e-fuelとは?カーボンニュートラル時代の新しい燃料のメリットとデメリットを解説

カーボンニュートラル実現に向けて、大きな転換期を迎えている自動車産業。
再生可能エネルギーを活用した新たな選択肢として「e-fuel(イーフューエル)」が注目を集めています。
既存の内燃機関をそのまま活用できる人工燃料として期待されるe-fuelは、グリーン水素と二酸化炭素から製造される革新的な燃料です。
本コンテンツでは、自動車業界における実用化への取り組みから、製造コストや技術的課題まで、エネルギー専門家の視点でe-fuelの可能性を徹底解説します。
電気自動車との比較や、トヨタをはじめとする日本企業の最新動向にも触れながら、次世代モビリティの選択肢としてのe-fuelの未来像を考察していきます。
目次
e-fuel(イーフューエル)の基本概念と特徴
e-fuel(イーフューエル)は、二酸化炭素(CO2)を原料として人工的に製造される燃料のことです。さまざまな分野で注目されるカーボンニュートラルな合成燃料について、詳しく紹介します。
E-fuelとは?
e-fuel(イーフューエル)は、再生可能エネルギーを使って製造される合成燃料の一種です。
独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 カーボンニュートラルで話題の「合成燃料(e-fuel)」とは?そのメリットから製造方法まで解説!
主に、水素と二酸化炭素を原料とし、化学反応によって作られるため、従来の化石燃料とは異なり、環境への負荷を軽減できます。
従来のガソリンやディーゼル燃料と同じように使用できるため、既存の自動車エンジンや給油インフラをそのまま活用できるのが魅力です。
製造時に使用する二酸化炭素と、燃焼時に排出される二酸化炭素が相殺されるため、理論上カーボンニュートラルを実現できる点が注目されています。
このような特性から、e-fuelは化石燃料に代わる次世代の持続可能な燃料と考えられているのです。
e-fuelの製造方法と原理
e-fuelの製造プロセスは、主に以下の3つのステップで構成されています。
- 水の電気分解によるグリーン水素の生成
- 再生可能エネルギーを使用
- 水を電気分解して水素を取り出す
- CO2を一切排出しない製造過程
- CO2の回収
- 工場や発電所などから排出されるCO2を回収
- 大気中からの直接回収も技術開発中
- 回収したCO2を精製・純化
- 合成プロセス
- 水素とCO2を化学反応させる
- フィッシャー・トロプシュ法などの技術を使用
- ガソリンやディーゼル相当の炭化水素を合成
この製造方法により、既存の内燃機関で使用可能な液体燃料が生成されます。
e-fuelが注目される理由
e-fuelが注目される理由については、以下の点が挙げられます。
気候変動対策への寄与
e-fuelは製造時の二酸化炭素回収と燃焼時の排出が相殺されるため、カーボンニュートラルを実現。これは、気候変動を抑制するために必要な重要な技術として評価されています。
電化が難しい分野での活用
航空業界や海運業界のように、電池技術だけではカバーしきれない分野において、e-fuelは現実的かつ効果的な脱炭素化手段とされています。
既存インフラの活用
e-fuelはガソリンやディーゼル燃料と同様の特性を持つため、既存のエンジンや燃料供給インフラをそのまま活用でき、新しい設備投資を最小限に抑えられます。
エネルギー自給率の向上
再生可能エネルギーを基に製造されるe-fuelは、地域資源を活用することで輸入燃料への依存を減らし、エネルギーの自給率向上にもつながります。
これらの要因が複合的に絡み合い、e-fuelは脱炭素社会を実現するための有望なエネルギーとして注目を集めているのです。
e-fuel(イーフューエル)の導入で得られる5つのメリット
e-fuelを取り入れることで得られるメリットは主にこの5つです。
- カーボンニュートラルの実現
- 内燃機関車や航空機での即時使用が可能
- 再生可能エネルギーの貯蔵手段
- 有害物質の排出が少ない
- エネルギー安全保障の向上
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. カーボンニュートラルの実現
製造から使用までのライフサイクル全体でカーボンニュートラルを実現できるのは、e-fuelの大きなメリットです。
製造過程では、大気中や工場から回収したCO2を使用し、燃焼時に排出されるCO2と相殺されるため、実質的なCO2排出量はゼロとなります。
これにより、2050年までのカーボンニュートラル達成という世界的な目標に大きく貢献することが期待されているのです。
2. 内燃機関車や航空機での即時使用が可能
既存のエンジンやインフラをそのまま活用できることは、e-fuelのメリットと言えるでしょう。
特に、航空機や大型船舶など、電動化が技術的に困難な分野での活用が期待されています。
新たな設備投資を抑えながら、脱炭素化を進められる点が高く評価されているのです。
3. 再生可能エネルギーの貯蔵手段
e-fuelは、再生可能エネルギーの新しい貯蔵方法として注目されています。
