カーボンオフセット取引とは|種類や取引の流れまでわかりやすく解説

基礎知識

脱炭素の取り組みである「カーボンオフセット取引」のニーズは高く、すでに取引先から要請を受けている企業も多いと思います。

しかし、そもそも「カーボンオフセット取引」がよくわからず、どのように対応していいのか悩んでいる事業者がほとんどではないでしょうか。

本記事では「カーボンオフセット取引」について、基礎知識から取引を導入するには何から始めれば良いのかまで、わかりやすい視点で解説します。

カーボンオフセット取引とはCO2排出量の過不足分を売買して相殺すること

まずはカーボンオフセットの言葉の意味や、カーボンオフセット取引について解説します。

カーボンオフセットとは

カーボンオフセット(carbon offset)とは、直訳するとカーボンは“炭素”、オフセットは“相殺・埋め合わせ”。つまり排出することが避けらない温室効果ガス=“炭素を埋めあわせる”という意味です。

温室効果ガスは人間の暮らしや経済活動からも大量に排出されます。そのため、それらの活動からできるだけ温室効果ガス排出を削減する努力を行います。しかし、どうしても削減できなかった分を、削減・吸収のための森林保護や環境活動に取り組むこと他社より削減分を購入して埋め合わせます。このような取り組みや考え方がカーボンオフセットです。

カーボンオフセット取引とは

カーボンオフセットの言葉の意味が理解できたところで、カーボンオフセット取引について以下にわかりやすく解説します。なお、温室効果ガスのほとんどを占めるのがCO2(二酸化炭素)のため、カーボンオフセットの取引は、CO2排出量の取引と考えて問題ありません。

1.企業として目的を明確化しCO2(カーボン)の削減活動に取り組む
2.しかし、どうしても削減できないCO2が出た場合、環境活動への投資、植林、排出権の購入などを行い、間接的に削減して埋め合わせ(オフセット)する
3.これらの売買取引を「カーボンオフセット取引」と呼ぶ
4.オフセット方法は基本的にクレジットを調達(購入)することによって成立する

カーボンオフセット宣言について

「カーボンオフセット宣言」とは、環境省がHP上に設置しているカーボンオフセットの取組に対する情報公開のことです。「カーボンオフセット宣言」の仕組みを用いて、情報提供する場合は環境省のガイドラインに即する必要があります。ガイドラインに即した取組であることを宣言することで、責任感と透明性の高さを社会にアピールできます。

「オフセット取引」と「排出権取引」の違いは自主的か義務的か

カーボンオフセットと共によく耳にする排出権取引は、オフセット取引とは何が違うのでしょうか。それぞれを解説しますので違いについて理解しましょう。

排出権取引とは

排出権取引は「キャップ・アンド・トレード方式」とも呼ばれます。企業は国が策定したCO2排出枠に対して削減する努力を行い、「排出枠」の上限を超えた場合は排出枠を下回る他企業から超過分を購入しなくてはなりません。ペナルティの発生する「義務的」な取引制度と言えます。

オフセット取引との違い

オフセット取引は、自社でCO2削減努力を行ったうえで、削減が難しい分を他から補う「自主的」なCO2削減方法です。つまりカーボンオフセット取引と排出権取引との大きな違いは、「政府が企業に対して認めた温室効果ガス排出量を割当量として取引している」という点にあります。

企業がカーボンオフセット取引を進める流れ

企業がカーボンオフセット取引を導入した場合、どのように進めていけばいいかの具体的に流れをご紹介します。

STEP1:社内で体制を整える

まずはカーボンオフセットを行う目的を定め、予算や担当者を決めて管理体制をつくることが必要です。特に目的の明確化は重要で、「取引先に言われたから」「同業者が環境問題に取り組んでいるから」等の消極的な考え方では、効果的なカーボンオフセット取引はできません。

例えば、次のような目的を持つことで、自社にとって有効なカーボンオフセット取引の体制が見えてくるでしょう。

● 社会に貢献する企業としてCO2 排出に責任を持ちCSR の一環として取り組む、
● カーボンオフセットを行うことで世界の温室効果ガス低減に貢献する
● 商品やサービスにオフセット価値を付与し差別化することで企業のブランドを図る

STEP2:現状のCO2排出量を調査し把握する

次に自社のオフセット(埋め合わせ)の対象となるCO2排出量を調査し、把握する必要があります。流れとしては次のようになります。

1.排出活動の把握
2.算定対象の範囲の決定
3.算定ツール活用でCO2排出量を算出する

CO2排出の算定対象は、製品やサービスの場合にはライフサイクル全体、企業活動においてはサプライチェーンやバリューチェーンまで考慮して具体的に把握し決定することが重要です。

