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世界初の民間炭素クレジット制度「American Carbon Registry (ACR)」とは?詳しく解説

基礎知識

国際的なボランタリークレジットのひとつ、「American Carbon Registry (ACR)」の名前を聞いたことはないでしょうか。

「American Carbon Registry (ACR)」とは、米国で設置された世界初の民間の炭素クレジットプログラムであり、炭素市場における温室効果ガス排出削減を推進する機関です。

脱炭素化経営を進めるうえで、世界のカーボンクレジット制度について学ぶことは重要です。今回はAmerican Carbon Registry (ACR)」について、どのような制度や機関なのか詳しく解説していきます。

American Carbon Registryは、世界初の民間炭素クレジットを認証・発行する機関

「American Carbon Registry(ACR) は、世界的なコンプライアンスとボランタリー市場で活動するカーボンクレジットプログラムのことです。

ここでは「American Carbon Registry(ACR)について詳しく解説していきましょう。

American Carbon Registry (ACR)概要

「American Carbon Registry」 は略してACRと呼ばれているため、本コンテンツでも以下はACRと呼びます。ACRとは、NPO法人の「Winrock International」が1996年に設立しました。世界で初めての民間の温室効果ガス排出量取引のための認証やカーボンクレジットを発行する機関です。

企業や団体が行う二酸化炭素排出量を減らす取り組みの効果を計測し、それに応じて炭素クレジットというかたちで証明書を発行しています。多くの炭素市場において活用されている代表的なボランタリークレジットのひとつです。

ACRのクレジット契約は、ACRレジストリシステムの外部、または承認されたプラットフォーム上の店頭取引を通じて、買い手と売り手の間で直接行われます。

クレジット取引とは?簡潔に解説

ACRの詳細を解説する前にクレジット取引について学びましょう。クレジット取引とは、簡単に言うと「企業や事業団体が温室効果ガスの削減量を証書やクレジットの形として発行し売買すること」であり、正式にはカーボンクレジット取引と呼ばれます。この場合のカーボンとは主にCO2のことを指します。

カーボンクレジット取引を具体的に解説すると、以下のようになります。

1.企業が脱炭素経営推進でCO2の削減活動を進めるが、どうしても削減できない排出量が発生する
2.削減できなかった分のCO2排出量を他社から「排出許可証」として購入し、間接的にCO2削減を実施する
3.一方、自社が削減に成功し排出量に余剰がある場合は、「排出削減証書」として他社に販売が可能

このような形でCO2等温室効果ガスの排出削減量を、主に企業間で売買可能にする仕組みを「カーボンクレジット」といい、どうしても排出されるGHGについて、排出量に見合ったGHGの削減活動に投資することなどにより排出されるGHGを埋め合わせるというのが「カーボンオフセット取引」のことです。

カーボンクレジットの種類は2つ

カーボンクレジットの取引制度には次の2つのタイプがあります。

【ベースライン&クレジット制度】
ベースライン&クレジット制度とは、国や企業が「ベースラインの排出量と実際の排出量の差分を取引可能にしたもの」です。

【キャップ&トレード制度】
キャップ&トレード制度は国や自治体が企業や事業者に対して「CO2の排出枠を一定量割り当てる制度」です。そのため、実際の排出量がその割り当てを超えてしまった場合は、排出量を削減することができた他社から自社の上限を超えた排出分をクレジットとして購入するペナルティが発生します。

ボランタリークレジットとは

カーボンクレジットは炭素市場にて取引が行われます。炭素市場は、法令順守に基づき、キャップ&トレード制度に則って形成される、コンプライアンス(義務)市場と、企業が自指摘に派出権を取引するボランタリー(任意)市場の2種類が存在します。ここではACRが取り引きだされるボランタリー市場について3つの特徴をご紹介し、簡単に解説しましょう。

