ISO 14068-1:2023とは?最新のカーボンニュートラル基準を徹底解説

CO2削減

2024年7月、台北市にある台湾証券取引所(TWSE)が世界で初めてISO 14068-1:2023を取得した取引所になったニュースが、共同通信PRワイヤーで配信されました。ISOがカバーする領域は多岐にわたるため何に対する認証か少し煩雑ではありますが、140から始まる5桁の規格の大半は環境系の内容に付随するものとなっており、ISO 14068-1:2023はカーボンニュートラリティ(※1)に関する国際規格となっています。同規格に関する国内企業の動向の一つとして、2024年1月にヤマト運輸株式会社が、「宅急便」・「宅急便コンパクト」・「EAZY」の3つの主要商品について、ISO 14068-1:2023に準拠したカーボンニュートラリティ宣言を行ったことが挙げられます。

そこで本コンテンツでは、新たな国際規格としてまだ発行されてから日が浅い国際規格、ISO 14068-1:2023に関する理解を深めるために、3つのポイントからまずはISO 14068-1:2023の概要を把握いただき、その後本規格の具体的な構成や取得に際するメリットについて解説していきます。

(※1)規格の正式名称が、「ISO 14068-1:2023 (Climate change management-Transition to net zero-) Part1 : Carbon neutrality」となっているため、ここでは「カーボンニュートラル」ではなく、「カーボンニュートラリティ」と記載しています。

ISO 14068-1:2023の概要について

カーボンニュートラリティを達成し、実証するための標準化されたアプローチとして発行された本規格ですが、概要を掴むにあたり、おさえておくべきポイントは主に以下の3つです。

①ISO 14068-1:2023の前身には、PAS 2060が存在していること。

②「ネットゼロ」と「カーボンニュートラリティ」は、異なる考え方であること。

③ISO 14068-1は、独立した規格ではなく、ファミリー規格を有していること。

そこで、ここからはこの3つのポイントにフォーカスして、ISO 14068-1:2023の理解を深めていきます。

PAS 2060とは

GHG排出量を管理、又は削減するための取り組みやカーボンニュートラリティの声明を保証する規格となっています。ISO 14068-1:2023は、このPAS 2060の初版発行から13年を経てISOで発行されており、カーボンニュートラリティの達成と実証を目指す際の原則と要求事項を定めたものになっています。英国規格協会(BSI)が掲げているPAS 2060を取得する上でのメリットは、次の5つです。

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  • 顧客、ステークホルダー、業界、法律上の期待に応える
  • 非効率な領域を特定し、全体的なパフォーマンスを向上させる
  • 正確なカーボンニュートラリティの声明により信頼性を高める
  • 温室効果ガス排出量の削減および二酸化炭素排出量の定量化
  • エネルギー消費量およびその使用料金の請求額の減少によるコスト削減

BSIジャパン:PAS 2060カーボンニュートラリティより引用

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このようにPAS 2060は、その取得に際し行われる第三者検証によって、カーボンニュートラリティに対する主張が自社の宣言に留まることなく、透明性の高い情報として対外的にも担保される形となります。一方で、ISO 14068-1:2023が発行されたことを機に、このPAS 2060の検証は2025年12月31日をもって終了することが予定されています。

「ネットゼロ」と「カーボンニュートラリティ」の違いとは

以前、CARBONIX MEDAIA内のコンテンツ「ゼロカーボンとは | ゼロカーボンを実現するための方法や具体的な取り組みもあわせて解説」の中でも、GHGの排出・吸収(除去)状態を示す関連キーワードとして以下の4つを取り上げました。環境省ではこれらの言葉の違いを明確には定義していない状況ものの、今回のISO 14068-1:2023に関連する「ネットゼロ」と「カーボンニュートラリティ」においては、ゼロカーボンの状態を目指すための過程が大きく異なります。

<GHGの排出・吸収(除去)状態を示す関連キーワード>

対象目指すところ
ゼロエミッション産業廃棄物
※但し、気候変動関連のテーマで狭義にて、CO2のみを指すこともある。
排出量そのものをゼロにする。
カーボンニュートラリティ(≒ゼロカーボン)温室効果ガス排出量と吸収・除去量を中立な状態にする。
ネットゼロ(≒ゼロカーボン)温室効果ガス正味の排出量をゼロにする。
ネガティブエミッション温室効果ガス回収・吸収し、貯留・固定化することで大気中の温室効果ガスを除去する。

まず、「ネットゼロ」については、GHGの正味排出量をゼロにすることを最終目標としており、Scope1-3における排出量をゼロにするか、IPCCの「1.5℃特別報告書」で定めたグローバル、又はセクターレベルでのネットゼロ排出達成と整合する残余排出量水準にまで、排出量を削減することが求められています。

次に、「カーボンニュートラリティ」については、GHGの排出量と吸収・除去量を中立な状態にすることを最終目標としており、ある一定期間にGHG排出の抑制やGHG吸収・除去等により排出量を削減し、残った排出量もオフセット等により相殺した状態を表しています。

この2つのキーワードが重要になる理由としては、グローバル全体でGHGの正味排出量をゼロにする状態(ネットゼロ)を目指す上で、いかにカーボンニュートラルで用いられる枠組み(※2)を活用するのか、それをガイドするための規格がISO 14068-1:2023であるためです。この規格の中では、GHG排出量の定量化や削減、相殺を通じてカーボンニュートラリティの達成とその実証を行うための原則と要件が規定されており、この2つのキーワードの違いを正しく理解する必要があります。

