脱炭素化で注目「ETS(欧州排出権取引制度)」とは?EU-ETSについても解説!

基礎知識

脱炭素への取り組みを行う上で「ETS」という単語を聞いたことはありませんか。

ETSとは日本語で「排出権取引制度」のことを言います。中でも「EU-ETS(欧州排出権取引制度)」は世界に大きな影響を与え、脱炭素化推進をリードする制度です。

日本では今後GX政策を推し進め、脱炭素市場の拡大を狙っています。そのためETSについて知見を深めることは、企業として非常に重要と言えます。

今回は、EU-ETSについての影響力や実際のETSのスキームについて詳しく解説してきます。排出権取引について知りたい企業担当の方は、ぜひ参考にしてください。

ETSとは「排出権取引スキーム」のこと

ETSとは「Emissions Trading System」の」略で日本語では「排出権取引」と訳されます。排出権は、温室効果ガス削減のために1997年に開催された地球温暖化防止京都会議で策定されました。排出権取引とは、温室効果ガスの排出量を金銭的に取引するためのシステムを指します。

具体的にいうと、国がCO2をはじめとした温室効果ガスを排出する企業や組織に対して「排出枠」を策定し削減するための施策でありスキームです。

企業が事業活動において大量のCO2排出量があった場合はペナルティが課され、排出量の少なかった企業からCO2排出量を買うことになります。このようにCO2排出量を売買することで、経済効果を高めると同時に温室効果ガス削減を促進します。

排出権取引のスキームには、「ベースライン&クレジット方式」と「キャップ&トレード方式」の2つがあります。

世界の排出権取引に大きな影響EU ETSとは

世界的にETSが促進されている背景にはEU ETSの存在があります。EU-ETSとは、「EU域内排出量取引制度(European Union Emissions Trading System)」のことです。そもそもEUは環境活動において世界に先駆けた取組を実施し、政策立案や導入のリーダーシップ的存在と言えます。これまでも温室効果ガス削減対策において多大な影響力を発揮してきました。EUを脱退した英国をはじめとして、同制度を導入している国が多く存在します。

EU-ETSの主な対象は、エネルギーを大量消費する施設や企業です。対象となった企業や施設は、定められた排出枠の上限を超えた場合は、排出枠に余裕のある企業から排出枠を購入するなどの対策を取らねばなりません。排出枠は年々縮小されており、削減が進まないと排出枠の価格が高くなるという状況が続いています。

このようにEUが大胆な政策を推進している背景には、2030年度までにCO2排出量を1990年度比で55%以上削減するという目標があります。

EU ETSの対象分野

以下にEU-ETSの対象分野を表にまとめましたので参考にしてください。エネルギー分野をはじめとした1万2000以上の施設が対象です。

EU-ETSの対象分野詳細
エネルギー部門20MWを超える熱投入を有する燃焼施設・石油精製・コークス炉
鉄生産加工部門焙焼・焼結・鉄鋼
アルミ製造20MWを超える熱投入を有する燃焼施設、及びプロセス排出
ガバナンス取締役会の監督、経営責任、従業員インセンティブや森林関連方針、森林関連コミットメント等について
非鉄金属20MWを超える熱投入を有する燃焼施設、及びプロセス排出
化学製品製造20MWを超える熱投入を有する燃焼施設、及びプロセス排出
鉱物部門ガラス・セメント・セラミクス
その他部門紙・パルプ
運輸部門域内の空港に離着陸する航空便(2012年から)を運行する航空会社
CCS回収、輸送、及び地下貯留

引用:一般財団法人エネルギー経済研究所(海外の炭素税・排出量取引事例と我が国への示唆)
国立国会図書館インターネット資料収集保存事業に保管

EU ETSおける規制強化

EU ETSは削減目標を強化したことによる制度の改革を進めています。2024年には改革された制度の本格運用が開始される予定で、新たに海上輸送を対象部門とすることも発表されました。

