需給調整市場とは?系統用蓄電池やアグリゲーターとの関わりまで解説!

電力システムの変革期において、再生可能エネルギーの大量導入は電力の需給バランスに新たな課題をもたらしています。従来の調整方法では対応しきれない急激な変動に備え、2021年度に本格始動したのが需給調整市場です。この市場は単なる取引の場ではなく、公正性と効率性を両立させるための緻密な制度設計が施されています。本稿では、調整力の区分から価格形成ルール、そして系統用蓄電池やアグリゲーターの役割まで、需給調整市場の全体像を体系的に解説します。電力業界の実務者はもちろん、エネルギー政策や市場制度に関心を持つ方々にとって、制度理解の基盤となる内容です。
目次
需給調整市場の全体像
需給調整市場は、電力の需給バランスをリアルタイムで安定させるための市場として、2021年度に本格的に開設されました。
再生可能エネルギーの導入拡大や電力システム改革の進展により、
- 電力の供給量・需要量が短時間で大きく変動
- 従来の一般送配電事業者による調整だけでは対応が困難
となったことが背景にあります。
この新たな市場では、市場支配力を持つ事業者による価格操作リスクが懸念されたため、通常の電気事業法に基づく 事後的措置(業務改善命令等) に加え、事前的に入札行動を規律する仕組みが導入されました。
需給調整市場における調整力区分
1.需給調整市場の商品区分の基本的考え方
需給調整市場では、電力系統の周波数および需給バランスを維持するために必要な調整力を、応動速度・制御方式・想定用途の違いに応じて複数の商品に区分しています。
この区分は、
- 電力広域的運営推進機関(OCCTO)
- 資源エネルギー庁の制度設計専門会合
- 需給調整市場(EPRX)の商品設計資料
において、系統運用上の制御機能(GF/LFC/EDC)との対応関係として整理されています。
2.一次調整力とGF機能
制度上の位置づけ
一次調整力は、系統周波数の瞬時的な変動に対応するための調整力として位置づけられています。
対応する制御機能
・GF(Governor Free)機能
公的文書では、一次調整力は、
- 周波数変動を検知して
- 発電機等が自律的に出力を増減
する機能であるGF機能に該当すると整理されています。
このため、指令を待たず非常に短時間で応動することが商品要件として設定されています。
3.二次調整力①とLFC機能
制度上の位置づけ
二次調整力①は、一次調整力による初期応動の後、周波数を基準値に戻すことを目的とする調整力として整理されています。
対応する制御機能
・LFC(Load Frequency Control)機能
LFC機能は、
系統全体の周波数偏差を把握し中央給電指令所からの指令に基づいて発電出力等を制御する機能であり、二次調整力①はこれに対応する商品とされています。
そのため、一次調整力よりは応動が遅いが比較的短時間での応動が求められる商品設計となっています。
4.二次調整力②・三次調整力①とEDC機能
共通する制御機能
・EDC(Economic Dispatch Control)機能
二次調整力②および三次調整力①は、いずれも経済性を考慮しながら発電機等の出力配分を調整するEDC機能に該当する商品として整理されています。
二次調整力②の特徴
二次調整力②について、
EDC機能に基づく調整力であるが比較的早く応動することが求められる商品とされています。
そのため、LFCに近い時間スケールで指令に基づく調整を行う設計となっています。
三次調整力①の特徴
三次調整力①もEDC機能に該当するが、二次調整力②よりも応動時間が長い商品として設計されている。
これは、より緩やかな需給調整、長時間の出力調整を担う役割を想定しているためです。
5.三次調整力②と再エネ予測誤差対応
制度上の位置づけ
三次調整力②は、GC(Gate Closure)までに確定しない再生可能エネルギーの出力予測誤差に対応するための商品として整理されています。
商品設計の特徴
その目的から、
- 指令間隔
- 応動時間
はいずれも、一次・二次・三次調整力①と比べて長めに設定されています。
制度的な意味
