長期脱炭素電源オークションとは?メリット・デメリット、今後の展望を解説

再生可能エネルギーの普及促進と安定供給を両立させる新たな制度として期待される長期脱炭素電源オークション。 本コンテンツでは、再エネ事業者や電力会社が知っておくべき制度の概要からメリット・デメリットまで、専門家の視点から徹底解説します。 FIP制度や容量市場との違いから入札のポイント、落札結果の分析まで、ビジネスチャンスを掴むために必要な情報を網羅。 脱炭素社会の実現に向けた長期脱炭素電源オークションの役割とは?その仕組みと展望を、わかりやすく解説していきます。
目次
長期脱炭素電源オークションの概要
長期脱炭素電源オークションは、再生可能エネルギーなどの脱炭素電源を長期的に確保するための制度です。 容量市場の一部として位置づけられ、脱炭素電源への新規投資を促進します。 そんな長期脱炭素電源オークションの概要について、詳しく見ていきましょう。
オークションの目的と背景
従来のFIT制度では国民負担が増大し、市場価格に左右されない安定的な再エネ導入の仕組みが必要でした。 そんななか、2050年のカーボンニュートラル達成を見据えて登場したのが長期脱炭素電源オークションです。 脱炭素型の電源開発を後押しするために設けられた制度で、従来の化石燃料による発電から、水素・アンモニアといった次世代エネルギーや再生可能エネルギーへの転換を促進します。 新たな発電設備の整備を支援することで、温室効果ガスの排出削減と電力の安定供給を両立させることを目的としています。
これにより、再エネ事業者には長期的な収入の安定化がもたらされ、投資の予見可能性が高まります。
長期脱炭素電源オークションの仕組みをわかりやすく
長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源による供給力の確保と投資促進を目的とした、競争入札制度です。
主な流れ
段階 | 概要 |
容量市場での募集 | 電力広域的運営推進機関が、どのくらいの供給力を必要としているかを公表し、発電事業者から入札を募る |
事業者が価格を入札 | 脱炭素電源の発電事業者は、供給力確保のためのコスト(円/kW/年)を提示 |
落札者の決定 | 応札価格の低い順に募集量を満たすまで落札され、各落札者ごとに応札価格が約定価格となる(マルチプライス方式) |
容量確保契約の締結 | 落札者は、広域機関と容量確保契約を結び、原則20年間、容量確保契約金額を受け取る |
重要なポイントは、この制度が「容量市場」の一部であることです。電力量(kWh)ではなく、将来の供給力(kW)を取り引きします。
他の取引市場との違い
長期脱炭素電源オークションと他の電力関連制度との主な違いは以下の通りです。
制度 | 目的 | 対象 | 期間 |
長期脱炭素電源オークション | 脱炭素電源の新規開発促進 | 新規の脱炭素電源 | 原則20年間 |
FIP制度 | 再エネの市場統合 | 再生可能エネルギー | 制度により異なる |
容量市場(メイン) | 供給力確保 | すべての電源種 | 4年後の1年間 |
非化石価値取引市場 | 非化石価値の取引 | 非化石電源 | – |
FIP制度が市場価格にプレミアムを上乗せする仕組みであるのに対し、長期脱炭素電源オークションは容量確保の対価として固定収入を提供します。 また、容量市場のメインオークションが短期的な供給力確保に焦点を当てているのに対し、長期脱炭素電源オークションは長期的な脱炭素電源の開発を促進します。
長期脱炭素電源オークションの流れ
公募開始から落札決定までの流れ
オークションの一般的な流れは以下の通りです。
- 公募要領の発表
- 参加登録
- 入札
- 審査・評価
- 落札者決定
- 容量確保契約締結
入札から落札決定までは通常数か月かかります。 落札後は、設備の建設・運転開始までの期間が設けられており、大規模な案件では数年の準備期間が認められています。
対象となる電源
長期脱炭素電源オークションの対象となる電源は、主に以下のものです。
区分 | 対象電源 |
新設・リプレース | 太陽光発電、風力発電(陸上・洋上)、地熱発電、水力発電、バイオマス発電、原子力発電、水素発電、蓄電池・揚水 |
既設火力の改修 | CO2排出削減に向けた改修(水素混焼、アンモニア混焼など) |
特例措置(2023-2025年度) | LNG専焼火力(脱炭素化計画を含む) |
基本的に、脱炭素電源や脱炭素のための改修を行う火力発電が対象です。
入札資格
▼入札資格
- 国内法人(日本の法律に基づいて設立され、日本国内に本店又は主たる事務所を持つ法人)
- 自らが維持・運用する電源等を用いて本オークションに応札する意思がある
海外の企業単独では入札に参加できませんが、日本国内に特別目的会社(SPC)を設立したコンソーシアムであれば海外企業でも参加可能です。
https://www.whitecase.com/insight-alert/japan-long-term-decarbonization-power-source-auction
入札方法
オークションは、電子入札システムを通じて行われます。
入札項目 | 内容 |
入札価格 | 供給力確保のための費用(円/kW/年) |
入札容量 | 発電所の設備容量を入札(kW単位) |
長期脱炭素電源オークションのメリット
この制度には、再エネ促進や経済性向上などさまざまなメリットがあります。
