炭素市場をリードする国際タスクフォース「TSVCM」とは?動向や目的を解説!
世界の脱炭素化への取り組みは加速しており、中でもカーボンクレジットの取引が行われる炭素市場に注目が集まっています。「TSVCM」は世界の炭素市場をリードする組織であり、国際的なタスクフォースでもあります。
「TSVCM」は、現状の15倍以上にまで市場を拡大することを目的としているため、今後排出権取引が導入予定の日本とも無関係ではありません。
ぜひ本コンテンツを参考に、「TSVCM」についての知見を深めてください。
目次
TSVCMとは、炭素市場を拡大するための指針を作成する組織のこと
TSVCMは「Taskforce on Scaling Voluntary Carbon Markets」の略です。透明性のある安全な指針や基準を設定することで、信頼性の高い自主炭素市場をつくるためのさまざまな取り組みを行っている組織です。
そもそも炭素市場とは
そもそも炭素市場とはなんでしょうか。まずは炭素市場について詳しく解説していきます。
炭素市場とは、温室効果ガス削減対策に伴うCO2排出削減量に価値を付与したクレジット等を発行し、それらを金銭的に売買する市場です。カーボンクレジットが扱われる市場なので、カーボンマーケットと呼ばれることもあります。
企業の事業活動や生産活動には、多くの温室効果ガスの排出が伴いますが、温室効果ガスの増加は地球温暖化という深刻な環境問題に直結しています。そのため近年は企業に温室効果ガス削減対策として、CO2排出量に応じた負担を求める 「カーボンプライシング」施策が推進されています。
日本でも2023年2月の「GX実現に向けた基本方針」において、将来的な「排出量取引制度」の本格導入が閣議決定されました。 東京証券取引所も23年10月に「カーボンクレジット市場」を開設し、国が認証するJ-クレジットなどの市場取引を行う予定です。
炭素市場には以下の2タイプが存在します。
●コンプライアンス(義務)市場
国や国連機関などが主導・認証し、規制に基づいた取引が行われる。法的拘束力がある。
●ボランタリー(任意)市場
民間やNGO団体などが主導・認証し、相対取引で売買が行われる。法的拘束力がない。
ボランタリークレジットとは
民間の組織が主導するボランタリー市場には以下の3つの特徴やメリットが存在します。
1.ボランタリー(任意)市場とは、民間の機関やNGOが運営するカーボンクレジット市場でそこで取引されるクレジットをボランタリークレジットと呼ぶ
2.カーボンクレジットを自由に売買可能なためさまざまな創出方法が存在し、近年市場が拡大している
3.多くのグローバルなボランタリークレジットが存在し、柔軟に対応できる
このようなメリットがあるボランタリー市場は、昨今活性化しており、世界的にボランタリークレジットを発行する企業も増加しています。
しかしその反面ボランタリー市場には、基準が明確ではなく、不透明な制度が乱立しているというデメリットも存在しました。そのため、ボランタリー市場ではクレジットの国際的な標準化や基準を創設する必要があったのです。
TSVCM 設立の背景と動向
「TSVCM」は、2020年にクレジット市場拡大を目的としたタスクフォースとして設立されました。設立したのは、元イングランド銀行総裁、国連気候アクション・ファイナンス特使であるマーク・カーニー氏です。
排出権取引は、欧州や中国、カナダ等で導入されていますが、投資対象や地域が限定的なため、削減効果や市場拡大の妨げになっていました。「TSVCM」は、自主的な炭素市場の創設の必要性を掲げ、大規模な実効性を持つ市場の開発で、各社のイノベーションへの投資や効果的なソリューションの促進を訴えました。
そしてクレジットの品質や評価枠組みに関する整理、取引の透明性担保・流動性向上等に向けた世界初のタスクフォースを実現したのです。
現在は「TSVCM」によって、新しく設立されたガバナンス機関「The Integrity Council for Voluntary Carbon Markets(ICVCM)」で、基準や制度の継続した検討を行っています。
ICVCMについて簡単に
「ICVCM」とは、「TSVCM」において「核となる炭素原則(CCP)」の策定が提言されたのを受け、2021年に創設された自主的炭素市場のための独立した機関です。CCPとは、カーボンクレジットの情報開示と持続可能な開発に関して、厳格な基準設定と信頼性の高さを保証するベンチマークです。核となる炭素原則=コアカーボン原則は従来のカーボンクレジットの要件に「持続可能な開発」「ネットゼロ移行」の要件が盛り込まれクオリティが高いカーボンクレジット要件になっています。
