グリーンボンドとは? カーボンニュートラル時代に注目を集める資金調達の鍵と日本の取り組み
世界的なカーボンニュートラルの動きが加速する中、企業や政府が環境配慮型のプロジェクトを推進するために注目されているのが「グリーンボンド」です。脱炭素社会の実現に向けた資金調達手段として、発行額が年々増加しており、今後も市場が成長することが予想されています。本記事では、グリーンボンドの基礎知識、日本政府の取り組み、具体的な成功事例、そして資金調達を高めるためのポイントについて解説します。
目次
グリーンボンドとは?
グリーンボンドは、環境に配慮したプロジェクトに資金を調達するための債券です。企業や政府がカーボンニュートラルに向けた取り組みの資金源として、再生可能エネルギーやエネルギー効率向上、温室効果ガス削減プロジェクトなどに充当されます。
グリーンボンドの仕組み
発行目的
グリーンボンドは、環境保護や気候変動対策などの「グリーン」なプロジェクトに特化した資金調達のために発行されます。これは、従来の債券と大きく異なる点です。
資金使途の限定
グリーンボンドの最大の特徴は、調達資金の使途が環境関連プロジェクトに限定されていることです。具体的には以下のようなプロジェクトが対象となります
- 再生可能エネルギー事業(太陽光発電、風力発電など)
- 省エネ建築
- 電気自動車の開発
- その他の環境改善プロジェクト
発行プロセス
グリーンボンドの発行には、通常の債券発行プロセスに加えて、以下のような特別なステップが含まれます
- a) グリーンプロジェクトの選定
- b) 資金使途の明確化
- c) 第三者機関による評価
第三者評価
グリーンボンドの信頼性を確保するため、第三者機関による評価が重要な役割を果たします。この評価により、プロジェクトの環境改善効果や資金管理の透明性が確保されます。
継続的な報告
グリーンボンド発行後も、定期的に環境改善効果を報告することが求められます。これにより、投資家に対する説明責任を果たします。
標準化への取り組み
グリーンボンドの信頼性を高めるため、国際資本市場協会(ICMA)が定める「グリーンボンド原則」の遵守が重要視されています。これにより、グリーンボンドの標準化と透明性の向上が図られています。
このような仕組みにより、グリーンボンドは環境に配慮した事業への投資を促進し、持続可能な社会の実現に向けた重要な資金調達手段となっています。
グリーンボンドの市場動向
グリーンボンド市場は、近年急速に成長しており、世界的にも日本国内でも注目を集めています。主な市場動向は以下の通りです。
1. 世界市場の成長
Climate Bonds Initiative(CBI)の報告によると、2021年の世界のグリーンボンド発行額は約5,000億ドルに達し、2020年の約3,000億ドルから大幅に増加しました。
2022年は若干減少したものの、長期的には成長トレンドが続いています。
2. 日本市場の拡大
日本のグリーンボンド市場も急速に拡大しており、環境省の報告によると、2020年の発行額は約1兆円を超えました。2021年以降も成長が続いており、多様な発行体が参入しています。
ただし普及が進むと、さまざまな事例が増え評価機関によるフレームワークの評価が厳しくなる可能性もあるため、発行を検討する際はきちんと事業計画を練ることが必要となるでしょう。
3. 発行体の多様化
当初は主に国際機関や大企業が中心でしたが、現在は中小企業や地方自治体など、発行体が多様化しています。
特に、不動産セクターや金融機関からの発行が増加傾向にあります。
4. セクターの広がり
グリーンボンドのセクターは、再生可能エネルギーや省エネ建築が主流でしたが、最近では持続可能な農業、生物多様性保全、循環型経済関連のプロジェクトなど、対象セクターが広がっています。
5. 国際基準の整備
国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則や、EU(欧州連合)のグリーンボンド基準など、国際的な基準の整備が進んでいます。
これにより、市場の透明性と信頼性が向上しています。
6. ソーシャルボンド、サステナビリティボンドの台頭
グリーンボンドの成功を受けて、社会的課題解決を目的としたソーシャルボンドや、環境・社会両面の課題に取り組むサステナビリティボンドも増加しています。
7. 投資家層の拡大
当初は機関投資家が中心でしたが、個人投資家向けの債券も増えており、投資家層が広がっています。ESG投資の普及に伴い、年金基金や保険会社などの長期投資家の関心も高まっています。
8. テクノロジーの活用
ブロックチェーン技術を活用した「グリーンボンドトークン」など、新しい形態のグリーンボンドも登場しています。
