蓄電池活用(併設)型のFIPモデルについて、詳しく解説

CO2削減

令和6年6月、再生可能エネルギー電源併設型蓄電池導入支援事業 単年度事業(第1回)の公募採択の結果が発表され、ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社、GPSS4合同会社、株式会社堀内電気、株式会社イロハエナジーの4社が採択されました。本事業は、再生可能エネルギー発電の最大限の活用の促進を図るとともに、再生可能エネルギーの自立的な導入拡大を進め、安定的かつ適切なエネルギー需給構造の構築を図ることを目的としており、再生可能エネルギー発電設備に併設するFIP認定を取得した蓄電池の導入の経費の一部を補助するための支援事業となっています。

このように、FIP制度の普及に伴い、蓄電池活用(併設)型のFIPモデルは注目を集めています。CARBONIX MEDIAの中では、これまでFIP制度に関するコンテンツとして、「FIP制度とは?導入背景からFIT制度との違いまで徹底解説!」、「FIP制度におけるプレミアムの計算方法とは?仕組みと計算式を詳しく解説」を配信してきました。そこで、本コンテンツでは、太陽光発電併設型の蓄電池とFIP制度の関連性に着目し、発電時の具体的な事業モデルにフォーカスして解説していきます。

FIP制度の概要と昨今の普及状況について

FIP(Feed-in Premium)制度は、再生可能エネルギーの発電事業者が卸市場などで売電した際に、その売電価格に対して一定のプレミアムと呼ばれる補助額を上乗せする仕組みとなっています。従来のFIT(Feed-in Tariff)制度と比べ、収入が市場価格に連動する点が大きく異なります。

経済産業省 資源エネルギー庁:FIP制度の開始に向けて(2022年2月14日)
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/039_01_00.pdf

このFIP制度においては、対象となる再生可能エネルギーの発電規模が原則としてある程度規定されています。例えば、再生可能エネルギーにおいては、太陽光や地熱、水力発電は1,000kW以上、木質バイオマスは1万kW以上となっています。因みに、50kW未満はFIT制度のみ適用が可能となっており、50kW以上で一定規模未満の電源は、FIP制度とFIT制度のいずれも選択することが可能な状況です。

その上で資源エネルギー庁のデータによると、2023年12月末時点でのFIT/FIP認定容量は、約9,900万kWとなっており、太陽光発電が約75%を占める結果となっています。中でもFIPの導入にフォーカスをあてると、2024年2月末時点のFIP認定量は、2023年10月時点(約986MW/275件)と比較して、認定容量が1.5倍、件数が3.8倍のそれぞれ約1,507MW/1,036件(新規認定・移行認定の合算)となっており、FIP制度の普及が着実に拡大していることがわかります。

また、新規認定・移行認定の件数についても、太陽光発電が最も多い結果となっており、特に50kW未満の低圧太陽光においてFIP制度の活用が進んでいる結果となっています。

経済産業省 資源エネルギー庁:今後の再生可能エネルギー政策について(2024年5月29日)
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/062_01_00.pdf

今回取り上げる蓄電池を活用したFIPモデルにおいて、ベースとなる再生可能エネルギー電源の種類は、太陽光発電となります。そこで2章では、FIP制度を活用するにあたり、太陽光発電の中で蓄電池が果たす役割や実際の事業スキームについて確認していきます。

蓄電池活用(併設)型のFIPモデルについて

まず概論として、FIP制度を活用するべく、事業用の太陽光を発電する発電事業モデルは、大きく分けると次の2つになります。

①屋根設置型太陽光の発電による事業モデル
②蓄電池活用型太陽光の発電による事業モデル

①の特徴としては、発電量、需要量、市場価格等を予測する自社開発のシステムを用いて、FIP制度の下で屋根置き太陽光の余剰売電を実施することができる点が挙げられます。また、自らが発電事業者となる場合のシステムの活用に加え、国内外の送配電事業者等に対して予測データを販売するビジネスを展開することも可能です。第59回再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会内でのヒアリングでは、以下の5つのポイントが示されました。