以下に10のコアカーボン原則を表にまとめましたので参考にしてください。
10のコアカーボン原則 | 詳細 |
3. 透明性 | 炭素クレジットプログラムの透明性を確保するために、情報は公的に入手可能及び専門家以外の閲覧者もアクセス可能 |
4. 確実で独立した第三者機関による検証 | 炭素クレジットプログラムは、確実で独立した第三者機関による検証を実施 |
5. 追加性 | 温室効果ガス排出量の削減または削減活動からは、追加性のあるクレジットの発行が行われる |
6. 永続性 | 削減活動が永続的であるかを検証し、将来的にリスクがある場合には対処を実施する |
7.排出削減と除去の確実な定量化 | 排出量の削減活動は、科学的方法に基づいた確実な定量化で実施する |
8.二重カウントの禁止 | 削減された排出量の二重カウントを禁止する |
9. 持続可能な開発の利点と保障措置 | 炭素クレジットプログラムには持続可能な開発にプラスの効果をもたらすための、明確なガイダンス、ツール、およびコンプライアンスを設定する |
10. ネットゼロ移行への貢献 | 削減活動は、今世紀半ばまでに 温室効果ガス排出実質ゼロへの貢献を促す |
参照:ICVCM
TSVCM メンバー紹介
ここではTSVCM の企業の参加メンバーを参考にご紹介します。日本企業は現在のところ諮問グループ・メンバーとして三菱商事のみの参加です。
タスクフォースメンバー |
●ジェフ・ファン、AEX ●Mary Grady、American Carbon Registry & ART ●ジョナサン・ディーン、AXA ●アビッド・カルマリ、バンク・オブ・アメリカ ●リカルド・ライセカ、BBVA ●サンドラ・ボス、ブラックロック ●カイル・ハリソン、ブルームバーグ NEF ●フランソワ・カレ、BNP ●ショーン・ニューサム、ボーイング社 ●ジェフ・スワーツ氏、BP ●アリーユ・スレイマン、ダンゴテ ●ミッケル・ラーセン、DBS ●ステファニー・ジュー、デルタ航空等他 |
特別委員会オブザーバー |
●マリサ・デ・ベロイ、ハイ・タイド財団 ●トム・オーエンズ、ハイ・タイド財団 ●ゾーイ・ナイト、HSBC ●マリー・ド・バゼレール、HSBC ●デイム・クララ・ファース、HSBC ●ジョン・デントン、ICC ●ダーク・フォリスター、IETA ●水谷クレア、IETA ●ステファノ・デ・クララ、IETA ●アントワーヌ・ディメルト、IETA他 |
諮問委員会メンバー |
●ニコレット・バートレット、CDP ●ジェス・エアーズ、児童投資基金財団 ●アグスティン・シルバニ、コンサベーション・インターナショナル ●ケリー・キッジャー、環境防衛基金 ●アレクシア・ケリー、ハイ・タイド財団 ●ポーラ・ディペルナ、独立顧問 ●タジンダー・シン、IOSCO ●ジョン・クレイツ、ロッキーマウンテン研究所他 |
TSVCMが推奨している項目は大きく6つ
任意の炭素市場が持続可能性の目標に貢献できるように、次の6つの項目を推奨しています。
1.核となる炭素の原則および属性分類
2.核となる炭素の透明性の強化
3.トレード・資金調達・データに関するインフラ構築
4.オフセットに関するコンセンサスの正当性
5.炭素市場の安全性の保証
6.デマンドシグナル(要求信号)について
それぞれを詳しく解説していきましょう。
1.核となる炭素の原則および属性分類
炭素の核となる原則および属性分類とは、中核となる炭素原則 (CCP) を確実にし、信頼性のあるクレジットを確保することです。
2.核となる炭素の透明性の強化
核となる炭素の透明性の強化で、価格リスクの管理を保持し、クレジットの購入者の選択を確実にすることが可能です。
3.トレード・資金調達・データに関するインフラ構築
トレード・資金調達・データ等に関する確実でクリアなインフラを構築することで、大規模なサプライチェーン融資や、サプライヤーのスケールアップを促進することを可能とします。
4.オフセットに関するコンセンサスの正当性
ネットゼロ目標の達成におけるカーボン・オフセットの重要な役割に関して、すべての市場関係者間の明確な連携の実施を可能にします。
5.炭素市場の安全性の保証
