干地区におけるカルシア改質土を活用した藻場造成(海藻関連)。
- 「サスティナブル・アイランド奥尻」アクション 藻類によるBCプロジェクト(ブルーカーボン、海藻)。
- 熊本県芦北町アマモで魚いっぱい!夢いっぱい!ブルーカーボンプロジェクト!(海草・アマモ場)。
引用 GX-ETSにおける「その他の適格カーボン・クレジット」登録状況
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/gxl-tekikaku-cc-list250908-.pdf
政府・企業それぞれの具体的な取り組み事例について
政府の取り組み
現在、日本でも、2013年に作成されたIPCC湿地ガイドラインを踏まえつつ、ブルーカーボン生態系(マングローブ林、塩性湿地・干潟、海草藻場・海藻藻場)の排出・吸収量の算定・計上に向けた検討を進めています。2024年4月に国連へ報告した我が国の温室効果ガスインベントリでは、世界で初めて、海草藻場・海藻藻場による吸収量を合わせて算定・報告しました。
また、国土交通省では並行して、グリーンレーザー※2を搭載したドローンを含む、藻場の繁茂面積を高精度かつ効率的に把握・管理するシステムの開発を進めています。これにより、現在は捕捉できていない藻場を算定対象とすることができるようになります。
※2:水中透過性が高く、藻場の繁茂状況の計測が可能なレーザー
国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所 プレスリリース
引用「世界初!ハイブリッドドローンに搭載したグリーンレーザースキャナによる長時間の海底地形計測に成功」
https://www.pari.go.jp/PDF/ad612719f59ae6d2a563e1e7d8f343837fa4474f.pdf
企業の取り組み
実際に企業の取り組み事例を紹介します。
例1. Apple社
2018年に環境保護団体が主導するマングローブ林再生プロジェクトに資金を提供し、100万トンのCO2削減プロジェクトに参画、また2021年には、このプロジェクトから販売されたブルーカーボン・クレジットを自社で購入しています。
例2. 株式会社セブンイレブン・ジャパン
2011年より東京湾のアマモ場作りに参画、2021年には横浜港が発行するJブルークレジットを購入し、藻場作りの活性化に取り組んでいます。
参照 セブンイレブン
https://www.7andi.com/company/news/release/202103181500.html
例3. 日本製鉄株式会社
鉄鋼スラグ利用の技術を応用させてブルーカーボンの評価の研究をしています。具体的には、鉄鋼スラグを利用して藻場などを作り、二酸化炭素の固定量を評価する取り組みとなっています。
参照 日本製鉄株式会社
https://www.nipponsteel.com/sustainability/env/climate/future.html
まとめ
本コンテンツでは、世界全体で2億8千万t-CO2弱の気候変動を緩和するポテンシャルがある、と言われているブルーカーボンについて、関係各所の具体的な取り組み等を用いてご紹介させていただきました。ブルーカーボンは今後期待される気候変動対策の一つであるとともに、まだまだ算定に直接活用できる統計情報がないことや、海草・海藻の計算方法においても国際的に認められるようなロジック・エビデンスが不足している点等、課題も多いのが現状です。
今後もこのような生態系を守るための施策の一つとして、特に事業者間では、上述のJブルークレジットを含むカーボン・オフセット取引や環境保全活動は引き続き注目され続けることが予想されます。