1.ボランタリー(任意)市場とは、民間の機関やNGOが運営するカーボンクレジット市場で、取引されるクレジットをボランタリークレジットと呼ぶ
2.カーボンクレジットを自由に売買可能なためさまざまな創出方法が存在し、近年市場が拡大している
3.多くのグローバルなボランタリークレジットが存在する

American Carbon Registryのクレジットが発行されているプロジェクト紹介

ACRが取り引きされているプロジェクトの内容について代表的なものを解説していきます。

カリフォルニアのキャップ&トレード

ACR はカリフォルニア大気資源委員会 (ARB) のオフセットプログラムの支援を実施し、かつ「カリフォルニアキャップ&トレード」プログラムの主要なカーボン・オフセット プロジェクトとして活用されています。活用方法は、オフセットプロジェクトの検証とキャップアンドオフセットクレジットのためのシリアル化されたレジストリオフセットクレジット(ROC)の発行監督です。

国際民間航空機関 (ICAO)

ACRはICAO 理事会により、「国際航空カーボン・オフセット」および「CORSIA 」に基づいて、航空会社に排出削減および除去クレジットを供給する承認を受けています。

ICAO とは、国際航空を管理する基準を管理する国連の専門機関です。国家間の航空便からの排出量はパリ協定の国家気候目標には含まれていません。そのためICAOは国際航空におけるカーボン・ニュートラルな成長を達成するための世界的なメカニズムとして、「CORSIA」を承認しました。

【自主的な炭素市場】

ACR は自主的な炭素市場において、厳格な基準と規格に準拠したプロジェクトの登録と独立した検証の実施が可能です。これにより、次のような気候変動対策のプロジェクトの排出削減と除去の測定、監視、報告、検証における透明性や正確性、厳格性が保証され□す。

・森林およびその他の土地利用
・メタンや地球温暖化係数 (GWP) の高い冷媒を含む非 CO 2ガス
・炭素回収および隔離 (CCS)

ACは自主的または「不遵守」市場を通じて、新しい部門が炭素市場に参加するための正式な経路を開発することにより、排出量削減に貢献し、個人や民間企業の気候変動への取り組み達成に貢献しています。

ワシントン州のキャップ&インベストメント

2023 年にはワシントン州の「キャップ&インベストメントプログラム」のカーボンクレジットとして、ACRが承認されました。このプロジェクトではワシントン州生態局 (エコロジー) のオフセットプログラムの実施を支援し、対象事業体がエコロジーオフセットクレジットに変換できるROC(レジストリ―オフセットクレジット)の発行監督を行っています。

コロラド州のメタン回収

コロラド大気質管理委員会 (CAQCC) は、回収メタン規則を採用し、回収メタンクレジットを生成するプロジェクトを実施しています。 ACRのプログラムを活用したプロジェクトは、クリーンヒートプランとして「回収メタンプロトコル」と名付けられました。プロジェクト参加者は、法に基づいて要求される温室効果ガス削減の一部を満たすために、このプロジェクトのクレジットを取り引きすることが可能です。

シンガポール政府

2023年度、ACRはパリ協定に基づいた脱炭素政策の一環として、シンガポール国家環境庁(NEA)との間で、ACR クレジットの取引を通じてプロジェクトを実施するための協定を締結しました。これによりシンガポールに本拠を置く企業は、カーボンクレジットが政府の基準を満たしている限り、ACRやほかの機関が発行する、2024年から企業が課税対象排出量の最大5%をオフセットするための高品質の国際炭素クレジットを放棄してをシンガポール政府に引き渡すことが可能となりました。

これは今世紀半ばまでにカーボンニュートラル達成するという、シンガポールの気候変動対策目標を大きく推進するものです。

国際炭素削減およびオフセットアライアンス

2011 年度、ACRはボランタリークレジットの信頼性評価を行う国際 NGO「ICROA」により、世界初の脱炭素クレジットの認証基準として認められました。ACRが世界初の自主的な炭素登録機関であり、基準の環境保全性と登録オフセットプロジェクトの品質が ICROA から認められたことは非常に重要です。