これらの動向から、グリーンボンド市場は今後も拡大し、持続可能な経済への移行において重要な役割を果たすと予想されます。ただし、グリーンウォッシング(見せかけの環境配慮)のリスクや、標準化の課題など、克服すべき問題もあります。
グリーンボンドの種類
グリーンボンド原則(The Green Bond Principles: GBP)(International Capital Market Association: ICMA発行)では、グリーンボンドの種類として、以下の4つが示されています。それぞれ、償還原資等の点で違いがあります。 |
1.Standard Green Use of Proceeds Bond |
グリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券。特定の財源によらず、発行体全体のキャッシュフローを原資として償還を行います。 |
2.Green Revenue Bond |
グリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券。調達資金の充当対象となる公的なグリーンプロジェクトのキャッシュフローや、当該充当対象に係る公共施設の利用料、特別税等を原資として償還を行います。 例えば、外郭団体が行う廃棄物処理事業に必要な施設の整備や運営等を資金使途とし、当該事業の収益のみを原資として償還を行う債券がこれに該当します。 |
3.Green Project Bond |
グリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券。調達資金の充当対象となる単一又は複数のグリーンプロジェクトのキャッシュフローを原資として償還を行います。 例えば、専ら再生可能エネルギー発電事業を行うSPCが発行する、当該事業に必要な施設の整備や運営等を資金使途とし、当該事業の収益のみを原資として償還を行う債券がこれに該当します。 |
4.Secured Green Bond |
調達資金が、次のいずれかのグリーンプロジェクトのファイナンスもしくはリファイナンスのために 充当される担保付債券。 1. 特定の債券のみの裏付けとなっているグリーンプロジェクト(担保付グリーン資産担保ボンド); 又は 2. 当該グリーンプロジェクトが特定債券全体またはその一部の裏付けとなっている場合、あるいはなっていない場合の、発行体、オリジネーター、またはスポンサーのグリー ンプロジェクト (担保付標準グリーンボンド)。担保付標準グリーンボンドは、より大きな取引の特定のクラスまたはトランシェである場合もあります。 |
環境省グリーンファイナンスポータル
https://greenfinanceportal.env.go.jp/bond/overview/about.html
グリーンボンドの一般的な関係者とスキーム
グリーンボンド関係者
グリーンボンド発行における主要な参加者の役割を以下にまとめます
- 発行体
発行体は環境プロジェクトを実施し、そのための資金調達としてグリーンボンドを発行する主体です。グリーンボンドフレームワークの策定、適格プロジェクトの選定、資金管理、定期的な報告を行います。環境戦略の明確化と透明性の確保が重要な責務となります。
- アレンジャー(通常は証券会社)
アレンジャーは発行体と市場を結ぶ橋渡し役です。市場動向の分析、発行条件の助言、投資家需要の把握、販売戦略の立案などを行います。また、フレームワーク作成の支援や法的アドバイスも提供し、発行プロセス全体をコーディネートします。
- 外部評価機関
外部評価機関は、グリーンボンドの信頼性を担保する重要な役割を果たします。発行体のフレームワークや環境戦略を評価し、国際的な基準との整合性を確認します。通常、セカンドパーティ・オピニオンの形で評価結果を提供し、投資家の判断材料となる客観的な見解を示します。
- 投資家
投資家はグリーンボンドの購入者であり、環境プロジェクトに間接的に資金を提供する役割を果たします。環境・社会的なインパクトと財務的リターンの両方を考慮して投資判断を行います。また、発行体の環境への取り組みや資金使途に関する報告を定期的に受け取り、モニタリングを行います。ESG投資を行うことを表明している年金基金、保険会社などの機関投資家、ESG投資の運用を受託する運用機関、資金の使途に関心を持って投資をしたいと考える個人投資家等が想定されています。
これらの参加者が適切に役割を果たし、相互に連携することで、グリーンボンド市場の健全な発展と、環境プロジェクトへの効果的な資金供給が実現されます。
グリーンボンドの一般的なスキーム
- 発行検討発行体が環境プロジェクトの資金調達のためにグリーンボンド発行を検討します。
- アドバイス提供アレンジャー(証券会社)が発行体に市場動向や発行条件などについてアドバイスを提供します。
- フレームワーク作成発行体がグリーンボンドフレームワークを作成します。アレンジャーがこのプロセスをサポートすることもあります。
