気候変動対策を推進する国際組織CDPとは?わかりやすく解説し事例も紹介

基礎知識

脱炭素推進や気候変動問題が注目される中、「CDP」という言葉を聞いたことはありませんか。
CDPとは気候変動をはじめとした環境問題について、企業が取り組んでいる情報を開示するための国際的な組織です。CDPが開示する情報は、ESG投資家にとって非常に重要であり、また日本で促進されている脱炭素政策にも深く関連するものです。
企業や自治体が、気候変動や紺室効果ガス削減に対してどんな取り組みをしているのか?ということを投資家に代わって、分析、評価しています。CDPレポートは定期的に更新、開示されておりますのでぜひご確認ください。
今回はCDPとはどのようなレポートを出しているのか、どのような組織なのか、情報開示される内容は何か、そして評価方法までわかりやすく解説します。CDPについての知見を深めることが可能ですのでぜひご一読ください。

2024年3月にCDP気候変動レポート2023日本版を公開

運用資産総額136兆米ドルを超える740超の金融機関を代表して、CDP気候変動レポートを公開しています。2022年からは、気候変動に対する開示要請対象企業を、プライム市場上場企業全社1834社に拡大して質問状を送り、回答企業数は1,182社、回答率は64%でした(自主回答を含める全回答企業では1,244社が回答)

2023年は、企業で、最高位のAリストに選定された企業が102社(全回答企業においては111社)となり、Aリスト企業の比率は約9%となり前年度より2%上昇しました。また、「組織の戦略には、1.5℃の世界に整合する移行計画が含まれていますか。」との問いに対して2022年度では策定予定の企業が多かったのですが、2023年度は策定済み企業が増え、取り組みを深化させている企業は増えています。

本レポートでは、「Appendix: CDP 2023 気候変動質問書 日本企業一覧」として公開されていますので、気になる方はぜひご確認ください。参照:CDP 2023 Aリスト

CDPとは、気候変動など環境対策への姿勢を「非財務情報」として評価・開示する組織のこと

CDPについて正式名称から概要、沿革、目的まで詳しく解説していきます。

CDP概要

CDPとは「Carbon Disclosure Project」の略であり、イギリスで設立されたNGO組織の名称です。世界の大手企業を対象に、気候変動をはじめとした環境への対策についての情報を質問書というかたちで集め評価し、その情報結果を開示しています。CDPによる評価は、財務情報と同時に非財務情報として金融機関や投資家などに多く活用されています

正式名称の通り、もともとは気候変動問題における炭素削減をメインとした情報開示を実施していた組織でした。しかし、環境問題が多義にわたり対象がフォレストや水セキュリティにまで広がったため、略称のCDPが正式名称となりました。

CDP沿革

2000年:ESGの評価機関としてイギリスで設立
2005年:日本でも「CDPジャパン」として活動開始
2018年:TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に準拠
2021年:1,100以上の都市・州・地域がCDPに情報を開示
2022年:生物多様性に関する設問が導入される
2023年:過去最多23,000社を超える企業、日本からは2,000社超の企業がCDPを通じて環境情報を開示

CDPの目的

CDPは、持続可能な経済を構築・繁栄させるためには、企業や自治体、政府が環境への影響を測定し、それに基づいて行動することが重要と考えています。そのため、情報開示を通じて、投資家・企業・自治体が自身の環境影響を認識し、促進することが目的です。

質問書により情報を求められる内容3項目

CDPが質問を行い情報開示が求められる環境分野は、次の3つになります。

1.気候変動
2.フォレスト
3.水セキュリティ

CDP質問書の回答は無料ではなく寄付という形をとる有料制度です。CDP質問書の内容は、さまざまなステークホルダーからの意見が反映されたフィードバックに基づき、毎年改訂が行われます。それではそれぞれの質問内容を解説していきましょう。

