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実現可能な未来へ|カーボンニュートラル燃料の定義から取り組み事例の紹介

基礎知識

脱炭素に関するニュースの中でも、度々目にする機会が増えてきた「カーボンニュートラル燃料」。恐らく皆様がよく確認されるサイト間でも、若干の定義のバラツキが見られ、疑問に思われた経験もお持ちなのではないでしょうか。

基本的には「カーボンニュートラル(な)+燃料」を意味しているため、燃焼時にCO2を排出するとしても、原材料がCO2を吸収することで大気中のトータルのCO2量を増やさないとされている燃料を表しています。例えば、以下にお示しする環境省のサイトでは二酸化炭素と水素カーボンニュートラル燃料の事例について、複数の燃料種類に分けてお示ししてあります。

参照:環境省 エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/shared/img/7c2vi-2osm1ngv.png

こうして製造された合成燃料は、原油にくらべて硫黄分や重金属分が少ないという特徴があり、燃焼時にもクリーンな燃料となります。

参照:環境省 エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/shared/img/7c51b-2osq6dyx.png

このように、一口にカーボンニュートラル燃料といっても、その種類は様々です。

そこで本コンテンツでは、カーボンニュートラル燃料の全体像やその特性、実用化に向けた具体的な取り組みを中心に解説していきます。今まで何となく曖昧であったカーボンニュートラル燃料に関する内容が、少しでもクリアになれば幸いです。

カーボンニュートラル燃料とは

広義では、燃料そのものの製造から排出までの全過程で、大気中のCO2濃度を増やさない燃料を指しており、CN燃料と表されることもあります。例えば、以下のようなカーボンニュートラル燃料においては、現在積極的に実用化に向けた開発が進められています。
・合成燃料
・e-fuel(*1)
・SAF
・水素
・バイオ燃料

その中で、カーボンニュートラル燃料が実用化されるメリットとして、次の3点が挙げられます。

<メリット>
1 CO2の排出量を大幅に削減できる
カーボンニュートラル燃料そのものを消費することで、CO2の排出量を大きく抑えることができる訳ではありません。しかし、元来の化石燃料における消費活動では、地球温暖化を加速させるほどのCO2が排出されている背景があります。そのため、上でご紹介したHondaの事例のように、燃料の原材料となる植物自体が光合成で大気中のCO2を吸収したり、CO2そのものが排出されない燃料の研究も進んだりしています。

2 エネルギーの密度が高いため、少ないエネルギー資源量でも多くのエネルギーに変換することができる
カーボンニュートラル燃料となり得る液体の合成燃料には、化石燃料を由来とするガソリンや軽油などの液体燃料と同じく、エネルギー密度が高いという特徴があります。そのため、自動車や貨物車の燃料として使用することが可能です。一方で、水素のエネルギー密度はガソリンの約3000分の1しかありませんが、エネルギー量は重量1kg当たりでは天然ガスやガソリンの3倍もあるため非常に大きく、ロケットの燃料としても活用されています。

経済産業省 資源エネルギー庁:エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gosei_nenryo.html

3 レジリエンスやセキュリティの側面に優れている
合成燃料の使い勝手はこれまでの化石燃料とは大きく変わりませんが、災害時の強靭性に優れています。例えば、積雪により停電が発生した地域への燃料配送、高速道路で立ち往生した自動車への給油が可能となっており、災害対応機能を持った全国のサービスステーションなどでは既存のタンクを活用した備蓄にも対応することができます。また、国内で工業的に大量生産して長期にわたって備蓄することも可能です。

経済産業省 資源エネルギー庁:合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会2023年 中間とりまとめ
© https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/e_fuel/pdf/2023_chukan_torimatome.pdf

<デメリット>
燃料の種類によって異なる部分はありますが、総じて以下の課題が挙げられます。
1 カーボンニュートラル燃料の製造コストが高い
水素の価格に依存しますが、製造コストが高く、カーボンニュートラル燃料の導入をためらう企業が多いことも現状です。上図でもお示ししているように、原料調達から製造までをすべて国内で行う場合は、製造コストが倍近く変動します。

将来的に水素のコストが下がれば、約200円/リットルまで製造単価が下がると言われている中で、低コスト化は重要な課題の一つです。

2 実用化に時間が必要である
カーボンニュートラル燃料の実用化は始まったばかりであり、多くの燃料が実証実験の段階にあります。この記事でもお伝えしているように、カーボンニュートラル燃料は製造コストが高いうえに製造効率も低く、大量生産ができないことなど、従来の化石燃料と比較してその普及において課題となる点が山積みの状況です。そのような背景も、実用化に時間を要している一因として存在しています。

3 原材料の供給量に限界がある
カーボンニュートラル燃料、特にSAFやバイオエタノールは、これまでに利用してきた石油や天然ガスとは異なり、植物や廃棄物が原料となります。そのため、食料としても利用される植物を、燃料の原料として確保することができる総量には限りがあります。例えば、SAFの場合、植物などバイオマス由来の原料や、飲食店などから排出される廃食油などに含まれる炭素から主に製造されています。また、バイオエタノールの主な原料となっているバガスは、サトウキビの汁をしぼった後の搾りかすのことで、世界全体で年間1億トン以上排出されています。