三次調整力②について、応動速度を厳しくしないことで「火力、水力、蓄電池、DRなど多様なリソースの参入を可能にする」商品であるとされています。
6.調整力区分の役割別表(公的文書をもとに筆者作成)
| 調整力区分 | 対応する制御機能 | 制度上の役割 |
|---|---|---|
| 一次調整力 | GF | 瞬時的な周波数変動への自律応動 |
| 二次調整力① | LFC | 周波数の基準値への回復 |
| 二次調整力② | EDC | 比較的早い経済的調整 |
| 三次調整力① | EDC | 比較的遅い経済的調整 |
| 三次調整力② | EDC | 再エネ予測誤差対応(GC前) |
上記のように、需給調整市場の商品区分は、系統運用における GF・LFC・EDCという制御機能の違いを反映して設計されており、応動速度や指令間隔を段階的に変えることで、リソースの特性に応じた参加を可能にする制度構造となっています。
参照 需給調整市場の制度概要(一般社団法人 電力需給調整力取引所公式)
https://www.eprx.or.jp/outline/outline.html参照 需給調整市場かいせつ資料(EPRX)
https://www.eprx.or.jp/outline/docs/kaisetsu.pdf参照 OCCTO 需給調整市場検討小委員会資料(PDF)
https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/chouseiryoku/jukyuchousei/2020/files/jukyu_shijyo_56_03.pdf参照 OCCTO 周波数制御機能に関する基礎資料(GF/LFC/EDCの定義)
https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/chouseiryoku/jukyuchousei/2020/files/jukyu_shijyo_19_02_02.pdf参照 OCCTO 調整力変動周期と制御方式の関係を示す資料
https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/chouseiryoku/jukyuchousei/2019/files/jukyu_shijyo_14_02r.pdf
需給調整市場における、2つの市場
需給調整市場は、2つの市場で構成されています。
① 調整力 ΔkW 市場(調達の市場)
- 将来の需給調整に備え「調整力そのもの(容量)」を事前に確保する市場
- 一般送配電事業者が、最低限必要な調整力を予約調達
ポイント
「使うかどうか」ではなく「使える状態を確保する」ことへの対価を払う形
② 調整力 kWh 市場(運用の市場)
- 実際の需給断面で、どの電源をどれだけ動かすかを決める市場
- kWh価格の安い順に稼働指令が出される
ポイント
実際に動いた分だけが対象でΔkW市場で確保した予約電源+余力活用電源が参加します。
それぞれの市場の価格規律
調整力 kWh 市場の価格規律
(1)予約電源以外
kWh価格は、次の範囲内で設定することが「合理的」とされます。
- 上げ調整
kWh価格 ≦ 限界費用 + 一定額
- 下げ調整
kWh価格 ≧ 限界費用 − 一定額
ここでの重要点としては、
- 一定額 = 限界費用 × 10%
- この範囲内であれば
→ 「市場相場を操作する目的ではない」とみなされます - 市場支配力が疑われる事業者
→ この価格での登録を事前に要請する必要があります
限界費用の考え方(火力以外も含む)
ガイドラインは、揚水・水力・DR・蓄電池など、限界費用が不明確な電源についても詳細に定義しています。
共通原則は「機会費用を含めた限界費用」です。
例
- 揚水・水力
→ 将来使えなくなる電力量の逸失利益
- DR
→ 生産減少などによる経済的損失
- 燃料制約火力
→ 将来の発電制約に伴う追加コスト
これらについては、根拠資料の提出を前提に監視が行われます。
予約電源の扱い
ΔkW市場ですでに対価を得ている予約電源についても、
- kWh価格は予約電源以外と同一ルール
