COP29の概要と注目ポイント:気候変動に立ち向かう国際会議を解説
いよいよ、COP29の開催時期が近づいてきました。本年度は、アゼルバイジャン共和国の首都バクーで11月11日-22日に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のCOP29が開催されます。この会議の中では、新たな気候資金目標の策定や各国の国が決定する貢献(NDC)の引き上げなどが議論されるほか、隔年透明性報告書(※1)の提出が予定されています。
このように、COVID-19の感染拡大の影響を受けた2020年を除き、世界各国で例年開催されているCOPですが、COPのはじまりは、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」まで遡ります。地球温暖化や生物多様性の喪失などの環境問題の深刻化をうけ、持続可能な開発を実現するために開催されたこの会議の中で国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が採択(※2)され1994年に発効し、それにもとづきCOPの開催が決定される流れとなりました。
そこで本コンテンツでは、開催が迫ってきているCOP29に関する理解を深めるために、まずはCOPの概要について説明したのち、昨今開催されたCOPの内容を絡めながら、COP29の展望として注目されるポイントを中心に解説していきます。
(※1)①国家インベントリ報告書、②自国が決定する貢献(NDC)の進捗・達成状況の確認に必要な情報、③気候変動による影響および適応に関する情報、④途上国に提供された資金・技術移転・能力向上に関する支援の情報、⑤必要とされる/受領した資金・技術移転・能力向上に関する支援の情報で構成されており、COP24の中で遅くとも2024年末からの報告開始が決定されていた。
(※2)経済産業省 資源エネルギー庁のデータによると、2023年11月現在で198か国・地域が締結。
COPの概要について
Conference of the Partiesの略で、国や地域間で契約を交わした当事者同士の会議、すわなち「締約国会議」を表しています。私たちの生活でも馴染みの深い「気候変動に関する国際条約」のCOPの他、「生物多様性に関する国際条約」のCOPや「干ばつによる砂漠化を防ぐための国際条約」のCOPなど、実は多くの国際条約で加盟国の最高決定機関として位置付けられています。
COPの起源は、冒頭でもお伝えしたように1992年に開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」となっており、第1回目のCOP1は、ドイツのベルリンで行われ、2000年以降の温室効果ガスの排出量に関する今後の目標立案に向けた合意や、諸条約の規定を機能させるために必要な根本的なルール作りが行われました。その後、気候変動問題に関する重要な取り決めが行われた節目の会議としては、京都議定書が採択された1997年のCOP3やパリ協定が採択された2015年のCOP21が挙げられます。
COP29の展望について
今回のCOP29のポイントとしては、以下の4つが特に注目されています。
①隔年透明性報告書(BTR)の提出状況について
②新たな資金支援の目標について
③適応に関する世界全体の目標(GGA)の達成に向けた進捗評価手法について
④変革的適応に関する議論について
ここでは、上記4つについて開催されたCOPの内容を交えて詳しく見ていきます。
①隔年透明性報告書(BTR)の提出状況について
冒頭でもお伝えしたように、COP24におけるパリ協定13条の規定する拡張された透明性枠組みの中で、初回のBTRの提出期限が遅くとも2024年12月31日までと設定されました。これにより、すべての締約国が、2年ごとに温室効果ガスの緩和(Mitigation)(※3)に関する進捗状況の報告が求められるようになりました。加えて、この報告書には、適応(Adaptation)(※4)に関する情報も盛り込むことが推奨されています。BTRの提出は、パリ協定における野心向上メカニズムの一部として、各国がコミットメントに沿った気候行動を取っているかを確認し締約国間の相互理解を図るとともに、グローバル・ストックテイク(GST)(※5)に役立てることを目的としています。今年は、第1回目のBTRが提出期限を控えているため、議長国のアゼルバイジャンは、COP29以前より積極的な提出の呼びかけを各国に行っており、COP29で何か国のBTRが出揃うのか、またその中で適応についてどのような報告が行われるかに注目が集まっています。
