北海道のカーボンニュートラル戦略|企業の脱炭素取り組み事例

このシリーズでは、実際に日本各地で企業により行われている脱炭素やカーボンニュートラルに関連する取り組みを取り上げ、地域に即したカーボンニュートラルを目指す活動についてお伝えしています。今回第2回目として取り上げる都道府県は、「ゼロカーボン北海道」の実現を掲げている北海道です。
「日本のカーボンニュートラル宣言企業一覧と最新動向を解説」、「新潟県のカーボンニュートラル戦略|企業の脱炭素取り組み事例」のいずれのシリーズでもお伝えしたように、日本におけるカーボンニュートラル宣言は、2020年10月の菅内閣総理大臣による所信表明演説においてなされました。一方で北海道においては、この宣言に先駆け2020年3月に鈴木知事より、「ゼロカーボン北海道」が打ち出されています。また、この「ゼロカーボン北海道」は後に、2021年6月に閣議決定された国の骨太方針(※1)に明記されています。
そこで本コンテンツでは、地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する施策、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みへの理解を深めるために、まずは、北海道の温室効果ガスの排出状況と排出構造、今後の方向性について確認していきます。その後、県庁所在である札幌市が目指すべき姿や排出削減における目標値をお伝えし、最後に道内における取り組みの実態について順を追って解説していきます。
(本シリーズは、各自治体や行政機関から公表されている情報を元に作成しております。)
(※1)政権の重要課題や翌年度の予算編成の方向性を示すもの。「ゼロカーボン北海道」に関する内容は、経済財政運営と改革の基本方針2022に記載。


北海道の温室効果ガスの排出状況と排出構造、今後の方向性について
冒頭でもお伝えしたように道内では脱炭素に関わる取り組みが国に先駆けて行われていたため、2021年8月には、一元的な「ゼロカーボン北海道」への取り組みの推進と北海道地域の支援体制の整備を目的に、国においてタスクフォースが設置されました。このように北海道が先導してカーボンニュートラルに向けた取り組みを表明していた背景の1つには、政府が立案・策定しているエネルギー基本計画があります。この計画の中では、カーボンニュートラルの実現にあたり吸収源対策や再生可能エネルギーの活用などの積極的な導入について述べられていますが、道が有する資源や再生可能エネルギーを創り出すポテンシャルが非常に高いため、ここでの取り組みの状況は国全体のカーボンニュートラルの進捗に大きな影響力が及ぶことが予測されている状況です。
例)
森林面積:全国1位(全国の森林面積の約22% ※土地面積も、国土の約22%)
林野庁:森林·林業統計要覧2022のデータより
風力発電導入ポテンシャル:全国1位
太陽光発電導入ポテンシャル:全国1位
中小水力発電導入ポテンシャル:全国1位
地熱発電導入ポテンシャル:全国2位
環境省:再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)のデータより
バイオマス産業都市の数(38市町村):全国1位
農林水産省:2023年1月12日時点のデータより
道内の温室効果ガスの排出状況としては、基準年としている2013年度以降、森林等吸収量を加味した合計で見ても全体的に減少傾向にあります。また、下図でもお示ししているように、中期目標としては2013年度比で48%(3,581万t-CO2)の削減を掲げ、長期目標としては温室効果ガスの排出量と森林等による吸収量をイコールにすることで実質的な温室効果ガスの排出を0にすることを目指している状況です。
北海道HP:ゼロカーボン北海道推進計画[改定版]
© https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/zcs/ontaikeikakukaitei.html
また、エネルギー使用量の経年変化を確認すると、2013年度以降、エネルギー使用量の合計値は減少傾向にあり、道民の節電意識の高まりや機器などの省エネルギー化への取り組みなどが起因していることが考えられています。因みに、2021年度におけるCO2排出量(4部門の合計値)に一時的な増加が見られていますが、これは新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んでいた経済活動の回復等が要因として推測される(※2)旨が、「令和4年度(2022 年度) ゼロカーボン北海道の実現に向けた取組に関する年次報告」の中で記載されています。
