ZEV規制とは?電動車の義務化が加速する自動車業界の脱炭素戦略を解説

気候変動対策が世界中で加速する中、自動車業界においてもCO₂排出削減が求められています。その中で注目されているのが、「ZEV規制(Zero Emission Vehicle 規制)」です。ZEV規制は、各国政府が導入を進める環境政策の一環であり、ゼロエミッションビークル(ZEV)の普及を義務化することで、自動車業界の脱炭素化を推進するものです。
本コンテンツでは、ZEV規制の概要、導入の背景、世界各国の取り組み、そして日本や自動車業界の今後の動向について詳しく解説します。
目次
ZEV規制とは?概要と成り立ちについて
ZEV規制とは?
ZEV規制(Zero Emission Vehicle規制)とは、一定割合以上の新車販売をゼロエミッションビークル(ZEV)にすることを自動車メーカーに義務付ける規制です。ZEVには、以下の車両が含まれます。
- 電気自動車(EV:Electric Vehicle)
- 燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)
- 一部のプラグインハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hybrid Vehicle)
ZEV規制は、CO₂排出削減を目的とした環境政策の一環であり、主に欧米を中心に導入が進められています。
ZEV規制の成り立ち
ZEV規制は、1990年代にカリフォルニア州で最初に導入された環境規制が基盤となっています。当時の規制は、自動車メーカーに一定のZEV販売割合を義務付けるものとして始まりました。その後、EUや中国などでも同様の規制が導入され、現在では多くの国がZEVの普及促進を進めています。
なぜZEV規制が必要なのか?
CO₂排出削減と気候変動対策
自動車は、世界のCO₂排出量の約20%を占めるとされており、特にガソリン・ディーゼル車の使用による温室効果ガスの排出が問題視されています。ZEV規制は、これを削減するための手段の一つとして導入され、持続可能なモビリティの実現を目指しています。
自動車市場の競争力強化
各国は、ZEV規制を通じて、自国の自動車産業が電動車市場で競争力を持てるように誘導しています。特に欧州では、EV技術の開発を推進するために厳しい排出規制を設け、企業にZEVの開発を促しています。
大気汚染の削減
ZEVの普及は、都市部の大気汚染対策にも寄与します。NOxやSOxなどの有害物質の排出が少ないため、特に都市部での健康被害を減らす効果が期待されています。
ZEV規制に対応したxEV
xEV(電動車)には、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド自動車)、HEV(ハイブリッド自動車)の4種類があります。それぞれの特徴、メリット・デメリット、今後の展望について詳しく見ていきましょう。
引用 資源エネルギー庁 エネこれ 『「電気自動車(EV)」だけじゃない?「xEV」で自動車の新時代を考える』
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev.html
EV(電気自動車)
特徴
バッテリーに蓄えられた電力のみでモーターを駆動し、走行します。走行中にCO2を排出しないため、ゼロエミッション車(ZEV)に分類されます。 家庭用電源や充電スタンドから充電可能です。
メリット
- 走行中のCO2排出量がゼロ。
- 燃料費がガソリン車よりも安く、維持費も比較的低い。
- 静かで振動が少なく、快適な走行が可能です。
デメリット
- 航続距離がガソリン車よりも短い。
- 充電時間が長く、充電インフラの整備がまだ不十分な地域があります。
- 車両価格がガソリン車よりも高い傾向があります。
今後の展望
バッテリー技術の進化により、航続距離の延長や充電時間の短縮が進んでいます。充電インフラの整備も進み、普及が加速すると予想されます。
FCV(燃料電池自動車)
特徴
水素と酸素の化学反応によって発電した電力でモーターを駆動し、走行します。排出するのは水のみで、CO2を排出しないため、ZEVに分類されます。 水素ステーションで水素を充填します。
メリット
- 走行中のCO2排出量がゼロ。
- 水素充填時間が短く、ガソリン車と同程度の航続距離を実現可能です。
- 将来的に、水素エネルギーの普及により、エネルギーセキュリティに貢献する可能性があります。
デメリット
- 水素ステーションの整備がまだ不十分で、インフラ整備にコストがかかります。
- 車両価格が高く、水素の製造・輸送コストも高いです。
今後の展望
