• HOME
  • 記事
  • 基礎知識
  • 「グリーンベルト」から考える環境保護と経済の活性化のバランスについて解説

「グリーンベルト」から考える環境保護と経済の活性化のバランスについて解説

基礎知識

2024年2月、多くの国や地域で自然環境と住環境の保護のために設けられているグリーンベルトですが、韓国政府が地域経済活性化のために非首都圏におけるグリーンベルトの指定を大幅に解除する方針であることが報道され、話題となりました。

無論、やみくもにグリーンベルトの指定を解除する方向に踏み切る訳ではなく、環境保全も考慮して、グリーンベルトの指定が解除される1・2等級の土地と同じ面積の代替地を新たにグリーンベルトに指定することが前提とされています。そのため、現実的なプランとしては、これまで保存価値の高い環境評価1・2等級の場所として原則的にグリーンベルトの指定の解除が認められなかった非首都圏地域について、地域戦略事業に使用する場合には1・2等級の場所もグリーンベルトの指定の解除を認める、というものになります。

今回の事例のように、環境保護と経済の活性化のバランスをどのように維持していくべきか、という観点は、多くの国や地域、企業の主導者にとって重要な課題となっています。

そこで本コンテンツでは、事業者の立場として環境保護に取り組む際に知っておいていただきたい事例の一つとして、グリーンベルトに関する情報をお伝えしていきます。

グリーンベルトとは

大都市周辺の無秩序な開発を防ぐため、公園、緑地、森林、田園など、「開発をしないエリア」をあえて残す都市計画、またはそのエリアのことを表しており、1924年にアムステルダムで開催された国際都市計画会議で提唱されました。

一般社団法人大都市政策研究機構:大ロンドン計画
© https://imp.or.jp/wp-content/uploads/2022/05/special-5.pdf

また同年、カウンティ議会(ロンドン)は、大ロンドン地域でのグリーンベルトの導入に対する検討のための委員会の設置を議決し、議会の公文書において、初めてグリーンベルトという用語が使われました。
当時、ロンドンは過度な人口集中と住環境の悪化という課題を抱えていた一方、地方都市では人口流出と産業の衰退が起きていました。そのため、大都市における際限のない住宅建設と人口流入を抑制することが、このグリーンベルトの導入が検討された背景でした。

このように、経済活動の活性化に伴う環境破壊を防ぐための方法として、グリーンベルトの導入に関する議論は100年以上も前から世界各国で展開されてきました。しかし、日本国内においては、同様の検討は進められてきたものの、当時より思い描かれていた形でのグリーンベルトの実現には至りませんでした。

日本におけるグリーンベルトの歴史と現状について

過去に国内で検討されてきたグリーンベルトの導入に関連する代表的な計画案として、東京緑化計画が挙げられます。しかし、本計画においても、急増する人口には対応できず、グリーンベルトの導入は叶いませんでした。また、戦後の東京における人口の集中は、ロンドンの事例よりも急激なスピードで生じたことに加え、土地の利用を直接規制することができない状況が足枷となり、国内でのグリーンベルトの思想は大きく後退しました。

一方、現在では各自治体ごとに緑化や緑地整備は積極的に進められており、別の形を通して環境保全に対して前向きに取り組まれている状況があります。

<東京緑地計画>
1939年に、東京周辺における緑地帯、景園地等を含む総合的な緑地化を目指した計画です。

国土交通省:建設白書(グリーンベルト構想の歴史)
©https://www.mlit.go.jp/hakusyo/kensetu/h12_2/h12/html/C1Z01000.htm

東京緑地計画の中でも、特に東京のグリーンベルト構想は、大都市の過大な膨張を抑制するために、現在の23区に相当する当時の東京市の外周に、約962,059ha程度のグリーンベルトを設置することを目指したものでした。

この他にも、1945年に策定された東京の戦災復興計画の中では、緑地帯や都市計画緑地、広幅員道路の整備について検討されましたが、ドッジライン(*1)による政府の緊縮財政政策等により、ほぼ実現には結びつきませんでした。

また、1956年の首都圏整備法から始まり、1958年の第1次首都圏基本計画、1965年の首都圏整備法改正、1968年の第2次首都圏基本計画により、度々、市街地とその周辺部分における緑地帯の整備は進められました。その結果、グリーンベルトという命名ではないものの、現在は都内でも、緑地化されたエリアが各所で見られています。

(*1) 日本経済の自立と安定とのために実施された財政金融引き締め政策。主な内容としては、インフレと国内の消費抑制、輸出振興が含まれている。

現存する緑地化の実例について

東京のグリーンベルト構想は実現には至りませんでしたが、東京緑地計画の一部は、現在でも別の形となり残っています。たとえば、世田谷区にある砧公園や、小金井市にある小金井公園、足立区にある舎人公園、葛飾区にある水元公園などが該当します。

公益財団法人東京都公園協会:砧公園
©https://www.tokyo-park.or.jp/park/kinuta/index.html

公益財団法人東京都公園協会:水元公園
© https://www.tokyo-park.or.jp/park/mizumoto/index.html

その他にも、海外(ドイツ)では、自然保護団体であるBUNDが、農業との協働を通じてグリーンベルトの保護に取り組む活動を行ったり(*2)、国内でも、兵庫県南部地震を機に「六甲山系グリーンベルト整備基本方針」が定められたりしています(*3)。

(*2) 参照サイト:ドイツ、農業との協働を通じてグリーンベルトの保護に取り組むBUNDの活動を評価|国立環境研究所
(*3) 参照サイト:グリーンベルトってなに?|六甲砂防

まとめ

本コンテンツでは、グリーンベルトについて、歴史的な背景や国内外の事例紹介を通して理解を深めていただきました。

環境保護や災害対策など、さまざまな目的からグリーンベルトの導入は前向きに評価されるところがある反面、冒頭でご紹介した韓国の事例のように、並行して私たちの暮らしやすさや都市開発を求めて経済活動を活発化させることも重要です。

事業者の皆様にとって、本コンテンツは、環境保護と経済の活性化のバランスをどのように維持していくべきか、改めて考えてみるきっかけとなったのではないでしょうか。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

関連記事一覧