北海道HP:ゼロカーボン北海道推進計画に基づく 令和4(2022)年度の施策等の実施状況 の評価に係る資料
© https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/1/1/0/7/1/1/1/6/_/02_%E8%B3%87%E6%96%99%E7%B7%A8.pdf
このような背景のもと掲げられている「ゼロカーボン北海道」は、カーボンニュートラルの実現のみならず、経済の活性化を両輪とする持続可能な社会づくりへの挑戦として考えられており、2022年11月に鈴木知事により経済発展の起爆剤として、「北海道データセンターパーク」も打ち出されています。この「北海道データセンターパーク」は、北海道の豊富な再生可能エネルギーを活用して、省エネ・カーボンニュートラルのデータセンター、そのデータセンターを利用するデジタル関連企業、デジタル関連人材、以上3つの集積を目指すものとなっています。そして、北海道が独自で抱える、全国より10年早い人口減少や過疎化などの社会課題の解決や道内経済の活性化と雇用創出を実現し、冷涼な気候や首都圏等との同時被災リスクの低さといった優位性を活かしながら、国全体への経済安全保障へ貢献することも検討されています。
国土交通省:vol.49 日本を支える豊かな大地!共に北海道の未来を創る!
© https://www.magazine.mlit.go.jp/interview/vol49-b-2/
したがって、北海道ではカーボンニュートラルに対する今後の方向性としては、2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロをめざすという長期的な視点を持ちながら、道の特徴や優位性を活かし、社会システムの脱炭素化、再生可能エネルギーの最大限の活用、そしてCO2吸収源の確保を重点的に進める取り組みと位置付け、道民や事業者などの各主体とともに積極的に推進していく指針を示しています。
北海道HP:ゼロカーボン北海道推進計画[改定版]
© https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/zcs/ontaikeikakukaitei.html
(※2)地球温暖化対策推進本部から出されている「2021年度における 地球温暖化対策計画の進捗状況」の中でも、2021年度の温室効果ガスの排出量は国全体としても同様の理由から増加していることが発表されています。
札幌市が目指すべき姿や排出削減における目標値について
道の中心都市である札幌市もまた、世界に誇れる環境都市を目指して、2008年に「環境首都・札幌」を宣言しています。その他にも市の取り組みとしては、2020年2月に、市内から排出される温室効果ガスを2050年に実質ゼロにする「ゼロカーボンシティ」を目指すことを発表し、2021年3月に策定した「札幌市気候変動対策行動計画」では、2050年のあるべき姿として、「心豊かにいつまでも安心して暮らせるゼロカーボン都市『環境首都・SAPP‿RO』」を掲げるとともに、2030年に市内の温室効果ガス排出量を2016年比で55%削減することを目標としています。そこで、この目標達成に向けて、市では徹底した省エネルギー対策、再生可能エネルギーの導入拡大、移動の脱炭素化など、大きく5つの施策に基づく取り組みを進めている状況です。
環境省:「心豊かにいつまでも安心して暮らせるゼロカーボン都市」を実現するために。
「環境首都」を目指す札幌市の取組を紹介します。
© https://ondankataisaku.env.go.jp/re-start/interview/62/
また、今後の取り組みの一つとして、積雪による寒冷な地域特性をカバーするためにも、道内自治体との連携による再エネ電力利用拡大の取り組みを検討しており、太陽光発電設備の導入促進にあたり、「再エネ機器導入初期費用ゼロ事業補助金制度」や「自家消費型太陽光発電設備導入補助金制度」の推進なども行っています。
札幌市 環境局環境都市推進部環境政策課:ゼロカーボン都市 「環境首都・SAPP‿RO」を目指して
-産学官による積雪寒冷地モデルの構築-
© https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/assets/preceding-region/2nd-teiansyo-01.pdf
<特徴>
