ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)とは? 仕組み・技術・事例を徹底解説

地球温暖化の進行やエネルギーコストの高騰といった課題を背景に、建物のエネルギー消費を大幅に削減し、再生可能エネルギーで賄う「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」が注目を集めています。
ZEBとは、断熱・省エネ・創エネを高度に組み合わせ、建物単位でエネルギー収支をゼロに近づけることを目指す建築手法であり、脱炭素社会の実現に向けた重要な柱とされています。環境性能の高さに加え、光熱費の削減、快適な居住性、資産価値の向上など、ビジネス面でも多くのメリットがあります。
本コンテンツでは、ZEBの定義や仕組み、導入の流れから、最新技術や国内外の先進事例、導入における費用対効果や補助制度までを徹底解説。ZEBを通じたサステナブルな未来への第一歩を、一緒に学んでいきましょう。
目次
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)とは?
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)とは、「建物で消費するエネルギーを、再生可能エネルギーの導入や省エネ技術を活用して実質ゼロにする」ことを目指したビルのことです。エネルギー消費量を徹底的に削減し、同時に太陽光発電などでエネルギーを創り出すことで、最終的な年間エネルギー収支をゼロにします。ちなみに、ZEH(Net Zero Energy House)は一般住宅でのGHG排出量の採用基準であり、ZEBよりも定義は緩やかです。
ZEBの定義
日本では、経済産業省がZEBを以下のように定義しています
ZEB | 年間の一次エネルギー消費量の100%以上を削減(実質ゼロ) |
Nearly ZEB | エネルギー消費量を75%以上削減 |
ZEB Ready | エネルギー消費量を50%以上削減 |
ZEBは、持続可能な社会やカーボンニュートラルの実現に貢献する新しい建築モデルとして注目されています。
引用 環境省『ZEB普及状況や公共建築物のZEB化の課題』
https://www.env.go.jp/earth/zeb/news/pdf/zebseminar_Basic_Chapter2.pdf
ZEBの特徴とメリット
ZEBの特徴
- 高断熱化
建物の断熱性能を高めて冷暖房エネルギーを削減。
- 高効率設備
LED照明や高効率空調システムを導入し、エネルギー消費を最小化。
- 再生可能エネルギーの活用
太陽光発電や風力発電などでエネルギーを創出。
- エネルギー管理
HEMSやBEMSなどエネルギーマネジメントシステムを活用し、エネルギーの見える化と最適化を実現。
ZEBのメリット
1.エネルギーコストの削減
消費エネルギーを最小限に抑えることで、電気料金や燃料費を削減します。
2. CO₂排出量の削減
ZEBはエネルギー消費を抑えつつ再生可能エネルギーを活用するため、温室効果ガス(GHG)の排出削減に大きく貢献します。
3. 快適な室内環境
高断熱・高効率設備の導入により、室内温度や湿度が安定し、健康で快適な居住環境が実現します。
4. 建物の資産価値向上
ZEBは環境配慮型の建築物として評価され、長期的な資産価値向上や市場競争力の強化が期待されます。
ZEBを実現する技術
ZEBの実現には、以下のような先進的な技術が活用されます。
省エネルギー技術
- 高性能断熱材・窓ガラス・・・建物の断熱性能を高め、冷暖房エネルギーを削減。
- LED照明と高効率照明制御・・・人感センサーや調光システムを活用して無駄な照明を抑制。
- 高効率空調設備・・・省エネ性能の高いエアコンや換気システムを導入。
創エネルギー技術
- 太陽光発電システム・・・屋根や外壁に設置し、電力を自給自足。
- 風力発電・地熱利用・・・地域特性に合わせた再生可能エネルギーの活用。
エネルギーマネジメント
- BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)・・・ビル全体のエネルギー使用を見える化し、最適な運用を実現。
- HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)・・・住宅用のエネルギー管理を行うシステム。
ZEB導入の手順