- ΔkW契約時にその点を明確化
このように二重の市場歪みを防ぐ設計となっています。
調整力 ΔkW 市場の価格規律
ΔkW価格は、次の式を基本となります。
ΔkW価格 ≦ 逸失利益(機会費用)+ 一定額 + 手数料
一定額の考え方
- A種電源
0.33円 / ΔkW・30分 - B種電源
固定費回収のための合理的額(個別審査)
逸失利益(機会費用)の具体像
代表的なケース
- 追加起動する場合
- 起動費
- 最低出力分の赤字
- 卸市場への供出を減らす場合
- 卸市場で得られたはずの利益の逸失
起動費は1回分のみ計上可など、詳細な実務ルールも明示されています。
️事前的措置の対象となる事業者について
市場支配力の判断方法
- 地域間連系線が混雑すると
→ 市場が地理的に分断
その結果、特定事業者が不可欠な供給者(Pivotal)になる可能性があります。
評価方法としては
- 市場シェア
- HHI
- PSI(Pivotal Supplier Index)
などが検討対象とされています。
当面は月単位で市場(地理的範囲)を画定する方針です。
ΔkW市場とkWh市場の関係
- 両市場の参加事業者はほぼ同じ
- 競争状況も類似
そのため、事前的措置の対象事業者は両市場で共通とされます。
需給調整市場と系統用蓄電池の関係性について
調整力kWh市場と系統用蓄電池
蓄電池のkWh調整の位置づけ
系統用蓄電池は、
- 上げ調整:放電による供給
- 下げ調整:充電による需要創出
という形で、調整力kWh市場における調整力として整理されます。
ガイドラインでは、蓄電池についても、
「揚水発電、一般水力、DR等と同様に、機会費用を含めた限界費用の考え方を適用する」
と明記されており、火力発電と同一の価格規律の枠組みが適用されます。
kWh価格登録における考え方
調整力kWh市場における登録価格は、
- 上げ調整
限界費用 + 一定割合 - 下げ調整
限界費用 − 一定割合
の範囲内とすることが「競争的な市場において合理的な行動」とされています。
一定割合は、現行制度では限界費用の10%とされています。
蓄電池の場合の限界費用には、
- 充電に用いる電力の価格
- 将来の放電機会の逸失利益
- 運用制約に伴う機会費用
などを含めることが想定されています。
調整力ΔkW市場と系統用蓄電池
蓄電池のΔkW供出の考え方
系統用蓄電池は、
- 出力の増減を即時に行えること
- 起動時間が短いこと
- 上げ調整・下げ調整の双方に対応可能であること
から、調整力ΔkW市場において調整力供出主体として整理される電源等に含まれます。
ΔkW価格については、ガイドラインにおいて、
ΔkW価格 ≦ 逸失利益(機会費用)+一定額等
という考え方が示されています。
蓄電池の場合、燃料費は存在しない一方で、
- 他市場(卸電力市場等)での取引機会の喪失
- 充電・放電の運用制約に伴う機会費用
が、逸失利益(機会費用)として整理される形になります。
市場支配力と蓄電池の関係
需給調整市場ガイドラインでは、特定の事業者が市場支配力を有する蓋然性が高い場合、事前的措置として価格登録行動を規律することが挙げられています。
この市場支配力の評価は、
- 地域間連系線の分断
- 調整力の不足
- 実需給断面での市場構造
を踏まえて行われます。
電源種別による除外は設けられておらず、蓄電池であっても、市場支配力を有する蓋然性が高いと判断されれば、
事前的措置の対象ともなりえます。
需給調整市場制度における蓄電池の位置づけ
系統用蓄電池は、需給調整市場におけるガイドラインとして、
- 調整力ΔkW市場では
「調整力容量を供出する電源等」 - 調整力kWh市場では
「機会費用を含む限界費用に基づき運用される調整力」
とされています。
需給調整市場は、特定の技術を優遇する制度ではなく、調整力として合理的な行動を取ることを求める制度であり、蓄電池もその枠組みの中で、他の電源等と同様に位置づけられています。
需給調整市場制度に系統用蓄電池を利用して参画する際のアグリゲーターの役割
