アパレル業界のSDGsの取り組みとは|持続可能なファッションの裏側
ファッション業界は今、大きな転換期を迎えています。
環境負荷の軽減とサステナブルな事業展開が、アパレル企業の重要な経営課題となっているのです。
環境に優しい素材の採用やリサイクル技術の革新、CO2削減に向けた施策など、業界全体で持続可能なファッションへの転換が進んでいます。
本コンテンツでは、アパレル業界におけるSDGsの取り組みの現状と、サステナブルファッションが切り拓く未来の可能性について、具体的な事例とともに解説していきます。
経営戦略としてのサステナビリティから、実務レベルでの課題解決まで、アパレル業界が直面する重要なテーマを深掘りしていきましょう。
目次
アパレル業界が直面するSDGsの課題とは
アパレル業界は、私たちの日常生活に欠かせない存在です。しかし、その一方で、環境や社会に与える影響が大きいことでも知られています。
- 環境負荷の削減
- 廃棄物の削減とリサイクルの促進
- サプライチェーンにおける労働環境の改善
- 再生可能な素材の利用
- 消費者行動への対応
この業界が持続可能な未来を目指す上で、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みは欠かせません。
業界が直面する主要な課題について詳しく見ていきましょう。
環境負荷の削減
アパレル産業は、年間1,500億着以上の衣類を生産し、世界の二酸化炭素排出量の10%を占める、環境負荷の高い産業となっています。
▼原材料調達から製造段階までに排出される環境負荷(服1着あたり)
CO2排出量 | 約25.5kg |
水消費量 | 約2,300ℓ |
この環境負荷の問題に対して、世界中のアパレル企業が革新的な取り組みを始めています。
- 水使用量の削減
- エアロダイイング技術の導入(従来比95%の水使用量削減)
- 雨水収集システムの活用
- 排水の100%リサイクル化
- CO2排出量の削減
- 太陽光発電パネルの工場への設置
- 物流の効率化(AI活用による最適ルート選定)
- 環境配慮型素材への切り替え
- 化学物質使用の最適化
- 有機染料への切り替え
- バイオ技術を活用した新染色方法の開発
- 環境認証を受けた材料の使用
企業が環境負荷を削減する努力を示すことは、消費者からの信頼にもつながるでしょう。
廃棄物の削減とリサイクルの促進
大量生産・大量消費のファッションモデルは、多くの衣服廃棄物を生み出しています。
衣服廃棄物の現状(2020年)
国内の新規供給量:81.9万トン | ||
使用後の手放される量78.7万トン | ||
廃棄される量 | 51万トン(手放される衣類の64.8%) | |
リサイクルされる量 | 12.3万トン(手放される衣類の15.6%) | |
リユースされる量 | 15.4万トン(手放される衣類の19.6%) |
廃棄物削減のためには、リサイクル技術の活用が不可欠です。
- デザインフェーズでの対策
- モノマテリアル設計(単一素材での製品作り)
- 解体しやすい縫製方法の採用
- リサイクル素材の積極活用
- 生産プロセスの改善
- AI需要予測による適正生産
- 3Dサンプル活用による廃棄削減
- デッドストック活用プログラム
- 回収・リサイクルの新システム
- ブロックチェーンを活用した回収追跡
- ケミカルリサイクル技術の導入
- 店頭回収プログラムのデジタル化
古着の回収システムの整備や、リサイクル技術の革新、そのほかデザイン段階からリサイクルを考慮した製品開発も始まっています。
サプライチェーンにおける労働環境の改善
アパレル業界のサプライチェーンには、低賃金や劣悪な労働環境といった問題が存在します。
- 平均労働時間:週60時間以上
- 最低賃金未満の労働者:全体の40%
- 労働災害発生率:一般産業の3倍
- 児童労働者数:推定15万人以上
これを解決するためには、労働者の権利を尊重する仕組みづくりが求められます。
課題 | 解決策 |
低賃金 | 生活賃金の保証制度 |