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✧ 外部から購入した複数の気象データ、公表データ、自社設置のデバイスのデータ等を組み合わせ、自社で発電量予測を実施。

✧ 過去の発電量データ等がない場合にも一定の予測精度を保てるため、新設の発電所においてもシステムを活用することが可能。

✧ 予測精度をより高めていくためには、予測モデルの継続的な改修が必要。システム改修に要する費用は、気象データの購入費、インバランス料金と並んで、発電量予測に要する費用の主要な部分を構成する。

✧ この点、予測の対象となる発電設備の数を増やしていくことで、発電量予測等に要する費用を下げていくことも可能。

✧ 同社システムは、電力の地域地産地消を目的とした余剰運用や、マイクログリッド構築にも活用することが可能。

第59回再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会(2024年2月7日)資料1より抜粋

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したがって、事業スキームは以下の2つのパターンが想定されています。

経済産業省 資源エネルギー庁:今後の再生可能エネルギー政策について(2024年5月29日)
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/062_01_00.pdf

経済産業省 資源エネルギー庁:今後の再生可能エネルギー政策について(2024年5月29日)
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/062_01_00.pdf

 

一方、②の特徴としては、発電量予測システムを活用して、市場価格・発電量等の予測を行いつつ、FIP制度による事業を実施している点が挙げられます。因みに、2016年度にFIT制度の認定を受けた約250kWの太陽光発電設備については、2023年度にFIP制度に移行しています。本事業モデルについても同様に、第59回再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会内でのヒアリングの中で、以下の4つのポイントが示されています。

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✧ システム開発企業と共同出資で「発電量予測システム」を運用。蓄電池を活用しつつ、発電計画の精度を向上させることでインバランス量の抑制を図る。

✧ 発電予測値に対する実発電量の乖離を小さくするため、予測の補正を行い、精度向上に努めている。

✧ スポット市場の単価が0.01円の時間帯は、蓄電池に充電する運用をしており、市場価格の高い時間帯に供給をシフト。

✧ 発電した電気は、小売電気事業者と相対取引により供給。再エネ電気を求める需要家に供給している。

第59回再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会(2024年2月7日)資料1より抜粋

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また、事業スキームは以下の通りです。国内では例えば、ハウスメーカー大手の大和ハウス工業株式会社の子会社である大和エネルギー株式会社が、運営する太陽光発電所をFIT制度からFIP制度へ移行するにあたり、東京ガス株式会社をアグリゲーターとする共同実証や、株式会社三菱総合研究所との共同検討(本検討のアグリゲーターは、株式会社UPDATER)を開始した事例があります。

経済産業省 資源エネルギー庁:今後の再生可能エネルギー政策について(2024年5月29日)
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/062_01_00.pdf

本コンテンツで取り上げている蓄電池活用(併設)型のFIPモデルは、上記の②にあたります。この蓄電池活用型の太陽光発電による事業モデルは、FIP制度の成功において重要な役割を果たすことが見込まれています。

▷伝衛力の需要と供給のバランスを調整することが可能である
太陽光による発電量は、一般的に昼間に最も多くなりますが、需給のバランスを常に保つことができるわけではないのが実態です。しかし、蓄電池のシステムを活用することで、余剰エネルギーを蓄え、需要の増減に合わせてエネルギー放出することで、安定した信頼性の高いエネルギー供給を実現させることが可能です。

▷送配電網の柔軟性を強化させることができる
再生可能エネルギーの導入量が相対的に高い地域で重要となる、送配電網の安定化に寄与します。再生可能エネルギーの出力を需要に合わせて調整し、調整力を提供することで、蓄電池は送配電網そのものを変える必要もなくなります。

▷収益を最大化させることが可能である
太陽光発電および蓄電池からの財務リターンの最大化にむけて、発電事業者は必要に応じてエネルギーを蓄え、戦略的に放出することができます。その結果、出力抑制を最小限に抑え、FIPのプレミアムを多く獲得することが可能です。

