カーボンマネジメントとは?温室効果ガスの管理/削減方法を6段階で解説
地球規模での気候変動対策が喫緊の課題となる中、企業には温室効果ガスの適切な管理と削減が求められています。そこで注目される取り組みが「カーボンマネジメント」です。
本記事では、カーボンマネジメントの概要と実施方法を分かりやすく解説します。
目次
カーボンマネジメントとは、企業が温室効果ガスの排出を管理/削減する一連の取り組み
「カーボン(Carbon)」は主に企業活動で生じた二酸化炭素(CO2)を指しますが、メタンや一酸化二窒素などの他の温室効果ガスも含まれます。
温室効果ガス | 主な企業活動 | 環境への影響 |
二酸化炭素(CO2) | 化石燃料の燃焼、製造プロセス | 地球温暖化の主因 |
メタン(CH4) | 廃棄物処理、畜産、ガス採掘 | 地球温暖化を加速/臭気問題 |
二酸化炭素(CO2) | 化石燃料の燃焼、製造プロセス | 地球温暖化の主因 |
一酸化二窒素(N2O) | 化学肥料の使用、工業プロセス | オゾン層破壊 |
フロン類 | 冷媒、発泡剤の使用 | オゾン層破壊と地球温暖化 |
六フッ化硫黄(SF6) | 半導体製造、変電設備 | オゾン層破壊と地球温暖化 |
企業が持続可能性と社会的責任を果たすうえで、カーボンマネジメントは極めて重要な役割を果たします。
カーボンマネジメントが注目される背景
● 世界各国の地球温暖化対策が進展
● ESG投資※1の拡大
● 消費者・顧客の環境意識の高まり
日本政府は2030年までに温室効果ガスを2013年比で26%削減するという明確な目標を掲げており、欧州連合も2050年にカーボンニュートラルを目指す「欧州グリーンディール」を推進しています。ESG投資は全世界で35兆ドル(2022年度)を超える規模に達している状況です。世界的な環境意識の高まりの中で、企業がカーボンマネジメントに取り組む意義は大きいといます。
※1 ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)への投資
参照:EEAS「欧州グリーンディール」
参照:外務省「国が決定する貢献(NDC: Nationally Determined Contribution)」
参照:GSIA「The Global Sustainable Investment Review 2022」
カーボンマネジメントに取り組むメリット
メリット | 具体的効果 |
コスト削減 | ●エネルギー使用量削減 ●物流コスト削減 |
リスク管理の強化 | ●気候変動リスクの低減 ●環境規制への対応 |
企業イメージの向上 | ●ブランディング促進 ●顧客ロイヤリティ向上 |
イノベーションの創出 | ●低炭素技術・製品・サービスの開発 ●新規事業創出 |
人材育成・組織活性化 | ●従業員の環境意識向上 ●組織内での多様性拡大 |
投資家・金融機関からの評価向上 | ●顧客との信頼構築 ●スムーズな資金調達 |
カーボンマネジメントに取り組むメリットとして、特に経費削減と企業イメージの向上が挙げられます。省エネ設備への投資や物流の効率化により、エネルギーコストや物流費用を大幅に削減することが可能です。加えて、環境への取り組みを積極的にアピールすることで、顧客や投資家からの支持を得られます。
組織内にも建設的でポジティブな変化をもたらします。新たな低炭素技術や製品・サービスの開発を通じてイノベーションが生まれ、新規事業の創出にもつながっていきます。また、組織の活性化、多様性拡大という点にも注目です。環境活動は従業員の自発性を促し、組織の活性化につながります。専門的な取り組みの中で、人材の多様性も進んでいきます。
企業がカーボンマネジメントを行う6STEP
カーボンマネジメント※2について、具体的な進め方を解説します。
※2 カーボンマネジメントはCO2を削減することが目的と捉えられがちですが、本質はCO2を含む「温室効果ガス」の削減・管理を目指す取り組みです。ビジネス分野や業種によっては、CO2以外の温室効果ガスの削減・管理を進める必要があります。
STEP1:排出量を調査する
排出量算定ツール名 | 特徴 |
積上法による排出量算定支援ツール (環境省提供) | 積上法による温室効果ガス排出量の推計 |
エネルギー起源二酸化炭素排出量等計算ツール (経済産業省提供) | エネルギー起源二酸化炭素排出量等の計算 |
トラック運送事業者用CO2排出量簡易算定ツール (日本トラック協会提供) | トラック運送事業者向け |
まずは現状の把握が重要です。温室効果ガスの排出量を調査することで、削減目標や対応策が明確になります。排出量の計算は複雑ではありませんが、正確な数値を把握するためにはツールの活用が推奨されます。
排出量の計算式例(CO2)
CO2排出量=活動量(生産量・使用量・焼却量など)× 排出係数
また、上記表では主要な計算ツールを紹介していますが、このリスト以外にもさまざまなツールがあります。企業の目的やリソースに合わせて最適なものを選択することが重要です。
STEP2:排出量の削減目標を立てる
企業 | 削減目標事例 |
トヨタ自動車 | 世界の自社工場で二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロ |
本田技研 | 2030年までに企業活動領域におけるCO2排出総量を2019年度比で46%削減 |
日産自動車 | 2050年までに事業活動を含むクルマのライフサイクル全体のカーボンニュートラル |
STEP1で算出した自社の排出量実績をもとに、排出量の削減目標を立てていきます。排出量推移や他社の実績などと比較しながら、削減余地を見極めることが大切です。過度な目標数値設定は、ビジネスの圧迫につながる可能性もあるので注意しましょう。
削減目標は具体的かつ定量的に設定することが重要です。単に「CO2排出量を削減する」ではなく、「2030年までに2020年比でCO2排出量を50%削減する」といった具体的な数値目標を明記します。