(※2)カーボンニュートラルで用いられる枠組みは以下のようなイメージとなっています。
1.
カーボンニュートラルへのコミットメント⇒2. サブジェクトとバウンダリの決定⇒3. GHG排出量/除去量の算定⇒4. カーボンニュートラル計画の策定⇒5. GHG排出削減/除去強化の実施⇒6. カーボンオフセット⇒7. 基準に則った報告⇒8. カーボンニュートラルの主張⇒3. GHG排出量/除去量の算定⇒4. カーボンニュートラル計画の策定(3.から8.は循環。)

ISO 14068-1のファミリー規格とは

まず、ファミリー規格とは、特定の領域に関する国際標準規格群のことを表しています。例えば、ISO14000のファミリー規格では、環境マネジメントに関する国際標準規格群のことを指します。今回、ISO 14068-1のファミリー規格としては、ISO 14064-1、14064-2、14064-3、14065、14066、14067、14021、14026の8つが掲載されています。これらはいずれもネットゼロに向けた取り組みに関連する規格として、GHGに関する内容や環境ラベルに関する内容が提供されています。その中でも、ISO 14068-1は、ISO 14064-1やISO 14064-3、ISO 14067などの、GHGの定量化や報告、妥当性の確認、検証に関する既存の国際規格の上に構築されるように設計されていることが、原文には記されています。ISO 14068-1:2023の原文では、このファミリー規格が図式化されたものが掲載されていますので興味のある方はこちらも併せてご覧ください。

規格番号JIS 規格名称/ISO 規格名称
ISO 14064-1温室効果ガス-第 1 部:組織における温室効果ガスの排出量及び吸収量の定量化及び報告のための仕様並びに手引
ISO 14064-2温室効果ガス-第 2 部:プロジェクトにおける温室効果ガスの排出量の削減又は吸収量の増加の定量化、モニタリング及び報告のための仕様並びに手引
ISO 14064-3温室効果ガス-第 3 部:温室効果ガスに関する声明の妥当性確認及び検証の仕様並びに手引
ISO 14065温室効果ガス-認定又は他の承認形式で使用するための温室効果ガスに関する妥当性確認及び検証を行う機関に対する要求事項
ISO 14066温室効果ガス-温室効果ガスの妥当性確認チーム及び検証チームの力量に対する要求事項
ISO 14067温室効果ガス-製品のカーボンフットプリント-算定のための要求事項及び指針
ISO 14021環境ラベル及び宣言-自己宣言による環境主張(タイプⅡ環境ラベル表示)
ISO 14026環境ラベル及び宣言-環境フットプリント情報のコミュニケーション

JSA:ISO14000 ファミリー規格の開発状況より筆者作成

https://www.iso.org/obp/ui/en/#iso:std:43279:en

ISO 14068-1の構成について

ISO 14068-1は、以下に示す13個の章と4つの附属書に分かれて構成されています。

条項タイトル
1章スコープ
2章引用規格
3章用語の定義及び略語
4章原則
5章アプローチ
6章カーボンニュートラルへのコミットメント
7章サブジェクト(主題or対象)とバウンダリの選択
8章GHG排出量及び除去量の算定
9章カーボンニュートラル・マネジメント・プラン
10章GHG排出の削減及びGHG除去の強化
11章カーボンフットプリントのオフセット
12章カーボンニュートラルの報告
13章カーボンニュートラルの主張

 

条項タイトル
附属書Aカーボンニュートラルの経路
附属書B特定ケースの追加要求事項
附属書C算定に関するISO規格とGHGプロトコル事 業者排出工算定報告基準の比較
附属書D野心

ISO:ISO 14068-1より筆者作成 

ISO 14068-1を取得するメリットについて

1章1節(1-1 PAS 2060とは)で紹介したPAS 2060と同様に、第三者検証により生じるメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

1. サステナビリティに対する積極的な自社の取り組み姿勢を表すことで、競争力の向上と企業イメージの強化をはかることができる

2. 自社の取り組み内容そのものがグリーンウォッシュ(※3)ではないことを、透明性高く、対外的に指し示すことが可能である

3. 流動的な法改正や発行された規格に対し、必要に応じて適切に対応することで、リスクマネジメントにおける盤石な社内体制を表すことができる

このように、ISOにおいてはグローバル全体でスタンダードな基準となっていることもあり、自社の提供する製品だけではなく、企業全体のレピュテーションの向上にも寄与することが予測されます。また、特に2つ目のメリットとして掲げたグリーンウォッシュの問題に関しては、昨今海外での規制も強化されており、海外企業と取引のある企業においては、重要なポイントの一つとなってきます。

(※3)環境に配慮しているように見せかけてはいるものの、実態が伴っていない企業の環境活動や、その広告・PRを指しています。

まとめ

本コンテンツでは、ISO 14068-1:2023について、①PAS 2060、②「ネットゼロ」と「カーボンニュートラリティ」の違い、③ISO 14068-1のファミリー規格の3つのポイントから、まずはISO 14068-1:2023に関する理解を深めていただきました。そして、後半では、本規格の具体的な構成や取得に際するメリットについてお伝えしてきました。

冒頭でもお伝えしたように、ISO 14068-1:2023は発行してからまだ日が浅い規格となっていますが、今後よりグローバル全体でも浸透が広がる規格の一つとなってくることが推察されます。その背景要因としては、サステナビリティに関する認知度や企業の取り組みへの熱量が高まってきていることはさることながら、一方で3章でもお伝えしたように、グリーンウォッシュのような環境対策に起因する問題提起がなされる機会も増えてきていることが挙げられます。そのため企業側は、より透明性が高く、質の担保された環境対策に係る対応が引き続き求められてくることになるでしょう。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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