CDPスコアとは?企業の環境評価とAリストの仕組みを徹底解説

CDPスコアとは?企業の環境評価とAリストの仕組みを徹底解説
基礎知識

株式市場において、「PRI(※1)」や「SDGs投資(※2)」といった環境問題に関するキーワードが広く使われるようになって久しいですが、今回紹介するCDPスコアもまた、企業による環境対策への取り組みを評価する指標となっています。多くの機関投資家や金融機関にとってCDPスコアは、上場企業の環境問題やSDGsに関する取り組みの進捗をはかる代表的な指標として活用されており、昨今では投資先企業の選定基準の一つとなっています。そのため、CDPスコアが発表されると、毎年多くの報道機関がこぞってAランク(最高評価)を取得した企業を取り上げ、その動向に注目が集まります。

そこで本コンテンツでは、CDPスコアに関する理解を深めるにあたり、まずはCDPの概要を改めて確認した上で、質問書(Questionnaire)の内容とスコアリングの結果(2023年)について解説していきます。CARBONIX MEDIA上でも、「気候変動対策を推進する国際組織CDPとは?わかりやすく解説し事例も紹介」というコンテンツの中で、環境情報開示システムを運営する非営利団体として「CDP」そのものが果たす役割も紹介していますので、お時間のある方は是非そちらも併せてご覧ください。

(※1)環境や社会、企業統治の観点で、責任のある投資を促すための原則。
(※2)SDGsの達成に貢献することを目的とした投資。

CDPの概要について

Carbon Disclosure Projectの略で、イギリスで設立されたNGO組織を表しています。CDPはもともと、「炭素排出削減」に関する情報開示を主な目的として設立されました。しかし、近年では環境問題が多様化・深刻化していることを背景に、取り扱うテーマも拡大しています。現在では、「気候変動」、「フォレスト(森林)」、「水セキュリティ」、「プラスチック」の4つの主要テーマ(※3)に関して、世界中の大手企業に対し質問書を通じて情報を収集し、それらの回答を基に企業の環境対応を評価・スコアリングし、公開しています。(ここで出てくる質問書については、二章で改めて詳しくお伝えします。)

また、このようなCDPによる評価は、財務情報に対する補完的な非財務情報として、ESG(環境・社会・ガバナンス)への対応を重視する金融機関や機関投資家にとって、投資判断や融資方針の策定における重要な指標として活用されています。例えば、UnileverはCDPの評価を企業戦略に積極的に活かしている代表的な事例です。同社は各分野においてCDPから最高評価の「Aスコア」を取得しており、その実績を自社のサステナビリティレポートや投資家向け資料に明示的に活用しています。これにより、サステナビリティに真剣に取り組む姿勢をステークホルダーに示し、ブランド価値の向上や投資家との信頼関係の構築に貢献しています。その他にも、国内企業では、トヨタ自動車がに水セキュリティへの取り組みを高く評価されており、ESG投資の対象銘柄として選定された例があります。同社はこの評価を活かし、脱炭素社会の実現に向けた技術開発や事業方針の透明性を高めることで、海外投資家からの資金調達力を強化する一助としています。

CDP評価事例

以下に、CDPスコアの評価事例をいくつか紹介します。

UnileverのCDP評価(2023年)
気候変動フォレスト水セキュリティ
AAA
トヨタ自動車のCDP評価(2023年)
気候変動フォレスト水セキュリティ
A-未評価(Not Scored)A

各社、CDP HP(スコア検索ページ)を参照

(※3)2023年の情報開示サイクルより、「プラスチック」が4つ目のテーマとして加えられています。この変更により、CDPは環境関連の情報開示をより包括的に捉える体制を整え、プラスチックの使用、管理、リサイクルなどに関する企業の対応についても、スコアリング・開示の対象としています。

質問書(Questionnaire)について

ここでは、CDPスコアの算出にあたり重要な役割を果たす質問書(Questionnaire)について解説していきます。

CDPでは毎年、一定の条件(※4)を満たす企業や団体に対して、環境情報の開示を求める質問書が送付されます。対象となる組織は、CDPが定めるプログラム内容や企業規模、上場区分などに基づいて選定されます。日本の例を挙げると、2021年度まではFTSEジャパンインデックス構成銘柄をベースに、時価総額上位500社が主な対象とされていました。しかし、2022年度からは東証プライム市場に上場している企業全体へと対象が拡大され、より幅広い企業に対して環境情報の開示が求められるようになりました。

