FIP制度とは?導入背景からFIT制度との違いまで徹底解説!

CO2削減

2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向け、再生可能エネルギーを主力電源としていくことを見据えた様々な法整備が進んでいます。特に、固定価格買取制度、いわゆるFIT制度が2012年に導入されて以降、加速度的に再生可能エネルギーへの注目が集まっています。

本コンテンツで取り上げるのは、2020年6月に導入が決まり、2022年4月から運用が開始したFIP制度です。FIP制度とは、太陽光発電や風力発電やなど、再生可能エネルギーで発電した電気を売電した際に、売電収入に加えてプレミアムと呼ばれる補助金を上乗せした金額が支払われる制度のことを表しています。

経済産業省 資源エネルギー庁のデータによると、2023年10月1日時点のFIP導入量は、全電源の合計で275件/約986MWとなっており、新規認定・移行認定ともに太陽光発電が最も多い状況ですが、新規認定では水力発電、移行認定ではバイオマス発電の利用件数が多い傾向が見られています。

経済産業省 資源エネルギー庁:再生可能エネルギーの長期安定的な大量導入と事業継続に向けて(FIP制度関係)
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/059_01_00.pdf

そこで本コンテンツでは、FIP制度の理解を深めるために、FIP制度の導入背景や国内外における制度の特徴、FIT制度との違いなどを中心に紹介していきます。

FIP制度の概要と導入の背景について

Feed-in Premiumの略で、市場価格に連動した再生可能エネルギーの買取制度を表しています。この制度では、従来のFIT制度のように、再生可能エネルギーで発電した電力を固定価格では買い取りません。その代わりに、発電事業者が卸市場などで売電した際に、その売電価格に対して一定のプレミアムと呼ばれる補助額を上乗せし、再生可能エネルギーの積極的な導入を目指しています。既に欧州など再生可能エネルギーの導入が進んでいる地域では、プレミアム「固定型」FIP、プレミアム「固定型」FIP(上限・下限つき)、プレミアム「変動型」FIPの3種類のFIP制度が施行されている状況です。

経済産業省 資源エネルギー庁:再生可能エネルギー FIT·FIP制度ガイドブック 2024
© https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/data/kaitori/2024_fit_fip_guidebook.pdf

FIP制度の目的は、再生可能エネルギーの普及拡大と、国民の再生可能エネルギー発電促進賦課金の費用負担の軽減にあります。従来のFIT制度では、電力市場における需要と供給のバランスにかかわらず、一定の価格で電気の買取が行われていました。しかし、この制度を維持するためには、電気の使用者である国民による再生可能エネルギー発電促進賦課金の負担が不可欠となっており、買取コストの一部を国民が賦課金として担う構造になっていました。実際に、2021年度における電力の買取コストは、3兆円弱が試算されており、このような課題を解決すべく、FIP制度においては電力市場における完全自由競争を実現させました。その結果、次なる目標として、再生可能エネルギーの長期安定的な大量導入と事業継続に向けて、FIT・FIP制度によらずに事業採算性が確保される形で再生可能エネルギー電源を自立化させていくことが検討されています。

日本のFIP制度について

ここからは、もう少し国内のFIP制度についてフォーカスしていきながら、制度の特徴や計算方法について見ていきます。

1章でもお伝えしたように、FIP制度は大きく3種類に分類されます。日本におけるFIT制度は、回避可能費用(※1)を市場価格に連動させているため、再エネ事業者に対する交付金の設定方法という観点からはプレミアム「変動型」FIPに近いものとなっています。一方、FIP制度においては、プレミアム単価は市場価格の変動に応じて一定期間ごとに事後的に変更されるため、プレミアム「固定型」FIPとプレミアム「変動型」FIPの中間の制度となっています。

▷プレミアム「固定型」FIP
概要:電力卸市場価格に固定されたプレミアムを付与。
メリット:電力需要の大きい時間帯における再エネ供給インセンティブが高まる。
デメリット:卸電力価格の変動に再エネ事業者の利益が大きく左右される。
導入国:スペイン(-2007)

▷プレミアム「固定型」FIP(上限・下限つき)
概要:市場価格とプレミアムの和に上限と下限を設定したもの。
メリット:卸電力価格の変動による事業の収益性への影響をある程度低減出来る。
デメリット:適正な上限値、下限値の設定が難しい。
導入国:スペイン(2007-13) 、デンマーク

▷プレミアム「変動型」FIP
概要:電力卸市場価格の上下に応じて、付与するプレミアムが変動する。
メリット:卸電力価格の変動による収益性への影響を低減出来る。
デメリット:市場価格が低下した場合、賦課金が増大。
導入国:イタリア、ドイツ、オランダ、スイス

経済産業省 資源エネルギー庁:再生可能エネルギーの大量導入時代における 政策課題と次世代電力ネットワークの在り方
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/001_03_00.pdf

FIP制度では、電気1kWhあたりの単価として、FIP価格(基準価格)が定められているのが特徴です。FIP価格は以下の方法で算出されます。

—–
FIP価格(基準価格)=参照価格(売電収入)+ プレミアム(補助金)
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基準価格:発電設備の建設コストから逆算し、設備費回収が見込むことができる基準を想定した際に設定された価格です。原則として1年ごとに定められており、FIT制度の調達価格と同水準に設定されています。
・(総費用〔資本費+運転維持費〕+ 利潤)/総発電電気量