長時間労働 | AIによる工程最適化 |
安全衛生 | IoTセンサーによる環境監視 |
児童労働 | ブロックチェーン認証 |
このように、テクノロジーと人権尊重の視点を組み合わせることで、より公正で持続可能なサプライチェーンの構築が進められています。
公正な労働環境の実現は、持続可能なファッション産業の基盤となるのです。
これらの取り組みは、企業の社会的責任として重要な位置を占めています。
透明性の高いサプライチェーン管理と、継続的なモニタリングが不可欠と言えるでしょう。
再生可能な素材の利用
環境負荷を軽減する手段として、再生可能な素材の活用が挙げられます。
- 有機コットン
- リサイクルポリエステル
- 新素材の開発
こうした取り組みには、企業にとって環境負荷の削減以外にもさまざまなメリットがあります。
- 環境負荷の大幅削減
- ブランド価値の向上
- 新規市場の開拓
- 規制リスクの回避
製品の付加価値を高める要因にもなります。革新的な素材開発は、環境保護とファッションの両立を可能にする鍵となっていくでしょう。
消費者行動への対応
世界のサステナブルファッションの市場規模は2023 年に 84 億 万ドルであり、これからさらに広がっていくことが予想されています。
この劇的な消費者意識の変化は、ファッション業界に新たなビジネスチャンスをもたらしています。
▼消費者の価値観の変化
項目 | 従来の価値観 | 新しい価値観 |
購買基準 | 価格・デザイン重視 | 環境影響・倫理性重視 |
使用期間 | 短期・使い捨て | 長期・修理して使用 |
情報収集 | 店頭・広告 | SNS・環境認証 |
所有形態 | 購入が基本 | シェア・レンタル活用 |
▼これからのファッションビジネスへの提案
- 環境価値の定量化と開示
- 消費者教育プログラムの実施
- コミュニティ形成の支援
- 双方向コミュニケーションの強化
このように、消費者の価値観の変化は、ファッション業界に持続可能な新しいビジネスモデルの創出を促しています。
しかし環境配慮型製品は従来品と比べてコストが高くなる傾向があり、価格設定が課題です。
消費者への適切な情報提供と、環境価値の理解促進が重要となっています。
アパレル業界に関連するSDGsゴール
SDGsゴールとは、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の具体的な目標のことです。
これは、国連が2015年に採択した17の目標と169のターゲットで構成され、2030年までに達成することを目指しています。
SDGsゴールは、地球規模の課題に取り組むための指針であり、環境問題、社会的格差、経済的発展など幅広い分野をカバー。アパレル業界に関連する以下のようなゴールがあります。
- ゴール10「人や国の不平等をなくそう」:労働環境の公平性やサプライチェーン全体の改善。
- ゴール12「つくる責任つかう責任」:持続可能な生産と消費の実現。
- ゴール13「気候変動に具体的な対策を」:気候変動の影響を緩和する取り組み。
これらのゴールは、政府や企業、個人が協力して達成することが求められます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
ゴール10「人や国の不平等をなくそう」に対する取り組み
▼具体的な取り組み
- 公正な賃金の支払い
- 労働時間の改善
- 職場の安全性向上 アパレル業界のサプライチェーンでは、低賃金や劣悪な労働環境が問題となっています。
生産拠点となる発展途上国の労働者の権利を守り、公正な待遇を実現することが重要な課題です。
多くの企業が、現地工場での最低賃金の保証や、労働時間の適正化に取り組んでいます。
また、女性労働者の能力開発支援や、障がい者雇用の促進なども進められています。
ゴール12「つくる責任つかう責任」に対する取り組み
▼具体的な取り組み
- 使用済み衣服の回収プログラム
- リペアサービス
- 古着の買取
- 耐久性の高い製品設計
