FIT後の太陽光発電所の活用方法|今から考えておきたい卒FIT後の対策
太陽光発電のFIT制度による固定価格買取が終了する「卒FIT」の時期が近づいています。
多くの発電所オーナーや投資家の方々が、今後の運営方針について頭を悩ませているのではないでしょうか。
実は、卒FIT後も太陽光発電所は十分な収益を生み出すことができます。
鍵となるのは、自家消費への切り替えや蓄電池の活用、新電力会社への売電など、状況に応じた最適な対策を選ぶこと。
本コンテンツでは、発電所オーナーの視点に立って、卒FIT後の具体的な活用方法と収益確保のポイントを解説していきます。
また、発電所の買収を検討している企業や、地域電力会社として参入を考えている事業者の方にも役立つ情報を盛り込んでいます。
FIT制度終了後の太陽光発電所が秘めている可能性について、詳しく見ていきましょう。
目次
FIT制度の基礎と卒FIT後の課題
FIT制度は、国が定めた価格で20年間電力を買い取る仕組みです。(住宅用太陽光発電の一部の買取期間は10年間)
この制度により、太陽光発電事業への参入が加速し、再生可能エネルギーが普及してきました。
しかし、卒FIT後は市場価格での取引となるため、収益が大きく変動する可能性があります。
FIT制度の仕組み、そして卒FIT後の課題について見ていきましょう。
産業用太陽光発電のFIT制度の仕組み
FIT(固定価格買取制度)は、再生可能エネルギーの普及を目的に、発電した電力を一定の価格で買い取る制度です。
太陽光発電所を設置した事業者は、FIT制度によって一定期間(通常20年間)、安定した収益を得ることができます。
制度開始からの買取価格の推移
設置年度 | 買取価格(税抜) | 買取期間 |
2012年度 | 40円/kWh | 20年間 |
2013年度 | 36円/kWh | 20年間 |
2014年度 | 32円/kWh | 20年間 |
2015年度 | 27円/kWh | 20年間 |
2016年度以降 | 段階的に低下 | 20年間 |
この制度のおかげで、日本の太陽光発電は大きく成長しました。しかし、FIT期間終了後(卒FIT)は、徐々に買取価格は低下しています。
この保証がなくなるため、卒FIT後も収益を確保するためには、新たな計画を早めに立てる必要があります。
卒FIT後も売電できるのか
結論から言えば、卒FIT後も売電は可能です。
ただし、売電価格はFIT期間中の保証価格よりも大幅に低下することが一般的です。そのため、収益が減少するリスクを考慮しなければなりません。
変更点
- 固定価格での買取が終了
- 市場価格での取引になる
- 新しい契約を結び直す必要がある
市場価格は季節や時間帯によって変動。おおよそ7円から15円/kWhの間で推移します。
太陽光パネルは20年経過しても80%以上の発電能力が残っていると言われるため、売電は可能でしょう。
卒FIT後も太陽光発電所の収益化できるのか
卒FIT後も収益化は可能ですが、FIT期間中と同じ収益を維持することは難しいでしょう。そのため、収益性を高める工夫が必要です。
収益を確保するポイント
- 維持管理コストの見直し
- 新しい売電方法の検討
- 運営の効率化
- 付加価値の創出
たとえば、発電所を売却して資金化する、発電設備を改修して効率を向上させる、あるいは新たな市場(例:オフサイトPPA)に参入するなどの戦略が考えられます。これにより、長期的な収益を確保することが可能になります。
卒FIT後の発電所を活用する方法
卒FIT後の活用方法は、大きく6つの選択肢があります。
- 太陽光発電所を売却
- 電力会社への売電を継続する
- 新たな電力会社へ売電する
- オフサイトPPAヘ売電する
- 土地所有者へ返還する
- 自家消費へ転換する
それぞれの方法には特徴があり、状況に応じて最適な選択が異なります。
太陽光発電所を売却する
発電所を売却することで、設備維持のコストやリスクから解放されると同時に、まとまった資金を得られます。
メリット
- まとまった資金が得られる
- 維持管理の手間がなくなる
- 将来のリスクから解放される
売却を検討する際は、不動産業者や再エネ関連企業に査定を依頼し、適正価格で売却することが重要です。売却先を見つけやすくするために、発電所の状態や過去の運用実績を明確に示しましょう。
電力会社への売電を続ける
卒FIT後も既存の電力会社へ売電を続けることが可能です。ただし、売電価格は市場連動型になるため、収益の安定性は低下します。 メリット
- 手続きが比較的簡単
- 信頼性のある取引先
- 実績のある取引方法