②新たな資金支援の目標について
今回開催されるCOP29では、2025年以降の新しい資金支援の目標である「新規合同気候資金数値目標(NCQG)」が決定される予定となっています。これは、先進国から途上国に対して提供する気候変動に関する資金の2025年以降における新たな金額目標を表しています。このような目標設定が掲げられた背景には、野心的なNDCの実現に抜けて必要とされる気候資金が不足している現状にあります。2009年にデンマークで開催されたCOP15では、2020年までの目標として、先進国は発展途上国に対して年間1000億ドルの気候資金を拠出する合意が締結されました。しかしその後、この目標は2025年まで延長され、結果的に2022年に年間1159億ドルの資金が発展途上国に提供されました。一方、UNFCCC事務局の報告によれば、発展途上国のNDCを実現するためには2030年までに6兆ドルの資金が必要であるともいわれており、資金不足が顕著な問題となっています。このような経緯を踏まえ、COP29でのる「新規合同気候資金数値目標(NCQG)」の決定に向けて、協議や調整がすでに始まっていますが、今年の6月にドイツ・ボンで開催された気候変動会合の結果からも明らかなように、先進国と発展途上国の間での調整は難航しています。途上国は、気候資金の拡大や無償の資金協力の増額などを求める一方、先進国は気候資金の具体的な金額に触れることなく、特定の途上国を気候資金の拠出国に含めるよう提案するなどの平行線の状態が続いており、解決の難しさが浮き彫りとなっています。
因みに、過去にも今回のように気候資金に関する議題には注目が集まっています。このような資金支援に関する議題においては目標額に目が行きがちですがが、緩和と適応のバランスを担保する仕組みが目標の構造にどのように組み込まれるかという視点も重要になります。例えば、適応資金については、緩和と比して適応資金が不足していることを念頭に、COP26においては、2019年比で2025年までに少なくとも2倍の適応資金を提供することが先進国に求められました。条約事務局は適応資金の全体を把握する報告書を作成しており、また、昨年のGST決定では、資金倍増への対応についての報告書を先進国が作成することが求められています。また、COP27において歴史的な合意として評価されている「損失と損害(ロスダメ)」基金については、COP28で同基金の運営や理事会などの大枠が決定され、COP29ではモメンタムをいかに持続し、理事会と締約国会議との関係性などを決定できるかが焦点になっています。ロスダメ基金の運用体制の整備は進められているものの、財源の確保が難航していのも事実です。COP28において先進締約国に対し貢献を強く求める決定がなされたものの、任意にとどまっている状況となります。
③適応に関する世界全体の目標(GGA)の達成に向けた進捗評価手法について
GGAとは、Global Goal on Adaptationの略で、2015年に採択されたパリ協定において定められた気候変動適応に関するグローバルな目標となっています。GGAは、同じくパリ協定で掲げられた1.5°C目標に対して抽象的な側面が多いため、GGAを具体化し、その達成に向けた進捗のレビューの方法について早期に策定すべきとされてきました。その結果、COP28の中で、GGAの達成及び進捗評価をガイドすることを目的とした「グローバルな気候レジリエンスのためのUAEフレームワーク」が採択されました。フレームワークに示された7つのテーマ別目標と4つの適応政策プロセス別目標は以下の通りです。
テーマ別目標 | |
1 | 気候変動による水不足の大幅な削減、水関連災害に対する気候レジリエンスの強化 |
2 | 気候変動に強い食料・農業生産と食料の供給・流通の達成 |
3 | 気候変動に関連する健康への影響に対するレジリエンスの獲得 |
4 | 生態系と生物多様性に対する気候変動の影響を軽減 |
5 | 気候変動の影響に対するインフラと人間の居住地のレジリエンスの向上 |
6 | 貧困撲滅と生計に及ぼす悪影響の大幅な軽減 |
7 | 気候変動関連リスクの影響から文化遺産を保護 |
適応政策プロセス別目標 | |
1 | 2030 年までにすべての締約国が、国別適応計画等を策定し、すべての関連する戦略および計画において適応を主流化する。(計画) |