アグリゲーターとは「複数の分散型エネルギーリソース(DER)を束ね、あたかも一つの調整力として市場や系統運用に提供する主体」と定義されます。需給調整市場においてアグリゲーターが重視される理由は、主に以下の3点に集約できます。
(1) 市場取引単位とリソース規模の不整合
需給調整市場では、一定以上の容量・応動性能を満たすことが参加要件として求められます。一方、個々の系統用蓄電池は容量が比較的小さい場合も多く、単独では市場要件を満たさないケースが想定されます。
このギャップを埋める手段として、複数の蓄電池を束ねて市場要件を満たすアグリゲーションが制度上想定されています。
(2) 系統運用上の責任主体の明確化
需給調整市場では、調整力の不履行や性能未達が系統運用に直接影響を与えます。そのため、一般送配電事業者との間で、調整力提供に関する責任を負う主体を明確にする必要ができます。
分散した蓄電池個々に直接責任を負わせるのではなく、アグリゲーターを「市場取引および運用上の責任主体」とすることで、制度の実効性と系統運用の安定性を確保すると整理されています。
(3) 制御・計測・通信要件への対応
需給調整市場では、指令への応動、実績の計測、データの提出など、高度な制御・ICT要件が課されています。これらを各蓄電池事業者が個別に満たすことは、制度開始当初においては負担が大きいと考えられていました。
そのため、アグリゲーターが制御・計測・通信機能を一元的に担うことで、分散型リソースの市場参加を現実的なものにする役割が期待されています。
こうした制度設計を前提に、系統用蓄電池の最適運用や市場対応を支援する民間事業者の役割も拡大しています。株式会社Sustechでは、AIを活用した電力運用最適化プラットフォーム「ELIC」を通じて、再生可能エネルギーや蓄電池の市場価値最大化を支援しており、需給調整市場への参画を見据えた運用高度化の取り組みを進めております。
それぞれの企業様の要件に合わせて幅広いサポートが可能です。お気軽にご相談ください。
(4) 直接参加ではなく「アグリゲーター経由」とされた理由
以上を踏まえ、系統用蓄電池が需給調整市場に参入する際には、
- 市場要件を満たす規模・性能を確保すること
- 一般送配電事業者との責任関係を明確にすること
- 高度な制御・計測・通信要件を安定的に満たすこと
が不可欠であるとされています。
これらを個々の蓄電池事業者に直接求めるのではなく、アグリゲーターという主体を制度上の窓口として位置づけることで、分散型リソースである系統用蓄電池の円滑な市場参入を可能にする、というのが基本的な参画方法とされています。
需給調整市場において系統用蓄電池で参入する際にアグリゲーターが必要とされるのは、事業者側の都合というよりも、市場設計と系統運用の安定性を両立させるための制度的要請に近いと言えます。アグリゲーターは「中間業者」ではなく、分散型蓄電池を電力システムの中で機能させるための不可欠な制度的インフラとして位置づけられています。
電力需給調整力取引所 需給調整市場に係る取引規程等の公表
https://www.eprx.or.jp/outline/announcement.html?
まとめ
需給調整市場は、GF・LFC・EDCという系統制御機能に対応した調整力区分、ΔkW市場とkWh市場という二層構造、そして限界費用と機会費用を軸とした価格規律という三つの柱で構成されています。系統用蓄電池は他の電源と同様の枠組みで評価され、アグリゲーターは制度的インフラとして不可欠な役割を担います。この市場は特定技術の優遇ではなく、あらゆるリソースに対して合理的行動を求める中立的な制度です。再エネ拡大が進む中、この市場の仕組みを正しく理解することは、今後の電力ビジネスや政策議論において必須の知識基盤となるでしょう。制度の本質を捉え、実務に活かすための第一歩として、本稿が一助となれば幸いです。
株式会社Sustechでは、AIを活用した電力運用最適化プラットフォーム「ELIC」を通じて、再生可能エネルギーや蓄電池の市場価値最大化を支援しており、需給調整市場への参画を見据えた運用高度化の取り組みを進めております。
それぞれの企業様の要件に合わせて幅広いサポートが可能です。お気軽にご相談ください。