CO2の排出は、エネルギー利用以外にも水の使用や廃棄物の排出・処理などさまざまであり、間接的・直接的に発生します。さらに業種によっては特有の排出活動も存在するため、CO2の算定には専門的な知識が必要です。

以下のようなツールを使用して排出量を算定することがおすすめです。
   
CO2排出量算定ツール「CARBONIX」
  

STEP3:CO2排出量の削減を進める

自社のCO2排出活動と排出量を把握したら排出削減の取り組みを推進します。カーボンオフセットの対象によって取り組み方法は多義に及ぶため、以下に排出削減取り組みの例をまとめました。自社取り組みの参考としてください。

● 自社全体のCO2排出量の削減目標となる基準を策定する
● 社内設備に対しての省エネ化やコピー用紙等のリサイクルの実施、リサイクル用品の活用、公共交通機関の利用推進活動等
● 自社や取引先での再生可能エネルギー由来電力の調達と活用
● サプライチェーンやバリューチェーンにおける環境負荷の低減
● 製品のライフサイクル全体から排出されるCO2排出量の削減
● 環境ラベルの取得やライフサイクル手法への取り組み計画
● 環境保護活動の実施

STEP4:CO2排出量を削減できない部分をオフセットする

カーボンオフセット取引は、上記のような削減努力を行ったうえで、できなかった分を埋めあわせ(オフセット)することが必要です。主にクレジット購入・無効化でオフセットを行います。

クレジットとは、再生可能エネルギーの利用や森林保護活動によるCO2削減・吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。クレジットの調達はオフセットする量に応じます。国内のクレジット種類は主に次の2つになります。

【J-クレジット】
J-クレジットは、国が運営している国内クレジット制度とオフセット・クレジット(J-VER)制度を統合したものになります。J-クレジットの特徴は、経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成など、さまざまな用途に活用できることです。

【地域版Jークレジット制度】
各自治体、地方公共団体はJ-クレジット制度に則り、CO2排出削減・吸収量をクレジットとして認証する「地域版J-クレジット制度」を運営できます。地域版J-クレジット制度は、国が認証したJ-クレジットと同様に活用が可能です。

STEP5:情報を公開する

自社のカーボンオフセット取り組みを広く消費者に知らせるためには、信頼性が高くわかりやすい情報を伝える必要があります。そのため、カーボンオフセットは関連法に遵守した以下の内容の情報提供が必須です。

情報提供項目一覧
全般● カーボンオフセットの対象活動の内容
● オフセット主体
排出量の認識● カーボンオフセットの対象とする活動の範囲
● 対象活動内の温室効果ガス排出源
● 算定対象範囲
● 算定方法(算定式及び算定方法の根拠とした文書)
● 算定排出量
排出削減・埋め合わせ● 温室効果ガス排出削減の取組内容
● 温室効果ガス排出削減を促す取組
● オフセット量又は算定排出量に対するオフセット比率
● クレジットを認証した認証制度名とクレジットの種類
● クレジットのプロジェクト名(プロジェクト実施国・実施地域等の属地的情報を含む)
● クレジットのプロジェクトタイプ(風力発電、木質バイオマス燃料転換、森林管理等)
● クレジットの無効化(予定)日・無効化方法
その他必要事項● 商品・サービス、又は会議・イベントのチケット等の販売価格
● 消費者の価格負担(料金への上乗せ)の有無
● その他支払いに関する事項(申込みの有効期限、不良品のキャンセル対応、販売
● 数量、引渡し時期、送料、支払い方法、返品期限、返品送料等)
● 販売事業者情報(販売事業者名、運営統括責任者名、連絡先(所在地、電話番号、e-mail)、ウェブサイトリンク先)

引用:資源エネルギー庁「カーボン・オフセットガイドラインVer.2.0」

カーボンオフセット取引の種類は5つ

カーボンオフセット取引には次の5つの種類があります。それぞれの取り組み方法を解説していきます。

1.オフセット製品・サービス
2.会議やイベントによるオフセット
3.自己活動オフセット
4.クレジット付製品・サービス
5.寄付型オフセット

オフセット製品・サービス

製品やサービスの提供者が、製品・サービスのライフサイクルを通じて排出されるCO2排出量をオフセットする取り組み方法です。ライフサイクルとは製品の資源調達から製造、販売、輸送、廃棄からリサイクルまで含めた製品の一生のことです。具体的な事例は以下になります。

