ESG 経営を行うために知っておきたい情報をまとめて解説

基礎知識

20世紀の産業革命を境に人口は爆発的に増え、我々の生活は豊かになる一方で、地球へのさまざまな影響が懸念されてきました。その結果、ESG、CSR、SDGs、PRI、など多くの地球環境全体への取り組みに関するキーワードが出てきており、国際会議の場においては国家間で協議され、現在では各国の企業に具体的な行動ベースでの変革が求められるようになってきました。

そこで今回は、ESGについて取り上げ、SDGsやPRIとの違いや具体的なESG経営の事例を通してESGに関する理解を深めていきます。ESG経営においては、目先の利益や評価だけではなく、環境や社会への配慮、健全な管理体制の構築などによって持続可能な企業の発展を目指しており、ESG市場は国内外でも拡大している状況です。

環境省:第2章 脱炭素社会・循環経済・分散型社会への3つの移行
©https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r03/html/hj21010201.html

ESGとは

Ⅰ. ESGとSDGsの違いは
Environment(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治)の頭文字をとった略語であり、企業が環境・社会・企業統治に対して配慮するという考え方です。2006年4月の国連において、PRI(責任投資原則)の中で、投資判断基準の新たな観点として紹介されました。PRIとESGの関係性については、次節で詳しくご紹介します。
一方SDGsは、Sustainable Development Goalsの略で、2015年9月25日に国連総会で採択された、持続可能な開発のための17の国際目標と、その下にある169の達成基準と232の指標を表しています。ESG、SDGsともに、持続可能な社会の実現を目指し定められたものですが、主導者と目標達成の目的に大きな違いがあります。SDGsは、2015年9月に開催された持続可能な開発サミットにて193カ国の合意によって採択され、目標達成に向けては国や政府が主導となることが示されています。他方で、ESGは民間企業の経営において取り組むべき課題とされています。SDGsが国連や国家が中心となって持続可能な社会の実現を目指すのに対し、ESGはあくまでも民間企業や投資家が企業価値を向上させるために取り入れる課題である、ということになります。

 ESGSDGs
目標持続可能な社会の実現
主導者民間企業や投資家国や政府
目標達成の目的企業価値の向上持続可能な社会の実現

また、これらの違いは、各取り組みの知名度にも影響を及ぼしています。SDGsは国や政府が主導するため、近年飛躍的に知名度を伸ばしています。電通の調査によれば、SDGsについて「内容を知っている」、または「名前を聞いたことがある」と回答した人の割合は、2018年2月に行われた第1回調査で14.8%だったのに対し、2023年2月に行われた第6回調査では91.6%にまで達しています。

電通:第6回「SDGsに関する生活者調査」を元に、著者作成

一方で、企業広報戦略研究所が行った「2022年度ESG/SDGsに関する意識調査」によれば、
ESGについて、「詳しく知っている」、または「聞いたことはある」と回答した人の割合は37.9%と、年々認知率の拡大は見られるものの、SDGsと比較して大きく下回る結果となりました。

企業広報戦略研究所:「2022年度ESG/SDGsに関する意識調査」を元に、著者作成

Ⅱ. PRIとESGの関係性について
PRIとは、Principles for Responsible Investmentの略で、機関投資家の投資の意思決定プロセスや投資方針の決定にESGの課題を組み込み、受益者のための長期的な投資成果を向上させることを目的として、2006年4月に国連が公表した6つの責任投資原則のことを表しています。

PRI:責任投資原則
© https://www.unpri.org/download?ac=14736

PRIの導入が進むにつれ、PRIに署名した投資機関は企業への投資の判断材料としてESG経営を見るようになりました。そのため、投資を受ける企業側は投資を受けるためにESG経営を積極的に行う、という構図が出来上がりました。この6つの原則自体に拘束力はありませんが、PRIに署名した機関投資家は環境・社会・企業統治に関して責任ある投資行動をとることを宣言することになり、2022年3月の時点で、4900以上の機関投資家等が署名している状況です。そのうち、国内の企業は129社となります。以下には、署名日時が新しい順に、国内でもPRI署名を行った企業10社をお示ししています。

Search for signatories by name, signatory type, location or joining dateより、筆者作成

ESG経営のメリットとデメリット

ここからは、ESGを企業経営に落とし込んだ際に考えられるメリットとデメリットを紹介していきます。

Ⅰ. ESG経営のメリット
ESG経営を行うことにより、投資家からの企業評価の向上が見込まれます。2006年のPRIへの署名機関数は増加傾向にあり、2022年3月には4900を超え、署名している投資機関の運用総資産額は120兆ドル以上と言われています。ESG経営に取り組むことでPRIに署名した投資機関からの評価が高まり、企業側は円滑な資金調達を行うことが可能となります。

PRI:責任投資原則
© https://www.unpri.org/download?ac=14736

また、ESG経営を行うことで、企業の長期的かつ健全な企業経営が期待できます。ESG経営の要素である「社会(Social)」は企業の利益を追求するだけでなく、地域との共生や人材の育成を促しています。また、「企業統治(Governance)」に取り組むことで、不正や不祥事を減らし、企業イメージの向上を目指しています。その結果、従業員の人権や労働環境に配慮した経営をおこなうことで、過労死やハラスメントの発生を抑制することが期待できます。つまり、従業員が働きやすい職場環境を整備することにも繋がるため、従業員のモチベーション向上の一助にもなり得る可能性があると考えられています。