水素ステーションの整備が進み、水素エネルギーの普及が進めば、普及が加速する可能性があります。技術開発により、車両価格や水素の製造・輸送コストの低減が期待されます。
PHEV(プラグインハイブリッド自動車)
特徴
バッテリーとガソリンエンジンを搭載し、外部から充電可能なハイブリッド自動車です。短距離走行はEVとして、長距離走行はハイブリッド車として使用できます。EV走行とガソリンエンジン走行の切り替えが可能です。
メリット
- EV走行によるCO2排出量削減と、長距離走行の利便性を両立します。
- 充電インフラが不十分な地域でも、ガソリンで走行可能です。
デメリット
- 車両価格がガソリン車やHEVよりも高い傾向があります。
- EV走行距離はEVに比べて短い。
- 充電の設備が必要。
今後の展望
バッテリー技術の進化により、EV走行距離の延長が進んでいます。EVとガソリン車の過渡期の自動車として、一定の需要が見込まれます。
HEV(ハイブリッド自動車)
特徴
ガソリンエンジンと電気モーターを搭載し、両方の動力を組み合わせて走行します。外部からの充電はできません。走行中の減速エネルギーを電力に変換しバッテリーに充電します。
メリット
- 燃費がガソリン車よりも優れており、CO2排出量削減に貢献します。
- 充電インフラが不要で、ガソリンスタンドで給油可能です。
- EVに比べて車両価格が安価な場合が多い。
デメリット
- EVやFCVほどのCO2排出量削減効果はありません。
- EV走行距離は非常に短い。
今後の展望
燃費改善技術の進化により、さらなるCO2排出量削減が期待されます。EVやPHEVへの移行が進む中で、一定の需要が継続すると予想されます。
世界各国のZEV規制とその影響
カリフォルニア州(アメリカ)
カリフォルニア州は、最も厳格なZEV規制を導入している地域の一つです。
- 2035年までにガソリン車の新車販売を禁止
- ZEVの販売比率を段階的に引き上げる
- ZEV販売の達成度に応じてクレジット制度を導入(未達成の場合、罰則あり)
カリフォルニア州の規制は、他の米国の州にも影響を与え、多くの州が同様の規制を採用しています。
欧州連合(EU)
EUでは、2035年までに新車販売を100%ZEVにするという目標を設定しています。
- CO₂排出規制の厳格化
- EV充電インフラの整備支援
- メーカーに対する補助金やインセンティブの提供
特にドイツ、フランス、イギリスなどの主要国では、EVの購入補助金や税制優遇を通じてZEVの普及を加速しています。
中国
中国は、世界最大のEV市場を形成しており、ZEV規制を強化しています。
- NEV(新エネルギー車)規制を導入
- 2025年までに新車販売の約20%をZEVに
- 国内EVメーカー(BYDやNIO)の成長を支援
中国政府は、EVの普及を進めるために、バッテリー技術の開発支援や充電インフラの整備に力を入れています。
日本のZEV普及目標
日本政府は、「2050年カーボンニュートラル」を目標に掲げ、ZEVの普及を推進しています。
- 2035年までに新車販売を100%電動車(EV・PHEV・FCV)に
- EV・FCVの普及支援策(補助金・税制優遇)
- 充電インフラの整備加速
日本のZEV規制の現状
- 政府目標
2050年カーボンニュートラル実現に向け、2035年までに乗用車の新車販売からガソリン車をなくすことを目標としています。ただし、この目標は「電動車」という広い概念に基づいており、BEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)だけでなく、HEV(ハイブリッド車)も含まれています。
- 規制の具体性
具体的なZEV規制の導入はまだ行われていません。政府は、電動車の普及を促進するための各種施策を進めています。
ZEV規制に対応した活動を行っている企業の取り組み
自動車メーカーの取り組み
トヨタ自動車
トヨタは、「全方位戦略」を掲げ、BEV、PHEV、FCV、HEVなど、多様な電動車の開発・普及を推進しています。これは、各地域のエネルギー事情やインフラ整備状況に合わせて、最適な電動車を提供するためです。
特に、全固体電池の開発に力を入れており、次世代EVの実現を目指しています。また、充電インフラ整備にも積極的に関与し、EVの普及を後押ししています。
参考 トヨタ自動車公式HP 「電動化への取り組み」
https//global.toyota/jp/sustainability/esg/climate-change/
日産自動車
日産は、電気自動車「リーフ」を発売し、EV市場のパイオニアとしての地位を確立しました。現在も、新型EV「アリア」を投入するなど、EVラインアップの拡充を進めています。全固体電池の開発にも積極的に取り組んでおり、2028年までに実用化を目指しています。また、EVの普及に向け、充電インフラ整備や、EVを活用した新たなサービス開発にも力を入れています。
