CO2排出の削減目標について | 目標設定の経緯と進捗状況に関して解説
「2013年」、「2030年」、「2050年」。
皆様は、この3つの年に共通するキーワードをご存じでしょうか。
そうです、これらの年はまさに今読者の皆様が関心を寄せていらっしゃる「CO2の排出削減」に関連する3つの重要な基準年をお示ししています。日本は、2021年4月、以下に掲げるCO2の削減目標を表明し、同年10月22日、地球温暖化対策推進本部にて、「日本のNDC(国が決定する貢献)」を確定させ、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局へ提出いたしました。
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2050年カーボンニュートラルと整合的で、野心的な目標として、我が国は、2030年度において、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく。 環境省:日本のNDC(国が決定する貢献)より引用
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NDCの提出に至るまでのCO2排出の削減目標に関する経緯を確認すると、パリ協定が採択される前の2013年11月にポーランドのワルシャワで開催されたCOP19の決定にまで遡ります。
首相官邸:令和2年10月26日 第203回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説(カーボンニュートラル宣言)©https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202010/26shu_san_honkaigi.html
そこで、本コンテンツでは日本が今2050年のカーボンニュートラルに向けて取り組んでいるCO2の削減に関する目標設定の経緯とその進捗状況について詳しく解説していきます。
削減目標の設定経緯について
ここでまず把握しておくべきキーワードは2つあります。それは、INDCとNDCです。INDCは、Intended Nationally Determined Contributionsの略で、日本語では約束草案と訳されています。これは、2015年のCOP21に先立って各国が提出した、2020年以降の温暖化対策に関する各国の目標を表しており、2015年12月までに186か国がINDCを提出しています。つまり、国連加盟国のほとんどが国連気候変動枠組条約のメンバーとなっているなかで、そのほとんどがINDCを提出していることになります。因みに、2013年のCOP19における合意の時点で、全ての国に対して、2020年以降の削減目標を、2015年12月のCOP21に向けて準備することが求められていました。
INDCに関して基本的には、2030年に向けた目標設定を行っている国が多い状況ですが、中には前倒しで2025年を目標設定年としている国があったり、ベースとなるGHGの排出削減目標に加え、適応策に関する目標を盛り込んでいる国もあったりと、各国様々な方法で自国の目標について開示を行っています。そのような中で、日本も2015年7月17日に、地球温暖化対策推進本部が2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比で26.0%削減(2005年度比25.4%削減)するとの約束草案を、気候変動枠組条約事務局へ提出しています。
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提出内容:
エネルギーミックスと整合的なものとなるよう、技術的制約、コスト面の課題などを十分に考慮した裏付けのある対策・施策や技術の積み上げによる実現可能な削減目標として、国内の排出削減・吸収量の確保により、2030年度に2013年度比26.0%削減(2005年度比25.4%削減)の水準にすること。
参照:経済産業省 資源エネルギー庁 第1節 エネルギーミックス実現による排出量原単位大幅改善への挑戦
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経済産業省 資源エネルギー庁 第1節 エネルギーミックス実現による排出量原単位大幅改善への挑戦
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2016html/1-3-1.html
その後、COP21で採択されたパリ協定(2015年12月採択、2016年11月発効)以降は、INDCはNDCと呼ばれるようになりました。NDCとは、Nationally Determined Contributionsの略で、国が決定する貢献と訳されています。全ての国は、GHGの排出削減目標をNDCとして5年ごとに提出・更新する義務があります。NDCもまた、INDC同様、国連加盟国のほとんどがその提出を行っている状況です。
