ソーラーシェアリングとは?営農型太陽光発電のメリット・デメリットを徹底解説!
農地を活かしながら発電収入も得られる「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」。
近年、農業経営の新たな可能性として注目を集めています。
農林水産省の発表によると、2021年時点で約4,300件以上の導入実績があり、着実に広がりを見せています。
しかし、作物への影響や初期投資の課題、FIT価格の変動など、導入を検討する際には慎重な判断が必要です。
本記コンテンツでは、ブルーベリー栽培での成功事例から失敗のリスクまで、実践者の声を交えて徹底解説します。
農業と太陽光発電の共生は実現可能なのか?補助金制度や売電価格の最新動向とともに、現場で求められる判断のポイントをお伝えします。
再生可能エネルギーによる収入確保と持続可能な農業経営の両立を目指す方に、確かな道しるべとなる情報を提供します。
目次
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の基本知識
ソーラーシェアリングは、農地の上部に太陽光パネルを設置して、農業と発電を同時に行う画期的なシステム。
農作物に必要な日光を確保しながら同時に発電することで、土地を二重活用できます。
農地の有効活用につながる注目の発電システムについて、解説します。
ソーラーシェアリングを簡単に解説
ソーラーシェアリングは、「農業 × 太陽光発電」という画期的な取り組みです。
農地の上空3〜4メートルに太陽光パネルを設置することで、作物栽培と発電を同時に実現します。
パネルの設置間隔は作物の特性に合わせて調整され、必要な日光量を確保しながら発電できます。
導入に適した作物例
- 葉物野菜:ほうれん草、レタスなど
- 根菜類:じゃがいも、さつまいもなど
- 果樹:ブルーベリー、柿など
収益を生む再生可能エネルギーの新形態
ソーラーシェアリングは、収益を二重で得られる点が大きな特徴。作物の売上に加え、太陽光発電による売電収入が見込めます。
さらに、発電した電力は以下のような活用が可能です
- 自家消費による光熱費削減
- 余剰電力の地域供給
- 災害時の非常用電源(バッテリーシステムなどの追加設備が必要)
余剰電力を地域で共有することで、地域全体のエネルギーコスト削減にも貢献できます。
農林水産省が定める設置基準の要点
農林水産省が定めるソーラーシェアリングの設置基準の主な要点は以下のとおりです。
- 営農の適切な継続
- 下部農地での営農が適切に継続されること
- 栽培する農作物の収量が、同地域の平均的な収量と比較しておおむね2割以上減少しないこと
- 転用期間の設定
- 転用期間は、担い手が自ら所有または借用する農地を利用する場合や、遊休農地の再生利用、第2種農地または第3種農地を利用する場合は10年以内とする
- それ以外の場合は3年以内
- 構造上の要件
- 太陽光パネルの支柱の高さは、農作業に支障がないよう最低2メートル以上とする
- パネルの配置や角度は、下部農地の日照量を確保し、農作物の生育に適した環境を維持する必要がある
- 報告義務
- 毎年、下部農地での栽培実績や収支状況を報告する義務がある
- 撤去計画の明確化
- 発電事業終了後、支柱やパネルなどの設備を撤去し、農地としての利用が確実に行われることを計画し、必要な資力や信用があることを示す必要がある
これらの基準を遵守することで、農業と発電事業の両立が可能となり、持続可能な農地利用が促進されます。
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を導入するメリット
ソーラーシェアリングを導入するメリットは主に3つです。
- 脱炭素化が図れる
- 休耕地を活用できる
- プラスアルファの収入が得られる
それぞれ詳しくみていきましょう。
脱炭素化が図れる
ソーラーシェアリングは、太陽光発電によって電力を生み出します。
この電力は化石燃料を使用せず、温室効果ガス(CO2)の排出を抑えるクリーンエネルギーです。
農地上で発電を行うため、既存の土地利用を変えずにエネルギーを生産できる点が大きな特徴です。
また、農村部で発電された電力を地元で使用することで、都市部からの電力輸送が不要になります。
これにより、送電時のエネルギーロスが減少し、全体のエネルギー効率が向上します。