この選択肢は、他の方法に比べて手間がかからず、設備をそのまま活用できる点が魅力です。短期的な維持を希望する場合に向いています。
新たな電力会社へ売電する
新たな電力会社と契約を結ぶことで、より有利な条件で売電できる可能性があります。一部の企業では、卒FIT後の電力を積極的に買い取るプランを提供しています。
新たな電力会社を選ぶポイント
- 買取価格の条件
- 契約期間の柔軟性
- 追加サービスの有無
- 支払条件の良さ
この方法では、複数の電力会社を比較し、最適な契約条件を選ぶことが重要です。市場調査を行い、契約条件や収益性を詳細に検討しましょう。
オフサイトPPAへ売電する
オフサイトPPA(電力購入契約)は、発電所で生み出された電力を直接企業や施設に販売する仕組みです。この方法により、安定した長期契約を結ぶことが可能です。 メリット:
- 長期的な収入の安定
- 環境価値の活用
- 直接取引による効率化
具体的には、大規模な企業や商業施設と契約を結び、電力を供給します。この方法は、電力市場の価格変動リスクを抑えながら収益を確保する手段として注目されています。
土地所有者へ返還する
土地が賃貸契約の場合、発電所を撤去して土地所有者に返還する選択肢もあります。この方法では、設備撤去費用が発生しますが、その後の維持費や管理費用を削減できます。
土地の返還がおすすめなケース
- 収益性が低下している
- 設備の老朽化が進んでいる
- 土地の活用方法を変更したい
撤去を行う際には、専門業者に依頼し、環境に配慮した手順で進めることが求められます。
自家消費へ転換する
発電した電力を自家消費に転換することで、電気代の削減を実現できます。この方法は、特に事業所や工場を運営する企業に有効です。
メリット:
- 電気代の削減
- エネルギーの自給自足
- 環境への貢献
自家消費に転換する際には、蓄電池を導入することで余剰電力の活用を最適化できます。これにより、昼夜を問わず電力を活用しやすくなります。
太陽光発電所を売却するメリット・デメリット
太陽光発電所を売却するメリットとしては、即時の資金化と管理負担の軽減があります。
そのほか、メリットに加えてデメリットについても解説します。
太陽光発電所を売却する方法
太陽光発電所の売却には、仲介業者を通じた売却や直接売却、オークションでの売却といった方法があります。具体的には、以下の手順を踏むことが一般的です。
- 査定依頼: 発電所の状態や収益実績を元に査定を受けます。
- 買い手の選定: 個人投資家や再エネ企業などを対象に買い手を探します。
- 契約締結: 売却条件を明確にし、契約書を作成します。
売却先の選定や条件交渉はプロに依頼することで、スムーズに進行します。
太陽光発電所を売却するメリット
売却には次のようなメリットがあります。
- 資金の確保: 売却によりまとまった現金を手に入れ、新たな投資に利用できます。
- 管理負担の軽減: 維持管理や修繕コストから解放されます。
- リスクの回避: 天候や市場変動によるリスクを手放せます。
特に、運用に手間をかけられない場合や新たな事業に資金を振り向けたい場合に適した選択です。
太陽光発電所を売却するデメリット
一方で、売却には次のデメリットもあります。
- 継続収益の喪失: 売却後は売電収益がなくなります。
- 手続きの複雑さ: 契約や交渉に時間がかかる場合があります。
- 売却価格の変動: 発電所の状態や市場動向により価格が期待以下になることもあります。
長期的な利益を重視する場合には、他の選択肢と比較検討が必要です。
非FIT電力会社へ売電するメリット・デメリット
これまでとは異なる非FIT電力会社への売電によって、太陽光発電の新たな可能性が広がります。
非FIT電力会社とは
非FIT電力会社とは、FIT制度に基づかない形で電力を買い取る企業を指します。市場価格に基づいて電力を購入するため、価格は固定ではなく変動します。
特徴
- 市場価格での柔軟な取引
- 独自の付加価値サービス提供
- 環境価値の活用提案
非FIT電力会社は、主に電力市場の取引や独自の契約に基づいて電力を買い取ります。
非FIT電力会社へ売電するメリット
非FIT電力会社へ売電する主なメリットは以下の通りです。
- 新たな収益機会: FIT終了後も収益化が可能です。
- 柔軟な契約条件: 契約内容が柔軟で、売電量や期間を調整しやすい場合があります。
- 市場競争による価格向上: 複数の買い手がいるため、競争によって高値で取引される可能性があります。
FIT終了後に新たな収益化手段を模索する場合の選択肢のひとつと言えるでしょう。
非FIT電力会社へ売電するデメリット
デメリットとして、以下の点が挙げられます。