- 評価提供外部評価機関がフレームワークを評価し、セカンドパーティ・オピニオンを提供します。
- 発行条件決定発行体とアレンジャーが協議し、発行条件(発行額、金利、償還期間など)を決定します。
- 引受/販売アレンジャーがボンドの引受を行い、投資家に販売します。
- 資金提供投資家から発行体に資金が提供されます。
- 環境プロジェクト実施発行体が調達した資金を用いて環境プロジェクトを実施します。
- 報告発行体が定期的に投資家へプロジェクトの進捗や環境効果について報告します。
環境省 グリーンファイナンスポータル
https://greenfinanceportal.env.go.jp/bond/structure/inssuance_scheme.html
具体的なグリーンボンドの成功事例
1. 東京メトロのグリーンボンド
東京メトロは2021年にグリーンボンドを発行し、地下鉄車両のエネルギー効率向上や再生可能エネルギーの活用、駅のバリアフリー化に資金を充当しました。この取り組みは、CO2排出量削減だけでなく、利用者の利便性向上にも寄与しており、サステナブルな都市交通の実現に貢献しています。
2. トヨタ自動車のグリーンボンド
トヨタ自動車は、グリーンボンドを活用して水素燃料電池車(FCV)や電動車両の研究開発を推進しています。特に「MIRAI」などの燃料電池車に注力しており、ゼロエミッション車両の普及を通じて、国内外のカーボンニュートラル達成に向けたリーダーシップを発揮しています。
日本政府の取り組みとグリーンボンド推進
カーボンニュートラル政策
日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げ、グリーンファイナンスの推進に注力しています。これにより、脱炭素プロジェクトの資金調達を加速させるための支援が整備されています。
グリーンボンドガイドライン
2017年に環境省が策定した「グリーンボンドガイドライン」は、発行体が資金使途を透明に報告することを求めています。これにより、国内外の投資家が安心して資金を投入できる市場が形成されています。
環境省の補助金制度
環境省は、企業がグリーンボンドを発行する際の費用を一部補助する制度を整備。これにより、企業がグリーンボンドを活用しやすくなり、特に中小企業にとって重要な資金調達手段となっています。
グリーンイノベーション基金
2兆円規模の「グリーンイノベーション基金」を通じて、カーボンキャプチャ技術や次世代の再生可能エネルギー技術の開発が進められています。この基金の一部もグリーンボンドでの資金調達を通じて活用され、企業と政府が連携して脱炭素化を推進しています。
グリーンボンドで資金調達を高めるためのポイント
- 信頼性のあるプロジェクト選定
グリーンボンドの資金調達を成功させるためには、投資家が納得できる信頼性のあるプロジェクトを選定することが重要です。再生可能エネルギー、エネルギー効率化、脱炭素技術といった明確な環境貢献があるプロジェクトが望まれます。また、SDGs(持続可能な開発目標)との連携も投資家からの関心を集める要因です。
- 透明性の確保
グリーンボンドは、資金の使途や環境効果に関する透明性が求められます。資金が適切に環境関連プロジェクトに使われているかを第三者機関により検証し、その結果を定期的に報告することが信頼を得るために不可欠です。
- ESG投資家へのアピール
グリーンボンド発行にあたっては、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する投資家層に積極的にアピールすることが効果的です。特に欧米の投資家はESG要素に高い関心を持っており、環境問題への対応がしっかりした企業には積極的に資金を投じる傾向があります。
- 政府支援の活用
日本では、環境省の補助制度など政府の支援策を活用することで、企業は発行コストを削減し、スムーズにグリーンボンドを発行することができます。政府の政策を理解し、上手に活用することが資金調達を高めるポイントです。
- グリーンボンドの将来と日本の役割
今後、日本ではさらに多くの企業や自治体がグリーンボンドを発行し、カーボンニュートラル達成に向けたプロジェクトを支援することが期待されています。エネルギー、交通、建設といった分野での新たな取り組みが進む中、グリーンボンドは持続可能な社会の実現に向けて重要な資金源となり続けるでしょう。
まとめ
グリーンボンドは、脱炭素社会を実現するための強力な資金調達手段です。日本政府の支援と企業の取り組みによって、グリーンボンド市場はますます成長を続け、カーボンニュートラル達成に向けた不可欠な要素となっています。信頼性、透明性、そして政府支援を活用しながら、グリーンボンドを通じたサステナブルな資金調達は今後さらに加速していくでしょう。