そして、世界的に脱炭素化に関する取り組みが各国で活発化する中で、2020年10月26日、当時の菅総理の所信表明演説において、「わが国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」との宣言がなされました。いわゆる、カーボンニュートラル宣言です。それに加え、より短期の削減目標としては、2021年4月22日に行われた米国主催の気候サミットにおいて、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度にGHGを2013年度から46%削減することを目指すこと、さらに50%の高みに向け挑戦を続けることが表明されました。その後の流れで、2021 年10月22日に地球温暖化対策推進本部において先に述べた削減目標を反映したNDCの内容が定められ、日本のNDCが正式に国連気候変動枠組条約事務局へ提出されました。
<日本を含む世界各国の排出削減目標>
国・地域 | 2030年目標 | 2050ネットゼロ |
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日本 | -46%(2013年度比) (さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく) | 表明済み |
アルゼンチン | 排出上限を年間3.59億t | 表明済み |
オーストラリア | -43%(2005年比) | 表明済み |
ブラジル | -50%(2005年比) | 表明済み |
カナダ | -40 ~ -45%(2005年比) | 表明済み |
中国 | (1)CO2排出量のピークを2030年より 前にすることを目指す | CO2排出を2060年までに ネットゼロ |
(2)GDP当たりCO2排出量を -65%以上(2005年比) | ||
フランス・ドイツ・イタリア・EU | -55%以上(1990年比) | 表明済み |
インド | GDP当たり排出量を-45%(2005年比) | 2070年ネットゼロ |
インドネシア | -31.89%(BAU比)(無条件) | 2060年ネットゼロ |
-43.2%(BAU比)(条件付) | ||
韓国 | -40%(2018年比) | 表明済み |
メキシコ | -22%(BAU比)(無条件) | 表明済み |
-36%(BAU比)(条件付) | ||
ロシア | 1990年排出量の70%(-30%) | 2060年ネットゼロ |
サウジアラビア | 2.78億t削減(2019年比) | 2060年ネットゼロ |
南アフリカ | 2026年~2030年の排出量を3.5~4.2億tに | 表明済み |
トルコ | 最大-21%(BAU比) | – |
英国 | -68%以上(1990年比) | 表明済み |
米国 | -50 ~ -52%(2005年比) | 表明済み |
外務省:日本の排出削減目標を元に筆者作成
日本:目標に対する進捗状況について
進捗状況を確認する前に、日本のNDCの中身を確認していきます。NDCの中で具体的に項目ごとに定められている目標値は、以下の通りです。2013年度から2030年度に向けて、エネルギー起源二酸化炭素においては1,235百万(t-CO2)から677百万(t-CO2)に、温室効果ガス排出量・吸収量全体としては1,408百万(t-CO2)から760百万(t-CO2)への削減目標が掲げられています。
<温室効果ガス別その他の区分ごとの目標・目安※1>
(単位:百万 t-CO2)
2030 年度の目標・ 目安※1 | 2013 年度 | |||
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温室効果ガス 排出量・吸収量 | 760 | 1,408 | ||
エネルギー起源 二酸化炭素 | 677 | 1,235 | ||
産業部門 | 289 | 463 | ||
業務その他部門 | 116 | 238 | ||
家庭部門 | 70 | 208 | ||
運輸部門 | 146 | 224 | ||
エネルギー転換部門※2 | 56 | 106 | ||
非エネルギー起源 二酸化炭素 | 70.0 | 82.3 | ||
メタン | 26.7 | 30.0 | ||
一酸化二窒素 | 17.8 | 21.4 | ||
代替フロン等4ガス※3 | 21.8 | 39.1 | ||
ハイドロフルオロカーボン(HFCs) | 14.5 | 32.1 | ||
パーフルオロカーボン(PFCs) | 4.2 | 3.3 | ||
六ふっ化硫黄(SF6) | 2.7 | 2.1 | ||
三ふっ化窒素(NF3) | 0.5 | 1.6 | ||
温室効果ガス 吸収源 | ▲47.7 | - | ||