また、地域がエネルギーを自給することで、化石燃料への依存度を下げられるでしょう。
再生可能エネルギーによるCO2削減は、地球温暖化の進行を抑えるための重要な施策です。
ソーラーシェアリングは農業と環境保全を同時に行えるモデルとして、地球全体の気候変動問題に貢献しています。
休耕地を活用できる
休耕地の有効活用は、現代の農業が抱える重要な課題の一つです。
ソーラーシェアリングを導入することで、これまで使われていなかった農地に新たな価値を見出すことができます。
例えば、以下のような休耕地の活用方法があります。
- 高齢化で管理が難しくなった農地の再生
- 後継者不足で放置されていた農地の活性化
- 条件不利地での新たな営農モデルの確立
このように、休耕地を太陽光発電と農業の両方に活用することで、土地の付加価値を高めることができます。
プラスアルファの収入が得られる
農業経営の安定化には、複数の収入源を確保することが重要です。
ソーラーシェアリングでは、農作物の販売収入に加えて、発電した電力の売電収入が得られます。
追加収入により、農業経営の安定性が大きく向上します。
設備を活用して農作業を効率化できる
ソーラーシェアリング設備は、農作業の効率化にも役立ちます。
支柱や太陽光パネルを利用して、以下のような工夫が可能です。
- 防霜ネットの設置
- 防鳥ネットの取り付け
- 灌水設備の設置
- 遮光資材としての活用
このように、発電設備を農業用施設としても活用することで、作業効率の向上とコスト削減を同時に実現できます。
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を導入するデメリット
さまざまなメリットがあるソーラーシェアリングですが、デメリットもあります。
- 作業効率が悪くなる場合もある
- 継続した営農が必要
どのような課題があるのか、見ていきましょう。
作業効率が悪くなる場合もある
支柱や太陽光パネルの存在により、農作業の効率が低下することがあります。
特に大型の農業機械を使用する場合、以下のような課題が発生します。
- トラクターやコンバインの旋回が難しくなる
- 支柱に合わせた作業動線の変更が必要
- 農薬散布用ドローンの飛行ルートが制限される
これらの問題を解決するためには、設計段階での十分な検討と、作業方法の見直しが必要になります。
継続した営農が必要
農地として利用されている土地を、ソーラーシェアリングなど本来の農業以外の目的に使用するためには許可を得る必要があります(農地転用)。
太陽光発電設備の設置後も、農地として適切に活用して、地域の農地の平均収穫量の80%以上を確保しなければいけません。
収穫量が基準を下回ると、農地転用許可の見直しや取り消しとなる場合もあります。
農地転用の許可を維持するためには、以下の条件を満たす必要があります。
初期投資が太陽光発電システムよりも高額
通常の太陽光発電と比べて、設備投資額が大きくなります。
主な追加コストは以下の通りです。
- 支柱の強度確保のための基礎工事
- 農作業に配慮した高さ調整機能
- 農地に適した防水・防塵対策
- 専門的な設計費用
一般的な太陽光発電と比べて、20〜30%程度のコスト増となることが多いです。
そのほか太陽光パネルの汚れや支柱の腐食など、長期的なメンテナンスも必要になるため、初期投資以外のコストも頭に入れておく必要があります。
FIT価格が下がると収益が確保できない
売電価格の低下により、事業の採算性が悪化するリスクがあります。
FIT(固定価格買取制度)の買取価格は年々下がっており、2024年度の価格は以下のように推移しています。
- 10kW以上50kW未満:15円/kWh
- 50kW以上250kW未満:12円/kWh
- 250kW以上:入札制
このため、長期的な収支計画の立案と、売電以外の収入源の確保が重要になってきています。
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の成功事例から学ぶ導入ポイント
ソーラーシェアリングを導入するときに押さえておきたいポイントを、成功例から深掘りしていきます。
ブルーベリー栽培での成功事例
ソーラーシェアリングの成功事例として注目されているのがブルーベリー栽培です。
ブルーベリーが日陰でも十分育つ特性を持ち、パネル下の環境に適しています。
たとえば、千葉県のある農家では、ブルーベリーと太陽光発電を組み合わせ、年間を通じて安定した農作物収穫と売電収入を実現。