炭素市場の公平性、効率性、透明性を確保し、不正行為のリスクを軽減するための強力なプロセスの導入を実施します。さらにバリューチェーン全体で、市場関係者サポートのための整備を推奨します。
6.デマンドシグナル(要求信号)について
投資家向けのガイダンス提供や明確なカーボンリテラシー、デマンドシグナルの仕組みついての構築等を推奨します。
6つの推奨項目を達成するための20のアクションプラン
上記6つの推奨項目を、さらに細かく定義したものが、「2050年の目標に向けた20のアクションプラン」として発表されています。表にまとめましたので参考にしてください。
【TSVCM:2050年の目標に向けた20のアクションプラン】
1 核となる炭素の原則と属性分類法を確立する
2 核となる炭素の原則を遵守しているかの評価
3 信頼性の高い供給の拡大を達成する
4 核となる炭素のスポット取引や先物取引を導入する
5 活発な流通市場設を創設する
6 取引市場の標準化と透明性を高める
7 大量の取引が可能なインフラの構築や活用
8 回復が迅速な取引後の業務全般のインフラを構築
9 高度なデータインフラを実装する
10 ストラクチャード・ファイナンスを促進する
11 オフセットの利用に関する原則を確立する
12 企業から要求されるオフセットについてのガイダンスの統一
13 効率的で迅速な検証の実施
14 アンチマネーロンダリング(AML)や明快な資金調達や本人確認手続きのためのグローバルなガイドラインを作成する
15 法的枠組み・会計的枠組みを確立する
16 市場を利用する人々と市場の機能を管理する機関を設立する
17 投資家に対して使用するオフセットの一貫したガイダンスを提供する
18 POS技術を通して消費者に対しての信頼性や認知度を向上する
19 業界の連携やコミットメントを強化する
20 デマンドシグナル(要求信号)のための仕組みを構築
参照:TSVCM
TSVCMは企業が炭素市場に参加する際に参考すべき指針
「TSVCM」自体はタスクフォースなので、企業として“取り入れる”というよりは、理解して“参考にする”のが良いと言えます。ガイドラインや基準をもとにプロジェクトを進めていくことで、効果的に目標達成できたり、取り組みや成果について透明性を確保したりすることが可能です。
ここでは企業が炭素市場に参入する場合、「TSVCM」を有効活用するための3つのポイントをご紹介していきます。
STEP1:TSVCMの目的を理解
「TSVCM」の最大の目的は、『地球温暖化による気温上昇を1.5℃までに抑える』ことです。これを前提として以下の2つの達成を掲げています。
●2030年までに現在の温室効果ガス排出量を半分まで減少させ、2050年には実質ゼロにする
●自主的炭素市場の創設を現在の15倍以上にする
これらは世界の多くの国が合意したパリ協定に基づく「2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル達成」が大きく関わっています。この目標を達成するためには、現在よりも野心的に温室効果ガス削減に取り組まなくてはいけません。
「TSVCM」はこの目標を大きく達成するためのタスクフォースなのです。
STEP2:最新の情報を入手
「TSVCM」の公式サイトや関連資料から最新の報告書やガイドラインを入手し、具体的なアドバイスについて学びましょう。現在の世界の脱炭素化への動向や、取り組むべき内容を知ることが可能です。
STEP3:自社の状況を確認しTSVCMの勧告を取り入れてみる
まずは現状の自社の管理体制や、炭素保障の取り組みを確認し、効果的なカーボンクレジットの購入方法を確認しておきます。その上で透明性の高い取り組みを行う「TSVCM」の基準やプログラム勧告に従って、今後の具体的な取り組み方法を検討しましょう。
しかし、炭素市場に参入したり脱炭素化施策を行ったりするには専門的な知識が欠かせません。そのため脱炭素化を確実に推進したいなら、必要に応じて専門家やコンサルタントと連携することもおすすめです。
まとめ
自主的な炭素市場で活用可能な国際タスクフォース「TSVCM」について、さまざまな角度からわかりやすく解説しました。政府が排出権取引の導入を決定した日本でも、今後は「TSVCM」のような国際タスクフォースはますます重要となっていくでしょう。
SDGSへの取り組みも重視する「TSVCM」のクレジットは今後利用機会が増えるものと考えられます。
脱炭素化の波に乗り遅れることのないように、ぜひ本コンテンツで「TSVCM」の知見を深め、脱炭素市場参入の手立てとしてください。