FIP制度におけるプレミアムの計算方法とは?仕組みと計算式を詳しく解説

基礎知識

以前、CARBONIX MEDIAの中でFIP制度の概要やFIT制度との違いについて取り上げました。(FIP制度に関する詳細は、「FIP制度とは?導入背景からFIT制度との違いまで徹底解説!」をご確認下さい。)国内におけるFIP制度は、2022年4月の運用開始を機に、再生可能エネルギー電源の自立化に向けて、積極的な普及拡大が目指されています。実際に昨今のFIP制度の活用状況としては、2024年4月1日に施行されたGX脱炭素電源法に基づく再エネ特措法の改正も後押しする形となり、FIP認定量が急増しています。

 

経済産業省 資源エネルギー庁:再生可能エネルギーの長期安定的な大量導入と事業継続に向けて(2024年3月27日)
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/061_02_00.pdf

今回取り上げるのは、FIP制度を理解する上で重要なプレミアムと呼ばれる補助金の計算方法です。プレミアムを算出する計算式はシンプルで、FIP価格(基準価格)と参照価格(売電収入)の差分で計算されます。しかし、これだけではFIP制度を活用した際の売電収入のイメージがつきにくいのではないでしょうか。皆様のご想像の通り、実際に計算を行うにあたっては、細かな要素や複数の項目を盛り込むことが必要となってくるため、計算方法は少し複雑になっています。

そこで本コンテンツでは、プレミアムの計算方法について具体的にイメージしていただくことができるように、FIP制度の概要とFIT制度との違いを再度確認しながら、プレミアムの算出に必要な要素を細かく見ていき、それぞれの項目の計算式も併せて紹介していきます。

FIP制度の概要とFIT制度との違いについて

FIP(Feed-in Premium)制度は、従来のFIT(Feed-in Tariff)制度とは異なり、収入が市場価格に連動する点が大きなポイントです。FIP制度はFIT制度の持つ欠点の一部を補う形で導入が検討されましたが、実質的には、これらの2種類の制度は今後も併存する形となります。

まずFIT制度は、再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定の価格で一定の期間、買い取ることを国が約束する制度となっています。対象となる再生可能エネルギーは、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電の5つです。これらのいずれかを使い、国が定める要件を満たす事業計画を策定し、その計画に基づいて新たに発電を始めた場合にFIT制度の対象となります。

経済産業省 資源エネルギー庁:制度の概要
© https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/surcharge.html

電力会社が電力の買い取りにかかる費用の一部を、「再エネ賦課金」という形で月々の私たちの電気料金から集め、コストの高い再生可能エネルギーの導入を支える構造となっています。再エネ賦課金は、以下の計算式で算出されています。(再エネ賦課金に関する詳細は、「【2024年版速報】再エネ賦課金の単価傾向と減免制度について」をご確認下さい。)


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再エネ賦課金=自身が使用した電気の量(kWh)×賦課金単価(*)
(*)賦課金単価=(買取費用等―回避可能費用等+広域的運営推進機関事務費)÷販売電力量
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また、FIT制度による買取価格は毎年定められていますが、実態としては年々下落していることが特徴として挙げられます。

※10kW以上の枠については、便宜上2023年度に採用されている「10kW以上50kW未満」の枠組みで記載
経済産業省 資源エネルギー庁:買取価格・期間等(2012年度~2023年度)を元に筆者作成

一方でFIP制度は、再生可能エネルギーの発電事業者が卸市場などで売電した際に、その売電価格に対して一定のプレミアムと呼ばれる補助額を上乗せする仕組みとなっています。詳細なプレミアムの算定方法は2章でお伝えしますが、プレミアムは以下の計算式で算出されます。

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プレミアム(補助金)= FIP価格(基準価格)-参照価格(売電収入)
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経済産業省 資源エネルギー庁:再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/fip.html

このように、FIP制度に関しては、売電収入が市場変動に影響を受けやすかったり、FIT制度のもとで免除されていたバランシング(※1)が発電事業者にも義務化されたりしたため、需要家と電力会社の間に立ち、電力の需要と供給のバランスコントロールや、各需要家のエネルギーリソースの最大限の活用に取り組むアグリゲーターを介した取引も期待されています。

経済産業省 資源エネルギー庁:再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/fip.html

 

経済産業省 資源エネルギー庁:FIP 制度の開始に向けて(2022年2月14日)
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/039_01_00.pdf

(※1)電気を計画通りに発電できなかった際に必要となる「ペナルティ料金」や、「ペナルティ料金を削減する為の運用コスト」の調整。

プレミアムの算出方法について

ここからは、もう少し実践的にプレミアムの計算方法について見ていきます。

まずは繰り返しとなりますが、プレミアムを算出する計算式は以下の通りです。

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プレミアム(補助金)= FIP価格(基準価格)-参照価格(売電収入)
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つまり、プレミアムを決定するにあたっては、①FIP価格(基準価格)と②参照価格(売電収入)が重要な要素になってきます。

①FIP価格(基準価格)
これは、FIPの売電単価の基準となる価格になります。FIP価格は、基本的にFIT単価と同じ価格であり、FIT単価同様、20年間固定されます。つまり、FIPの基準価格=FITの買取価格となります。因みに、複数のFIPに関する売電収入のシミュレーションのサイトにおいて、「2022年度のFIP価格:10円/kWh」と設定されていますが、これは2022年度の50-250kWの太陽光調達価格をもとに設定されています。

