新潟県のカーボンニュートラル戦略|企業の脱炭素取り組み事例

新潟県のカーボンニュートラル戦略|企業の脱炭素取り組み事例
都道府県関連

今回から始まるこのシリーズでは、実際に日本各地で企業により行われている脱炭素やカーボンニュートラルに関連する取り組みを取り上げ、より地域に即したカーボンニュートラルを目指す上での活動について、お伝えしていく予定となっています。第1回目に取り上げる都道府県は、「2050新潟カーボンゼロチャレンジ」を宣言している新潟県です。

日本のカーボンニュートラル宣言企業一覧と最新動向を解説」では、2020年10月の菅内閣総理大臣による所信表明演説において、日本でもカーボンニュートラル宣言がなされたことをお伝えしました。これより少し前に、新潟県内では令和2年(2020年)9月29日の県議会において花角県知事より、県内の気候変動の影響が非常事態であると宣言され、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すことが表明されています。

そこで本コンテンツでは、地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する施策、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みへの理解を深めるために、まずは、新潟県の温室効果ガスの排出状況と排出構造、今後の方向性について確認していきます。その後、県庁所在である新潟市が企業に求める目指すべき姿や排出削減における目標値をお伝えし、最後に県内における取り組みの実態について順を追って解説していきます。

(本シリーズは、各自治体や行政機関から公表されている情報を元に作成しております。)

新潟県の温室効果ガスの排出状況と排出構造、今後の方向性について

県内の温室効果ガスの排出状況としては、基準年としている2013年度以降全体的に減少傾向にあり、2021年時点においては、森林吸収量等を加味した合計で日本全体の温室効果ガスの排出量よりも減少率が大きい状況です。

新潟県の温室効果ガス排出量

令和6年度 第1回 新潟県環境審議会 環境管理部会:新潟県の脱炭素化に向けた取組
~「新潟県2050年カーボンゼロの実現に向けた戦略」~
© https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/410886.pdf

また、電力使用由来のCO2排出量は、県全体の温室効果ガス排出量の約3割を占めており、国が示すエネルギーミックスの変化に伴う削減(※1)効果のポテンシャルが大きく、燃料由来のCO2削減の積み上げも重要と考えられています。

運輸部門のCO2排出構造

令和6年度 第1回 新潟県環境審議会 環境管理部会:新潟県の脱炭素化に向けた取組
~「新潟県2050年カーボンゼロの実現に向けた戦略」~
© https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/410886.pdf

その中で、新潟県がカーボンニュートラル推進に向けて有するポテンシャルは高く評価されており、県内だけではなく首都圏・仙台・北陸・静岡など大消費地に繋がるパイプラインなど脱炭素燃料・資源供給拠点として注目を集めています。具体的に評価されているポイントとしては、①IEAが提言する4つのキー・バリューチェーンが充実していることと、②カーボンニュートラルに向けた産業転換を牽引する条件が整っていることが挙げられます。

①IEAが提言する4つのキー・バリューチェーンの充実

エネルギー・燃料・資源供給拠点として、国内を代表するエネルギー・化学・食品事業者の生産拠点が集積している。
天然ガス田、LNG輸入・貯蔵、大規模ガス火力発電所、県内都市ガス網に加え、首都圏・仙台・北陸・静岡等広域ガスパイプラインなど既存ガスインフラが充実している。
燃料・資源の輸入・流通・物流拠点としての機能・基盤が港湾エリアに整備している。
日本海側の国際港湾拠点、エネルギー拠点、レジリエンス機能を有する港湾機能が整備している。

②産業転換を牽引する地域資源・技術シーズ

脱炭素燃料・資源天然ガス田を含むメタンガス生産・輸入・貯蔵・流通の日本海側拠点であり、国内大手エネルギー事業者の中核的な生産・流通設備・施設が立地している。
脱炭素技術CO2とH2からメタンを製造するメタネーションの先端技術実証、ガス化学領域における合成ガス・メタノール製造技術、EOR・ CCUSなどのカーボンリサイクル技術などが蓄積している。
脱炭素電源大規模ガス火力発電所が立地しており、原発が停止されている現在でも約6割が県外送電している。また、大規模バイオマス発電、洋上風力開発計画が進展しているほか、系統増強に向けた第二国土軸整備の検討が始動している。

そこで、新潟県ではカーボンニュートラルに対する今後の方向性として、県が有する固有の資産をいかして、燃料転換や脱炭素エネルギーの供給、産業育成を手掛けながら、県内外における脱炭素化に貢献していく指針を示しています。

新潟県におけるカーボンニュートラル産業創造の方向性を示す図

新潟カーボンニュートラル拠点化・水素利活用促進協議会:
新潟県カーボンニュートラル産業ビジョン・ 事業モデル展開ロードマップ
© https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/life/570165_1590867_misc.pdf

(※1)2030年度の温室効果ガス46%削減に向けて、施策強化等の効果が実現した場合の野心的目標として、電源構成36-38%の導入が目指されている。

新潟市が企業に求める目指すべき姿や排出削減における目標値について

県の中心都市である新潟市においても、1章でお伝えした今後の指針と大きな乖離はなく、カーボンニュートラルに向けた取り組みの方向性が示されています。加えて2023年には、市の重点施策等を市民・事業者・各種団体により詳しく示すものとして、新たに「新潟市ゼロカーボン戦略2050〈2023-2030〉」が策定されています。