- 市内で排出された温室効果ガス排出量の内訳としては、CO2が約98%を占める。
- CO2素排出量の部門別内訳では、積雪寒冷地のため家庭における暖房エネルギー消費が多く、また、第3次産業中心の産業構造であることなどから、家庭部門や業務部門における排出量 が多い。運輸部門も合わせて3部門で全体の約9割となっている。
- エネルギー種別の内訳では、電力が約5割を占め、灯油、ガソリンの順となっている。
道内における取り組みの実態について
「ゼロカーボン北海道」の実現に資する取り組みを宣誓して実践する事業者のことを「ゼロカーボン・チャレンジャー」と命名し、温室効果ガス排出量の削減に向け率先した取り組みや温室効果ガス排出量の算定・報告、電気自動車の導入や再エネ由来電力の調達などの取り組みを選択・実践を宣誓する仕組みを整えています。ゼロカーボン・チャレンジャーを目指すにあたり求められる項目は、14種類あります。その中で、(1)、(2)を含む3つ以上の項目を選択し、実践していく必要があります。
番号 | 項目 | 取り組み内容 |
(1) | 必須 | 北海道地球温暖化対策推進計画で掲げる道の目標の達成に貢献する取組の率先実施 |
(2) | 必須 | 温室効果ガス排出量の算定と道への報告 |
(3) | 選択 | テレワークなどICTの活用による事務所の省エネや移動に伴うCO2の排出抑制 |
(4) | 選択 | 工場、事業場における省エネ型生産機械等の導入 |
(5) | 選択 | 設備のエネルギー使用を効率的に管理するエネルギーマネージメントシステムの導入 |
(6) | 選択 | トラック輸送の共同化など物流効率化 |
(7) | 選択 | 施設の新築、改築の際のZEB化 |
(8) | 選択 | 電気自動車や燃料電池車の導入 |
(9) | 選択 | 風力や太陽光など再生可能エネルギー由来電力の調達 |
(10) | 選択 | バイオマスや地中熱などの再生可能エネルギーによる熱利用 |
(11) | 選択 | 使い切りプラスチック製品の使用抑制、適正処分 |
(12) | 選択 | 敷地内緑化の取組 |
(13) | 選択 | 植樹などの森林整備、保全活動 |
(14) | 選択 | 従業員への環境教育や人材育成の実践 |
直近のゼロカーボン・チャレンジャー事業者の実態としては、以下のようになっています。ご覧いただきますと、エリアごとをみても、業種ごとをみても、大きく登録状況に偏りがあることが分かります。特に業種においては、登録されている製造業やサービス業の種類は多いものの、圧倒的に総合工事業における登録数が多い状況です。
※いずれも、「【R6.10.1】ゼロカーボン・チャレンジャー事業者一覧」の資料をもとに、筆者で集計・分析を行っております。
- 【R6.10.1】ゼロカーボン・チャレンジャー事業者一覧
URL: https://hokkaido-kankyo.com/
登録年度 | 事務所数 |
2022年 | 558 |
2023年 | 77 |
2024年 | 42 |
※初回登録日をもとに算出
今回ご紹介したゼロカーボン・チャレンジャー以外にも、公益財団法人 北海道市町村振興協会が作成している「このマチの脱炭素物語。」という冊子の中では、自治体の担当者や企業担当者へのインタビューを交えながら、省エネや再エネに対する実際の取り組み、活動開始の背景やスムーズに進めるコツなどが掲載されております。ご興味のあるかたは、こちらも併せてご覧ください。
- このマチの脱炭素物語。(公益財団法人 北海道市町村振興協会)
URL:https://do-shinko.or.jp/zerocarbon/common/images/top/top_pdf.pdf
まとめ
本コンテンツでは、地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する施策、またそこで展開されている企業の取り組みへの理解を深めるために、県全体⇒市全体⇒企業単位の順に、カーボンニュートラルに対するそれぞれの立場からのかかわり方について、具体的な目標や取り組み事例をもとにお伝えしてきました。
次回は、愛媛県に関する地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する取り組み、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みを紹介していく予定です。
本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

