昆明・モントリオール生物多様性枠組を徹底解説:企業の取り組みと国際目標への貢献

法改正やルール

2023年12月末、経団連と経団連自然保護協議会は「企業の生物多様性への取り組みに関するアンケート調査結果概要(2022年度調査)」を公表しました。調査の目的としては、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)や自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)などの国際動向等に照らした、各社およびわが国の経済界の取組状況ならびに取組上の課題や解決策について、情報を収集し、分析することが挙げられています。また、調査結果としては、以下の4点が明らかにされました。

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(1) 2019年度調査と比べ、より多くの企業で「生物多様性の主流化」が進んでいる。

(2) 既に多くの企業で、GBFに貢献する活動が進められている。

(3) TNFDへの対応に関し、多くの企業がLEAPアプローチの初期段階を行うにとどまっているが、さらに進んだ取り組みを行っている企業も複数存在している。

(4) 経営面において生物多様性への取組が重視されつつある中、取組みに当たっての技術面での課題が顕在化している状況がみてとれる。

一般社団法人 日本経済団体連合会 経団連自然保護協議会:
企業の生物多様性への取組に関する アンケート調査結果概要 <2022年度調査>より引用

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そこで本コンテンツでは、上記の結果(2)で取り上げられている昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)に関する理解を深めるために、まずは昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の概要や関連するグローバルターゲット、その前身となる愛知目標について学び、最後に国内の活動として進められている「生物多様性ビジネス貢献プロジェクト」について紹介していきます。

昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の概要について

Global Biodiversity Frameworkの略で、2022年12月にカナダのモントリオールにて開催された、第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)の中で採択された新たな国際目標の一つです。「自然と共生する世界」というビジョンのもと、遅くとも2020年(一部、2015年も含む)までに、20の個別目標と5つ(A-E)の戦略目標の達成を目指すべく設定されていた「愛知目標」に代わり、2030年までに達成すべき短期的な国際目標として、23個のグローバルターゲットが盛り込まれました。愛知目標については、3章で詳しく紹介していきます。

環境省:昆明・モントリオール生物多様性枠組-ネイチャーポジティブの未来に向けた2030年世界目標-
© https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/kmgbf_pamph_jp.pdf

この新たな枠組として締結された昆明・モントリオール生物多様性枠組(以降、GBFと記載)は、2050年ビジョン、2030年ミッション、2050年グローバルゴール、2030年グローバルターゲット、及びその他の関連要素から構成されています。それぞれの内容は、以下のようになっています。

構成要素具体的な内容
2050年ビジョン自然と共生する世界
具体的には、「2050年までに、生態系サービスを維持し、健全な地球を維持し全ての人に必要な利益を提供しつつ、生物多様性が評価され、保全され、回復され、賢明に利用される」状態を目指すビジョンとなっています。
2030年ミッション(人々と地球のために)自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる
具体的には、「必要な実施手段を提供しつつ、生物多様性を保全するとともに持続可能な形で利用すること、そして遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分を確保すること」が、ミッションを実現するためのアクションとして定められています。
2050年グローバルゴールA-Dまでの4つの長期的なゴールが設定されています。これらのゴールは、「生物多様性の保全」、「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」、「遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分」という生物多様性条約の三つの目的を踏まえたもので、自然の回復力を高め、生物多様性の損失を反転させることを目指しています。ゴールの概要は、以下の通りです。
(ゴールA)生態系と種の保護や強化、回復
(ゴールB)持続可能な利用及び管理と自然の寄与の強化
(ゴールC)遺伝資源の公正な利益配分
(ゴールD)資金と、本枠組を実施するための手段の確保
2030年グローバルターゲット日本が特に重視している30by30(※1)や自然を活用した解決策などの要素に加え、進捗を明確にするために8個の数値目標が盛り込まれています(※2)。23個のターゲットは、以下の3つの柱に大別されます。
(1) 生物多様性への脅威を減らす
(2) 人々のニーズを満たす
(3) ツールと解決策
その他の関連要素実施支援メカニズム及び実現条件/責任と透明性(レビューメカニズム(※3))/広報・教育・啓発・取り込み 他

(※1)2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)というゴールに向け、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標。
(※2)GBFについて、2022年6月のナイロビ会合(OEWG4)からの主な変更点は、以下の通りです。

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①2030 年マイルストーンの削除(ゴールにおいても 2030 年時点の状態目標が削除された)

②数値目標の変化 

ゴール・ターゲットにおける数値目標の数(1 次ドラフト→新枠組) 