今後は欧州経済領域(EEA)内で貨物や旅客の運搬をする5000t以上の大型船舶に対して、段階的に排出枠を引き渡すことが義務付けられます。今後はEU-ETSの強化によりあらゆる分野で炭素コストが上乗せされていく可能性があります。

ETSが中小企業にも無関係ではない理由

EU-ETSの規制強化は日本にとっても他人ごとではありません。前段で解説した通り、EU-ETSによる規制強化はあらゆる分野に及んできます。産業は多くのステークホルダーとの関係やサプライチェーンにより成り立っています。さらに現代はグローバル化が進み、国内のみならず中小企業も海外に産業基盤を持つことが増えました。つまりEU-ETSの規制強化に対応する可能性が高いということです。

そのため脱炭素化や環境負荷軽減を積極的に行うことが非常に重要です。将来的な利益確保のためにも、中小企業こそETSに取り組むべき時代を迎えているといえるでしょう。

排出権取引のスキーム①キャップ&トレード方式

それではここからは、排出権取引のスキームを具体的にご紹介していきます。まずはキャップ&トレード方式について解説します。
キャップ&トレード方式とは、削減目標の数値からキャップ(排出枠)を定め、各企業に割り当てて、排出量に過不足があればトレード(売買)することで調整する仕組みでEU-ETSの制度が元になっています。排出枠は事業の技術動向や、これまでのCO2排出実績を踏まえて決められます。

排出権取引のスキーム②ベースライン&クレジット方式

排出権取引のもうひとつのスキームはベースライン&クレジット方式です。CO2削減の取り組みを実施した場合、行わなかった場合を想定したベースライン(基準)を設けて、どのくらいの削減できたかを比較します。そして、削減できた量をクレジットとして売却する仕組みです。

日本ではキャップ&トレード方式が採用される

日本は2033年に排出権取引を導入する予定で、キャップ&トレード方式が採用されます。すでに東京都や埼玉県では導入が行われ、対象事業に実施されています。

参考に東京都と埼玉県の活動状況を表にまとめましたので、参考にしてください。

東京都埼玉県
削減目標
●東京都の総量削減目標は2020年までに、2000年比25%削減
●2030年までに、温室効果ガス排出量2000年比30%削減
●第1計画期間(2010~2014年度)8%または6%の削減義務率
●第2計画期間(2015~2019年度)17%または15%の削減義務率
●第3計画期間(2020~2024年度)27%削減
●第4計画期間(2025~2030年度)35%削減
●埼玉県の総量削減目標は2020年度の温室効果ガス排出量を2005年比21%削減
●第1計画期間(2011~2014年度)8%または6%
●第2計画期間(2015~2019年度)15%または13%
●第3計画期間(2020~2024年度)22%または20%
成果
排出権取引による2015年度のCO2の超過削減量は540,066トン、実施件数は114件排出権取引による2015年度のCO2の超過削減量は841,164トン、実施件数は107件
罰則
●義務履行期限を過ぎても削減義務が未達成の場合、削減措置命令として義務不足量×最大1.3倍の削減を行う
●措置命令に従わなかった場合には、上限50万円の罰金および東京都によるクレジット調達費用の負担とする
なし
※ただし事業所ごとの遵守状況が公開

参照:環境省 地球環境局市場メカニズム室「諸外国における排出量取引の実施・検討状況」
東京都環境局 第3計画期間に適用する改正事項無説明資料 2019年4月
埼玉県目標設定型排出量取引制度 【第3削減計画期間適用事項】

キャップ&トレード方式の特長

ここではキャップ&トレード方式で排出量取引を行うことによる特長やメリットを解説します。

排出枠を定めて義務とするため、目標の総量削減をより確実に達成できる

キャップ&トレード方式は、国の定め排出枠を義務とするため目標が明確であるというメリットがあります。目標が明確であるということは、具体的な削減活動を検討しやすいということであり、企業は確実な削減実施に繋げることができるでしょう。また、公平で透明性のあるルールの下で排出削減を担保できるため、柔軟性のある取引実施に繋がります。

