エコロジカルフットプリントとは?地球1個分で暮らすための環境指標を解説

基礎知識

1971年12月25日。読者の皆様、この日は何の日かご存じでしょうか。54年前のクリスマスとなるこの日は実は、”アースオーバーシュートデー”になります。”アースオーバーシュートデー”とは、地球が1年間に供給する生物資源を年初から数えて人類が使い果たしてしまう日のことを表しており、毎年異なる日に設定され、その日が早いほど、私たちの資源利用が地球の持続可能性を脅かしていることを意味しています。因みに、2024年の”アースオーバーシュートデー”は8月1日となっており、コロナ禍のロックダウンで世界的に資源の使用量が減った2020年を除いて、この10年あまりは8月上旬にこの日を迎えています。

今回の解説のキーワードである「エコロジカルフットプリント」は、先にお伝えした「オーバーシュート」と深い関係にあります。エコロジカルフットプリントとは、人間が地球の自然環境に与える影響を数値化したもので、バイオキャパシティをエコロジカルフットプリントが超過すると、オーバーシュートの状態になります。バイオキャパシティの用語解説も含め、このあたりの内容は二章で詳しくお伝えしていきます。

そこで本コンテンツでは、まずはエコロジカルフットプリントの概要について理解を深めていきます。その後、先に取り上げた「バイオキャパシティ」や「オーバーシュート」など、エコロジカルフットプリントとも関連する用語の解説と(エコロジカルフットプリントの)測定方法について解説し、最後に国内のエコロジカルフットプリントの状況について2つの切り口から確認していきます。

エコロジカルフットプリントの概要について

冒頭でもお伝えしましたが、エコロジカルフットプリント(略称:エコフット、EF)とは、人間活動が地球環境に与える影響を示す指標の一つを表しており、「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」の中では、”私たちが消費する資源を生産したり、社会経済活動から発生するCO2を吸収したりするのに必要な生態系サービスの需要量を地球の面積で表した指標”と位置付けられています。1990年から1991年にかけて、ブリティッシュ・コロンビア大のWilliam E. Rees博士と Mathis Wackernagel 博士によりエコロジカルフットプリントは開発され、日本では1996年に当時の環境庁が発行した『環境白書』 において、政府の公式文書の中で初めて、エコロジカルフットプリントという概念が紹介されました。

また、エコロジカルフットプリントは同様に「地球1個分の暮らしの指標」とも言われており、「Global Footprint Network 2022」によれば、全世界の人がいまの日本と同じ暮らしをした場合には、地球が2.9個分も必要になると考えられています。

<全世界の人が、その国の人と同じ生活をした場合に必要な地球の数>
(例)アメリカ:5.1個、日本:2.9個、インド:0.8個、世界平均:1.7個

そこで、人類が自然と調和して生きられる未来を目指し、約100カ国で活動している環境保全団体であるWWFは、地球1個分で暮らすための方向性として、以下の3つを掲げています。

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選:FSC(※1)やMSC(※2)など環境負荷の少ない認証製品を選ぶ

(例)持続可能な漁業をめざし、MSC認証製品を選ぶ

減:生産時に投入する資源の量や、廃棄物の量を減らす

(例) 食料廃棄を減らす
(Cf.) 日本の食品ロスは、年間500万トン~800万トン

新:効率よく資源を利用するための技術革新を進める、または支援する

(例)再生可能エネルギーを新たに導入する
(Cf.)発電時にCO2を出さない太陽光発電や風力発電等が対象

地球1個分の暮らしの指標(~ひと目でわかるエコロジカル・フットプリント~)より、一部引用

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一方で、環境に関連するよく似たキーワードとして、「カーボンフットプリント」や「生物多様性フットプリント」がありますが、それぞれ少しずつ内容が異なってきます。

環境に関するフットプリント概要
エコロジカルフットプリント人間の消費活動が地球にどれだけの負荷を与えるかを測り、数値化したもの。
カーボンフットプリント製品の製造において、原材料の調達から消費、再生産に至るまでの間に排出される温室効果ガスをCO2に換算し、数値化・可視化したもの。
生物多様性フットプリント海洋や森林などの自然資源を人間の経済活動で生産・消費した場合に、生物多様性にどれほどの影響を与えるかを数値化したもの。

このように、「生態系を踏みつけている足跡」を意味するエコロジカルフットプリントは、人間が地球に与えている負荷の度合いをイメージしやすくし、我々の暮らしを見直すきっかけとして活用されている指標といえます。

(※1)林産物のエコラベル。
(※2)水産物のエコラベル。

関連用語の解説とエコロジカルフットプリントの測定方法について

まずは、冒頭でも話題に挙げた「バイオキャパシティ」と「オーバーシュート」について、内容を確認していきます。「バイオキャパシティ」は生物生産力とも言われており、自然資本が生態系を再生産できる量を表しています。つまり、我々人間が生活する上で消費する天然資源を生み出す地球の自然環境の生産力や、生活する上で排出するCO2や廃棄物を自然環境の吸収・収容できる力のことのことを指しており、以下の式で算出が可能です。現状の技術や管理方法を用いて、人間が利用する資源を供給し、廃棄物を吸収するために必要となる、生物学的に生産可能な陸地と水域の量を求めていく形になります。計算式に算入するのは、耕作地、牧草地、森林、漁場、生産阻害地の5つの土地と水域の面積で、これらは独自の単位であるグローバル・ヘクタール(gha)で表します。

