FTSEとは?ESG投資を牽引する世界的指数の仕組みと影響力を解説

2024年9月、株式会社博報堂DYホールディングスは、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する様々な取り組みが評価されたとして、コーポレートニュースを通して以下の発表を行いました。
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株式会社博報堂DYホールディングス(東京都港区、代表取締役社⻑:⽔島正幸)は、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関するマネジメントや取組み等について優れた対応を行っている日本企業を対象とした指数「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」の構成銘柄に2年連続で選定されました。加えて、「FTSE Blossom Japan Index」「FTSE4Good Index Series」の構成銘柄にも選定されましたのでお知らせいたします。
株式会社博報堂DYホールディングス:コーポレートニュースより引用
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このように、国内でも多くの企業がサステナビリティ経営を目指して具体的な取り組み内容を中期経営計画などに盛り込み、自社のデータ開示を進めています。その活動の過程では、各種機関が発行する環境経営に関する認証取得を行ったり、FTSE Russell(フッツィーラッセル)のようなESG活動の評価機関に自社のESGパフォーマンスを多角的に分析してもらったりしています。サステナブルな活動を評価する代表的な機関として、FTSEの名前を聞く機会が増えてきている、という読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本コンテンツでは、FTSEに関する理解を深めるにあたり、まずはFTESの概要を取り上げ、その後、関連する指数やFTSE Russell ESG Scoresを中心にお伝えしていきます。
FTSEの概要について
FTSE Internatinal,Ltd.(フッツィーインターナショナル)を指しており、イギリスを拠点としているロンドン証券取引所グループ(LSEG)の100%子会社です。経済紙のフィナンシャル・タイムズ(FT)とロンドン証券取引所(LSE)が共同出資により合弁会社として設立し、株価指数、いわゆるインデックスの開発や算出、管理や金融データの提供サービスを行っています。FTSEの存在は、2001年よりESG指数の1つであるFTSE4Good Index Series2001を提供して以来注目を集めており、20年以上にわたって企業のESG情報を扱ったり、企業の公開情報のみを評価の対象にしたりするなどの仕組みが、信頼性と透明性の高さに繋がっている点が特徴です。また、ESG指数の基盤となっているFTSE Russell ESG Scoresにおいても、顧客や機関投資家にとって有用性のあるツールとして、広く認識されています。FTSE ESG指数については本コンテンツの二章で、FTSE Russell ESG Scoresについては四章で、それぞれ詳しく内容を見ていきます。
FTSEの事業ブランドには、先で述べたFTSE Russellがあり、様々な資産クラスの株価指数の算定や運用のほか、金融データや研究・分析サービスを提供しています。その他にも、世界中の機関投資家の投資活動に利用されています。冒頭でもお伝えしたように、FTSE Russellは世界的なESG評価機関の1つとして知られており、現在では先進国及び新興国市場の約7200社、日本では約1400社(2023年8月末時点)が、ESGの評価対象となっています。
また、FTSEと同様に、海外株式に投資を行うにあたりメジャーなインデックスとして、MSCIが挙げられます。MSCIは、Morgan Stanley Capital International, Inc.の略で、アメリカのニューヨークに本拠を置いているニューヨーク証券取引所上場企業を指しています。この2つのインデックスの違いとしては、大きく分けて以下の2つが挙げられます。
インデックス | 特徴 | FTSE | MSCI |
投資対象(国) | 取り扱いの異なる国が、複数存在する。 ⇒例:韓国、ポーランド | (韓国、ポーランドが、) 先進国 | (韓国、ポーランドが、) 新興国 |
投資対象(企業) | 時価総額のカバー率は、FTSEの方が高い。 ⇒時価総額のカバー率: MSCI約85%、FTSE約98% | 小・中型株企業から 大型株企業までの全般 (※小型株企業については、特定の地域が対象。) | 中型株企業と大型株企業 |
このようにインデックスごとに多少の特徴に違いはあるものの、いずれのインデックス・ファンドも低コストで分散投資が可能なため、長期投資に向いている投資商品として多くの投資家に支持をされている傾向にあります。
FTSE ESG指数について
FTSE ESG指数の誕生には、ESG要素を投資プロセスに組み込むことを定めた「責任投資原則(以下、PRIと記載)」が関係しています。PRIへの署名機関数は増加傾向にあるものの、企業の情報開示がまだまだ不十分である点など様々な課題も抱えており、FTSEをはじめとする企業のESGデータを収集し、スコア付けを行うESG評価機関の重要性が高まっている状況です。このように、ESG投資の領域においては、企業のESGパフォーマンスを反映した独自のESG指数が広く用いられており、その選定については企業のESGに関する取り組みをスコア付けした上で、一定の基準を満たした企業を構成銘柄として指数に組み入れるという仕組みになっています。
FTSE ESG指数の誕生の経緯
きっかけ | もたらされた影響 | |
2006年 | 国連が機関投資家に対し、PRIを提唱。 | “ESG”という用語、及びグローバルにおけるESG投資が拡大。 |
2015年 | 「世界最大の機関投資家」と言われている年金積立管理運用独立行政法人(以下、GPIFと記載)がPRIに署名。 | 更にESG投資は注目を集め、拡大。現在、PRIへの署名機関数は5300を超え、その運用資産額は121兆ドルに達している。 |