排出枠の削減手段を企業側が選択できる

排出量が排出枠を上回る企業は、排出枠を下回る企業から購入すれば削減のための高いコストをかけずにすみます。排出量を下回る企業は、コスト等をかけて排出量を削減した分、排出枠を販売し利益を得ることが可能です。企業にとっては削減対策のために新たなコストをかけるよりは、排出権取引による買い取りのほうが安価にすむ場合もあります。

費用対効果等を考えながら削減活動を実施できるのもキャップ&トレード方式のメリットのひとつです。

環境価値が経済活動の中に組み込まれることで温暖化対策が自然と進む

排出権取引を行うということは、自社の経済活動に環境的価値が組み込まれることでもあります。排出権取引の最大の目的はCO2削減による地球温暖化の抑制です。そのため、あらゆる経済活動に対して環境配慮が伴われるため、地球温暖化への対策が自然と進むことになります。

また、このような活動は、社会に向けて脱炭素化を推進しているというアピールにもなり、企業の社会的地位を向上させ、好感度を大いに高めることにも役立つでしょう。2022年4月プライム上場企業は、気候変動のリスク機会を経営戦略に反映させるTCFD(気候変動関連事務情報開示タスクフォース)を実質義務化していますので、TCFD対応を宣言した企業には排出量算定と温室効果ガス排出量の削減が必要です。

日本で排出権取引が導入される2033年までにやっておきたいこと3つ

日本は2020年10月に「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定しました。GXでは成長志向型のカーボンプライシング導入を促進するため、2023年2月に排出権取引制度が導入され、2023年10月にカーボンニュートラルのためのカーボンクレジット市場が東京証券取引所に開設されています。先行して取り組む事業者にはインセンティブが付与される仕組みを創設するなど、企業が先行して脱炭素化に取り組むことが重要な内容となっています。

ここでは、導入が実施される前にやっておくべき3つの項目についてご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

①自社の現状のCO2排出量を調査・把握する

排出権取引を導入するためには、まずは自社のCO2排出量を把握する必要があります。具体的で有効な削減対策を行うためにもしっかりとCO2排出量を算定しましょう。しかし、CO2の排出量算定には専門的な知識が必要です。
そこで以下のようなツールを使用することをおすすめします。

CO2排出量算定ツール「CARBONIX」

②CO2の削減方法を検討する

自社のCO2排出量を把握したら、その結果をもとにどのようにCO2削減を進めるのか、さまざまに方法を検討してみましょう。製造・販売の方法や工程を変更することは容易ではありませんが、社内でできる省エネ活動等、できることは多くあります。これを機に社内に資源の無駄遣いがないかを見直すこともいいでしょう。

排出権取引は大掛かりな設備投資や製造工程の変更を行わずに、比較的容易にCO2排出量を削減することが可能な方法です。

③先行して脱炭素の推進に努める

先行して脱炭素化に取り組むためには、自社で使用している電力を見直すことも重要です。設備導入や事業の方法を変えるには時間がかかりますが、どのような事業を行う上でも欠かせない電力を、再生可能エネルギー調達で賄うことができれば大幅なCO2削減が可能です。

参考になる電力運用事業については、ぜひこちらをご覧ください。
「Sustech電力プラットフォーム ELIC」

太陽光発電等の分散型電源を一括管理し、AIを活用した高度な発電予測や電力卸売市場での電力販売など、企業や社会が効率的に太陽光発電を活用できる仕組みを実現する電力運用事業。2022年4月より開始されたFIP制度やアグリゲーション制度にも対応

まとめ

ETS(排出権取引)の根幹となるEU-ETSの概要や、取り組むべきスキームについてわかりやすく解説しました。地球温暖化を含めたあらゆる環境課題の解決が急を要する中、脱炭素への取組は企業の責任と言っても過言ではありません。

いざ日本での導入が開始されたときに慌てないためにも、いまからぜひ本記事を参考にETS(排出権取引)の導入を検討してみてください。

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