参照:トヨタ自動車「環境報告書2020」
参照:Honda Sustainability Report 2022
参照:日産自動車 2050年カーボンニュートラルの目標を設定
STEP3:削減戦略を検討する
削減戦略 | 具体的な取り組み |
エネルギー効率を改善する | ●照明・空調の効率化 ●生産プロセスの改善 |
再生可能エネルギーを使用する | ●太陽光発電設置 ●EVの活用 |
商品のライフサイクルを見直す | ●再生資源の活用 ●リサイクルとリユース |
移動や輸送の方法やルートを見直す | ●トレーサビリティ強化 ●モーダルシフト |
具体的に削減戦略を検討していきます。戦略はどれか一つを選定するのではなく、効果的に組み合わせることが大切です。また、設備投資やシステムのアップデートなどを要する戦略もあります。大きな初期コストが発生する取り組みでは、エグゼクティブスタッフを始め、部門を超えたコンセンサスが求められます。
エネルギー効率を改善する
エネルギー効率の改善では、照明設備や空調機器の効率化、生産プロセスの見直しを通して浪費電力の抑制に取り組んでいきます。
例えば、照明器具をLED化することによって、電球型の器具では消費電力が約86%削減できます。一般的な天井照明でも約50%の省エネが実現可能です。さらに、LEDランプの寿命は従来の電球型器具に比べて約40倍長く使用できます。
エネルギー効率改善は初期投資を伴いますが、継続的な省エネ効果が期待できるのでとても効果的です。
再生可能エネルギーを使用する
再生可能エネルギーの利用により、化石燃料由来の電力使用を削減し、CO2排出量を大幅に抑えることが可能です。
具体的な事例として挙げられるのが、中部電力ミライズの「ミライズGreenでんき」です。このプランは、地域に存在する再生可能エネルギー資源を活用し、実質的に再エネ100%の電気を提供するものです。環境対策だけでなく、再エネの地産地消と地域貢献にもつながるため、サステナブルビジネスといった観点からも注目が集まっています。
商品のライフサイクルを見直す
商品のライフサイクルを見直す際は、再生資源の活用、リサイクル、リユースへの取り組みが重要になります。
ドイツのスポーツブランド「アディダス」は、オーシャンプラスチック※3を再利用してシューズを製造しています。国内家電メーカー大手「パナソニック」は、使用済み製品からレアアースを回収し、新製品に使用する取り組みを行っています。
製品ライフサイクル全体でカーボン削減に取り組むことで、企業の環境負荷を大幅に低減できます。
※3 オーシャンプラスチックは海洋に流れ出たプラスチック全般を指します。
移動や輸送の方法やルートを見直す
輸送ルートの最適化やモーダルシフト※4などは、CO2削減を目指すうえで大きな効果が期待できます。協力会社との連携による積載率の向上、トレーサビリティシステムの構築といった取り組みも重要です。
ヤマトホールディングスは、物流拠点でのLED照明導入、モーダルシフト、共同輸送などに取り組んでいます。電動アシスト自転車や台車導入による近距離輸配送の低炭素化にも注目です。
※4 モーダルシフト(Modal Shift)は船舶・鉄道などの環境負荷の小さい輸送手段への切り替えを指します。
STEP4:排出削減活動を進める
STEP3で検討した削減戦略に基づき、具体的な排出削減活動を進めていきます。経営陣のリーダーシップと社員の理解が重要になります。エコアイデアの募集や成果に応じた表彰制度を設けるなど、従業員の主体的な取り組みを後押ししていきましょう。
また、取引先企業との協力も重要です。サプライヤーに対し、低炭素な材料調達、梱包材の削減などで協力を求めていきます。パナソニックホールディングスでは「グリーン調達基準書」をサプライヤーに発行し、サプライヤーの環境配慮を促しています。セブン&アイHLDGS.では2007年に「お取引先行動指針」を策定し、取引先にも環境負荷の低減を求めるようになりました。
STEP5:結果を評価・報告する
結果を評価・報告することで投資家や顧客、取引先、従業員、地域社会などのステークホルダーに対して、カーボンマネジメントへの取り組みをアピールできます。
まずは結果を正確に測定することが重要です。この際、第三者機関による検証を受けることで、信頼性を高めることができます。検証機関としては、JMA地球温暖化対策センターなどの財団法人の他、大学の研究チームや民間のコンサルティング会社などが挙げられます。
次に、結果評価をWebサイトやeBook、ホワイトペーパーなど、様々な媒体を通じて公開していきます。単に数値を開示するだけでなく、具体的な取り組み内容や成功事例、課題などの情報も合わせて報告します。ステークホルダーの支持と協力につながることが大切です。
STEP6:進捗が思わしくない場合はオフセットを活用する
オフセット(Offset)は、自社で削減できない温室効果ガスを、他のプロジェクトの支援を通じて相殺する方法です。植林や再生可能エネルギー発電所への投資などを行い、それらのプロジェクトから発行される証明書(クレジット)を購入して自社の排出量を実質的に削減します。
【計算式】
調整後の温室効果ガス排出量 = 自社の温室効果ガス排出量 − オフセットプロジェクトの削減量
ただし、オフセットはあくまでも補完的な取り組みであり、排出削減努力を怠ることのないよう注意が必要です。
参照:J-クレジット制度
まとめ
以上、カーボンマネジメントの概要と実施方法を解説させていただきました。カーボンマネジメントは、環境負荷の低減とビジネスの持続可能性を両立させるうえで大きな役割を果たします。成功させるポイントは株主や従業員、サプライヤーなど幅広いステークホルダーからの支持と協力です。企業やサプライチェーン全体で、カーボンマネジメントへの理解を深めて新たなビジネスチャンスを広げていきましょう。