現状のエネルギー使用状況の把握
ZEB導入の第一歩は、建物のエネルギー使用状況を把握することです。エネルギー診断やデータ分析を行い、無駄や改善ポイントを特定します。性能指標(例 BEI)を用いて現状を数値化し、次のステップに向けた基盤を築きます。
設計・計画段階でのポイント
設計段階では、目標レベル(ZEB Readyなど)を設定し、専門家チームを編成します。シミュレーションを活用してエネルギー効率を最大化し、最適な設計を追求します。計画段階の精度がZEB成功の鍵となります。
建設・施工フェーズでの取り組み
施工フェーズでは、高断熱建材や高効率設備を導入し、再生可能エネルギーも活用します。設計通りの性能を実現するために品質管理を徹底し、ZEBの基準を満たす建物を完成させます。
運用・管理段階での最適化
運用段階では、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入し、エネルギー使用を最適化します。また、従業員の省エネ意識を高める教育を実施し、定期的な評価で改善を重ねることで、持続的な効果を確保します。
初期投資を抑える工夫
初期コストを抑えるため、国や自治体の補助金を活用します。また、全体の導入を段階的に進めることで資金面の負担を軽減しながら、着実にZEB化を推進します。
導入コストと投資回収
初期投資の目安
ZEBの初期投資コストは、建物の用途や規模、目指すZEBのレベルによって大きく異なります。一般的な事務所ビルの場合、従来の建築コストと比較して約10~30%程度の追加投資が必要となります。
具体的な内訳としては
- 高性能断熱材・複層ガラス建築コストの3~8%増
- 高効率設備機器5~10%増
- 太陽光発電システム約20~40万円/kW
- エネルギー管理システム1,000~3,000万円程度
中規模オフィスビル(延床面積5,000㎡程度)でZEB Readyを目指す場合、従来比で約2~4億円程度の追加投資となることが一般的です。
ランニングコスト削減効果
ZEB化による光熱費削減効果は極めて大きく、年間のエネルギーコストを50~100%削減することが可能です。
一般的なオフィスビルの場合
- 従来型年間エネルギーコスト 約4,000~5,000円/㎡
- ZEB導入後年間エネルギーコスト 約1,000~2,000円/㎡
5,000㎡のビルで計算すると、年間1,500~2,000万円程度の光熱費削減が期待できます。
投資回収期間の試算例
投資回収期間は、導入する技術や活用できる補助金によって変動します。一般的な試算例を示します
【中規模オフィスビル】
- 追加投資額3億円
- 年間削減額1,800万円
- 補助金活用1億円
- 実質投資額2億円
- 投資回収期間約11年
ただし、電力料金の上昇や、カーボンプライシングの導入などを考慮すると、実質的な回収期間は更に短縮される可能性があります。
各種支援制度の活用方法
投資回収期間を短縮するために、以下の支援制度を活用することが重要です
補助金制度
- 環境省「建築物等の脱炭素化・レジリエンス強化促進事業」
- 補助率最大2/3
- 上限額最大5億円
- 経済産業省「先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金」
- 補助率最大1/2
- 上限額既築改修で最大3億円
税制優遇
- 固定資産税の軽減最大50%減免(5年間)
- 法人税の特別償却取得価額の30%
融資制度
環境・エネルギー対策資金(日本政策金融公庫)
- 金利特別利率▲0.4%
- 償還期間最長20年
これらの支援制度を組み合わせることで、実質的な投資負担を大幅に軽減できます。ただし、補助金は年度ごとに予算や要件が変更されるため、最新情報の確認が必須です。
投資回収を確実にするためのポイントは
- 補助金・税制優遇の徹底活用
- 段階的なZEB化の検討
- 運用改善による更なる省エネ推進
- エネルギー単価の変動を考慮した長期的視点での評価
このように、ZEBへの投資は初期費用は大きいものの、長期的には経済的メリットが得られる投資といえます。また、今後のエネルギー価格上昇や環境規制強化を考慮すると、その価値は更に高まると考えられます。
日本と世界におけるZEBの取り組み
日本のZEB普及への取り組み
日本政府は「ZEBロードマップ」を策定し、以下の目標を掲げています
- 2030年までに新築ビルの50%をZEB化。