参照価格:卸電力市場での売電によって発電事業者が期待できる収入のことです。市場価格をベースに月ごとに機械的に算定され、1カ月単位で変更されています。
・「卸電力市場」の価格に連動して算定された価格+「非化石価値取引市場」の価格に連動して算定された価格-バランシングコスト(市場取引などの期待収入)

経済産業省 資源エネルギー庁:再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/fip.html

ここからは、現行のFIP制度のメリットとデメリットについて確認していきます。

まず、発電事業者にとってFIP制度のメリットには以下の3つが挙げられます。

①プレミアムが付与されることによって、事業者が再エネに投資するインセンティブが確保される
卸電力市場や非化石価値取引市場の価格が下落しても、プレミアムが付与されることにより、一定の収益性が担保されます。

②卸電力価格に応じて発電量を調整させることで、市場価格の変動に応じた発電が可能である
卸電力価格が高い時には発電量を増加させる、または価格が低い時には発電量を低下させる等で、収益拡大をはかることが可能です。

③国内の電力系統の需給バランスを維持することが可能である
例えば、従来のFIT制度においては、電力の需要が低いときにも、フル稼働する太陽光発電からの電力は電力会社が定額で自動的に買い取ることが定められているため、供給過多となってしまい電力系統の需給バランスを維持する上で余剰電力を生み出している状況がありました。
しかし、FIP制度の下では、電力の需要が低い場合には卸電力価格が低くなり、発電しても低い収益しか得ることができないため、電気を売電せずに蓄電池に貯めておき、卸電力価格が高いタイミングで売電することで収益性を高めることが可能です。

次に、発電事業者にとってFIP制度のデメリットには以下の2つが挙げられます。

①利益予想が難しい
従来のFIT制度のもとでは固定価格による長期的な買い取りが行われていましたが、FIP制度のもとでは卸電力市場での売買を余儀なくされるため、価格変動による売電収入が減少するなどのリスクが伴います。

②金銭的な負担が増える
FIP制度では、これまでのFIT制度のもとで免除されていたバランシング(※2)が、再エネ発電事業者にも義務となります。そのため、計画値の設定や、インバランス(※3)にかかるコストを支払う必要が出てくる可能性があります。

このような状況に対し、アグリゲーター(※4)の台頭が期待されています。FIP制度のもとでは、アグリゲーション・ビジネス(※5)の活性化のためバランシングの組成を柔軟に行うことが認められています。実際に先行事例としてドイツでは、FIP制度への切り替えとともに、世界最大規模のVPP事業者であるネクストクラフトベルケ社のようなインバランス管理に優れたVPPアグリゲーターの事業が拡大しています。またその結果、再生可能エネルギーの出力予測に特化した様々な出力予測サービス事業者も台頭しました。これらの経緯を経て、ドイツのFIP電源の8割はいずれかのアグリゲーターを活用しているとも言われています。

(※1)電気事業者がFITによる再生可能エネルギー電力を買い取る際に、電力調達を免れることが可能な費用。
(※2)電気を計画通りに発電できなかった際に必要となる「ペナルティ料金」や、「ペナルティ料金を削減する為の運用コスト」の調整。
(※3)発電の計画値と実績値の差。
(※4)電力を使用する多くの需要家が持つエネルギーリソースをたばね、需要家と電力会社の間に立って、電力の需要と供給のバランスコントロールや、各需要家のエネルギーリソースの最大限の活用に取り組む事業者のこと。「特定卸供給事業者」とも呼ばれている。
(※5)再生可能エネルギー電源を集約して、蓄電池システムなどと組み合わせて需給管理を実施し、市場取引を代行するビジネス。

FIT制度との違いについて

ここでは、2章で触れてきたFIT・FIP制度におけるそれぞれの特徴以外の異なる点について、「売電収入」、「インバランス」、「非化石価値」、「(制度上の)メリット」、「(制度上の)デメリット」の観点から見ていきます。

▷売電収入
FIT制度:どの時間帯に発電しても価格は同一である。一部出力の制御はあるものの、全量の買取が保証されている。
FIP制度:卸電力取引所、または相対取引で売電され、プレミアムによりFIT制度と同程度の収益を得ることが可能である。

▷インバランス
FIT制度:インバランス特例によって免責される。
FIP制度:発電計画値の報告が義務付けられ、計画値と実績値が異なるとペナルティが課せられる。

▷非化石価値
FIT制度:国に帰属している。
FIP制度:発電事業者に帰属している。

▷メリット
FIT制度:事業者の経営が安定する。
FIP制度:売電先を複数から選択することができるなど、多様なビジネスモデルを期待することができたり、消費者の経済的な負担が軽減されたりする。

▷デメリット
FIT制度:消費者の負担が大きかったり、市場の動きとはかけ離れた発電が発生したりする可能性がある。
FIP制度:インバランスリスクなど、事業者への一定の負担が生じる。

まとめ

本コンテンツでは、FIP制度について、その概要や導入背景、国ごとの細かな制度の違いやFIT制度との比較を中心にお伝えしてきました。

FIP制度の導入から2年以上が経過し、冒頭のデータでも紹介したように2023年10月1日時点のFIP導入量は全電源の合計で約986MWとなっている中で、資源エネルギー庁としてもこの数値を更に拡大していく必要があると認識しています。そのため、必要な措置の一つとしてバランシングコストの補填については早期の見直しを図る予定とされています。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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