・商品の原料から製造、廃棄までのライフサイクル全体のCO2排出量をオフセットする
・名刺や封筒の製造過程の一部で発生したCO2排出量をオフセットする
・食パンや菓子パンの製造にかかるCO2排出量一部をオフセットする

会議やイベントによるオフセット

多くの人が集まるコンサートや大会、会議等の開催に伴って排出されるCO2排出量を、主催者や会議運営者がオフセットする方法で、具体的には以下のようなものがあります。

・会場内で電力を使用した際に排出されるCO2をできるだけオフセットしたコンサートを実施する
・イベント開催で使用する印刷物の製造から廃棄までにかかるCO2排出量をオフセットする
・大規模な国際会議や大会の移動や宿泊にかかる排出をオフセットする

自己活動オフセット

企業が自社の事業活動に伴い排出するCO2の削減をオフセットする方法です。業界によってさまざまですが、以下のような事例が該当します。

・多くの電気を使用する大規模設備のCO2排出をオフセットする
・再生可能エネルギークレジット等を活用し、環境負荷低減の推進を国際イニシアチブに報告する
・建造物建築から引き渡しまで、現場事務所で電気・ガス等の消費するエネルギーから 発生するCO2排出量をオフセットする

クレジット付製品・サービス

オフセットの対象を、製品やサービスを購入する消費者の日常生活から排出されるCO2排出量で設定するのがクレジット付製品・サービスです。製品・サービス提供者、またはイベントの主催者等が、製品・サービスやチケット等にクレジットを付し、CO2排出量を埋め合わせします。

消費者の日常生活から排出されるCO2排出量の目安は、「全国地球温暖化防止活動推進センター」が「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」から提供している「家庭からの二酸化炭素排出量」をもとに決定することが一般的です。また「カーボンオフセット宣言」では、1製品・サービスあたりに付加するクレジット量を 1kgCO2 以上とすることが決められています。

寄付型オフセット

寄付型オフセットとは、製品やサービスを提供する事業者が消費者に対し、地球温暖化防止活動貢献や資金提供等を目的として参加者を募集して、オフセットを実施するもので以下のような取り組みや特徴があります。

● 製品売り上げの一部をクレジット購入にあてる、またはキャンペーンへのアクセス数に応じてクレジットを購入する
● 消費者とコミュニケーションをとりながら多彩な方法が可能

企業でカーボンオフセット取引を進めるべき理由3つ

企業がカーボンオフセット取引を進めるべき理由には次のようなメリットが挙げられます。それぞれのメリットを詳しくご紹介しましょう。

● 企業イメージの向上が期待できるため
● 消費者や取引先に自社の商品やサービスを選んでもらうきっかけになり得るため    
● 2026年に排出権取引が本格的に始動するため

企業イメージの向上が期待できるため

SDGsへの取り組みをはじめとして消費者の環境への関心は高まっています。カーボンオフセット取引を行い、脱炭素に積極的に取り組む姿勢は、環境にやさしい経営を行っている企業として企業イメージの向上が可能です。
 

消費者や取引先に自社の商品やサービスを選んでもらうきっかけになり得るため

環境意識の高い消費者や取引先企業は、商品やサービスを選択する際に“環境に配慮されているか”を注視しています。特にz世代と言われる若年層は、環境問題への関心が高く、フェアトレード商品等を積極的に購入する傾向があります。

カーボンオフセット取引に取り組み、製品やサービスのオフセット化を行うことは、そのような環境意識の高い消費者に対して大きなアピールになります。

近年中に排出権取引が本格的に始動するため

経済産業省は開かれた審議会で、排出量を削減した分を市場で売買する「排出量取引」を2026年度に本格稼働させる計画です。排出権取引市場は政府の「グリーン成長戦略」の要ともなるため、今後拡大が予測されます。取引市場が本格化する前にカーボンオフセット取引を実施していれば、市場参入がしやすく出遅れることがありません。
 

まとめ

カーボンオフセット取引の種類や導入方法について詳しく解説しました。今後さらに脱炭素化の流れが進めば、カーボンオフセット取引の需要はますます高まります。いざというときに慌てずに対応するためにも、カーボンオフセット取引について知見を深めることが重要です。

カーボンオフセット取引を実施の際には、ぜひ、本記事を参考に自社の環境価値を向上させる有意義な導入をおこなってください。

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