- 2050 年ゴール 5個→2個

- ターゲット 9個→8個 

劣化生態系の再生に係る数値目標が 20→30%に引き上げられた 

ターゲット 23(ジェンダー)の追加

環境省:昆明・モントリオール生物多様性枠組を踏まえた 次期生物多様性国家戦略素案からの目標案の更新・修正(資料2-1)より一部引用

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(※3)新たな枠組の進捗をモニタリング・評価する仕組みとして採択されており、これまでの目標よりも更に実効性を高めることが狙いとされています。

2030年グローバルターゲットについて

1章でもお伝えしたように、GBFの中で定められた2030年グローバルターゲットは、3つの柱に沿って23個の項目に分かれています。そこで、ここでは環境省が発表している「生物多様性条約 COP15 の主要な決定の概要」の資料の中で、GBFの主なターゲットの概要として取り上げられているターゲット3、ターゲット6、ターゲット8、ターゲット15の4つのターゲットについて詳しく紹介していきます。

(1) 生物多様性への脅威を減らす
ターゲット3「30by30」/保護地域及びOECM

▶ポイント:本目標は、「30by30」として知られている目標です。日本は、GBFの合意に先立ち、G7の一員として自国での30by30の目標達成を約束して、国際的にもリーダーシップを発揮してきました。「30%」という数字は、生物多様性や生態系サービスを確保するために必要とされる数字です。30by30ロードマップに盛り込まれた各種施策を実効的に進めていくための有志連合として発足した、「生物多様性のための30by30アライアンス」は、多くの団体や自治体、企業からの参加を募集している状況です。

ターゲット6侵略的外来種対策

▶ポイント:侵略的外来種は、生物多様性損失の5つ目の直接要因として位置づけられています。また、人間の福利や社会経済にも影響を与え、多大な経済的コストをもたらすことも想定されています。そのため、侵略的外来種の導入防止や、導入経路の把握、経路の監視が重要と考えられています。

ターゲット8気候変動対策(含,NbS/EbA)

▶ポイント:気候変動は、生物多様性損失の直接要因の3番目にあたります。そのため、気候変動対策と自然生態系の保全を一体的に進めるような取組に注目が集まっています。例えば、森林やマングローブ林等の吸収源の保全・再生や、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)など、生態系を活用したアプローチとしてNbS(Nature-based Solutions)やEbA(Ecosystem-based Approach)は、気候変動に対する緩和及び適応に貢献しています。

(2) 人々のニーズを満たす
(該当なし)
(3) ツールと解決策
ターゲット15ビジネスの影響評価・開示

▶ポイント:生物多様性の危機は、企業や金融機関の生物多様性への配慮が不十分な事業活動や投資によって引きおこされることがあると考えられています。また、企業にとっても操業リスクとなりえます。そのため、企業や金融機関が、事業活動やバリューチェーン、ポートフォリオ上のどこで、どのように生物多様性に依存し、影響を与えているのかを正確に把握して、適切な形でレポートすることで、政策上の様々な措置で奨励したり、企業の価値を創造したりしていくことを目指しています。

愛知目標について

戦略計画2011-2020の中では、2050年までに「自然と共生する世界」を実現することをビジョンとして掲げ、2020年(一部、2015年も含む)までに生物多様性の損失を止めるための効果的かつ緊急の行動を実施することをミッションとし、20の個別目標としてこの「愛知目標」が提唱されました。愛知目標(※4)は、生物多様性条約全体の取組を進めるための枠組みとして位置づけられており、各国が今後、生物多様性の状況や取組の優先度に応じて国別目標を設定し、各々の国家戦略の中に組み込んでいくことが求められました。そして、続くCOP11(インド・ハイデラバード)においても、それらの戦略目標に沿う形で国家戦略の改定を行うよう要請されています。

環境省:戦略計画2011-2020と愛知目標(戦略計画2011-2020のビジョンとミッション)を元に筆者作成

また、愛知目標の国際的な達成状況としては、2020年9月に「地球規模生物多様性概況第5版(GBO5)では、以下のように述べられています。

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  • ほとんどの愛知目標についてかなりの進捗が見られたものの、20の個別目標で完全に達成できたものはない。
  • 達成できなかった理由として、愛知目標に応じて各国が設定する国別目標の範囲や目標のレベルが、愛知目標の達成に必要とされる内容と必ずしも整合していなかった。
  • 2050年ビジョン「自然との共生」の達成には、生物多様性の保全・再生に関する取組のあらゆるレベルへの拡大、気候変動対策、生物多様性損失の要因への対応、生産・消費様式の変革及び持続可能な財とサービスの取引といった様々な分野での行動を、個別に対応するのではなく連携させていくことが必要。

