アジア・ゼロエミッション共同体:カーボンニュートラルへの道と日本の役割
アジア地域が気候変動に取り組むために、経済成長と環境保護の両立を目指す「アジア・ゼロエミッション共同体」が注目されています。最近では、2024年10月7日、石破総理が、総理大臣官邸で第3回アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)推進関係省庁会議に出席し、AZEC首脳会合に向けた準備状況に関する報告が行われました。
世界で最も成長著しい地域の一つであるアジアは、同時に温室効果ガス排出量も多く、ゼロエミッション社会への移行が重要な課題となっています。本記事では、アジア・ゼロエミッション共同体の成り立ち、現在の取り組みとその進捗、そして今後の展望について詳しく解説します。
目次
アジア・ゼロエミッション共同体の概要
背景と目的
アジア・ゼロエミッション共同体(Asia Zero Emission Community、AZEC)は、経済成長と環境保護を両立させることを目的とし、アジア地域全体で温室効果ガスの削減を目指す国際的な枠組みです。この構想は、2022年に日本政府の岸田首相が提唱し、特にアジア諸国の連携を強化することで、脱炭素化と経済成長の両方を促進するために設立されました。AZECパートナー国は、2024年4月現在で、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、日本、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの11か国です。
アジアは世界のCO2排出量の約半分を占める地域であり、特に急速に経済成長を遂げている国々では、エネルギー需要が急増しています。これに伴い、化石燃料への依存度も高く、環境負荷が大きな課題となっているため、持続可能な成長を実現するための協力体制が必要とされています。
主な目標
主な目標としては、大きく分けて四つ。
1. 2050年までにカーボンニュートラルを達成
2. クリーンエネルギー技術の開発と普及
3. 環境に配慮した経済成長の促進
4. 地域全体での公平な移行の実現
と言えるでしょう。
企業への影響
アジアゼロエミッション共同体の設立は、域内で事業を展開する企業に大きな影響を与えます。
● 規制環境の変化
各国が厳格な排出規制を導入する可能性が高まり、炭素税や排出量取引制度などの経済的手法が拡大する可能性があります。
● 新たなビジネス
クリーンエネルギー、省エネ技術、環境配慮型製品の需要が増加します。グリーンインフラ整備や持続可能な都市開発プロジェクトが増加する見込みです。
● 技術革新の加速
低炭素技術の研究開発が促進され、企業間や産学官での技術協力の機会が増えます。
● サプライチェーンの変革
サプライヤーの選定基準に環境性能が重視されるようになり、地域内でのグリーンサプライチェーンの構築が求められるようになる見込みです。
● 資金調達と投資
グリーンボンドやESG投資が拡大し、環境配慮型プロジェクトへの資金調達が容易になります。一方で、高炭素産業への投資リスクが高まる可能性があります。
企業に求められる対応
1. 長期的な脱炭素戦略の策定
2. 事業モデルの見直しと新規事業の開発
3. エネルギー効率の改善と再生可能エネルギーの導入
4. イノベーションへの投資と技術開発の強化
5. サプライチェーン全体での排出量管理
6. 従業員の環境意識向上とスキル開発
アジアゼロエミッション共同体は、企業に大きな変革を求める一方で、新たな成長の機会も提供します。この動きを前向きに捉え、積極的に対応することが、今後のビジネス環境で競争力を維持・強化する鍵となるでしょう。
設立の経緯
アジア・ゼロエミッション共同体は、日本がリーダーシップを発揮し、アジア各国との協力を深める形で発足しました。2021年の「アジア・ゼロエミッション共同体フォーラム」において、カーボンニュートラルを達成するためのビジョンが打ち出され、各国が技術協力や政策連携を進めるための枠組みが提案されました。
日本政府は、アジア地域全体でのゼロエミッション実現に向け、技術移転や資金支援を通じて協力することを表明しています。
現在の取り組みと進捗状況
脱炭素技術の導入
アジア・ゼロエミッション共同体の主要な取り組みの一つは、脱炭素技術の導入と普及です。特に再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力発電など)の導入、エネルギー効率の向上、そしてCO2の回収・貯留技術(CCUS: Carbon Capture, Utilization and Storage)の実用化が進められています。
日本はこれらの技術において強みを持っており、アジア諸国に対する技術支援を積極的に行っています。特に、再生可能エネルギー導入のための技術移転や、低炭素社会に向けたインフラ整備を支援しています。また、日本国内でのグリーンイノベーション基金を活用し、企業の脱炭素技術開発を促進する動きも進んでいます。
燃料転換とエネルギーシステムの変革
アジア地域では、依然として石炭火力発電が主要なエネルギー源となっていますが、アジア・ゼロエミッション共同体は、この燃料構造を転換することを目標としています。特に、天然ガスや水素エネルギーへの転換が進められており、日本がリーダーシップを発揮しています。
特に、日本は水素エネルギーの普及においても積極的な役割を果たしており、アジア各国での水素社会構築に向けたプロジェクトに参画しています。水素ステーションや燃料電池技術の導入が進み、将来的にはアジア全体での水素経済の拡大が期待されています。
企業と政府の協力
