人工原油とは?再生可能エネルギー時代を支える次世代燃料を解説

基礎知識

2024年9月末、ENEOSホールディングス株式会社が人工原油の実用化に向けて、原料から合成燃料を一貫して製造することができる日本初の合成燃料製造実証プラント(以下、実証プラントと記載)の稼働開始を発表しました。今回日本初となる部分は、同じ拠点で原料から合成燃料を生産する点にあります。この横浜市の中央技術研究所で建設されたこの実証プラントでの検証を通し、合成燃料製造技術の早期確立と今後の人工原油の生成に向けた更なる知見の獲得が目指されています。また、製造された合成燃料は、来年4月より開催が予定されているEXPO2025 大阪・関西万博での大型車両走行実証等に活用される予定となっています。

このように、先日CARBONIX MEDIA内でご紹介したメタネーション(メタネーションとは?カーボンニュートラルを支える技術を徹底解説)と同様に、万博での導入実験や環境負荷の低さから注目が集まっている人工原油ですが、本格的な普及は2030年代とされており、まだまだ実用化に向けた様々な課題が山積みの状況です。

そこで本コンテンツでは、複数の炭化水素化合物の集合体となっている人工原油について、その概要や生成方法、実用化に向けた課題について順に解説していきます。

 

人工原油の概要について

合成燃料とほぼ同義で使われており(※1)、CO2とH2を合成して製造されます。化石燃料である原油にその成分が近いことが、特徴の一つです。そのため、冒頭でご紹介した万博での大型車両走行実証のように、原油やガソリンと同じような用途で利用されることが想定されています。

環境省:エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gosei_nenryo.html

また、最近では似たようなキーワードとして、”カーボンニュートラル燃料”や”e-fuel”という言葉を耳にする機会も多いのではないでしょうか。これらのキーワードを整理すると、以下のような包含関係になっています。Internet上にある多くの情報の中で、合成燃料に関する定義は曖昧なものが多いのも事実です。そこで本コンテンツでは、経済産業省 資源エネルギー庁が合成燃料について “人工的な原油”と定義づけていることを踏まえて、人工原油を合成燃料に読み替えて、お伝えしていきます。

(*1)日本では、CO2とH2の精製方法の違いにより、合成燃料≠e-fuelとされています。もう少し具体的にお伝えすると、合成燃料のなかでも、再生可能エネルギーにより生成された水素を材料とする燃料がe-fuelとなります。しかし、欧州では、合成燃料=e-fuelとして位置づけられています。

このように、CO2、特に大気中から回収されたCO2とCO2を排出しないH2から生成される合成燃料(人口原油)は、既存の石油サプライチェーンや自動車等の機器を継続して利用していくために、原油をもとに生成されているガソリンや軽油などと同等の成分の燃料を生成することを目指して研究開発が進められています。加えて、回収されたCO2を原料とすることでカーボンリサイクルを実現し、脱炭素社会の一翼を担うことが期待されています。

(※1)合成燃料は、厳密には合成ガソリンや合成軽油、合成再生航空燃料(SAF)などの総称を示していますが、後にもお伝えしているように、経済産業省 資源エネルギー庁の記事の中で、合成燃料については “人工的な原油”と定義づけられています。

 

人工原油の生成方法について

原料は、CO2とH2の2つです。基本的に、フィッシャー・トロプシュ合成法(以下、FT法と記載)と呼ばれる天然ガスや石炭等を原料とし、液体炭化水素を合成する方法で生成されます。ここでは、原料を一度水性ガス(COとH2の混合ガス)化し、再度液体化させる技術が用いられます。より詳しく説明すると、原料となっているCO2をCOに転換し、触媒反応を使ってCOとH2を反応させて、HC(炭化水素)を合成してできた燃料が、合成燃料(人工原油)と呼ばれるものになります。それぞれの原料を調達する上では、以下のような生成方法が用いられています。

<CO2>

  • 発電所や工場などの排気ガスから取り出す

既にいくつかの実証実験が開始している状況ですが、この方法においては石油や天然ガスなどの化石燃料を燃やすことも欠かせない方法となっています。

  • 木材などバイオマスを燃やす

トータルでCO2が増えない状況を作りだすために、植物が自らCO2を吸収する特徴を生かして、燃やして発生したCO2を燃料用に回収する方法です。

  • DAC(Direct Air Capture)法

ダイレクト・エア・キャプチャの略で、直接空気回収技術を用いた方法です。大気中のCO2を分離・回収する技術の総称となっており、ゼロカーボン化の実現に向け、有望視されている技術のひとつです。

