愛媛県のカーボンニュートラル戦略|企業の脱炭素取り組み事例

愛媛県のカーボンニュートラル戦略|企業の脱炭素取り組み事例
都道府県関連

このシリーズでは、実際に日本各地で企業により行われている脱炭素やカーボンニュートラルに関連する取り組みを取り上げ、地域に即したカーボンニュートラルを目指す活動についてお伝えしています。今回第3回目として取り上げる都道府県は、県民・企業・自治体のそれぞれが主体となる3つのプロジェクトを柱とした「えひめゼロカーボン・チャレンジ2050!」を掲げている愛媛県です。

2020年10月、菅内閣総理大臣による所信表明演説において日本におけるカーボンニュートラル宣言がなされる中、愛媛県においては同年2月に、2050年に温室効果ガス排出量実質ゼロの「脱炭素社会」を目指すことを表明するとともに、2030年度の温室効果ガス削減目標をマイナス27%(2013年度比)とする「愛媛県地球温暖化対策実行計画」が策定されました。この計画は、地球温暖化対策の推進に関する法律である第21条の規定に基づく「地方公共団体実行計画」及び気候変動適応法 第12条の規定に基づく「地域気候変動適応計画」として位置付けられており、2020年度から2030年度までを計画期間として定められています(※1)

そこで本コンテンツでは、地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する施策、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みへの理解を深めるために、まずは、愛媛県の温室効果ガスの排出状況と排出構造、今後の方向性について確認していきます。その後、県庁所在である松山市が目指すべき姿や排出削減における目標値をお伝えし、最後に県内における取り組みの実態について順を追って解説していきます。

(本シリーズは、各自治体や行政機関から公表されている情報を元に作成しております。)

(※1)本計画は、令和6年1月に一部改定されています。

愛媛県の排出構造と今後の方向性

県内の温室効果ガスの排出状況について、現在最新のデータとして公表されている2021年度における排出量(森林吸収分差引後)は1,766 万9千トンで、基準年としている2013年度に比べ 22.9%(525万3千トン)減少している状況です。また、このように総排出量及び森林吸収量差引後の排出量が減少した主な要因としては、低炭素電源(再エネ)の利用拡大や発電効率の向上による電力の排出原単位の低下、及び省エネの進展等によるエネルギー消費量の減少等が考えられています。

愛媛県の温室効果ガス排出状況

愛媛県HP:温室効果ガス排出状況
© https://x.gd/x7wUb

愛媛県の2021年度CO2排出量全体に占める部門別割の表

県内の温室効果ガス排出状況(2021(令和3)年度)をもとに、筆者作成

加えて、産業、業務、家庭、運輸の主要4部門からみる基準年からの増減率においても、県内の温室効果ガス排出量で半分以上の割合をしめる産業部門を含む3部門で20%以上の減少率を確認することができています。

愛知県の二酸化炭素排出量の 2013 年度比増減率(主要4部門) のグラフ

愛媛県HP:県内の温室効果ガス排出状況(2021(令和3)年度)
© https://www.pref.ehime.jp/uploaded/attachment/110275.pdf

その上で、愛媛県の現状をふまえ温室効果ガスの削減の観点から、脱炭素社会に向けた課題と展望は、「愛媛県地球温暖化対策実行計画 【改定版】」の中で以下のとおりに掲げられています。

愛知県の現状と脱炭素社会に向けた課題と展望の一覧

愛媛県:愛媛県地球温暖化対策実行計画 【改定版】
© https://www.pref.ehime.jp/uploaded/attachment/104768.pdf

松山市が目指すべき姿や排出削減における目標値について

県の中心都市である松山市もまた、「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づき、松山市域で排出される温室効果ガスの排出状況や削減目標、削減に向けた取り組みなどを定めた「松山市環境モデル都市行動計画」を公表しています。2023年4月に策定された「第2期松山市環境モデル都市行動計画(区域施策編)」においては、計画期間を2023年度から2030年度まで(基準年度:2013年度)とし、松山市域全体を対象とした上で、以下の温室効果ガスの削減目標を定めています。

▼中期目標:2030年度までに基準年度(2013年度)より50%削減
▼長期目標:2050年カーボンニュートラルの実現

松山市の温室効果ガス排出量の推移(部門別)のグラフ

松山市HP:第2期松山市環境モデル都市行動計画
© https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/machizukuri/kankyoumodel/modelkeikaku.files/dainiki_honpen.pdf

<特徴>

  • 2019 年度の排出量は 3,749千t-CO2となっており、基準としている2013年度(5,358 千 t-CO2)と比較すると約30%の減少となっている。
  •  改定前の計画では、中期目標として「2030年度までに温室効果ガスを2013年度比27%削減」を掲げていたが、2019 年度時点でこの目標を達成している。
  • 改正温対法をうけて(※2)、市内の再エネの発電容量を2030年度までに430,320kW 以上にすることを目標としている。
年度再生可能エネルギーの導入値
2019年度(基準年)209,673kW
2030年度(目標年)430,320kW 以上