太陽光や風力発電の余剰電力を、e-fuel製造に活用することで、効率的なエネルギー貯蔵が可能に。
これにより、再生可能エネルギーの導入促進と安定供給の両立が期待できます。
4. 有害物質の排出が少ない
e-fuelは、従来の化石燃料と比べて、有害物質の排出が大幅に少ないことが特徴です。
硫黄分や不純物をほとんど含まないため、燃焼時のPM(粒子状物質)やSOx(硫黄酸化物)の発生を抑制できます。
これにより、大気汚染の改善にも貢献することが期待されています。
5. エネルギー安全保障の向上
e-fuelは、国産エネルギーとしての可能性を秘めており、エネルギー安全保障の強化につながります。
水と二酸化炭素から製造可能なため、化石燃料の輸入依存度を低減できます。
日本政府も、2040年までにe-fuelの商用化を目指す方針を打ち出しており、国内生産体制の整備を進めています。
これにより、地政学的リスクに左右されない、安定的なエネルギー供給体制の構築が期待できます。
e-fuel(イーフューエル)の導入で懸念される5つのデメリット
e-fuelの導入には、デメリットがあります。
- 製造コストが高い
- エネルギー効率が低い
- 再生可能エネルギーを大量消費する
- 環境負荷が完全にゼロではない
- 政策・規制の整備不足
私たちが知っておくべき課題を解説していきます。
1. 製造コストが高い
現状のe-fuelは、従来の化石燃料と比べて製造コストが大幅に高いことが最大の課題です。
2023年時点での試算によると、e-fuelの製造コストは1リットルあたり約300〜700円。
製造に必要な電気分解装置や触媒の価格、そして大量の再生可能エネルギーの使用により、従来のガソリンと比べると大幅にコストがかかるのです。
これにより、従来の化石燃料と比べて価格競争力が劣り、大規模な普及が難しい状況にあります。
2. エネルギー効率が低い
e-fuelは、製造から使用までの全工程でのエネルギー効率が低いことが指摘されています。
水の電気分解、CO2の回収、合成プロセスの各段階で大きなエネルギーロスが発生し、投入エネルギーの約70-80%が失われるのです。
たとえば、同じ電力量で比較した場合、電気自動車が100km走行できるのに対し、e-fuel車は約15-20kmしか走行できないことになります。
このエネルギー効率の低さは、コスト面だけでなく、資源の有効活用という観点からも課題となっています。
3. 再生可能エネルギーを大量消費する
e-fuelの製造には膨大な量の再生可能エネルギーが必要です。
そのため、他の用途へのエネルギー供給に影響を及ぼす可能性が懸念されています。
大規模な再生可能エネルギー設備の整備には、莫大な投資と時間が必要です。
4. 環境負荷が完全にゼロではない
理論上はカーボンニュートラルとされるe-fuelですが、実際の製造・使用過程では完全なゼロエミッションは達成できていません。
製造設備の建設や輸送、CO2回収プロセスなどで、一定の環境負荷が発生します。
そのため、環境負荷を最小限に抑えるための技術開発が今後の課題となっているのです。
5. 政策・規制の整備不足
e-fuelの普及に向けた法整備や規制の枠組みが、まだ十分に整っていないのが現状です。
たとえば、品質基準や安全基準、CO2削減効果の評価方法など、具体的な規制の整備が遅れています。
EUでは2035年以降、内燃機関を搭載した新車の販売を禁止する方針を示していますが、e-fuel(合成燃料)を使用する車両については例外として認める方向で検討しています。
ただし、e-fuel車両の具体的な要件や基準については、現在詳細が検討中であり、明確な規定はまだ確立されていません。
こうした政策面での不確実性が、企業の投資判断や技術開発を遅らせる要因となっています。
e-fuel(イーフューエル)の活用方法
幅広い業界で脱炭素化を促進できるe-fuel。どのような分野で使われるのか、その活用方法を見ていきましょう。
自動車
自動車分野では、既存の内燃機関車への即時適用が可能なe-fuelの活用が進んでいます。
特に高級車メーカーのポルシェが積極的で、チリのプンタアレナスにe-fuel製造プラントを建設し、2024年から年間1億リットルの生産を目指しています。
また、BMWやトヨタも、e-fuel対応車の開発を進めており、特にモータースポーツでの実証実験を積極的に行っています。
このように、まずは高性能車やレース用車両から採用が進み、徐々に一般車への展開が期待されています。
航空機
航空業界では、脱炭素化の切り札としてe-fuelへの期待が高まっています。
現在の航空機では、重量や航続距離の制約から電動化が難しいのが現状です。
そのため、特に長距離フライトでは、e-fuelが従来の航空燃料の代替として重要な役割を果たすことが期待されています。
船舶
海運業界でも、大型船舶の脱炭素化手段としてe-fuelの導入が検討されています。
特に外航船の場合、長距離航行が必要なため、エネルギー密度の高いe-fuelが有力な選択肢となっています。
産業機械
