SAF燃料とは?注目を集める【持続可能な航空燃料】のメリットとデメリットを詳しく解説
2050年までのカーボンニュートラル達成を目指すなかで、航空業界における重要な鍵として注目されているのがSAF燃料です。
SAF(Sustainable Aviation Fuel)は、持続可能な原料から製造される次世代の航空燃料として、従来の化石燃料に代わる画期的な選択肢となっています。
本コンテンツでは、SAF燃料の基本的な定義やメリット・デメリットに加え、その製造プロセスや関連銘柄についても詳しく解説。
また、SAFとe-fuelの違いや、バイオ燃料との比較、日本や世界の航空会社の取り組みにも触れ、業界の最新動向を掘り下げていきます。
環境問題に配慮する企業の経営層や投資家にとって、SAF燃料は新たなビジネスチャンスとともに、脱炭素化への具体的なアプローチとなるでしょう。
ぜひこの記事を通して、SAF燃料が航空業界、そして世界の未来に与える影響を一緒に考えてみませんか?
目次
SAF燃料の基礎知識
カーボンニュートラルな社会に向けて注目を集めるSAF燃料とはどのようなものなのか、基礎的な部分を振り返ってみましょう。
SAF(サフ)とは:次世代の合成燃料
引用:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構 持続可能な航空燃料「SAF」って何? 使用済みの食用油やゴミから燃料ができるってホント!?
SAF(Sustainable Aviation Fuel)は、持続可能な航空燃料として注目を集める次世代の代替燃料です。
従来の化石燃料由来のジェット燃料とは異なり、植物油や廃食油、都市ごみなどを原料として製造される環境配慮型の燃料です。
最大の特徴は、既存の航空機エンジンをそのまま使用できる「ドロップイン燃料」である点です。
燃焼時のCO2排出量を、従来型の航空燃料と比較して最大80%削減できるため、航空業界の脱炭素化において重要な役割を果たすことが期待されています。
SAFとバイオ燃料の違いは?
以下の表で、SAFとバイオ燃料の主な違いを解説します。
項目 | SAF | バイオ燃料 |
主な用途 | 航空機専用 | 自動車・発電など幅広い用途 |
品質基準 | 厳格な国際規格に準拠 | 用途により基準が異なる |
製造工程 | 高度な精製処理が必要 | 比較的シンプルな製造工程 |
コスト | 現状で通常の3-4倍 | 比較的安価 |
SAFとバイオ燃料のもっとも大きな違いは用途です。
SAFは厳格な品質規格に基づいて製造された持続可能な航空燃料であり、特に航空用途に適した燃料として設計されています。
SAFの主な原料
SAFの製造に使用される主な原料には「植物性原料」「廃棄物由来原料」「工業プロセス副産物」の3タイプがあります。
植物性原料 | ・非食料作物(ジャトロファなど) ・藻類 |
廃棄物由来原料 | ・使用済み食用油 ・都市ゴミ ・農林業残渣 |
工業プロセス副産物 | ・製紙工程の副産物 ・産廃排ガス ・グリーン水素+CO2 |
※都市ゴミや製紙副産物の利用は研究・実証段階であり、今後の技術進展が期待されています。
SAFの製造方法
「世界で注目を集めるSAF製造技術」について、現場で活躍するエネルギー専門家の視点から詳しく解説していきます。
SAFの製造プロセスは、使用する原料によって最適な方法が異なります。
以下の表で、主要な製造方法とその特徴を比較してみましょう。
製造方法 | 原料 | 削減効果 | コスト | 実用化状況 |
HEFA法 | 植物油・廃食油 | 最大80% | ★★★ | 世界で導入済み |
ATJ法 | バイオエタノール | 60-70% | ★★ | 実証実験段階 |
ガス化FT合成 | バイオマス全般 | 70-90% | ★ | 一部で商用化 |
※条件により変動があります。
特に注目したいのが「HEFA法」です。
HEFA法(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)は、主に廃棄物や再生可能な資源を原料に使用し、水素化処理を行うことで高品質な航空燃料を生産します。
<特徴>