参考 日産自動車公式HP 「日産電気自動車」
https//www.nissan.co.jp/EV/
ホンダ
ホンダは、燃料電池自動車「クラリティFUEL CELL」を発売するなど、FCV技術の開発に力を入れています。また、BEVのラインアップも拡充しており、2020年代後半には、グローバルでBEVを年間200万台以上生産することを目指しています。ホンダは、全固体電池の開発にも取り組んでおり、2020年代後半には実用化を目指しています。
参考 Honda公式HP「カーラインナップ」
https//www.honda.co.jp/N-VAN-e/susmate/
関連企業の取り組み
パナソニック
パナソニックは、車載用リチウムイオン電池の開発・生産で世界をリードしています。特に、テスラとの協業で、高性能な車載電池を開発・供給しています。また、全固体電池の開発にも力を入れており、次世代EVの実現に貢献しようとしています。
参考 パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社HP
https//automotive.panasonic.com/
ENEOS
ENEOSは、水素ステーションの整備を推進し、FCVの普及を支援しています。また、EV充電サービス事業にも参入しており、EVの普及に向けたインフラ整備に取り組んでいます。ENEOSは、水素の製造・供給にも力を入れており、水素エネルギーの普及に貢献しようとしています。
参考 ENEOS公式HP 「水素事業」
https//www.eneos.co.jp/business/hydrogen/introduction.html
東京電力
東京電力は、EV充電インフラの整備や、EV向け電力サービスを提供しています。EVの普及に向け、充電スポットの設置や、充電料金の割引サービスなどを展開しています。また、EVのバッテリーを活用した電力系統安定化サービスなど、新たなビジネスモデルの開発にも取り組んでいます。
参考 東京電力HP「EV DAYS」
https//evdays.tepco.co.jp/entry/2024/12/12/000070
これらの企業は、ZEV規制をビジネスチャンスと捉え、積極的に電動化戦略を推進しています。
ZEV規制の今後の展望と課題
ZEV規制は、地球温暖化対策と大気汚染対策の重要な柱として、世界的にその重要性を増しています。しかし、その実現には多くの課題が伴います。
ZEV規制の今後の展望
- 規制の強化と拡大
各国・地域で、ZEV規制の強化と対象範囲の拡大が進むと予想されます。特に、欧州やカリフォルニア州を中心に、より厳しい規制が導入される可能性があります。
- 技術革新の加速
バッテリー技術、燃料電池技術、充電インフラ技術などの革新が加速し、ZEVの性能向上とコスト低減が進むと予想されます。全固体電池や水素エネルギーなど、次世代技術の実用化も期待されます。
- インフラ整備の進展
充電インフラや水素ステーションの整備が進み、ZEVの利便性が向上すると予想されます。政府や自治体の支援に加え、民間企業の参入も増加するでしょう。
- 市場の拡大
ZEVの普及が進み、市場が急速に拡大すると予想されます。自動車メーカーだけでなく、関連産業にも新たなビジネスチャンスが生まれるでしょう。
ZEV規制の課題
- インフラ整備の遅れ
充電インフラや水素ステーションの整備が、ZEV普及のボトルネックとなる可能性があります。特に、地方や集合住宅などでのインフラ整備が課題です。
- バッテリーの課題
バッテリーのコスト、航続距離、充電時間、寿命などが、ZEV普及の制約となる可能性があります。バッテリーの原材料調達やリサイクルも課題です。
- コストの問題
ZEVの車両価格や充電コストが、ガソリン車と比較して高い場合があります。コスト低減に向けた技術革新や政策支援が必要です。
- 地域間の格差
ZEV普及の速度やインフラ整備状況に、地域間で格差が生じる可能性があります。地域の実情に合わせた政策が必要です。
- エネルギー政策との連携
ZEV普及には、再生可能エネルギーの導入拡大など、エネルギー政策との連携が不可欠です。電力系統の安定化やスマートグリッドの構築も課題です。
まとめ
ZEV規制は、自動車産業の脱炭素化を加速させ、持続可能なモビリティ社会の実現に貢献する重要な政策です。各国が異なるアプローチを取る中で、日本もグローバル市場に対応するためにEV・FCV開発を強化する必要があります。
今後は、ZEV規制を見据えた技術革新や充電インフラの整備が重要となり、持続可能な社会を実現するための鍵となるでしょう。