このような成功例を参考にすることで、導入の際の不安を軽減しやすくなります。
新たに導入を検討する場合は、自分の農地がどの作物に適しているかを調査し、具体的な計画を立てることをおすすめします。
先進企業の取り組みから見る要点
先進企業の取り組みでは、技術力と事業モデルが成功の鍵となっています。
例えば、大手企業が農業法人と協力し、発電効率を高めるパネル配置を設計する一方で、地元農業のニーズにも対応したモデルを構築しています。
このような事例から学べるポイントは以下の通りです。
- 地元との連携を重視すること
- 最新技術を取り入れ、効率を最大化すること
- 農業のプロフェッショナルと協働すること
これらを参考にすることで、スムーズな導入と地域社会への貢献が可能になります。
パネル下で育つおすすめ作物
ソーラーシェアリングでは、日陰に強い作物を選ぶことが成功の鍵です。
代表的な作物は以下の通りです。
- ブルーベリー:日陰でも収穫量が安定。
- シソやミツバ:香味野菜は日陰に強く育成が容易。
- ホウレンソウ:涼しい環境で品質が向上。
- キノコ類:パネル下の湿度を利用可能。
これらの作物であれば、農業と発電を効率よく両立できるでしょう。
導入前には試験栽培を行い、自分の土地に適した作物を見極めることを推奨します。
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の注意点
ソーラーシェアリングを始める前に、確認しておきたい注意点は以下の4つです。
- 営農型太陽光発電で利用できる補助金制度
- 毎年の収量報告が必要である
- 影の影響が少ない作物に作替えを検討
- 地域住民への説明
営農型太陽光発電で活用できる補助金制度
ソーラーシェアリングを導入する際、補助金を活用することで初期費用を軽減できます。
- 再生可能エネルギー導入支援
- 農業振興に関連する補助金
たとえば、農林水産省が実施する「地域再生型補助金」は、農地を有効活用する取り組みを支援しています。
これらの制度を活用することで、資金面の負担を減らし、事業をスムーズに進めることができるでしょう。
申請前には、地域の農業協議会や行政窓口に相談し、最新情報を確認することをおすすめします。
毎年の収量報告が必要
ソーラーシェアリングでは、農業を継続し、収量を毎年報告する義務があります。
これは、農地としての適正な利用が確保されているかを確認するための重要なプロセスです。
作物の収穫量が基準以下になった場合、農地転用許可が取り消される可能性も。
そのため、収量を安定させるための管理や適切な作物選びが欠かせません。
収量報告を怠らないよう、記録をしっかり残しておくことがポイントです。
影の影響が少ない作物に作替えを検討
太陽光パネルが作物に影を作るため、光を十分に必要とする作物では生育が難しい場合があります。
そのため、影響が少ない作物への作替えを検討するのもひとつの策です。
おすすめの作物例
- ブルーベリー:日陰に強く高収益が期待できる。
- ホウレンソウ:日照時間が短くても品質が維持される。
- キノコ類:湿度や影響がプラスに働く。
現地の気候や土壌に合った作物を選ぶことで、収量の維持と安定した発電を両立させることができるでしょう。
地域住民への説明
ソーラーシェアリングを導入する際、地域住民への十分な説明が必要です。
太陽光パネル設置により、景観や周辺環境に影響を与える可能性があるためです。
事前に説明会を開催することで、住民の疑問や懸念を解消し、トラブルを未然に防ぐなどの取り組みが取り入れられています。
- 具体的な計画書の提示
- 地域のメリットを強調(例えば、電力の地産地消や雇用創出)
- 質問に丁寧に答える場の設定
透明性のある対応を心がけることで、信頼を築きやすくなるでしょう。
日本と海外でのソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)導入事例
世界的なソーラーシェアリングの導入は、どのような状態にあるのでしょうか。日本と海外の導入事例を見ていきます。
日本
日本におけるソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の導入事例として、以下のプロジェクトが注目されています。
1. 千葉県匝瑳市の取り組み
千葉県匝瑳市では、耕作放棄地を活用した大規模なソーラーシェアリングが実施されています。
「匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所」は、約3.2ヘクタールの土地に1メガワットの太陽光発電設備を設置し、下部では有機大豆や有機麦を栽培。地域の活性化と再生可能エネルギーの推進を両立させた成功例として知られています。
2. 千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機
千葉市では、2018年から「千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機」が稼働しています。設備容量は625キロワットで、約1ヘクタールの農地上に太陽光パネルを設置し、下部ではにんにくなどの作物を栽培しています。
また、トラクターのリモートコントロールなど、スマート農業の実証実験も行われています。
3. 香川県丸亀市の取り組み
香川県丸亀市では、株式会社讃岐の田んぼがソーラーシェアリングを導入し、難しいと言われる米と麦の二毛作を実現しています。
同社は、合計3基の設備(計444キロワット)を設置し、スマート農業にも積極的に取り組んでいます。
韓国
韓国では、政府主導でソーラーシェアリングの導入が進められています。
特に、農村地域での電力供給を強化するため、太陽光発電と農業の融合を推進しています。
例えば、光州のある農村では、米の生産とソーラーシェアリングを組み合わせ、地域のエネルギー需要の一部を賄うプロジェクトが進行中です。
韓国では、政策支援や補助金が充実しており、農業者の負担を軽減する仕組みが整っています。
こうした政府の後押しにより、導入がスムーズに進んでいるのが特徴です。
EU
欧州連合(EU)では、特にドイツやオランダがソーラーシェアリングの先進地域とされています。
ドイツでは、パネル下での作物栽培に加え、家畜の放牧と組み合わせたユニークな事例もあります。
また、オランダでは、トマトやパプリカといった温室作物とソーラーシェアリングを融合したシステムが採用されています。
EUでは、気候変動対策とエネルギー自給率向上の両面でソーラーシェアリングが評価されています。
補助金や低金利ローンを活用し、多様な農業スタイルに適応したプロジェクトが展開されています。
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の持続可能な経営の実現方法
ソーラーシェアリングを長く経営するためにはどうすればよいでしょうか。農業と発電の両方を続けるための方法を見ていきます。
栽培技術と発電効率の最適化
ソーラーシェアリングを持続可能に運営するには、栽培技術と発電効率の両方を最適化することが重要です。
- 太陽光パネルの角度を調整
- 太陽光パネルの配置を工夫する
日射量を均等に分散させる設計を採用することで、農作物の生産性を保ちながら発電量を最大化できます。
導入の際には、農地の特性や作物の光要求量を分析し、最適な設備設計を行うことをおすすめします。
地域との協力体制の築き方
地域との協力体制を築くことは、ソーラーシェアリングの成功に欠かせません。
理由は、太陽光発電の導入が地域住民や自治体に直接的な影響を及ぼすためです。
- 地域イベントでの情報発信
- 地元企業や農家とのパートナーシップ構築
- 地域の利益を反映したプラン作成
地域社会の一員としての姿勢を示すことで、事業の円滑な運営が期待できます。
また、景観・環境影響への配慮もソーラーシェアリングの成功の鍵となってくるでしょう。
長期的な収益確保のコツ
長期的な収益を確保するには、リスクを最小限に抑える計画が必要です。
固定価格買取制度(FIT)の変動リスクに備えるため、エネルギーの自家消費や地域への電力供給を検討するのもひとつの方法。
また、農作物の収量を安定させるため、気候変動に対応した作物選びや土壌管理も重要です。
具体的には
- FIT以外の収益源を構築(自家消費型発電など)
- 市場価値の高い作物や有機農業の導入
- パネルの耐久性を確保するメンテナンス体制の整備
これらを実践することで、経営の安定性を高めることができるでしょう。
まとめ
ソーラーシェアリングは、農業と再生可能エネルギーを融合させる持続可能な取り組みです。
メリット・デメリットを正しく理解し、地域の特性に合った導入を進めることが成功の鍵となります。
導入を検討する際は、事例や専門家の意見を参考に、最適な計画を立てましょう。