- 原料:廃食油、植物油、動物性脂肪など
- プロセス:原料を水素化処理し、不純物を除去して燃料に変換
- 製品:航空機用燃料(ジェット燃料)や軽油など
<メリット>
- 高品質:従来の化石燃料と同等の性能を持つ
- 持続可能性:廃棄物を活用するため、環境負荷が低い
「なぜHEFA法が世界標準になりつつあるのか?」という点について、その理由は明確です。
従来の石油精製技術との親和性が高く、品質面でも安定しているため、航空会社からの信頼も厚いのです。
今後は原料調達網の整備と水素製造コストの低減が進めば、更なる普及が期待できるでしょう。
SAF燃料のメリット
SAF燃料のメリットは、主に以下の3つです。
- CO2排出量の軽減
- 既存のインフラを活用できる
- 国内生産が可能
通常の航空燃料と比較しながら、利点を解説していきます。
CO2排出量の軽減
SAFの最大の特徴は、通常の航空燃料と比べてCO2排出量を大幅に削減できる点です。
従来のジェット燃料と比較した場合、原料調達から燃焼までのライフサイクル全体で見ると、CO2排出量を最大約80%削減することができます。
以下の表で、燃料別のCO2削減効果を比較してみましょう。
燃料種類 | CO2削減率 | 原料 |
従来型ジェット燃料 | – | 原油 |
SAF(植物油由来) | 約80% | 植物油・廃食油 |
SAF(廃棄物由来) | 約65% | 都市ごみ・産業廃棄物 |
SAF(藻類由来) | 約70% | 藻類 |
既存のインフラを活用できる
新しい燃料に切り替えると、飛行機を買い替える必要があるかというとそうではありません。
現有設備をそのまま活用できるのはSAF燃料の大きな魅力。
航空会社は以下のインフラを改修することなくそのまま使用できるのです。
設備カテゴリー | 活用可能な既存設備 | メリット |
機体関連 | エンジン本体・燃料タンク | 改修費ゼロ |
燃料設備 | 給油機器・配管システム | 追加投資不要 |
保管設備 | 貯蔵タンク・輸送設備 | 即時利用可能 |
「環境に優しくて、しかも現実的」というSAFならではの特徴が、世界中の航空会社から高い評価を受けている理由です。
国内生産が可能
SAFは、日本国内での生産が可能な「国産エネルギー」としても注目を集めています。
原料となる廃食油や木質バイオマスは国内での調達が可能で、エネルギー安全保障の観点からも重要な意味を持ちます。
<主な国内調達可能な原料>
廃棄物系 | ・使用済み食用油 ・都市ゴミ ・製紙工程の副産物 |
バイオマス系 | ・林業残材 ・農業残渣 ・藻類(将来的) |
SAF燃料のデメリット
多くのメリットがあるSAF燃料ですが、デメリットにも目を向ける必要があります。
- 製造コストが高い
- 供給量が少ない
SAF燃料がこれから解決すべきデメリットについて見ていきましょう。
製造コストが高い
SAFの最大の課題は、従来型のジェット燃料と比べて製造コストが高額という点です。
現在、SAFは従来燃料の2〜8倍のコストがかかる場合があると言われています。
<コスト高の主な要因>
原料調達コスト | ・原料の安定的な確保が困難 ・収集・運搬にコストが発生 ・前処理工程が必要 |
製造プロセスコスト | ・高度な精製技術が必要 ・水素などの副資材が高価 ・品質管理コストがかかる |
設備投資コスト | ・専用製造設備の導入 ・品質検査設備の整備 ・貯蔵施設の確保 |
供給量が少ない
現時点でのSAF供給量は、世界の航空燃料需要の1%にも満たない状況です。(2023年時点国際航空運送協会(IATA)の報告による)
この供給不足の背景には、以下のような課題があります。
<供給量が少ない主な要因>
製造能力の制約 | ・専用製造設備の不足 ・技術的な製造効率の限界 ・熟練オペレーターの不足 |
原料調達の制約 | ・廃食油の収集量に限界 ・バイオマス原料の季節変動 ・食料との競合回避 |
インフラの制約 | ・製造拠点の地理的偏在 ・輸送・貯蔵設備の不足 ・品質管理体制の未整備 |
SAF燃料普及に向けての世界の取り組み
SAF燃料普及に向けて、世界ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