気候変動

気候変動分野は、気候関連のリスクや機会、温室効果ガス排出量などについての質問が行われます。基本的な項目は以下のようになりますので参考にしてください。

はじめに企業概要 報告年 バウンダリー(報告範囲)
ガバナンス取締役会の監督 経営責任 従業員インセンティブ
リスクと機会気候関連リスクの特定、評価や管理プロセス、気候関連リスク評価や機会等について
事業戦略気候関連シナリオ分析、事業戦略、財務計画等について
目標と実績排出削減目標、排出削減活動等について
排出量算定方法排出量算定基準、基準年、基準年排出量等について
排出量データスコープ1, 2, 3排出量データ 排出原単位等について
排出量内訳温室効果ガスの種類別・国別・活動別排出量、スコープ1, 2の前年との比較や子会社別内訳の実績等について
エネルギーエネルギーや燃料消費量・生成量について
追加指標その他の気候関連指標について
検証スコープ1, 2, 3排出量、その他データの外部検証を実施しているか
カーボンプライシングカーボンプライシング制度、炭素クレジットへの取り組みについて
エンゲージメントサプライヤーや、顧客エンゲージメントとの環境問題に関する共同的な枠組みについて
生物多様性生物多様性に関する取組について
承認CDP回答の最終承認

参照:企業向けCDP2023気候変動質問書導入編

フォレスト

気候変動と森林減少は同時に取り組まなければならない重要な課題でsす。CDPは拡大する森林減少への要因を正しい課題認識のもとに、サプライチェーンを含む対応とリスクマネジメント、それにもとづく情報開示を求めています。事業で木材やパームオイルなど原材料を使用した商品を作る企業に向けて、森林減少のリスクに関する質問が行われます。

以下に基本的な内容をまとめましたので参考にしてください

はじめに企業概要、報告年、通貨、バウンダリー、操業国、開示・非開示の森林リスク・コモディティの選択、選択したコモディティのサプライチェーンの段階の選択、除外
現在の状況森林リスク・コモディティへの依存度や利用法について供給源・国、調達割合、 土地管理等、パーム油からのバイオ燃料、森林減少について、自然生態系の転換フットプリント等について
手順森林関連のリスクを特定・評価手順の有無や詳細、自然生態系の転換の識別分類システム等について
リスクと機会森林関連のリスクと機会について企業固有の説明や事例
ガバナンス取締役会の監督、経営責任、従業員インセンティブや森林関連方針、森林関連コミットメント等について
事業戦略長期的な事業目標、目標達成のための戦略、財務計画における森林関連問題の取り組みや有無について企業固有の詳細を説明
実践期限付き定量的な目標、トレーサビリティシステムや管理システム、ブラジル森林法等の法令順守、小規模農家支援、その他の社外活動・イニシア ティブ、生態系復元プロジェクト等
検証検証の有無や検証対象となるデータポイントについて説明
障壁と課題バリューチェーンからの森林減少などに向けた取り組みにおける障害や課題について
最終承認回答の最終承認者の役職と対応する職種

参照:CDP2023フォレスト質問書導入編

水セキュリティ

事業で水を使用したり水資源に影響を与えたりする企業に向けて、水資源についてのリスクや機会に関する質問を行います。

以下に主な質問項目を表にまとめましたので参考にしてください。

イントロダクション企業概要、報告年、通貨、バウンダリー
現状水への依存度や水会計(水のモニタリングの割合、取水量・排水 量・消費量の合計値、リサイクル・再生における水の割合等)、バリューチェーンでの協働
事業への影響報告年における水による事業活動影響、水規制違反による罰則等について
手順水リスクの評価方法の手順や考慮される要素について
リスクと機会水リスクのある施設数、内容、水関連リスクと対応や水によりもたらされる機会について
施設レベルの水会計施設レベルの水に関するデータについて
ガバナンス水に関連する方針やマネジメントの責任、政策への関与等について
事業戦略事業計画や設備投資、操業費、シナリオ分析、ウォータープライシングの活用等
目標水関連目標と達成に向けた進捗について
検証水情報に関する外部検証について
プラスチックプラスチックに関する取り組みへの質問内容
最終承認回答承認者の情報