- 価格変動リスク: 市場価格に影響されるため、収益が安定しにくいです。
- 契約の難しさ: 電力会社ごとに条件が異なるため、適切な契約先を選ぶ手間がかかります。
- 運用の複雑さ: 取引の透明性や条件の理解に専門知識が求められる場合があります。
安定収益を重視する方には、他の方法も考慮したほうが良いでしょう。
オフサイトPPAへ売電するメリット・デメリット
企業と直接契約を結ぶオフサイトPPAは、安定性と環境価値の両立が特徴です。
オフサイトPPAの特徴とあわせて、メリット・デメリットを見ていきましょう。
オフサイトPPAとは
オフサイトPPA(電力購入契約)は、発電所で生産された電力を遠隔地の企業や施設に直接販売する仕組みです。この方法では、電力会社を介さず、売り手と買い手が契約を結びます。
特徴
- 長期契約による安定性
- 直接取引によるメリット
- 環境価値の活用
近年、カーボンニュートラルを目指す企業からの需要が高まっています。
オフサイトPPAについてさらに詳しく
オフサイトPPAへ売電するメリット
オフサイトPPAには次のようなメリットがあります。
- 安定収益の確保: 長期契約が可能で、収益が安定しやすいです。
- 市場依存の低減: 電力市場価格に左右されにくいです。
- 企業との連携強化: 環境意識の高い企業との契約により、社会的信用が向上します。
特に、持続可能な収益化を目指す場合に有効な方法です。
オフサイトPPAへ売電するデメリット
一方で、オフサイトPPAには以下のデメリットもあります。
- 初期交渉の手間: 契約交渉が複雑で、条件の調整に時間がかかります。
- 対象企業の限定: 買い手となる企業が限られているため、契約先を見つけるのが難しい場合があります。
- 法的・技術的要件: 契約には法的な規制や技術的な対応が必要です。
この方法を選択する場合は、専門家のアドバイスを受けることが重要です。
新たな収益源の開拓方法
従来の売電以外にも、新しい収益機会が生まれています。
- 非化石価値取引への参加
- VPPビジネスへの参入
FIT制度による太陽光発電の収益に代わる、新たな可能性について解説します。
非化石価値取引への参加方法
非化石価値取引は、再生可能エネルギーや原子力を利用して発電された電力が「非化石エネルギー」であることを証明する「非化石価値証書」を取引する仕組みです。この取引に参加することで、FIT後も発電所の価値を活用し、収益を得ることが可能です。
1. 非化石価値証書の発行登録
非化石価値取引に参加するには、まず自分の発電所を非化石価値証書の発行対象として登録する必要があります。
- 電力会社へ問い合わせ
売電先の電力会社に非化石価値証書の発行登録を依頼します。通常、売電契約に基づいて手続きが進みます。 - 登録手続き
発電量に応じた非化石価値証書が発行されるため、発電データの正確な記録が求められます。
2. 市場取引への参加
非化石価値証書は、電力市場を通じて販売されます。市場取引に参加する方法は次の2つです。
- 直接取引
発電事業者が電力市場(JEPX:日本卸電力取引所)に直接参加して売却します。
ただし、一定の知識や手続きが必要なため、取引経験のない場合は注意が必要です。 - 代行業者を活用
非化石価値取引を代行する専門業者に依頼します。この方法では、手間を軽減しながら収益化が可能です。代行手数料が発生しますが、初心者にもおすすめです。
3. 需要家への販売
近年、企業がカーボンニュートラルの目標達成のために非化石価値証書を購入するケースが増えています。特に再エネ価値を持つ証書(再エネ指定非化石証書)は需要が高まっています。
- 直接契約
カーボンフリーを目指す企業と契約を結び、証書を提供します。直接交渉が必要ですが、高い価格で販売できる可能性があります。 - マーケットを活用
電力市場を通じて複数の需要家に証書を販売します。この方法では、安定的な取引が期待できます。
4. 報酬の受け取り
非化石価値証書の販売収益が、取引条件に基づいて発電事業者に支払われます。報酬額は以下の要素によって決まります。
- 発電量(証書の発行量)
- 市場価格(取引時点の価格に依存)
- 再エネ指定の有無(再エネ証書は高値で取引されることが多い)
非化石価値取引のメリット
- 新たな収益源の確保
卒FIT後の発電所でも収益化が可能になります。 - カーボンニュートラルへの貢献
企業の環境目標達成を支援することで、社会的価値を高められます。 - 取引市場の拡大
非化石価値取引市場は今後さらに需要が増えると予想されています。
非化石価値取引の注意点
- 手続きの煩雑さ
市場取引には一定の知識が必要で、慣れるまで時間がかかる場合があります。 - 市場価格の変動