「ヨーロッパ」「アメリカ」「日本」で進められている施策について解説します。
SAF燃料普及に向けての取り組み:ヨーロッパ
EUは世界で最も積極的にSAF導入を推進している地域です。
2025年からすべてのEU域内空港で、航空燃料への2%のSAF混合を義務付ける「ReFuelEU Aviation」を施行予定です。
<主な施策と目標値>
年 | SAF混合義務率 | 合成燃料の最低割合 |
2025年 | 2% | 0% |
2030年 | 6% | 1.2% |
2040年 | 20% | 5% |
2050年 | 63% | 28% |
SAF燃料普及に向けての取り組み:アメリカ
バイデン政権は「SAF Grand Challenge」を掲げ、2050年までの航空部門の脱炭素化を目指しています。
具体的な支援策としては、財政支援やSAF製造への税額控除、インフラ整備支援などがあります。
<数値目標>
- 2030年までに年間30億ガロンのSAF生産
- 2050年までに航空燃料需要の100%をSAFに転換
- CO2排出量を2005年比で50%削減
SAF燃料普及に向けての取り組み:日本
経済産業省を中心に、2030年までのSAF商用化に向けた取り組みを加速しています。
「グリーンイノベーション基金」から2000億円規模の支援を実施し、以下のプロジェクトを推進中です。
技術開発支援 | ・国産SAFの製造技術確立 ・製造コスト低減技術の開発 ・品質評価技術の開発 |
サプライチェーン構築 | ・原料収集網の整備 ・製造拠点の整備 ・供給インフラの整備 |
SAF燃料普及に向けての航空会社の取り組み
SAF燃料普及に向けて、国だけでなく各航空会社でさまざまな取り組みが始まっています。「JAL」「ANA」「ユナイテッド航空」の3社の取り組みについて、見ていきましょう。
SAF燃料普及に向けての取り組み:JAL
日本航空(JAL)は、2023年から定期便でのSAF使用を本格的に開始しています。
<取り組み>
SAF調達 | ・フィンランドのNeste社から年間数千キロリットルを調達 ・国内製造事業者との長期供給契約を締結 ・独自のSAF製造技術の開発支援 |
運用面での工夫 | ・成田ーロサンゼルス線でのSAF定期使用 ・給油インフラの整備 ・運行データの収集・分析 |
SAF燃料普及に向けての取り組み:ANA
全日本空輸(ANA)は、「2050年カーボンニュートラル」達成に向けて、SAFの導入を積極的に進めています。
<取り組み>
国内外での連携 | ・IHI、JERAとの共同事業 ・米LanzaJet社からの調達契約 ・国内スタートアップへの出資 |
独自プログラム | ・SAF搭載便の運航実績の見える化 ・法人顧客向けSAFプログラムの提供 ・社内カーボンプライシングの導入 |
SAF燃料普及に向けての取り組み:ユナイテッド航空
世界の航空会社の中で最も積極的にSAFを導入している企業の一つです。
<取り組み>
大規模投資 | ・SAF製造企業への直接投資 ・専用製造施設の建設支援 ・研究開発プロジェクトへの参画 |
具体的な目標設定 | ・2030年までに日常的な使用量を現在の3倍に ・2050年までに完全なカーボンニュートラルを実現 ・年間SAF使用量を35億リットルまで拡大予定 |
※一部変更や進捗に遅れがある可能性があります。
日本のSAF燃料開発ロードマップ
今後SAF燃料の普及を推し進める計画はどのように行われるのでしょうか。
政府支援制度と規制の見通し
日本政府は2030年までのSAF商用化に向けて、具体的な支援制度と規制の整備を進めています。
以下のタイムラインで段階的な導入を計画しています。
期間 | 主な支援・規制 | 目標値 |
2025年まで | 実証事業支援 | 製造技術確立 |
2027年まで | 設備投資支援 | 年間5万KL生産 |
2030年まで | 混合率規制導入 | 年間20万KL生産 |
2035年まで | 義務化検討 | 年間100万KL生産 |
このような目標値を掲げていますが、現状では達成に向けた課題があるのも事実です。
<具体的な支援メニュー>