質問書は、一章でもお伝えした4つの主要テーマ、「気候変動」、「フォレスト(森林)」、「水セキュリティ」、「プラスチック」ごとに用意されており、それぞれのテーマに沿って、企業や団体の環境への取り組み状況を詳しく問う内容となっています。これにより、各組織が科学的根拠に基づいた意思決定を行っているか、その意思決定に基づきサプライチェーン全体で具体的な行動を取っているかどうかが評価されます。

また、CDPの質問書は対象組織の種類に応じて異なる形式が用意されており、以下の5つのカテゴリに分けられます:

  1. 企業(Corporates)
  2. SME(中小企業)
  3. 自治体(Cities)
  4. 自治体(州・地方政府)
  5. 公的機関(Public Authorities)

ただし、日本国内においては「自治体(州・地方政府)」および「公的機関」向けの質問書は現在適用されておらず、主に企業と市区町村レベルの自治体が情報開示の対象となっています。

また、CDPはその活動理念として「Earth Positive(アースポジティブ)」を掲げており、地球全体の利益を最優先に考えた科学的根拠に基づく意思決定と、それに連動した実効的なアクションの推進を重視しています。質問書は、そのような観点から各組織の環境戦略や取り組みの成熟度を評価するための重要なツールとなっています。

(※4)CDPが質問書を送付する際の主な条件や基準として、以下のようなものが挙げられます。加えて、このような条件などにあてはまらない企業でも、自主的に開示を行うことは可能です。

  • 企業規模(時価総額や売上高)
    環境への影響が大きいとされる大企業や上場企業を優先的に対象としており、過去には時価総額上位500社を対象としていた実績があります。
  • 上場区分・市場の区分
    日本においては、2022年度から東証プライム市場に上場している企業を中心に質問書が送付されるようになりましたが、これは市場全体でESG開示を強化する動きに対応したものとなっています。
  • 投資家のリクエスト(インベスター・リクエスト)
    CDPに参加している機関投資家が、特定の企業に対して情報開示をリクエストする場合があります。この「投資家からの要請」がある企業は、優先的に質問書の送付対象となっています。
  • 業種・セクター
    気候変動や森林破壊、水資源、プラスチック汚染に特に影響を及ぼすとされる業種(例:エネルギー、化学、食品、輸送、素材など)は、重点的に対象とされています。
  • 地理的・政策的観点
    政府や自治体と連携し、国策や国際枠組みに合わせて対象企業が選定される場合もあります。(例:TCFDの普及状況、EUタクソノミーなど)。

スコアリングの結果(2023年)について

これまでお伝えしてきたように、CDPによるスコアは、企業や自治体、関連する団体が自らの環境影響を把握して、果断に行動し、実際の変化を生み出すための重要なツールと位置づけられています。また、グローバルな競争環境においては、非財務情報の信頼性がブランド価値や資本コストに直結するケースも増えており、CDPスコアは重要なESG評価指標として金融業界や投資家の間で活用が広がっている現状があります。

例えば、気候変動分野における2023年のスコアリングの結果、世界全体でAリストに選定された企業数は346社でした。そのうち日本企業は109社と、国別では上位に位置しており、国内企業の環境対応が国際的にも高く評価されていることが分かります(※5)。その中でも、富士フイルムホールディングスの事例を取り上げると、同社は気候変動分野でのAリスト選定をきっかけに、グローバル規模でのサステナビリティ戦略を強化しています。加えて、脱炭素経営の加速に向けて再生可能エネルギーの導入比率を高めるとともに、2024年にはScope3排出量削減に向けた具体的な取り組み計画を公表しました。

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CDPは、企業、自治体にスコアを付与することで、環境情報に関する透明性を高め、アクションを起こすリーダーとなれるよう支援しています。 