環境省:第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する取組より一部引用

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(※4)愛知目標は、ポスト2010年目標(2011-2020年)とも呼ばれており、COP10が愛知県名古屋市で開催されたことがきっかけとなっています。

「生物多様性ビジネス貢献プロジェクト」と具体的な事例、参画中の企業について

2020年11月、環境省と経団連で立ち上げたプロジェクトとなります。多くの企業が昆明・モントリオール生物多様性枠組の各目標の達成に寄与する技術、製品・サービスを有しているため、このプロジェクトを通じて、生物多様性の保全に寄与する優れた取組を国内外に戦略的に発信していくことを目指しています。

環境省と経団連により発信されている本プロジェクトのプロモーション動画の中では、以下のようなターゲットに対する具体的な貢献事例が紹介されています。

▶ターゲット2:劣化した生態系の20%を再生・復元

例)鉄鋼スラグを利用し海岸域の藻場再生

▶ターゲット3:陸域/海域の重要地域を中心に30%保全

例)ICT技術を活用した森林の保全・管理
例)環境DNAの技術による河川生態系のモニタリング

▶ターゲット4:野生生物との軋轢回避を含め、生物種と遺伝的多様性の回復·保全のために行動

例)AI音声解析ソフトウエアを開発し絶滅危惧種の鳥類を保全

▶ターゲット20:啓発、教育、研究により、重要な情報が生物多様性管理の意志決定を先導の確保

例)市民参加型の自然教育の場を提供するプロジェクト

また、生物多様性ビジネス貢献プロジェクトに関するHP上では、参画している企業名も一覧にて紹介されています。

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あいおいニッセイ同和損害保険株式会社|株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ|旭化成株式会社|アサヒユウアス株式会社|アズビル株式会社|株式会社アレフ|株式会社イトーキ|ANAホールディングス株式会社| ANAあきんど株式会社|株式会社エヌ・ティ・ティ・データ|株式会社NTTデータグループ|株式会社NTTドコモ|株式会社NTT PCコミュニケーションズ|MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社|王子ホールディングス株式会社|株式会社大林組|カゴメ株式会社|キリンホールディングス株式会社|KDDI株式会社|株式会社小松製作所 |サントリーホールディングス株式会社|JFE ホールディングス株式会社|株式会社 滋賀銀行|清水建設株式会社|株式会社SynecO|一般社団法人SWiTCH|株式会社スマイリーアース|住友大阪セメント株式会社|住友化学株式会社|住友商事株式会社|住友林業株式会社|セイコーエプソン株式会社|積水化学工業株式会社|積水ハウス株式会社|損害保険ジャパン株式会社|大和ハウス工業株式会社|第一生命ホールディングス株式会社|株式会社 大気社|大成建設株式会社|太平洋セメント株式会社|武田薬品工業株式会社|株式会社 ダスキン|中部リサイクル株式会社|東急株式会社|東京海上日動火災保険株式会社|東洋ライス株式会社|トヨタ自動車株式会社|日本ガイシ株式会社|日本工営株式会社|日本製鉄株式会社|日本電気株式会社|日本郵船株式会社|農林中央金庫|株式会社 バイオーム|パナソニックホールディングス株式会社|東日本旅客鉄道株式会社|株式会社日立製作所|富士通株式会社|二子玉川ライズ協議会|株式会社みずほフィナンシャルグループ|三井住友海上火災保険株式会社|三井住友信託銀行|三井住友トラスト・ホールディングス株式会社|三井物産株式会社|三井不動産株式会社|三菱ケミカルホールディングス|三菱地所株式会社|三菱電機株式会社|株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ|楽天グループ株式会社|一般財団法人リモート・センシング技術センター|株式会社ローソン

(2024年9月17日時点)
環境省:生物多様性ビジネス貢献プロジェクトより引用

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まとめ

本コンテンツでは、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)について、前身となる愛知目標と併せて解説してきました。また、この新たな枠組をふまえ、国内で行われている生物多様性の保全に寄与する取組の一部とそれらのプロジェクトに参画している国内企業についても紹介してきました。

冒頭でもお伝えした「企業の生物多様性への取り組みに関するアンケート調査結果概要(2022年度調査)」の中では、「貴社の事業活動や情報公開において、気候変動と生物多様性を関連づけて取組まれていますか。」という問いに対し、252社中151社が「生物多様性への対応が進んでいない」と回答した結果も出ています。このように、生物多様性への取組が重視されつつある中で、まだまだ国内企業においても多くの課題が残っている現状があります。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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