<H2>

  • 炭化水素を分離する

天然ガスや石油、石炭に含まれるメタンなどの炭化水素を水蒸気と反応させて、H2(グレー水素)とCO2を生成します。製造過程では多くのCO2が大気中に排出される方法です。

  • CO2を、大気中に排出する前に回収・貯蔵する

グレー水素から分離されたCO2を、大気中に排出する前にH2(ブルー水素)を回収・貯蔵します。CCSやCCUSのような、CO2の回収・貯留技術やそのための設備が用いられている方法です。

  • 電解法

洋上風力などの再生可能エネルギーを利用するとことで水を電気で分解し、H2とO2に分離し、H2(グリーン水素)を取り出す方法です。この生成方法は、製造過程でCO2は排出しないため、環境にとって最もクリーンな水素として位置づけられています。

人工原油の実用化に向けた課題について

経済産業省から出されている石油連盟 Fuel+がまとめたデータによると、合成燃料(人工原油)の実用化や商用化に向けた主な課題として、以下の2つが挙げられています。

課題1:安価で大量のCO2フリー水素と高濃度のCO2を調達すること
課題2:合成燃料の収率(原料に対する出来高の比率)を向上させること

経済産業省:合成燃料の実用化・商用化に向けた挑戦
© https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/ccs_choki_roadmap/kokunaiho_kento/pdf/002_06_03.pdf

課題1に関しては、再エネ合成燃料(粗油ベース)を年間44万トン製造する場合、次のような製造規模が求められます。

<再エネ合成燃料を年間44万トン(≒日量換算で1万バレル相当)製造するのに必要な原料>

—–

  • 再エネ電気

日照量が日本の約2倍程度の豪州において 5GWの太陽光パネルが発電する電力量 (≒東京ドーム約500個分(5km×5km) 相当の敷設面積)

  • CO2

年間100~200万トン程度 (≒0.7ギガワット級LNG発電所の排ガス中のCO2全量に相当)

経済産業省:合成燃料の実用化・商用化に向けた挑戦をもとに引用

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また、安価で大量のCO2フリー水素の確保と水素サプライチェーンの構築、水素供給コストの削減のために、次のような技術開発や実証実験などの取り組みが行われています。

<目指すべき水素サプライチェーンと取り組み事例>

内閣官房:カーボンニュートラル(CN)燃料の 導入・普及に向けて(提言) 【概要】をもとに、筆者作成

また、課題2に関して2022年時点における合成燃料(人工原油)のコスト試算を踏まえると、国内製造による合成燃料(人工原油)のコストは海外製造に比べ、2倍以上のコスト負担が発生している状況となっています。

経済産業省:合成燃料の実用化・商用化に向けた挑戦
© https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/ccs_choki_roadmap/kokunaiho_kento/pdf/002_06_03.pdf

このようなコストに対する課題を踏まえて、業界を牽引するENEOSや出光興産はまず合成燃料(人工原油)の用途を広げて流通量を増やし、規模の経済を働かせてコストを抑える考えを発表しています。また、トヨタ自動車や三菱重工業も、合成燃料(人工原油)の導入に向けて協力することを公表しています。

まとめ

本コンテンツでは、人工原油についての理解を深めるために、人口原油の概要を踏まえた上で、その生成方法や実用化に向けた課題について整理し、解説してきました。

今回お伝えしてきた合成燃料(人工原油)に関わる業界の動向として、石油業界における昨今の取り組みでは、グリーンイノベーション基金(※2)などを活用した合成燃料の製造技術の開発が挙げられます。業界内では、政府の掲げる2040年頃までの自立商用化の目標の実現を目指し、取り組みを推進している状況です。

内閣官房:カーボンニュートラル(CN)燃料の 導入・普及に向けて(提言) 【概要】
© https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai3/siryou5.pdf

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(※2)GI基金。「経済と環境の好循環」を作っていく産業政策であるグリーン成長戦略において実行計画を策定している重点分野のうち、特に政策効果が大きく、社会実装までを見据えて長期間の取組が必要な領域にて、具体的な目標とその達成に向けた取り組みへのコミットメントを示す企業等を対象として、10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援するために設けられた基金。

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