これらを踏まえ、松山市では脱炭素に向けた部門ごとに、「シナリオ1:国の対策の導入・実行」、「シナリオ2:特定事業所等の対策」、「シナリオ3:電力排出係数の低減」の3つのシナリオを策定するとともに、併せて6つの目標達成に向けた具体的な施策を定め、取り組みを進めています。特に、上記の3つ目の<特徴>でもお示しした再エネに関しては、施策1で掲げる「再生可能エネルギー等の導入」においても、6つの中で最も大きな削減量を見込んでおり、重点施策となっています。

施策概要具体的な取り組み内容削減量(見込み※)
1再生可能エネルギー等の導入・自家消費型太陽光発電システム等の導入
・水素等の利活用の検討
・PPA モデルの活用、再エネ電力の調達(再エネ100REAction)
・グリーン電力証書の活用
・地域脱炭素化促進事業
△325 千t-CO2
2脱炭素型ライフスタイルの推進・ライフスタイルの転換を促すための普及啓発
・ナッジを活用した行動変容
△21 千t-CO2
3脱炭素のまちづくりの推進・建築物の省エネ化等の推進
・脱炭素モビリティ等の導入促進・防災力強化
・スマート農林水産業等の推進
・歩いて暮らせる都市空間の形成とスマートシティの実証
△132 千t-CO2
4循環経済への移行・ごみ抑制とリサイクルの推進
・廃棄物処理施設での取組
△20 千t-CO2
5市民・事業者・行政の 協働・国内外の自治体との連携や情報共有
・地域のステークホルダーとの連携
・環境教育の推進
・脱炭素経営の推進
6気候変動への適応・7つの分野の適応策(農林水産業、水環境・水資源、自然生態系、自然災害、健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活)

※削減量見込みは、2030年度と2019年度の差分量で算出
第 2 期松山市環境モデル都市行動計画(第5章 目標達成に向けた施策 2. 具体的な内容)をもとに、筆者作成

(※2)改正温対法とは、改正地球温暖化対策推進法のことで、2022年4月に施行。地域の脱炭素化が拡充され、中核市は再エネ利用促進等の施策に関する事項に加えて、施策の実施に関する目標を定めることが求められている。

県内における取り組みの実態について

愛媛県では、「愛媛県地球温暖化対策実行計画」における“2050年脱炭素社会の実現”の目標達成に向け、企業や団体、グループが、それぞれの立場での具体的な取り組みを表明する“アクション宣言”を推進しており、宣言を行う事業者のことを「2050年脱炭素社会・アクション宣言登録事業者」として位置づけています。登録対象は、(1)愛媛県内に本社・支店等の事業所を有する企業・団体、(2)県内に活動拠点を有する2名以上で構成するグループとなっており、以下の例のような宣言を行っています。

例)

・○○年までにCO2排出量50%削減
・住宅・ビル等の省エネルギー化の推進(ZEH、ZEBなど建物のゼロエネルギー化など)
・再生可能エネルギーの導入(グリーン電力証書の購入など)
・太陽光パネルの設置、自動車を電気自動車に更新
・適正な冷暖房温度の徹底、クールビズ・ウォームビズの実践
・プラスチックごみの5割削減

2050年脱炭素社会・アクション宣言 を募集します!をもとに引用

直近の2050年脱炭素社会・アクション宣言登録事業者の実態としては、以下のようになっています。登録状況としては、北海道のゼロカーボン・チャレンジャー事業者と同様の傾向が見られており、エリアごと、業種ごとともに、大きく偏りがあることが分かります。特に業種においては、北海道と愛媛県のいずれにおいても建設関連や製造関連の事業者による登録が多い状況です。

※いずれも、「2050年脱炭素社会・アクション宣言登録事業者一覧」の資料をもとに、筆者のほうで集計・分析を行っております。

登録時点事業者数
2024年9月19日現在103

2050年脱炭素社会・アクション宣言登録事業者一覧のエリア分析表

2050年脱炭素社会・アクション宣言登録事業者一覧の業種分析表
今回ご紹介した2050年脱炭素社会・アクション宣言以外にも、愛媛県内の企業の脱炭素化への優良な事例として、えひめ脱炭素ポータルサイトの中では3つの事業者による取り組みが掲載されています。ご興味のあるかたは、こちらも併せてご覧ください。

事業者名企業概要取り組みのポイント
株式会社愛新鉄工所新居浜市内の中小企業で太陽光発電設備をいち早く取り入れ、『新居浜市SDGs推進企業』にも認定されている。①太陽光発電
②CO2削減
③コスト削減
株式会社大石工作所自社でも2020年にSDGs宣言を行い、日常的に使用割合の高いエネルギーに関する取り組みが弱点という課題に早期から取り組む。①グリーンファクトリー
②太陽光パネル
③クリーンエネルギー
西染工株式会社1970年代に起きた2度のオイルショックの経験をきっかけに、創業当初より脱炭素事業に取り組む。製造過程で排出されるタオルの埃を再利用した着火剤「今治のホコリ」でグッドデザイン賞を受賞している。①CO2削減
②ピークカット
③サスティナブル商品

まとめ

本コンテンツでは、地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する施策、またそこで展開されている企業の取り組みへの理解を深めるために、県全体⇒市全体⇒企業単位の順に、カーボンニュートラルに対するそれぞれの立場からのかかわり方について、具体的な目標や取り組み事例をもとにお伝えしてきました。

次回は、沖縄県に関する地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する取り組み、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みを紹介していく予定です。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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