二国間クレジット制度(JCM) | 官民連携で2030年度までの累積で、1億t-CO2程度の国際的な排出削減・吸収量を目指す。我が国として獲得したクレジットを我が国の NDC達成のために適切にカウントする。 |
地球温暖化対策推進本部決定(令和3年10月22日):日本のNDC(国が決定する貢献)を元に作成
※1 目標(エネルギー起源二酸化炭素の各部門は目安)の値。
※2 電気熱配分統計誤差を除く。そのため、各部門の実績の合計とエネルギー起源二酸化炭素の排出量は一致しない。
※3 HFCs、PFCs、SF6、NF3の4種類の温室効果ガスについては暦年値。
このような数字目標が掲げられている中、2023年11月末から12月にかけてドバイで行われたCOP28の岸田総理によるステートメントにおいては、日本の温室効果ガス排出量は2021年度で約20%削減しており、着実に進捗していることが発信されています。また、以下の2点も併せて伝えられています。
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1.5℃目標達成に向け、2030年までの行動が決定的に重要であること、2050年ネットゼロの達成、 2025年までの世界全体の排出量ピークアウト、全ての部門・全ての温室効果ガスを対象とした総量削減目標の策定等を主張。
ネットゼロへの道筋に沿って、エネルギーの安定供給を確保しつつ、排出削減対策が講じられていない新規の国内石炭火力発電所の建設を終了していく旨を表明。
環境省:国内外の最近の動向について(報告)より引用
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環境省:国内外の最近の動向について(報告)
© https://www.env.go.jp/content/000198600.pdf
世界:目標に対する進捗状況について
次に、世界の主要国となる国々の中・長期目標とその詳細は以下の通りになっています。
環境省:国内外の最近の動向について(報告)
© https://www.env.go.jp/content/000198600.pdf
「地球沸騰化」や「エルニーニョ現象/ラニーニャ現象」のようなワードが日々のニュースでHOTな話題となっているように、残念ながら世界全体で1.5℃目標の達成に向けた排出削減の取り組みの進捗は芳しくない状況です。2023年9月25日までに提出されたパリ協定のすべての締約国のNDCを、国連気候変動枠組条約事務局が分析した結果によると、NDCが実施された場合、2100年時点の気温上昇は2.1-2.8℃の経路をたどると予測されており、IPCCの1.5℃シナリオ(2030年に2019年比43%減)には大きなギャップが生まれることが予測されています。
環境省:国内外の最近の動向について(報告)
© https://www.env.go.jp/content/000198600.pdf
また、このような分析結果も踏まえ、先にも挙げたCOP28内での決定事項からも、より積極的かつ緊急性の高い行動変容が世界全体に求められています。
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▷1.5℃目標達成のための緊急的な行動の必要性を強調
▷1.5℃目標の達成に向けた2025年までの排出量ピークアウト
▷全ての部門・全ての温室効果ガスを対象とした排出削減目標の策定
▷国ごとに異なる状況や排出削減の軌跡、アプローチを考慮しつつ、各国が決定する方法で、以下に掲げる世界的な取組に貢献することを締約国に要求。
‣世界全体での再エネ発電容量3倍・省エネ改善率2倍
‣排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の逓減加速
‣エネルギーシステムにおける化石燃料からの移行
‣再エネ、原子力、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)等の脱炭素・低炭素技術の促進
‣持続可能なライフスタイルと持続可能な消費・生産パターンへの移行
環境省:国内外の最近の動向について(報告)より引用
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環境省:国内外の最近の動向について(報告)
© https://www.env.go.jp/content/000198600.pdf
まとめ
本コンテンツでは、CO2の削減目標の設定経緯からその進捗状況について、日本と世界全体に分けて解説してきました。
脱炭素に向けて、各国の取り組みが活発化し注目度が高まっている一方、掲げた目標に向けて結果がまだ十分には伴っていない状況が続いています。国単位、行政単位で掲げた目標に少しでも近づくためには、一人一人の行動変容もまた強く求められていることを、私たちは改めて強く認識する必要があります。
本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。