建設機械や農業機械など、産業機械分野でもe-fuelの活用が進められています。
産業機械は、作業時間や出力の要求が厳しく、バッテリー式の電動化が難しいため、e-fuelが現実的な脱炭素化手段として期待されているのです。
e-fuel(イーフューエル)の実用化に向けての日本企業の取り組み
日本企業もe-fuelの実用化に向けた研究と開発を積極的に進めています。 ここでは「トヨタ」「出光興産」「ENEOS」「三菱重工」の3社の取り組みについて紹介します。
トヨタ
トヨタ自動車は、カーボンニュートラル社会に越えて移行するために、スバル、マツダとともに電動化に適合する新たなエンジン開発の共創と競争を表明。
e-fuelを含めたカーボンニュートラル燃料の普及に向けて、積極的に取り組んでいます。
出光興産
出光興産は、国内における合成燃料の開発に力を入れている企業のひとつです。
国内供給にとどまらず、海外からe-fuelを調達して国内での普及を広めるために、合成燃料の製造を行うHIFと戦略的パートナーシップに関する合意書を締結しました。
ENEOS
ENEOSの会社は、2024年よりサプライワークループを希望しながらe-fuelの導入を試行しています。
また、豪州の再生可能エネルギー事業者と提携し、大規模なe-fuel製造プロジェクトを計画しています。
航空燃料向けe-fuelの開発も進めており、国内航空会社との共同研究を実施しています。
三菱重工業
三菱重工業は、2040年のカーボンニュートラル実現に向けてENEOS、トヨタ、出光興産とともにさまざまな環境戦略を展開しています。
CO2と水素を軸とした包括的な環境技術の開発を進めており、特に水素サプライチェーンの確立に注力。
グローバルなパートナーシップを活用しながら、革新的な脱炭素ソリューションの創出を目指しており、自社製品の環境性能向上だけでなく、社会全体の低炭素化にも貢献する取り組みを加速させています。
e-fuel(イーフューエル)と電気自動車(EV)の比較
e-fuelと電気自動車(EV)は、それぞれ異なる強みを持っています。 カーボンニュートラル社会の実現に貢献する両者の違いを比較してみましょう。
カーボンニュートラルへの貢献
e-fuelとEVは、それぞれ異なるアプローチでカーボンニュートラルに貢献します。
e-fuelは、製造時に使用するCO2と燃焼時の排出が相殺される循環型のシステムを実現します。
一方、EVは走行時のCO2排出がゼロですが、製造時や充電時の電力由来の排出が課題となります。
ライフサイクル全体でのCO2削減効果は、電力の脱炭素化の進展度合いによって変動するため、地域特性を考慮した導入が重要です。
エネルギー効率
エネルギー効率の面では、EVが明確な優位性を持っています。
EVは投入電力の約70-80%を走行エネルギーとして利用できるのに対し、e-fuelは製造から使用までの過程で大きなエネルギーロスが発生します。
たとえば、同じ電力量を使用した場合、EVが100km走行できる距離を、e-fuel車は約15-20kmしか走行できません。
このエネルギー効率の差は、特に都市部での日常的な使用において重要な検討要素となるでしょう。
インフラと適用性
インフラ面では、e-fuelは既存のガソリンスタンドを活用できるる点で優位性があります。
EVは充電設備の新規整備が必要で、特に集合住宅での導入には課題が残るでしょう。
また、e-fuelは航空機や大型船舶など、電動化が難しい分野での活用が期待されています。
それぞれの特性を活かし、用途に応じた使い分けが重要です。
コスト
現状では、両者ともに従来の内燃機関車より高コストとなっています。
EVは車両価格が高いものの、充電コストは比較的安価です。
一方、e-fuel車は車両価格は従来車と同等ですが、燃料コストが1リットルあたり300〜700円と高額です。
ただし、技術革新と大量生産により、両者とも2030年までにコスト低減が見込まれています。
環境への影響
環境影響は、単にCO2排出だけでなく、より広い観点での評価が必要です。
EVはバッテリー製造時のレアメタル採掘による環境負荷が課題。
e-fuelは、燃焼時のNOx排出など、従来の大気汚染物質の課題が残ります。
両者とも、製造から廃棄までのライフサイクル全体での環境影響の低減が求められています。
寿命と廃棄物
使用年数と廃棄物の観点では、異なる特徴が見られます。
EVはバッテリーの寿命(8-10年)が課題で、定期的な交換が必要となります。
一方、e-fuel車は従来車と同様の耐久性があり、特別な廃棄物処理も不要です。
このように、長期的な維持管理と環境負荷の両面から、それぞれの特性を考慮した選択が重要となっています。
まとめ
e-fuelは、再生可能エネルギーとCO2を活用した次世代のカーボンニュートラル燃料です。 既存のインフラや内燃機関を活用できる一方で、製造コストや効率性の課題があります。
日本を含む世界各国で、研究開発や政策支援が進む中、e-fuelは電気自動車と並ぶ重要な選択肢として注目されています。
これからのエネルギー転換時代において、e-fuelが果たす役割はますます大きくなるでしょう。