これにより世界のボランタリー市場では、ACRのカーボンクレジット取引が多く行われるようになりました。

American Carbon Registryの多彩な認証プログラム

ACRには、カーボンクレジット発行だけではなく、再生可能エネルギーの導入、森林保全、廃棄物の再利用など、温室効果ガス削減や吸収効果の認証以外にも、多義に渡った環境評価プログラムが存在します。具体的にいいますと、太陽光発電所の建設や森林保護活動プロジェクト、最新のソリューションやイノベーションによるメタンガスの削減、除去等、ほかには地域社会や生態系への貢献も行っています。

国連が定めたSDGsに準拠した以下のような評価を行い、報告することも義務付けています。

・温室効果ガスプロジェクトがSDGsにもたらしているプラスの影響の定性的評価
・環境および社会へのプラスおよびマイナスの影響。 プラスの影響は次のことに寄与する可能性
・持続可能な開発目標。 マイナスのリスクと影響を特定し評価する
・パリ協定に基づいた気候変動への対処と影響
・人権、先住民族の権利、地域社会、子供たち、弱い立場にある人々について
・ジェンダー平等、女性のエンパワーメント、世代間の平等

さらに課題に対して以下のような取り組みを行うことを求めています。

□ 環境および社会への悪影響をどのように回避、軽減、緩和するか、またはどのように行うかを詳細に説明し、補償の内容、およびメカニズムがどのように監視、管理、施行されているかを示す
□ 影響を受けるコミュニティおよびその他の利害関係者の権利が確実に認識されること
□ 効果的で継続的なコミュニケーションと苦情解決メカニズムが整備されていることを確認し、影響を受けるコミュニティがプロジェクトの利益を確実に分かち合うこと

企業がAmerican Carbon Registryを利用する流れ

それではここからは、企業がACRに登録し、クレジットを利用する流れを紹介していきます。

STEP1:申請

公式サイトで最新のガイドラインを確認。申請書をダウンロードしプロジェクトの詳細など必要情報を記入し提出します。

STEP2:検証・評価

プロジェクトは独立した第三者機関による検証が必要です。第三者機関は、ACR によって承認され、国際認定フォーラム (IAF) のメンバーであり、ACR と覚書を結んでいる機関でなくてはいけません。ACR 規格、関連する方法論および検証要件を遵守することで、プロジェクトベースのクレジットが実質的、追加的、永続的であることが保証されます。

STEP3:認証

検証は、国際規格であるISO 14065 に基づいて実施され、基準を満たしていれば認証を取得することができ、一般使用向けに公開されます。ACRでは、カーボンクレジットをシリアル化し、オンラインクレジットの発行とログにリンクしているため、二重カウントや二重販売を防止することが可能です。

STEP4:クレジットを販売する

認証されクレジットが発行されたら、クレジット取引を開始可能です。ACRはグローバルなボランタリークレジットのひとつなので、多くの企業が取引に利用しています。

なぜACRのようなグローバルなカーボンクレジットが重要なのか

日本では2050年カーボンニュートラル達成を目指し、2026年度には排出量取引市場を本格稼働させる計画です。そのため排出権取引が本格化する前に先行して、カーボンクレジットを活用しておくことが非常に重要です。取引市場が本格化する前にカーボンクレジット取引を実施していれば、市場参入がしやすく出遅れることがありません。

現在は日本においては、ACRを活用している企業はまだ少ない状況です。しかし、グローバルに活躍している企業は、今後世界の炭素市場で取り引きされているACRのような国際的なカーボンクレジットを常に注目しておく必要があります。

まとめ

欧米をはじめとして世界の脱炭素化は加速しており、今後は多くのグローバル企業がカーボンクレジット取引を行っていく可能性が向上しています。

大手企業のサプライチェーンの輪の中にいる中小企業にとっても、脱炭素政策に関してもはや無関心ではいられない時代を迎えています。

ぜひ本コンテンツで国際的なカーボンクレジットACRについての知見を深め、来るべき脱炭素施策の取り組みの参考にしてください。

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