証書の価格は需要と供給によって変動し、収益が安定しない可能性があります。 - 発電量の記録管理
証書発行には正確な発電量データの提出が必要で、管理体制を整える必要があります。
VPP(仮想発電所)への参入
VPP(仮想発電所)とは、複数の分散型電源(太陽光発電、蓄電池、風力発電など)をネットワークで連携し、1つの発電所として運用する仕組みです。VPPに参入することで、卒FIT後の太陽光発電所でも新たな収益源を得ることができます。
1. VPP事業者の選定
日本国内には多くのVPP運営事業者があり、それぞれ契約条件や報酬体系が異なります。選定の際は以下のポイントを確認しましょう。
- 参加条件(発電量や蓄電設備の有無)
- 報酬モデル(固定報酬型、成果報酬型など)
- サポート内容(設備連携や運用支援)
2. 設備の連携準備
太陽光発電所や蓄電池をVPPに連携するため、以下の準備が必要です。
- 通信機器の設置: 発電所からのデータをVPP事業者へ送信するための装置を設置します。
- システムの設定: 発電設備をVPPシステムに統合するための設定作業を行います。
- 蓄電池の活用(必要に応じて): 電力の需給調整に役立つため、蓄電池を導入しておくと収益が増加する可能性があります。
3. 需給調整への貢献
VPPは、電力需要が急増する時間帯に蓄電池の電力を放出したり、余剰電力を売電するなどして電力需給を調整します。発電所のデータをVPPシステムでリアルタイムに管理することで、この調整に参加します。
- ピークカット: 電力需要が高い時間帯に供給することで報酬を得ます。
- 余剰電力の有効活用: 発電所で余った電力を市場価格に応じて売電します。
4. 報酬の受け取り
需給調整への貢献度や供給した電力量に応じて、報酬を受け取ります。報酬は次のような形で支払われることが一般的です。
- 契約時に決められた固定報酬
- 電力市場価格に基づいた成果報酬
VPP参入のメリット
- 収益の多様化: 発電だけでなく、需給調整による報酬を得られます。
- 柔軟な電力運用: 余剰電力を効率的に活用できます。
- 補助金制度の活用: VPP導入を促進するための補助金や支援策を利用できる場合があります。
VPP参入の注意点
- 初期費用: 通信設備やシステム設定にコストがかかる場合があります。
- 契約条件の確認: 事業者ごとの条件を詳細に確認し、自分の発電所に合ったものを選ぶ必要があります。
- 需給調整リスク: 電力需要が低い場合、報酬が減少する可能性があります。
長期的な収益確保への具体策
FIT制度がある期間だけでなく、その後も見据えた長期的な収益確保のためには、どのような点に注目すべきでしょうか。
今からできること、そしてこれからのために考えておくべきことをチェックしていきましょう。
太陽光発電の20年後を見据えた準備
太陽光発電設備の耐用年数は一般的に20~30年です。そのため、FIT終了後も設備を最大限活用するための準備が必要です。
具体策
- 設備のメンテナンスを定期的に行い、性能を維持する
- 発電効率を上げるためのアップグレード(例: パネル交換や蓄電池導入)を検討する
- 地域や企業と連携して新たな利用方法を模索する
長期的な視点で計画を立てることが収益の安定化につながります。
設備更新時期の見極め方と手続き
設備の更新時期を正確に見極めることは、発電効率を保つために重要です。
見極めポイント
- 発電量の減少(定期的なデータ測定が有効)
- 修繕コストの増加(費用対効果を確認)
- パネルの物理的な劣化
更新手続き
- 専門業者に依頼し、現在の設備状態を評価する
- 必要に応じて補助金を活用し、新設備を導入する
これにより、設備投資の負担を軽減しつつ、長期的な収益を維持できます。
買取価格の動向と今後の展望
卒FIT後の買取価格は、市場価格に依存するため、安定性が失われる可能性があります。しかし、新たな制度や需要の変化による価格上昇も期待されます。
今後の展望:
- 市場の拡大:再生可能エネルギーの需要増加により、売電価格が改善される可能性
- 非FIT市場の発展:より多様な売電先が登場することで選択肢が増加
定期的に市場動向を確認し、柔軟な売電戦略を立てることが重要です。
まとめ
長期的な収益確保には、設備の適切な管理と新たな収益源の模索が鍵。
卒FIT後の太陽光発電所の活用には、さまざまな選択肢があります。
- 現在の設備状態
- 財務状況
- 将来の事業計画
- 運営体制
などを総合的に考え、専門家に相談しながら慎重に検討することをおすすめします。
売却、売電継続、オフサイトPPAなどを比較し、最適な方法を選びましょう。