大量生産・大量消費のファッションモデルは、資源の浪費や廃棄物の増加を引き起こしています。この課題に対処するため、アパレル業界では持続可能な素材の採用やリサイクル技術の活用が進められています。
消費者の行動変容につながる持続可能な生産方法の採用と、消費者への啓発活動が行われているのです。
ゴール13「気候変動に具体的な対策を」に対する取り組み
▼具体的な取り組み
- 生産工程でのエネルギー効率の改善
- 輸送プロセスの最適化
- 生分解性素材の開発
- リサイクルポリエステルの使用
ファッション産業は、二酸化炭素排出量が非常に多い業界の一つです。気候変動への対策として、再生可能エネルギーの利用やカーボンフットプリントの削減が進められています。
また、商品の生産から廃棄までのライフサイクル全体での環境影響評価も重要視されています。
国内外のアパレル企業に学ぶSDGs対策
アパレル業界では、多くの企業がSDGsの達成に向けて独自の取り組みを展開しています。
ここでは、特に注目すべき企業の具体的な事例を紹介していきます。
UNIQLO(ユニクロ)
ユニクロは、サステナビリティに力を入れている日本の代表的な企業です。同社はリサイクルプログラム「リユース&リサイクル」を実施し、回収した衣服を再利用する仕組みを構築。
また、再生ポリエステルの活用や、環境配慮型の包装材への切り替えも進めています。
そのほか、難民支援プロジェクトなど労働環境の改善にも力を入れているブランドです。
無印良品
無印良品は、シンプルで環境に配慮した製品づくりにより、廃棄物を減らす商品設計を取り入れています。
また、オーガニックコットンの使用率を年々高め、2030年までに100%達成するのが目標。
店舗では使用済み製品の回収や、リサイクル素材を使った新商品開発を行うなど、循環型社会の実現へ積極的な取り組みを行っています。
また、包装材の簡素化や、リユース可能な買い物袋の導入も特徴的です。
URBAN RESEARCH(アーバンリサーチ)
アーバンリサーチは、地域社会や環境への貢献を重視する企業です。具体的には、地元の素材を活用した商品開発や、再生可能エネルギーを使用した店舗運営を進めています。
デッドストックを活用したアップサイクル商品の開発や、フリーマーケットも実施。
環境配慮型素材の研究開発にも積極的に投資しています。
Stella McCartney(ステラマッカートニー)
ステラマッカートニーは、環境負荷を最小限に抑える取り組みをリードしているラグジュアリーブランド。
動物由来の素材を使用せず、リサイクル素材や生分解性素材を採用しています。
再生素材の活用や、革の代替素材の開発など、環境配慮型の素材開発をリードしています。
サステナビリティレポートの透明性の高さでも業界から評価を得ています。
Burberry(バーバーリー)
バーバリーは、ラグジュアリーブランドの中でも特に持続可能性に注力しています。
同社は、二酸化炭素排出量削減を目標に掲げ、再生可能エネルギーを工場で使用。 2025年までにカーボンニュートラル達成を目指し、再生可能エネルギーへの転換を進めています。
デジタル技術を活用した商品開発により、サンプル製作時の廃棄物削減に成功しています。
サプライチェーン全体でのトレーサビリティ確保にも注力しています。
Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)
ルイ・ヴィトンは、製品の高品質を維持しつつ、環境に優しい素材の採用を進めています。
また、製品の耐久性を高めることで、長く使えるデザインを提供し、消費者にとっても持続可能な選択肢を提供。
製品の修理サービスの充実化により、長期使用を促進しています。
また、包装材の100%環境配慮型への切り替えも実施中です。
アパレル業界のSDGs実現に向けた具体的アプローチ
アパレル業界では、SDGsの実現に向けてさまざまな取り組みが進められています。
ここでは、具体的なアプローチ方法と、その成果について解説していきます。
環境負荷の軽減
▼具体的なアプローチ