新潟市地球温暖化対策実行計画[地域推進版]見直しの概要

新潟市:新潟市地球温暖化対策実行計画[地域推進版]見直しの概要 令和5年(2023年)6月
© https://www.city.niigata.lg.jp/shisei/seisaku/seisaku/keikaku/kankyo/
keikakutop/index.files/gaiyou_keikakuminaoshi202306.pdf

その中で、産業部門や業務部門、いわゆる企業に求められる目指すべき姿や目標値は、以下のように定められています。

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【2050年に目指す姿】

  • 大企業は自らゼロカーボンを達成
  • 中小企業を含め、サプライチェーンで選ばれ続ける企業に。
  • 太陽光発電などの設備が各事務所に最大限導入されており、使用するエネルギーは、再生可能エネルギーなどの環境にやさしいエネルギーに切り替わっている。
  • 事業所·公共施設、市の未利用地に太陽光発電設備の設置が進んでいる。
  • 設置可能な市施設に太陽光発電設備や蓄電池が導入されており、災害時の防災拠点として活用されている。
  • エネルギーマネジメントシステム(BEMS)の導入が進み、広域ネットワーク化が進んでいる。
  • 電力量の見える化や発電制御による電力のピークカットなど、効率的な省エネの取り組みが進み、新築建築物はZEBが標準化されている。
  • 全ての新築でZEB化。
  • 可能な市施設や学校でのZEB化改修が進んでいる。

【現状の課題】
今ある建築物への普及、中小企業への取り組み周知·支援ほか

【2050年に向けた2030年度までに目指す姿·目標値】
<産業部門>各事業所が年1%の省エネなど。
<業務部門>事務所などに約1割、市の施設のうち設置可能な建物の約5割に太陽光発電設備設置。年1%の省エネなど。

【温室効果ガス排出量削減目標(2013年度比)】
<産業部門>41%削減(大規模排出事業者46%削減)
<業務部門>61%削減
※参考:市内1事業所あたりの温室効果ガス排出量 70.2t-CO2

新潟市ゼロカーボン戦略〈2023-2030〉 ~ つなぐみらい·ゼロカーボンシティにいがた 2050 ~をもとに一部引用、筆者作成

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県内における取り組みの実態について

都道府県によっては、例えば福井県のように、カーボンニュートラルに向けた取組みを宣言する企業・団体のリストが県のHPなどに掲載されている場合があります。一方で、今回ご紹介している新潟県のケースでは、以下のような形で脱炭素やカーボンニュートラルの取り組みを推進している企業が紹介されています。

例)リスト名称:掲載元

  • 新潟市環境優良事業者等認定一覧(ゼロカーボン部門):新潟市HP
  • SDGs(カーボンニュートラル)実践事業者登録事業者の紹介:燕市HP
  • 企業や自治体に広がる脱炭素活動(協賛社):新潟日報

例えば、新潟市環境優良事業者等認定一覧(ゼロカーボン部門)においては、2024年6月時点で8事業所が認定されている状況です。そもそも制度としては、環境分野におけるさまざまな課題解決に向け、持続可能な開発目標(SDGs)の環境関連のゴールやターゲットを意識し、積極的に取り組む市内事業者等を、環境優良事業者等(愛称 ONEカンパニー/「Official Niigata Eco」の略)に認定する内容となっており、「3R推進部門」、「ゼロカーボン部門」、「食品ロス削減部門」の3つの認定部門に分かれています。その上で、「ゼロカーボン部門」に認定される上では、温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す取り組みを行う事業者・団体として、以下の3つが評価項目として設定されています。

① 「RE100」加盟団体であること。
② 「再エネ100宣言REAction」の参加団体であること。
③ ゼロカーボン実現のため、2050年までの脱炭素にかかる計画等を作成し、目標達成のため具体的に取り組んでいること。

事業者名事業者数取り組み内容など
株式会社千代田設備2再エネ 100%への取り組み
株式会社サイト1RE100推進事業
三菱ガス化学株式会社 新潟工場1新潟工場カーボンニュートラルへの取り組み
日本自然環境専門学校3非公開
新電力新潟株式会社1CO2排出量可視化サービス

新潟市環境優良事業者等認定一覧(ゼロカーボン部門)をもとに、筆者作成

この中でも、カーボンニュートラルへの取り組みにフォーカスしている三菱ガス化学株式会社新潟工場のケースでは、2023年度目標として掲げた「GHG排出量を2013年比38%削減する」という目標達成を踏まえて新たに2030 年度に46%削減を目指すことを明らかにし、①省エネ、②購入電力の実質再エネ化、③水素ステーション、燃料電池フォークリフトの運用、④バイオマスの利用、⑤CO2の利用(CCUS)の5つの取り組みを公表しています。因みにこの工場は、三菱ガス化学株式会社が推進する「環境循環型メタノール構想」の拠点であり、国内唯一のジメチルエーテルの生産工場となっています。

同様に、SDGs(カーボンニュートラル)実践事業者登録事業者においては、「カーボンニュートラル達成に向けた重点的な取組内容」や「これからの取組内容を通して達成したい目標」、「中・長期的に目指すべき自社の姿」を掲げています。2024年11月時点で86の多業種にわたる事業者が登録されている状況となっています。

まとめ

本コンテンツでは、地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する施策、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みへの理解を深めるために、県全体⇒市全体⇒企業単位の順に、カーボンニュートラルに対するそれぞれの立場からのかかわり方について、具体的な目標や取り組み事例をもとにお伝えしてきました。

次回は、北海道に関する地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する取り組み、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みを紹介していく予定です。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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