Ⅱ. ESG経営のデメリット
ESG経営にはいくつかのデメリットも存在します。まず挙げられるのが、短期間での経営効果が薄いことです。ESG経営は中・長期間のスパンで健全な経営を行い、企業経営と社会貢献を両立していく経営方法です。そのため、費用回収までも長く、資金力のない企業は資金が回らず経営破綻に陥ります。ESG経営を取り込むためには資金やプロジェクトの管理を長期的に行っていく必要があります。
また、ESG経営は方向性を定めるのが難しいと考えられています。現在、統一的なESG評価指標がなく、企業が取り組むべき目標が明確にあるわけではありません。そのため、各企業の特性を理解し、経営者が長期的な経営の明確なビジョンを持つ必要があります。

ESG経営の具体的な事例について

ESG経営を評価する絶対的な指標は現在のところありませんが、各調査機関が実施した、ESG経営に関するアンケート結果などが公表されています。ここでは、日経BPが「第4回ESGブランド調査(※1)」で1位に輝いたトヨタ自動車のESG経営についてみていきましょう。トヨタ自動車は2020年の調査開始から4年連続で首位を確保しており、2位のサントリーを大きく引き離しています。また、今回は初めて、環境、社会、ガバナンス、インテグリティ(誠実さ)の全ての部門で1位となっています。

Ⅰ. 環境(Environment)
トヨタ自動車は「ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ」と銘打ち、2030年までにGHG排出量を2019年比で30%削減のマイルストーンを設定し、最終的に2050年ライフサイクルにおけるGHG排出量をカーボンニュートラルとする「トヨタ環境チャレンジ2050」を表明しています。また、2030年、2035年のマイルストーンを経て2050年新車の走行における平均GHG排出量のカーボンニュートラルおよび、2050年までにトヨタ自動車の工場におけるCO2排出量ゼロを公言しています。これらの活動はブランド調査の結果でも表れており、特にカーボンニュートラルへの取り組みや電気自動車をはじめとするエコカーを推進する姿勢を評価する声が多く集まっていました。その結果、「気候変動の対応に努めている」という項目で他社を大きく引き離していた状況です。

外務省:持続可能な開発目標(SDGs)基礎資料
©https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_mokuhyou.pdf

Ⅱ. 社会(Social)
トヨタ自動車は社会貢献として以下のような活動を行っていることを公開しています。
▽〈共生社会〉自然も人間も多様性が活かられる社会をめざして
トヨタが目指す多様性が活かされる共生社会として、多様な人々が活躍し支え合って生きる社会や自然の中で人間も生態系の一員であるという認識に基づき生き物たちと共生する社会を掲げています。

外務省:持続可能な開発目標(SDGs)基礎資料
©https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_mokuhyou.pdf

▽〈人財育成〉未来のために、人として豊かに生きる力を育む
「モノづくりは人づくりから」というトヨタの教育・人財育成の理念をもとに、モノづくりの未来を拓く「人づくり」の取り組みを続けています。

外務省:持続可能な開発目標(SDGs)基礎資料
©https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_mokuhyou.pdf

▽〈地域共創〉地域に寄り添い、より良い社会へ
トヨタの持つ技術やノウハウなどのリソースを活用し、頻発する自然災害にモビリティの分野で貢献する取り組みを行っています。

外務省:持続可能な開発目標(SDGs)基礎資料
©https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_mokuhyou.pdf

▽〈Mobility for All〉すべての人に自由で安全な移動を提供する
トヨタが描く社会の未来像として、障がいのある方も、子どもも高齢者も。誰もが思いのままに、安心して移動できる社会を掲げています。

外務省:持続可能な開発目標(SDGs)基礎資料
©https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_mokuhyou.pdf

Ⅲ. 企業統治(Governance)
トヨタ自動車におけるガバナンスは「コーポレートガバナンス」、「リスクマネジメント」、「コンプライアンス」の3つから成り立っています。
「コーポレートガバナンス」では持続的な成長と長期安定的な企業価値の向上を目指してコーポレートガバナンスの充実に向けた体制整備、取締役会、監査役会の適切な運営などを取り組んでいます。
一方、「リスクマネジメント」においては、危機が生じた場合にお客様や従業員をはじめステークホルダーの安全・資産・利益を守るために推進体制の整備及びリスクマネジメントの仕組みの運用をおこなっております。
また、「コンプライアンス」に関しては、7つの理念からなるトヨタ基本理念およびトヨタフィロソフィーを実践することでトヨタに期待された社会的責任を果たすことを目指し、定期的にトヨタフィロソフィーの改訂や連結子会社を含めたトヨタで働くすべての人たちに周知・教育を実施しています。

(※1)約21,000人に、ESGの視点から企業のブランドイメージをヒアリングする調査となっています。

まとめ

本コンテンツでは、ESGの概要理解から関連キーワードとの違いを改めて確認し、ESG経営のメリットとデメリット、その他具体的な企業の事例について解説してきました。

2006年に国際連合事務総長のコフィー・アナンが、機関投資家にESGの観点を持つことを提唱してから、15年以上が経過しました。世界各国の企業の取り組みとしてESG経営は進んでいるものの、まだまだ完全には中堅・中心企業に浸透しきれていないという現実もあります。本コンテンツをお読みいただいた皆様には、自社のESG経営について改めて考え直していただくきっかけとなれば幸いです。

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