2 | 2030年までにすべての締約国が、国別の適応計画等の実施を進め、主要な気候ハザードの影響を削減する。(実施) |
3 | 2030 年までにすべての締約国が、モニタリング、評価、学習のためのシステムとその実施に必要な制度的能力を構築する。(モニタリング、評価、学習) |
4 | 2030年までにすべての締約国が、最新のアセスメントを実施し、 適応計画等の策定に活用する。また、2027年までに、すべての締約国がマルチハザード早期警戒システムや気候情報サービス、気候関連のデータ・情報・サービスの改善のための観測を確立する。(影響、脆弱性、リスク評価) |
この「グローバルな気候レジリエンスのためのUAEフレームワーク」に加えて、2025年までに「指標に関するUAEベレン作業計画」においてフレームワークに沿った各目標の達成度合いを測るための指標の設定も予定されています。そのためCOP29では、現在行われている指標の選定・開発作業の成果を踏まえた議論が行われる予定となっており、COP30では作業計画の完了と指標の確定が目指されています。また、この作業計画で作成される指標リストは、各国による適応の取り組み強化やその報告において参照されることが想定されているため、第2回のグローバル・ストックテイクにおける世界全体の適応の進捗評価でも指針となることが見込まれています。
④変革的適応に関する議論について
COP29で予定されているGGAに関する議論の中で、変革的適応(transformational adaptation)について、この概念が今後の適応交渉プロセスや各国の適応策にどのような影響を及ぼし得るのかが注目されています。また、COP28で条約事務局に対し変革的適応の定義や進捗状況の評価手法等について取りまとめるように要請がなされたのを受けて、COP29ではそれらについて締約国が検討を行うことが予定されています。
変革的適応とは、「気候とその影響に応じて、あるシステムの基本的性質を変える適応」を指しており、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(AR5)の中でこのように定義づけられています。同様に、漸進的適応(incremental adaptation)については、「一定規模でシステム又はプロセスの本質と一貫性を維持することを狙いの中心とする適応行動」と示されています。昨今の気候変動の影響が深刻化する上では、これまでの漸進的適応に対し、新たな変革的適応のアプローチに期待が高まっている状況です。そのため、昨年のCOP28では、第1回グローバル・ストックテイクの結果として「長期的な変革的適応と漸進的適応を含む適応努力を行う上での世界的連帯の重要性」が強調されました。加えて、GGAに関する決定の中にも「UAEフレームワークは、脆弱性の削減と適応能力とレジリエンスの強化に向け、長期的な変革的適応と漸進的適応を含む取り組みを指導し、強化すべきである」という文言が含まれています。
(※3)気候変動による人間社会や自然への影響を回避するために、温室効果ガスの排出を削減し、気候変動を極力抑制すること。
(※4)緩和を最大限実施しても避けられない気候変動の影響に対して、その被害を軽減し、よりよい生活ができるようにしていくこと。
(※5)パリ協定の掲げる目標に対して、世界全体でどの程度達成できたか進捗を確認する制度。
まとめ
本コンテンツでは、COPに関する概要を踏まえた上で、来月から開催されるCOP29において注目されることが予測される4つのディスカッションポイントを、昨今のCOPの内容を絡めながら解説してきました。
COPの場では、民間企業から環境NGOに至るまで多様な非国家アクターも多数オブザーバーとして参加しており、企業等による脱炭素や気候変動適応技術等の展示や、セミナーの開催等を通した国内外の脱炭素移行に資する技術や取組等の積極的な発信も行われています。今回のCOP29の中でも、ジャパンパビリオンにて、様々なカテゴリーから複数の日本企業の取り組みが発信される予定となっています。
環境省:COP29ジャパンパビリオン(出展企業/団体・技術)
© https://www.env.go.jp/earth/cop/cop29/pavilion/exhibition/display/#economy
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