- 財政支援
- 設備投資への補助金(最大1/2)
- 研究開発費の税額控除
- 低利融資制度の創設
- 規制面での支援
- 環境アセスメントの簡素化
- 建築規制の緩和
- 原料調達規制の見直し
産業連携による製造基盤構築
国内のSAF製造基盤は、異業種間の連携により急速に整備が進んでいます。
<主要な産業連携の事例>
- エネルギー企業×商社
- ENEOSとJERA:廃食油からのSAF製造
- 出光興産と三井物産:国内サプライチェーン構築
- コスモ石油と伊藤忠:原料調達網の整備
- 製造業×運輸業
- IHIとANA:国産技術でのSAF製造
- 三菱重工とJAL:新製造プロセス開発
- 川崎重工と日本通運:物流システム構築
投資機会と事業化のタイミング
SAF関連ビジネスは、2025年以降に本格的な成長期を迎えると予想されています。
<有望な投資分野とタイミング>
- 短期(~2025年)
- 原料収集・前処理事業
- 実証プラントの建設
- 品質評価・認証ビジネス
- 中期(2026-2030年)
- 商用製造プラントの建設
- 供給インフラの整備
- 運送・貯蔵事業
- 長期(2031年~)
- 次世代製造技術開発
- 海外展開支援
- カーボンクレジット取引
<投資における重要指標>
投資分野 | 初期投資 | 回収期間 | リスク度 |
製造設備 | 大 | 7-10年 | 中 |
インフラ | 中 | 5-7年 | 小 |
技術開発 | 小 | 3-5年 | 大 |
SAF燃料の将来展望
SAF燃料は、現在の過渡期から次世代燃料へと段階的な進化を遂げようとしています。
e-fuelへの段階的移行シナリオ
現在のバイオ由来SAFから、将来的にはe-fuel(合成燃料)への移行が予測されています。
このトランジションは以下のように進むと見込まれます。
フェーズ | 主力燃料 | 特徴 | CO2削減率 |
2025年まで | バイオ由来SAF | 廃油・バイオマス利用 | 約50-80% |
2030年まで | ハイブリッドSAF | バイオ+合成燃料 | 約70-90% |
2035年以降 | e-fuel主体 | グリーン水素+CO2 | 約90-100% |
新規原料開発の可能性
次世代のSAF製造に向けて、革新的な原料開発が進んでいます。
<主な研究開発分野>
- バイオ技術を活用した新素材
- 高効率藻類の品種改良
- セルロース分解酵素の開発
- 遺伝子組換え微生物の活用
- 工業プロセスの副産物活用
- 製鉄所の排ガス利用
- 製紙工場の黒液転換
- 化学プラントの副生物
- 大気中CO2の直接回収
- DAC(Direct Air Capture)技術
- グリーン水素との組み合わせ
- カーボンリサイクル技術
2030年に向けた成長戦略
2030年時点でのSAF市場規模は1兆円規模に成長する可能性があります。
<成長に向けた重点施策>
- 技術開発
- 製造コストの50%削減
- 原料多様化による安定供給
- 品質管理技術の高度化
- インフラ整備
- 専用製造プラントの建設
- 供給網の最適化
- 品質保証体制の確立
- 制度設計
- 導入義務化の段階的実施
- 税制優遇措置の拡充
- 国際標準化への対応
市場予測(2030年)
分野 | 市場規模 | 年間成長率 |
製造設備 | 5,000億円 | 25% |
原料調達 | 3,000億円 | 20% |
運送・保管 | 2,000億円 | 15% |
まとめ
航空業界のゲームチェンジャーになるのでは、と注目を集めるSAF燃料。
その可能性は、単なる環境対策を超えた新たなビジネスチャンスを生み出そうとしています。
- 環境面での革新
- ビジネスチャンスの拡大
- 技術革新の加速
「SAFは高コストで実現性が低い」という声もありますが、むしろ「今がビジネス参入の好機」と捉えるべきかもしれません。
欧米では既に多くの企業がSAF関連事業に参入し、着実に成果を上げています。
日本企業にとっても、「技術力」と「環境意識の高さ」を活かせる絶好の機会となるはず。
SAFは、まさに「環境と経済の好循環」を実現する次世代の成長産業として、大きな期待が寄せられています。