②参照価格(売電収入)
これは、市場収入の参照金額です。昨年実績や当月の市場価格から算定されます。その他にも、非化石価値市場収入やバランシングコストも、参照価格を計算する上で影響してきます。
・ 参照価格=前年度年間平均価格+(当年度月間平均ー前年度月間平均)+非化石価値市場収入ーバランシングコスト(固定)

そのため、以下の前提でプレミアムを計算した場合、プレミアムは2円となります。
10円(FIP価格)-8円(参照価格)=2円(プレミアム)

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<シミュレーションの前提>

▷FIPは前年の市場価格の影響を受けるため、2年分で試算
▷FIP基準価格・FIT買取価格:10円/kWh(2022年度50-250kWの太陽光調達価格)
▷N-1年度は市場価格8円kWhで安定推移したと仮定
▷バランシングコスト、非化石価値は勘案しない

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しかし、ここでお気づきの方もいらっしゃると思いますが、FIP価格が固定価格であるのに対し、参照価格は昨年実績や影響を受けるため、変動価格となります。そのため、参照価格がFIP価格を上回ってしまったり、参照価格 がマイナスの値になってしまったりするケースも想定されます。それぞれの場合、プレミアムの計算がどのように変わってくるのか、以下にお示しします。

①参照価格がFIP価格を上回るケース
当年度に単月で電力市場の単価が高騰した場合には、当年度の参照価格が高くなることがあります。そのような場合でも、プレミアムがマイナスになることはありません。プレミアムは、最低価格の0円で留まります。

(例)
×10円(FIP価格)-12円(参照価格)=-2円(プレミアム)
○プレミアムは、最低価格の0円で据え置き

②参照価格 がマイナスの値になるケース
前年度に単月で電力市場の単価が高騰した場合には、当年度の参照価格がマイナスの値になることがあります。そのような場合、計算上はプレミアムが基準価格を上回る価格になりますが、実際には基準価格が上限となるため、プレミアムの値は基準価格と同じになります。

(例)
×10円(FIP価格)-(-2円〔参照価格〕)=12円(プレミアム)
○プレミアムは、基準価格の10円で据え置き

プレミアムの交付までの流れについて

最後に、ここからはプレミアムが交付されるまでの流れについて、4つのフェーズに分けてお伝えします。イメージとしては、3章で行った簡易的なシミュレーションに対し、より正確にそれぞれの価格を段階的に算出していく流れになっています。

経済産業省 資源エネルギー庁:FIP制度について(2021年12月)
© https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/fip_2020/fip_seido_gaiyou.pdf

まずは、前年度の年間平均市場価格を確定します。

①各30分コマのスポット市場と時間前市場の価格をエリア別に加重平均します。この価格(以降、A価格と記します)に対し、発電特性を踏まえ、1年間分の加重平均(非自然変動電源は単純平均)を行います。
・ A価格=スポット市場価格×時間前市場価格(前年度1年分のエリア別のコマ単価/各30分コマ/加重平均)
・ 前年度の年間平均市場価格= A価格×自然変動電源の発電特性(各一般送配電事業者が公表するエリアの供給実績を元に算出/加重平均)

次に、当月の参照価格・調整前プレミアム単価を確定します。

②当年度当月と前年度同月について、①で算出したA価格に発電特性をふまえて加重平均(非自然変動電源は単純平均)し、その差分を補正します。
・ 当月の参照価格(円/kWh)=前年度年間平均市場価格(円/kWh)+(当年度月間平均市場価格(円/kWh)-前年度月間平均市場価格(円/kWh))
・ 当月の調整前プレミアム単価(円/kWh)=基準価格(円/kWh)ー{当月の参照価格(円/kWh)+非化石価値相当額(円/kWh)ーバランシングコスト(円/kWh)}

その後、当月の調整後プレミアム単価を確定します。

③エリア別に、0.01円/kWhの各30分コマ以外を対象に、調整後プレミアム単価を計算します。
・ 当月の調整後プレミアム単価(円/kWh)=当月の調整前プレミアム単価(円/kWh)×電源別エリア全体当月実績(0.01円/kWhコマ含む)合計の電気供給量(kWh)÷電源別エリア全体当月実績(0.01円/kWhコマ除く)合計の電気供給量(kWh)

最後に、当月のプレミアム交付額を確定し、交付します。

④当月の調整後プレミアム単価と当該FIP事業の当月の電気供給量を掛け合わせます。
・ 当月のプレミアム交付額(円)=当月の調整後プレミアム単価(円/kWh)×当該FIP事業の当月の電気供給量(kWh)
※「当該FIP事業の当月の電気供給量」は、当月において認定発電設備を用いて発電し、及び市場取引等により供給した再生可能エネルギーの電気の量(0.01円コマを除く)を表しています。

このように、プレミアムの交付は、基準価格から参照価格を控除したプレミアム単価に、再生可能エネルギーによる電気供給量を乗じた額をベースとして、交付頻度となる1ヶ月毎に行われています。

まとめ

本コンテンツでは、FIT・ FIPの制度を改めて確認しながら、実際のプレミアムの計算方法やプレミアムの交付までの流れについて紹介してきました。

既に欧州など再生可能エネルギーの導入が進んでいる地域では、本FIP制度に関する知見も蓄積してきている中、国内においても冒頭でもお伝えしたように、2024年4月1日に施行されたGX脱炭素電源法に基づく再エネ特措法の改正もあって、FIP認定量は急増ししつあります。そのため、本コンテンツが、FIP制度のより深い理解に繋がれば幸いです。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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