- 再生可能エネルギーの導入
- 製造プロセスの改善
- リサイクル素材の活用
- 包装材の削減
- 物流改革
製品の製造工程での水使用量を削減するため、新しい染色技術の導入が進んでいます。
また、太陽光発電の活用や、エネルギー効率の高い設備への切り替えも環境負荷の軽減につながる大きな取り組みです。
包装材の削減や、物流改革もCO2削減に役立っています。
労働環境とエシカルなサプライチェーンの構築
▼具体的なアプローチ
- 公正な賃金の支払い
- 労働環境の安全性向上
- 認証制度の活用
生産工場での労働環境改善のため、定期的な監査と改善プログラムを実施。
適正な賃金の支払いや、労働時間の管理、安全衛生基準の遵守が徹底されています。
また、現地コミュニティとの対話を通じた持続可能な関係づくりが進められています。
消費者行動の変革
▼具体的なアプローチ
- 情報発信
- レンタルサービス
- リペアサービス
環境に配慮した商品選びができるよう、製品の環境負荷情報を積極的に開示。
古着の回収プログラムや、リペアサービスの提供により、長く使い続ける文化を育てています。
サステナブルファッションに関する消費者教育も重要な取り組みのひとつです。
イノベーションと技術の活用
▼具体的なアプローチ
- AIやIoTを活用した需要予測
- 3Dプリンティングの活用
- リサイクル技術の向上
リサイクル繊維の品質向上や、新素材の開発に向けた研究が活発化しており、環境負荷を軽減につながっています。
3Dプリンティング技術の活用やAIによる需要予測の精度の向上は、廃棄物の削減に大いに貢献。
さらに、ブロックチェーン技術を用いたサプライチェーンの透明性確保も試みられています。
政策提言と業界団体との協力
▼具体的なアプローチ
- 政府や業界団体と連携
- 国際的なイニシアチブへの参加
業界全体でのサステナビリティ基準の策定や、共通の目標設定が進められています。
環境規制への対応や、新たな施策の提案など、政府との対話も活発に実施。
また、NGOと協力した環境保護活動や、教育プログラムの実施も増えています。
これからのファッションビジネスの展望
アパレル業界は、環境や社会に配慮した新しいビジネスモデルへと進化を遂げています。
今後は、より一層サステナビリティを重視した経営が求められるでしょう。
持続可能な経営モデルへの転換
従来の大量生産・大量消費型のビジネスモデルから、環境に配慮した循環型モデルへの移行が進んでいます。
リース・シェアリングサービスの展開や、オンデマンド生産の導入により、在庫リスクの低減と環境負荷の軽減を同時に実現する企業も増えていくでしょう。
これらは、消費者の需要を満たしながら環境負荷を軽減する取り組みとして広まっていくことが予想されます。
デジタル技術がもたらす変革
デジタル技術は、ファッション業界においても大きな変革をもたらしています。
3Dデザインツール | サンプル制作時の廃棄物が大幅に削減 |
バーチャルフィッティング | オンラインショッピングでの無駄な返品を減らす |
AI | 需要予測により適正な生産量の管理 |
ブロックチェーン技術 | 適正な生産量の管理 |
消費者と共に創るサステナブルな未来
持続可能なファッションの実現には、消費者の協力が欠かせません。 企業は、消費者教育を通じて環境や社会に配慮した選択を促しています。また、製品のメンテナンスやリサイクル方法を提供することで、消費者が持続可能な生活を送る手助けをしているのです。
消費者との対話を通じて、より持続可能な商品開発やサービス提供を目指す企業が増えています。
消費者と企業が共に持続可能なファッションの未来を築いていく時代が始まっているのです。
まとめ
アパレル業界がSDGsを達成するには、多くの課題に対する包括的なアプローチが必要です。
環境負荷の軽減、労働環境の改善、消費者行動の変革、そして技術革新がその鍵となります。
企業と消費者が協力し合い、新しい価値観を共有することで、持続可能なファッションビジネスの未来が切り開かれるでしょう。