(*1)日本では、CO2とH2の精製方法の違いにより、合成燃料≠e-fuelとされています。もう少し具体的にお伝えすると、合成燃料のなかでも、再生可能エネルギーにより生成された水素を材料とする燃料がe-fuelとなります。しかし、欧州では、合成燃料=e-fuelとして位置づけられています。

合成燃料の製造で鍵となる「DAC技術」とは

ダイレクト・エア・キャプチャの略で、直接空気回収技術を表しています。大気中のCO2を分離・回収する技術の総称となっており、ゼロカーボン化の実現に向け、有望視されている技術のひとつです。合成燃料は、CO2とH2を合成して製造されますが、原料となるCO2の一部は、この「DAC技術」を活用して直接分離・回収され、過去に排出されたCO2を再利用することが想定されています。

経済産業省 資源エネルギー庁:エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gosei_nenryo.html

ここで“CO2の回収・貯留の技術”と聞き、CCS(*2)を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。
まさにその通りで、DACもCCSもCO2を回収する技術であることに違いはありません。一方で、”どのような経緯”で生じているCO2を回収するのかという点が異なります。CCSにおいては、発電所や化学工場、火力プラントなどから排出される高濃度のCO2が回収の対象となっており、DACにおいては、大気中に存在するCO2がその対象です。因みに、CO2を回収するという効率面から考えると、高濃度のCO2を回収することが可能なCCSの方が優れていますが、回収場所と貯留場所が離れているケースなどにおいては、DACのほうが貯留場所近くに装置を設置すれば輸送費がかからないといった特徴もあり、いずれの技術もカーボンニュートラルの実現に向けて重要な技術となっています。

参照:経済産業省 知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」
© https://x.gd/BK6Rx

(*2)Carbon dioxide Capture and Storageの略で、CO2を回収し貯留する技術を表しています。仕組みとしては、発電所や化学工場などから排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入するというものです。現状では、北海道・苫小牧で日本初の大規模な実証試験が行われており、2030年の実用化が目指されています。CCSに関し、より細かい情報を確認したい方は、「CO2を回収し貯留する技術CCSの実用化に向けて各国のプロジェクト動向を解説」もあわせてご覧ください。

カーボンニュートラル燃料の実用化に向けて

ここからは、国内企業におけるカーボンニュートラル燃料の実用化に向けた取り組みについて、ご紹介いたします。

燃料の種類:合成燃料、バイオエタノール燃料
<トヨタ自動車>
HV(*3)やPHV(*4)、FCV(*5)など、EV以外の分野でも多角的な脱炭素化への取り組みを行っています。合成燃料や気体水素燃料車で耐久レースへの参戦したり、民間6社共同の次世代エネルギー研究組合設立に参加し、バイオエタノール燃料の研究にも乗り出したりしています。

燃料の種類:SAF、バイオ燃料
<株式会社ユーグレナ>
微細藻類ユーグレナの活用事業を通し、廃食用油(90%)とユーグレナ抽出油脂(10%)からなるバイオ燃料「サステオ」を開発しました。この「サステオ」は、いすゞ自動車の性能試験でも石油由来の軽油と同等の性能が確認され、化石由来軽油と混合せず含有率100%でディーゼルエンジンに利用できることが証明されています。そこで、現在はバスや船舶などのディーゼル燃料、国際規格に適合したSAFとして使われ、Honda JetやJR貨物でも導入されています。

また、さらなる油脂培養の技術開発を進めることで、食料供給とのバランスや森林破壊を起こさないバイオ燃料の安定供給が期待されています。

燃料の種類:合成燃料、バイオ燃料(バイオエタノール)
<ENEOS>
合成燃料の開発に注力しており、将来的には2040年の商用化を視野に入れ、生産工程の性能向上や高効率化でコスト低減や、小規模プラントから大規模プラントへの検証を通じて、早期の技術確立と事業化を進めています。それに加え、セルロース系バイオエタノールの研究も進めており、生産工程の効率化や独自酵母などの技術でCO2排出量が少なく、生産コストも抑えた生産を可能にしています。また、エタノール製造で排出された CO2を合成燃料の原料とすることで、よりCO2排出量削減が期待できるプロセスも計画されています。

経済産業省:カーボンニュートラル社会の実現に向けた ENEOSの合成燃料技術開発の取り組み
© https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/e_fuel/shoyoka_wg/pdf/001_04_00.pdf

(*3)Hybrid Vehicleの略で、ハイブリッド自動車を指します。
(*4)Plug-in Hybrid Vehicleの略で、プラグインハイブリッド自動車を指します。
(*5)Fuel Cell Vehicleの略で、燃料電池自動車を指します。

まとめ

本コンテンツでは、次世代のエネルギー分野を担うことが期待されるカーボンニュートラル燃料について、その特性から実用化に向けた具体的な取り組みまでを解説してきました。

まだまだ私たちの日々の生活に本格的には浸透していないカーボンニュートラル燃料ですが、2050年のカーボンニュートラル宣言の実現に際しては、重要なポーションを占める項目となってきます。また、本コンテンツでもご紹介したように、様々な分野の企業が、それぞれが得意とする技術をいかし、カーボンニュートラル燃料の開発と実用化に向けた課題の解決に取り組んでいることを、私たちは知っておく必要があります。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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