▶バイオキャパシティ(生物生産力)=面積×生物生産効率

また、「オーバーシュート」とは、人間が生態系を利用する量が、地球が自然を再生しCO2を吸収する量を超えた状態のことを表しています。この場合、生態系のバランスが崩れ、地球の供給能力を人間の需要量が超過しているため、地球の生命維持に必要な天然資源の枯渇やCO2の排出の蓄積につながることが予測されます。つまり、「バイオキャパシティをエコロジカルフットプリントが超過すると、オーバーシュートの状態になる」というのはこのような状況を示しており、天然資源の持続可能性が危ぶまれることを意味しています。エコロジカルフットプリントの計算式に算入するのは、耕作地、牧草地、森林、漁場、二酸化炭素吸収地、生産阻害地の6つの土地で、実質面積を測定します。

▶エコロジカルフットプリント=人口×1人あたりの消費×生産・廃棄効率

▷6つの土地の種類

①耕作地:食物、繊維物、油料、ゴムなどの生産に使用される土地

②牧草地:食肉、乳製品、皮革、羊毛などの家畜を養うために使用される土地

③森林:木材、薪、パルプなどの生産に使用される土地

④漁場:水産物の生産に使用される海洋と淡水

⑤二酸化炭素吸収地:二酸化炭素を吸収する森林の面積

⑥生産阻害地:建物、道路、ダムなどに使用される土地

一方で、この計算式からは、淡水の取水や化石燃料など再生不可能な資源の消費は含まれていないことがわかります。加えて、原子力発電の放射能汚染地や使用済み燃料、温排水による損失などの負荷、人間以外の野生生物が消費する自然資源も同様に、上記で掲げた6つには含まれていない状況です。このように、エコロジカルフットプリントの計算式は全ての資源の算出に万能なわけではなく、計算することができない資源などもあることを認識しておく必要があります。

国内のエコロジカルフットプリントの状況について

ここでは具体的に、①全国のエコロジカルフットプリントの分布と、②3地域のエコロジカルフットプリントの構成を取り上げて解説していきます。

①全国のエコロジカルフットプリントの分布について

2017年度に環境省から発表しているデータによると、日本の国土を縦横1kmメッシュ(※3)で分割すると、約6割の区域内においてはエコロジカルフットプリントがバイオキャパシティの範囲内に収まっており、残りの約4割のメッシュにおいては、エコロジカルフットプリントがバイオキャパシティを超過している状態にあります。つまり、後者の地域は、区域内で消費する食料・エネルギー等の資源の生産や排出したCO2の吸収を国内の他の地域や海外に依存しているということです。特に、エコロジカルフットプリントがバイオキャパシティの100倍を越える区域は全体の約4%を占めており、その6割が東京、大阪、神奈川の3都府県に集中している状況です。

環境省:地域循環共生圏を支えるライフスタイルへの転換
© https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/pdf/1_3.pdf

②3地域のエコロジカルフットプリントの構成について

以下は、日本全体の数値を基準にして、東京、愛知、沖縄の3地域のエコロジカルフットプリントの構成について詳しく確認したデータです。このデータからは、東京のフットプリントは日本平均を13%上回ることや、愛知は食料のフットプリントが大きいこと、沖縄のフットプリントは日本平均より14%小さいことや住居のフットプリントが大きいことが読み取れます。

ghaサービス商品交通住居食料
日本2.768%19%23%20%30%
東京3.139%19%20%21%31%
愛知2.658%19%24%16%33%
沖縄2.377%13%19%33%28%

地球1個分の暮らしの指標(~ひと目でわかるエコロジカル・フットプリント~)より、筆者作成

このように、各県のフットプリントの状況を見てみると、地理的な条件や地域の文化等もトリガーとなり、地域ごとに様々な特徴が表れています。そのため、各自治体がその地域のエコロジカルフットプリントを縮小させるためには、サプライチェーンや消費を通じた海外および地域間のモノのやりとりを適切に把握する必要があります。

(※3)統計に利用することを目的とし、地図上の地域を網の目に分けたもの。

まとめ

本コンテンツでは、エコロジカルフットプリントとその周辺知識を深めるために、エコロジカルフットプリントの概要のほか、エコロジカルフットプリントとも関連する用語の解説と(エコロジカルフットプリントの)測定方法、国内のエコロジカルフットプリントの状況について、三章に分けて順番に確認してきました。

バイオキャパシティが小さく輸入に頼っている日本は、生態学的に債務国であり、フットプリントに関する取り組みは、国の政策レベルで推し進めるべき課題となっています。実際に、2006年には日本政府により「環境基本計画」の進捗状況を点検する指標のひとつにフットプリントは取り上げられており、その後2012年には「生物多様性国家戦略2012-2020」(環境省)、2014年には「生物多様性地域戦略策定の手引き」(環境省) でエコロジカルフットプリントが紹介されています。このように、我々日本人の生活スタイルの変革と、それに伴う日本のフットプリントの縮小は、今後の世界全体のフットプリントの縮小において重要な役割を担うことになるでしょう。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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