GPIFによるPRIへの署名が注目を集めた理由としては、ESG指数に組み込まれるということは、機関投資家だけではなく、資金調達が必要となる企業側にとっても、自社のESG課題の解決への後押しに加え、スムーズな資金調達に繋がるといったメリットが明らかとなったためです。例えばGPIFの場合、9つのESG指数を投資先として選定しており(2022年度末時点)、これらのESG指数に関連する運用資産額は合計で約12.5兆円となっています。その中で、FTSEへの投資額は、全体の約1/6を占める2兆320億円程度です。
主要な指数について
FTSE社が算出している代表的な指数には、以下のようなものが挙げられます。
指数 | 概要 |
FTSE100 | ロンドン証券取引所(LSE)における代表的な株価指数であり、欧州でもドイツのDAXやフランスのCAC40と並んで注目されている。LSEに上場する時価総額が大きい100社を対象とし、1983年12月31日の株価を基準値(1,000ポイント)として計算した時価総額加重型指数を表す。FTSE100種総合株価指数とも呼ばれ、ほかにもFTSE250種総合株価指数やFTSE500種総合株価指数などもある。 |
FTSE世界国債インデックス | 先進国国債の動向を表す代表的な指数。 債券投資の際の主要なベンチマークとされており、多くのETF、投資信託がベンチマークとして採用している。 |
FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス | 先進国から新興国まで全世界の株式市場の動きを表している株価指数。大型株から小型株まで網羅しており、約9,000銘柄もの株式から構成されている。 |
FTSEディベロップド・オールキャップ・インデックス | 先進国株式市場全体の動きを表す指数。FTSEディベロップド・オールキャップ・インデックス(円換算ベース)は、FTSEディベロップド・オールキャップ・インデックスをもとに、委託会社が円換算をしている。 |
FTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)・インデックス | 新興国市場の大型株・中型株・小型株を網羅する時価総額加重平均型の株価指数。 |
FTSE Russell ESG Scoresについて
企業の ESG活動の透明性を評価するもので、企業が公表している有価証券報告書や統合報告書、CDPやTCFDなどなの情報をもとに、毎年5点満点で評価されています。このESGスコアは、二章でお伝えしたESG指数への組み入れ基準になっていることからも、ESG投資における重要な指標となっています。また、スコアの採点基準は適宜更新されており、世界でのサステナビリティの動向が反映された内容になっています。例えば、2018年には水資源に関するリスクの高まりを受け、「水の安全保障」の内容を中心に改訂が行われており、2019年には「人権と地域社会」の調査項目が修正されています。
スコアを算出する上での具体的な採点の仕組みとしては、ESGに関係する3つのピラー(環境・社会・ガバナンス)と、その下に存在する14テーマ、さらに細分化された300以上の指標を用いていきます。また各段階においては、潜在的リスクの特定と、リスクへの取り組みの評価という2軸に沿って、ESGパフォーマンスの調査が行われます。潜在的リスクは、14の各テーマに対する企業の事業特性を考慮した影響度合いとして3段階で評価されます。ここでリスクエクスポージャーの程度が判断され、各レベルのリスクについて、十分な対応や取り組みがなされているかどうかを、5段階で評価される仕組みになっています。
内閣府男女共同参画局:平成27年度 女性活躍情報を中心とした非財務情報の投資における
活用状況調査(2.3.3 ESG 情報提供機関)
© https://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/pdf/160331_07.pdf
そして、最終的に算出された5点満点のESGスコアは、ESG指数に組み込まれる銘柄の選定の基準となります。例えば、日本のESG指数であるFTSE Blossom Japan Indexでは、ESGスコアが3.3以上の企業が構成銘柄に選定されます。因みに、2024年6月末にFTSE Blossom Japan Indexへ組み入れされた企業の発表によると、同親指数であるFTSE Japan All Cap Indexの1,426社中、2024年6月時点での新規組み入れ銘柄数は39、構成銘柄数は過去最大の351となりました。特に、今回スコアを4.0以上獲得した組み入れ銘柄の日本企業は、昨年の6月と比べると、102社から129社となっており、2割以上増加した結果となりました。これは、全体的に企業の評価が向上していることを表しています。因みに日本では、スコアが4.5以上の企業は2019年時点で既に全体の5%近くに達しており、上場企業でESG対応が刻々と進められていることが分かります。一方で、テーマ別の平均スコアを見ると、12のテーマで他の先進国の平均を下回っており、まだまだ取り組むべき課題も残っている状況となっています。
このように、FTSEのESGスコアは年々上昇している傾向にあり、海外の企業、例えばフランスやオランダ、イギリスに属する企業の平均スコアは、2019年時点で既に3.5を超えています。従って、主要国全体でESGパフォーマンスの向上が見られていることが分かります。
まとめ
本コンテンツでは、FTSEと関連する周辺情報を理解するために、FTSEの概要ではFTSEとMSCIとの違いを確認し、関連する情報としてはFTSE ESG指数やFTSE Russell ESG Scoresを取り上げ、その仕組みや現状について詳しくお伝えしてきました。
FTSEのESGスコアによる評価を行う上では、対象となる企業が公開している情報を参考にして、リスクの特定と対策が十分になされているかどうかを確認しています。したがって、ESGスコアの向上においてはESG課題への取り組みを強化するだけでなく、適切な情報開示を行うことが必要になります。そのため、自社のESGに関係する多様なデータを適切に開示し報告する上では、TCFDやSASB、GRIスタンダード、といった国際的なフレームワークも併せて、有効に活用していくことが必要です。また、FTSEはESG投資市場において存在感が増していますが、MSCIやS&P Globalなど、他のESG評価機関の動向も理解しておいたほうが良いでしょう。評価の過程では、似たような項目もありますが、評価方法や採点基準の中で異なる部分もあるため、個別の対応が求められる部分もあります。
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