組織が環境への取り組みを始めようとしている段階か、開始した取り組みを向上させるために努めているところか、すでに環境への透明性をリードしているかに関わらず、包括的な情報開示によって将来世代を守るためのアースポジティブな決定を下すことが可能になります。 

スコアは、明確に把握し、果断に行動し、変化を生み出すためのツールなのです。

CDP HP:CDPスコアとAリストより引用

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CDPは、企業にD-からAまでのスコアを付与することで、情報開示から何を測定すべきかを理解し、最終的にアースポジティブで具体的なアクションを取れるよう支援しています。

Aスコアを獲得した企業であっても、気候変動、森林減少、水セキュリティに関する情報開示と実績は最も透明性が高いものの、環境への取り組みがこれで終わりというわけではありません。

CDPでの情報開示とスコアは、企業が継続的に環境課題の改善への取り組みを続ける上で重要な役割を果たします。CDPは、新たな科学的知見、ステークホルダーからのフィードバック、環境情報の透明性向上を求める市場のニーズに合わせて、環境におけるリーダーシップの基準を定期的に引き上げています。

CDP HP:リーダーシップとは何か?より引用

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最後に、CDPスコアの最高点であるAランクを取得した企業、「Aリスト企業」について見ていきます。2025年3月時点では2024年のスコアは公開されていないため、2023年のスコアを元に事例を確認していきます。

気候変動分野:Aリスト日本企業(109社)

例:イオン、味の素、ANAホールディングス、アステラス製薬、キヤノン、第一三共、デンソー、富士通、日立製作所、本田技研工業、花王、京セラ、三菱電機、三井不動産、リコー、資生堂、ソニーグループ、武田薬品工業、トヨタ紡織、YKK、横河電機 など

※世界全体では346社がAリスト入り

森林分野(フォレスト):Aリスト日本企業(7社)

花王、王子ホールディングス、積水ハウス、資生堂、日清オイリオグループ、豊田通商、ユニ・チャーム

※世界全体では30社がAリスト入り

水セキュリティ分野:Aリスト日本企業(36社)

例:カゴメ、キッコーマン、キリンHD、ライオン、明治HD、ミネベアミツミ、日産自動車、ローム、ユニ・チャーム、サッポロHD、TDK、日清オイリオ など

※世界全体では101社がAリスト入り

複数テーマでのAリスト入り企業

-気候変動と水セキュリティの両方でAリスト入り:
花王、積水ハウス、中外製薬、クボタ、コーセー、デンソー、NEC、小野薬品、塩野義製薬、サントリーHD、横河電機 など

-気候変動と森林の両方でAリスト入り:
資生堂、豊田通商

-水セキュリティと森林の両方でAリスト入り:
日清オイリオグループ、ユニ・チャーム

-すべてのテーマでAリスト入りした企業(世界で10社):
バイヤスドルフ(独)、ダノン(仏)、花王(日本)、ケリング(仏)、クラビン(ブラジル)、レンチング(オーストリア)、ロレアル(仏)、Mayr-Melnhof Karton AG(オーストリア)、フィリップ・モリス(スイス)、積水ハウス(日本)

プライム市場上場企業セクター別回答企業数・A/A-スコア企業数

©︎ https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/009/502/original/CDP2023_Japan_Report_Climate_0319.pdf

(※5)日本におけるCDP回答企業全体に占めるAリスト入り企業の割合は約9%となっており、今後この比率をさらに高めていくためには、サプライチェーン全体を巻き込んだ取り組みの深化も求められています。

まとめ

本コンテンツでは、CDPスコアに対する理解を深めるために、CDPの概要からスコアリングまでの仕組み、そして2023年の評価結果までを解説してきました。

CDPは、企業や自治体に対して環境情報の開示を促し、その取り組みをスコアというかたちで可視化することで、透明性の向上と環境リーダーシップの発揮を後押ししています。取り組みの成熟度に関わらず、すべての組織が科学的根拠に基づいた「Earth Positive」な意思決定を行い、持続可能な未来へ向けた行動につなげるための支援を行っているのがCDPの特徴です。

なお、まもなく2024年度版のCDPスコアも発表される予定です。今後どのような企業がAリスト入りを果たすのか、新たな取り組みや傾向にもぜひ注目していきたいですね

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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