アジア・ゼロエミッション共同体は、政府だけでなく、企業や金融機関とも協力して進められています。多くの企業が脱炭素化を進めるためのパートナーシップを結び、具体的なプロジェクトを通じて環境負荷の低減を目指しています。例えば、エネルギー効率の高い製品開発や、再生可能エネルギーを利用した製造プロセスの導入などが進行中です。
日本と全世界における今後の取り組み
日本の今後の取り組み
日本は、アジア・ゼロエミッション共同体の中心的な役割を担い、今後も技術革新と国際協力を通じて、アジア地域のカーボンニュートラル達成を支援する予定です。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
✔ グリーンイノベーションの推進
日本国内では、企業と学術機関が協力して新たな脱炭素技術を開発するグリーンイノベーションが進められています。これにより、日本の技術がアジア全体で活用され、地域全体のゼロエミッション化が加速することが期待されています。
✔ 水素社会の拡大
日本は、既存の技術やインフラを活かし、水素エネルギーの拡大を目指しています。水素供給のインフラ整備や水素技術の輸出が進むことで、アジア全体での水素利用が広がり、化石燃料依存からの脱却を進めることができます。
世界との連携と日本の役割
日本がアジア・ゼロエミッション共同体で果たす役割は、アジア地域に留まらず、グローバルな気候変動対策においても重要です。2023年には既に、官民投資フォーラムと閣僚会合が行われており、脱炭素関連の多岐に渡る分野で合計28件に及ぶ覚書き(MOU)が発表されました。その中の数件を見ていきましょう。
引用 資源エネルギー庁 MOU案件リスト一覧 (AZEC官⺠投資フォーラム)
https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230306005/20230306005-31.pdf
豪州クイーンズランドでのe-fuel/SAF バリューチェーン構築検討に関する覚書
● MOU/企業提携の概要
航空産業におけるカーボンニュートラル実現およびアジア太平洋地域の脱炭素に貢献する為、CS Energy (豪、クイーンズランド州政府公社)、東洋エンジニアリング株式会社(日)、および、双日株式会社(日) の3社が、豪州クイーンズランドでのe-fuel/SAFバリューチェーン構築に関する検討を合意するもの。
● 本協力の意義・狙い
1 グリーン水素および二酸化炭素を原料とする合成燃料(e-fuel/SAF)製造を実現する。
2 グリーン水素生産適地とされる豪州クイーンズランドで競争力のあるe-fuel/SAFバリューチェーン確立を目指す。
3 e-fuel/SAFの安定供給を通してアジア・太平洋地域における脱炭素に貢献する。
PT. PLN Nusantara Powerと三菱重工との脱炭素化案件に関する覚書
● MOU/企業提携の概要
インドネシアにおけるエネルギーの脱炭素化に向けて、同国国営電力 会社傘下のPT. PLN Nusantara Power(PNP社)と三菱重工の間で、PNP社が所有・ 運営する発電所における低炭素燃料の混焼に関する技術検討の協議を開始するもの。
● 本協力の意義・狙い
本MOUは、増大するインドネシアのエネルギー需要に応え、かつ当社の 脱炭素技術を取り入れたクリーンな燃料の導入によりインドネシアアの環境面の持続可能性目標 達成の貢献のために取り組むものである。
● 具体的な協力内容
既存の発電所において、ガスタービンの水素混焼、ガス焚きボイラーのアンモニア混焼及び石炭焚きボイラーのバイオマス混焼を実施するために必要な検討を実施するもの。
ベトナム社会主義共和国 チャビン省における チュオンタン洋上風力発電プロジェクト (発電容量2.0GW)の開発に係わる覚書
● MOU/企業提携の概要
ベトナム国南部エリアのチャビン省沖合海域における2GW規模の洋上 風力発電プロジェクト(本事業)の開発について、現地企業TTVN社と熊谷組が主導し、INPEX、 関西電力が参加する日本企業グループが協力して、事業推進に向けた取り組みを行うもの。
● 本協力の意義・狙い
本事業はベトナム国において先駆となる大規模沖合洋上風力発電事業 であり、全体で2GW、フェーズ1として800MWの発電を計画している。本事業の推進を通じて、ベトナム経済の発展、我が国のエネルギーインフラ輸出の一層の促進が期待される。
● その他
「令和4年度質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業 費補助金」、令和3年度補正予算「アジアグリーン成⻑プロジェクト推進事業」採択案件。
このように、日本は、国際機関や他の先進国と連携して、アジア各国に最新の技術を提供し、共同で研究開発を進めていく予定です。特に、再生可能エネルギー分野での技術共有や、新しいエネルギーシステムの構築が求められています。
さらに日本は、アジア地域全体でのサプライチェーン脱炭素化にも取り組むべきです。製造業が盛んなアジアでは、工業プロセスの脱炭素化が重要な課題となっています。日本は、サプライチェーン全体の排出削減を進めるための技術とノウハウを提供し、アジア地域全体の経済と環境の両立を図ることが期待されています。
まとめ
アジア・ゼロエミッション共同体は、アジア地域の経済成長と脱炭素化を両立させるための重要な枠組みであり、日本がその中でリーダーシップを発揮しています。技術革新と国際協力を通じて、アジア地域は持続可能なエネルギーシステムへの移行を進め、ゼロエミッション社会の実現に向けて前進しています。
今後も、脱炭素技術の導入、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの普及などを通じて、アジア・ゼロエミッション共同体は成長を続けるでしょう。日本とアジア諸国が協力して、この取り組みをさらに深化させることで、世界のカーボンニュートラル達成に貢献することが期待されます。