再エネ発電設備に併設される蓄電池を用いた価格算定ルールについて

最後に、蓄電池からの電力の供給方法についても、次の2つが挙げられます。これらに対し、それぞれ以下に紹介するような価格算定に関わるルールが定められています。

❶系統(※1)側からの充電を経て放電されるパターン
❷事後的なに蓄電池が設置されるパターン

❶の系統側から蓄電池に充電され放電された電気の量については、認定された発電設備から発電された電気ではないため、FIPプレミアム交付対象外となっています。このため、放電された電気のうち、認定された発電設備に由来する電気量を計算する場合は、蓄電池から放電された電気量を充電された電気量で按分することになります。

具体的には下図のように、蓄電池から放電された電気量(①)について、系統側から蓄電池に充電された電気量(②)と発電側から蓄電池に充電された電気量(③)を用いて、下図の算式により按分することで得られた電気の量をFIPプレミアム交付の対象としています。

※PCS…Power Conditioning Systemの略で、太陽光発電システムの中で使われる機器の1つ。太陽電池パネルで作った電気を家庭やビル、工場などで使える電気に変換するインバータのこと。
経済産業省 資源エネルギー庁:再生可能エネルギーの長期安定的な大量導入と事業継続に向けて(2024年3月27日)
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/061_02_00.pdf

その上で、2024年4月より、下記のいずれの条件も満たすものについて、再エネ発電設備に併設される蓄電池に系統充電された場合の価格算定ルールが開始されました。その他の設備については、具体的なニーズや技術的な算定方法の実現可能性も踏まえて引き続き検討されています。

条件1:FIP認定設備
条件2:再エネ発電設備の設置場所にその他需要(太陽光発電設備・PCS・併設蓄電池等、発電所の運転そのものに必要不可欠な設備以外の需要)が存在しない場合

経済産業省 資源エネルギー庁:再生可能エネルギーの長期安定的な大量導入と事業継続に向けて(2024年3月27日)
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/061_02_00.pdf

次に、❷の事後的な蓄電池の設置については、電力の供給タイミングをシフトさせることが可能となる一方で、これまで逆潮(※2)しなかった再エネ電気について、過去の高価格を基準としてプレミアムを交付するため、国民の負担の増大に繋がる可能性が懸念事項として挙げられます。そのため、この負担部分を抑止しつつ、蓄電池の活用を促す観点から、FIP移行案件について事後的にPCSよりも太陽電池側に蓄電池を設置した際、太陽電池の出力がPCSの出力を上回っている場合には、発電設備の出力(PCS出力と過積載部分の太陽電池出力)と基準価格(蓄電池設置前価格と十分に低い価格)の加重平均値に価格を変更することとしています。

経済産業省 資源エネルギー庁:再生可能エネルギーの長期安定的な大量導入と事業継続に向けて(2024年3月27日)
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/061_02_00.pdf

❶、❷の両者はいずれも再生可能エネルギーの長期電源化に向けた事業の環境整備の一環として進められている制度となっています。これらは、2030年の再生可能エネルギー比率の引き上げ(36-38%)、また2050年のカーボンニュートラルを達成していくために、国民負担を伴うFIT・FIP制度により導入された既設再エネ電源が、調達期間/交付期間の終了後も、長期的かつ安定的に事業を継続することを目指すための手段とされています。

(※1)発電設備、送電設備、変電設備、配電設備、需要家設備といった電力の生産から消費までを行う設備全体を表す。ここでいう系統用蓄電池とは、発電所や送電線、変電所、配電設備などの電力系統や太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギー発電所などに直接接続されている蓄電池のこと。
(※2)太陽光発電システムなどの自家発電設備等から、電力会社の電力系統に電気を流すこと。

まとめ

本コンテンツでは、FIP制度の概要と昨今の普及状況をふまえ、蓄電池活用(併設)型のFIPモデルの特徴を確認していきながら、発電時の事業モデルについて紹介してきました。

「FITからFIPへの転換」と「蓄電池の併設」は、売電時の収益の増加という観点からも、多くの企業が注目する分野となってきました。そのため、各種法整備も同時並行で進んでいる状況においては、常に新しい情報にアンテナを張っておくことが重要となってきます。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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