参照:2023年 CDP水セキュリティ質問書導入編

CDP の評価はD-からAまでの8段階

CDPの評価の種類はDからAまでの8段階になります。情報開示D、D-、認識C、C-、マネジメントB、B-、リーダーシップA、A-です。ただし、無回答の場合はFとなります。

評価段階を表にまとめましたのでご覧ください。

スコア評価基準
情報開示レベル(D、D-)現状を把握しているが、努力が必要である
認識レベル(C、C-)課題に関する活動・方針・戦略の策定を実行している
マネジメントレベル(B、B-)森林関連のリスクと機会について企業固有の説明や事例
リーダーシップレベル(A、A-)環境問題をどのように解決しようとしているか。
ベストプラクティス(最適な方法で行われている)
無回答企業(F)回答が期限内に得られなかった企業。(回答しなかった企業)

参照:CDP2023 スコアリング概要

対象は大手企業だけではない!サプライチェーンの企業も回答が求められる場合も

CDPの情報開示は大手企業だけの問題ではありません。事業活動は企業単体で行うわけではなく、多数のサプライヤーと関わりながら行われます。CDPではサプライチェーンのCO2排出量の情報開示も求めているため、将来的には取引先からCDPへの取り組みを求められる可能性を否定できません。

大手企業と取引している場合は今からCDPについての知識を深め、先行した取り組みを実施することが企業として非常に有利と言えます。

CO2排出量の算定はツールを使えば簡単にできる!

脱炭素化推進には、なによりも自社のCO2排出量の現状を把握しておくことが大切です。いざCDPに取り組むことになっても慌てることのないように、いまから排出量を把握しておきましょう。

ただし、CO2排出量の算定は複雑で専門的な知識が必要です。そのため以下のような算定ツールを使用することをおすすめします。

CO2排出量算定ツール「CARBONIX」

企業がCDPに取り組むメリットとは?3つのポイント

ここからは企業がCDPに取り組むメリットを、次の3つのポイントから具体的に解説します。

□ 環境に対する貢献を可視化でき自社のイメージアップに繋がる
□ ESG投資の可能性の向上
□ 国のカーボンニュートラル政策に対応

環境に対する貢献を可視化でき自社のイメージアップに繋がる

国際的な組織であるCDPの質問書に答えて透明度の高い評価を開示することで、自社の環境に対する貢献度を視覚化することが可能です。視覚化された情報を広く公開することで、企業の商品やサービスを利用している消費者に対する信頼感を向上させ、自社の社会的地位やイメージをアップすることに繋がります。

ESG投資の可能性の向上する

CDPの気候変動スコアは、環境に対する企業の姿勢や取り組みを示す指標として、ESG投資家からも非常に重要視されています。海外のみならず、近年では日本でもESG投資の運用資産額は増加をしており、さらに今後は国のGX(グリーン・トランスフォーメーション)政策により、炭素市場が拡大していくことは間違いないでしょう。CDPによる情報開示は、ESG投資家から資金調達する可能性を大いに高める可能性があります。

国のカーボンニュートラル政策に対応

日本は2050年までにカーボンニュートラル達成を目指しています。そのためGX政策を打ち出し、脱炭素化を促進する計画です。GXの基本方針には排出権取引の実施も予定されており、20兆円のGX経済移行債による投資促進策も盛りこまれています。CDPに取り組むことは、日本の脱炭素政策とマッチングするためにも重要と言えるでしょう。

2024年3月に発表された企業事例

2023年度は1,900社を超える日本企業がCDPによる気候変動、フォレスト、水セキュリティに関する情報開示を行いました。

  • 2023気候変動日本企業112社をAリストに認定
  • 2023フォレスト日本企業7社をAリストに認定
  • 2023水セキュリティ日本企業36社をAリストに認定

まとめ

環境課題に対する質問と評価を行う国際NGO「CDP」について、あらゆる角度からわかりやすく解説しました。CDPについてどのように取り組めばいいのか理解されたことと思います。

本コンテンツを参考に、ぜひ社内で脱炭素化推進を検討し、CDPに取り組んでみてはいかがでしょうか。

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