再生可能エネルギー導入促進への貢献
長期脱炭素電源オークションの最大のメリットは、再生可能エネルギーの導入を加速させる点です。 長期的な収入が保証されることで、事業者は投資判断がしやすくなります。 特に初期投資が大きい洋上風力などの大型プロジェクトでは、この制度によって事業の予見可能性が高まり、より多くの投資を呼び込むことが期待されます。
電力コスト削減の可能性
この制度によって競争原理が働き、発電コストの低減が期待できます。 入札方式により、もっとも効率的な発電事業者が選ばれるため、全体としての発電コストが下がる可能性があります。
供給安定性向上への期待
長期脱炭素電源オークションは、電力の安定供給にも貢献します。 再エネの大量導入による系統安定性への懸念がありますが、この制度では安定供給への貢献度も評価項目となっています。 蓄電池との組み合わせや調整力の提供なども評価され、再エネの課題である出力変動への対策も促進されます。
長期脱炭素電源オークションのデメリット
一方で、いくつかの課題や懸念点も指摘されています。
電気料金への影響
この制度のデメリットに挙げられるのが、国民負担が発生する可能性がある点です。 長期脱炭素電源オークションの財源は、小売電気事業者などが負担する容量拠出金で賄われており、最終的に電気料金に転嫁される場合もあります。
市場価格への影響
長期脱炭素電源オークションが大規模に実施されると、電力市場への影響も懸念されます。 再エネが大量に市場に供給されることで、特に晴れや風が強い日には市場価格が大幅に下落する可能性があります。 これは「カニバリゼーション効果」と呼ばれ、再エネ事業者自身の収益性にも影響を与える場合があります。
事業リスク
発電事業者にとっても、いくつかのリスクが存在します。
運転開始遅延リスク
- 建設コスト上昇や許認可の遅れなどで計画通りに進まない可能性
発電量予測リスク
- 実際の発電量が予測を下回るリスク
運営コスト増加リスク
- 長期間の運営中に修繕費などが想定以上に増加するリスク
特に20年という長期間の契約では、将来のコスト変動予測が難しく、事業者にとって大きな挑戦となります。
第1回長期脱炭素電源オークションの結果分析
第1回の長期脱炭素電源オークションは2024年1月に実施され、2024年4月26日に結果が公表されました。
全体の結果概要
- 総約定容量:976.6万kW
- 脱炭素電源:401.0万kW(募集容量400万kW)
- LNG専焼火力:575.6万kW
- 蓄電池の応札:455.9万kW(落札容量109.2万kW、落札率24%)
新設やリプレース案件についてはほぼ全ての容量が約定しました。特に蓄電池への応札が集中し、激しい競争となったことが特徴的でした。
参加企業の動向
蓄電池以外の電源では、入札した電源の大半が落札できたのに対し、蓄電池は限られた募集枠を巡る激しい競争となりました。 事業者の属性は、既存の大手電力会社系だけでなく、独立系発電事業者(IPP)や新規参入の事業者も落札しており、制度が新規参入を促進する効果を示しています。
長期脱炭素電源オークションの今後の展望
第2回オークションの結果
第2回オークション(2024年度応札)は2025年1月に実施され、2025年4月28日に結果が公表されました。
- 脱炭素電源の募集量:500万kW(第1回は400万kW)
- 蓄電池の落札:27件・137万kW
第1回の経験を踏まえ、蓄電池の最低入札容量が3万kW以上に引き上げられるなど、制度の改善が図られました。
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/system_review/pdf/103_03_03.pdf
制度改正の可能性
今後予想される制度改正のポイントは以下の通りです。
評価基準の見直し
- 地域貢献や系統安定化への貢献などの評価比重拡大
入札上限価格の調整
- 技術革新や市場状況に応じた調整
対象電源の拡大
- CCS(CO2回収貯留)付火力
- 長期エネルギー貯蔵システム
- 原子力発電の安全対策投資
蓄電池や水素など、次世代技術への期待
今後は、単独の発電設備だけでなく、以下のような技術との組み合わせが重要になるでしょう。
- 蓄電池併設型の再エネ
- グリーン水素製造との連携
- VPP(仮想発電所)技術の活用
特に蓄電池との組み合わせは、変動する再エネの課題を解決する手段として期待されており、今後のオークションでは評価が高まる可能性があります。
容量市場との連携
長期脱炭素電源オークションと容量市場の連携も課題です。 両市場に参加することによる収益構造の適正化や、電力システム全体の中での各市場の役割分担の整理が進むことが期待されます。
まとめ
長期脱炭素電源オークションは、日本のエネルギー転換を加速させる重要な制度です。 再エネ事業者には長期的な収入安定化をもたらし、国にとっては計画的な脱炭素化の推進が可能になります。
第1回・第2回オークションの結果を受け、制度の改善が継続的に進められています。 特に蓄電池や次世代技術との連携により、再エネの課題である変動性の問題解決に向けた取り組みが加速するでしょう。
事業者の皆さんは、オークションの動向を注視し、戦略的な参加検討を進めることをお勧めします。 日本のエネルギー転換と脱炭素化を支える重要な仕組みとして、長期脱炭素電源オークションの役割は今後ますます大きくなることでしょう。