- 2050年までに既存ビルも含めてZEBを主流化。
具体的な取り組みとして、以下の政策が進められています
- ZEB補助金制度:ZEB化を進める企業や建築物に対する補助金提供。
- 省エネ基準の強化:建物の省エネ性能向上を義務付け。
引用 環境省『ZEB普及状況や公共建築物のZEB化の課題』
https://www.env.go.jp/earth/zeb/news/pdf/zebseminar_Basic_Chapter2.pdf
世界のZEB動向
- アメリカ
カリフォルニア州では、2030年までに新築の商業ビルをすべてZEB化することを目指しています。
- 欧州連合(EU)
EUは「Nearly Zero Energy Buildings(nZEB)」の導入を義務付けており、再生可能エネルギーの活用が進んでいます。
国内でのZEBの事例
ZEB | 久光製薬ミュージアム久光製薬株式会社 | ガラスを多用した意匠デザインに対し、熱負荷を大幅に軽減する全面Low-Eガラスなど従来からあるさまざまなZEB化技術を組み合わせて『ZEB』を実現。
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ZEB関連技術実証棟「SUSTIE」(サスティエ)三菱電機株式会社 | ZEB関連技術の開発を加速させるため、実証棟「SUSTIE」を建設。本施設は、省エネルギー設備に加え、様々な自然エネルギー活用技術も導入した。さらに、ビル・シミュレーション技術を活用し、省エネ性と快適性を両立したZEB運用を目指している。
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Nearly ZEB | 東急コミュニティー技術研修センターNOTIA 株式会社東急コミュニティー | 総合不動産管理会社として、今後増えてくるZEB化建物を社員が管理運営するための知識や経験を培うために新設した技術研修施設をZEB化。 東京都内の事務所ビルとして初の「Nearly ZEB」を実現した、
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松野町新庁舎及び防災拠点施設 愛媛県北宇和郡松野町 | 松野町産の杉材を活用した木構造(集成材ラーメン架構+CLT耐力壁)やヒノキ材を活用した内装木質化を図り、「森の国 まつの」を象徴する施設づくりを行った。また、「Nearly ZEB」及び「BELS☆☆☆☆☆」の認証取得により一次エネルギー消費量削減率81%(BEI値:0.19)を達成し、庁舎トップクラスの環境性能を実現した。
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須賀川土木事務所庁舎福島県須賀川市 | アクティブ技術とパッシブ技術の両方を最大限導入することで、一次エネルギー消費量の87%削減を実現し、庁舎として東北初の「Nearly ZEB」認証を取得
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引用 環境省 ZEBポータル 新築ZEB事例
https://www.env.go.jp/earth/zeb/case/index.html
ZEBの将来展望
脱炭素社会の実現に向けたZEBの役割
ZEBは、カーボンニュートラル社会の実現に向けて重要な役割を果たします。建物のエネルギー消費量をゼロにすることで、温室効果ガス排出を大幅に削減し、地球温暖化対策に貢献します。
既存ビルのZEB化
今後は、新築だけでなく既存ビルのZEB化が求められます。断熱改修や高効率設備の導入、再生可能エネルギーの追加設置が重要です。
技術革新によるZEB普及
- スマートグリッド:地域全体のエネルギーを効率的に供給。
- AI・IoTの活用:エネルギー消費の最適化と省エネ管理の自動化。
まとめ
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)は、脱炭素社会の実現に向けた重要な取り組みです。高断熱化や高効率設備、再生可能エネルギーの活用により、建物のエネルギー消費を削減し、持続可能な未来を築く鍵となります。
今後、技術革新や政策支援によってZEBの普及が加速し、住宅やオフィスビル、公共施設がエネルギー収支ゼロを実現することが期待されています。ZEBは、環境負荷の低減と快適な生活環境を両立させる建築の新しいスタンダードとなるでしょう。

