エネルギー政策とは?事業に変革をもたらすS+3Eとエネルギーミックス

基礎知識

企業は国や自治体のエネルギー政策にしっかりと対応することで、社会的責任を果たすだけでなく、ビジネスチャンスの拡大につなげることができます。

本記事ではエネルギー政策の概要、基盤となる基本方針(S+3E)、エネルギーミックス、企業の具体的な取り組み方法を解説します。

エネルギー政策とは

「エネルギー政策」は政府や自治体が定めるエネルギーの供給、使用、管理に関する戦略や方針です。環境保護や安全性、経済的観点、持続可能性などを考慮して策定されます。政府や自治体は政策を通して、エネルギーの安定供給や環境負荷の削減、コスト効率の向上を図ります。

参照:資源エネルギー庁「エネルギー政策」
参照:環境省「地方自治体の地域エネルギー政策推進に向けた 取組み状況について」

日本のエネルギー政策の経緯

年代主な出来事
戦後~1970年代第一次オイルショック (1973年)
第二次オイルショック (1979年)
1980年代石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律制定(1980年)
1990年代環境問題が世界で顕著化 (1990年代〜)
京都議定書採択 (1997年)
2000年代再生可能エネルギー導入促進 (2005年以降)
2010年代東日本大震災と福島第一原発事故 (2011年)
2020年代~現代第6次エネルギー基本計画の策定 (2014年)

戦後復興でエネルギー需要は急増し、石炭から石油へのエネルギー転換、電力供給の安定化を目的とした電源開発計画が策定されました。

1970年代に入るとオイルショックが引き起こされます。日本はエネルギー安定供給の重要性を再認識し、石油に代わるエネルギーとして、特に原子力発電の開発を進めていきます。

1990年代に入ると、地球温暖化などが深刻化する中で、環境負荷の少ないエネルギーへの関心が高まりました。1997年に京都議定書が採択されたことで、国際的にもエネルギーのエコロジーシフトは進みます。

日本のエネルギー政策の大きな転機となったのが、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故です。未曾有の災害が起こったことで、日本政府は原子力発電計画の見直しを迫られます。2014年には、S+3E(Safety、Security、Economy、Environment、Efficiency)を大前提としたエネルギー基本計画が閣議決定されました。さらに、2021年の第6次エネルギー基本計画によって、カーボンニュートラル実現に向けたエネルギー転換が進んでいきます。

参照:WWFジャパン「京都議定書とは?合意内容とその後について」
参照:資源エネルギー庁「2度のオイルショックを経て、エネルギー政策の見直しが進む」
参照:資源エネルギー庁「これまでのエネルギー基本計画について」

日本で実施されているエネルギー政策は「S+3E」が基本方針

項目名概要
安全性
(Safety)
人々の生命と健康を優先
事故リスクの低減
安定供給
(Energy Security)
エネルギー源の多様化と供給ルートの確保
安定的なエネルギー供給を維持
経済効率性
(Economic Efficiency)
エネルギーのコスト効率を最大化
経済活動への負荷を削減
環境適合
(Environment)
環境に配慮したエネルギー源の選定
持続可能な社会を実現

「S+3E」は、安全性(Safety)を大前提とし、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に実現する日本のエネルギー政策の基本理念です。

参照:知っておきたい経済の基礎知識~S+3Eって何?

安全性(Safety)

「安全性(Safety)」は、日本のエネルギー政策において最も重視される要素です。福島第一原発事故以降、日本では原子力発電の安全基準の再評価が行われ、より厳格な規制が導入されました。安全性を実現させるうえでは、発電所の耐震設計だけでなく、緊急時対応計画なども重要になってきます。

安定供給(EnergySecurity)

安定供給リスク具体的事例
地政学的リスクウクライナ危機によるガス供給問題
中東情勢による石油輸入の不安定化
南シナ海の領有権問題による航路制限
自然災害東日本大震災による福島第一原発事故
ハリケーンカトリーナによる石油施設の破壊
資源価格の変動OPEC/産油国の戦略転換
経済動向による原油需要の変化

「安定供給(Energy Security)」は、国内のエネルギー需要に対して確実かつ安定的にエネルギーを供給する取り組みです。安定供給を脅かす主なリスクとしては、地政学的リスク、自然災害、資源価格の変動が挙げられます。これらのリスクに対しては、エネルギーの多様性の確保、戦略的な備蓄、国際的な協力体制の強化などの対策が必要です。

経済効率性(EconomicEfficiency)

取り組み説明
電力インフラの改善発電所、送電網の整備
最新設備の導入
デジタル技術の活用スマートグリッドでエネルギー管理を最適化
エネルギー貯蔵技術の開発高効率のバッテリー技術
資源ストックの効率的な使用

経済効率性を高めることで、エネルギーコスト削減や資源の有効活用につながります。日本のエネルギー自給率は2020年度時点で11.3%です。限られた資源を最大限活用するためには、電力インフラの改善、電力使用の効率化などを進める必要があります。

参照:資源エネルギー庁「日エネルギーの今を知る10の質問 2022年度版」

環境適合(Environment)

取り組み説明
再生可能エネルギーの推進太陽光、風力、バイオマス、地熱発電導入
省エネルギー技術の開発と普及省エネ家電、グリーンビルディング
エコフレンドリーな輸送手段の開発と普及
カーボンプライシング炭素税の導入や排出権取引システムの確立
環境影響評価(EIA)の強化新たなエネルギープロジェクトに厳格な環境アセスメント
エネルギー供給構造の最適化エネルギーミックス
国際的協力の強化気候変動対策に関する国際協定への積極的参加

エネルギー政策では環境への影響を最小限に抑え、持続可能な社会の実現を促すことが大切です。エネルギー政策における環境リスクは、CO2などの温室効果ガス、SOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)などの大気汚染物質、発電設備増築などによる森林伐採などが挙げられます。エネルギー政策を進めるうえで、発電から消費にいたるまで環境に配慮した取り組みが重要です。

エネルギーを安全に且つ環境に配慮して供給するための「エネルギーミックス」という考え方

エネルギーミックスは複数のエネルギー源を組み合わせて使用する戦略です。エネルギー供給の安定性を高め、経済効率性を保ちながら環境負荷を最小限に抑えることを目指します。

日本のエネルギーミックス

国や地域によって利用できる自然資源や技術、政策は異なります。日本ではエネルギー資源が少ないこともあり、原子力発電が有力なエネルギー源でした。しかし、福島第一原発の事故が起こってからは、従来の火力発電の割合が増えています。

2010年の段階で、日本の発電比率は原子力発電が25%に上っていました。2021年においては、火力発電が73%、再生可能エネルギーが20%、原子力発電の割合は7%です。

日本の事情を考えると、これから再生可能エネルギー比率をあげたエネルギーミックス戦略が効果的です。政府は2030年度までに、再生可能エネルギーの発電比率を36%〜38%に上げる目標を立てています。

参照:資源エネルギー庁「発電方法の組み合わせって?」

エネルギーミックスのメリット

●S+3Eへの貢献
●技術革新促進
●エネルギー政策の主導性確保

エネルギーミックスは「S+3E」に貢献する戦略です。複数のエネルギー源を組み合わせることでリスク分散を図り、電力供給の安定を実現させます。また、再生可能エネルギーの導入は、技術革新を促進する効果もあります。国のエネルギー政策の主導性を強化し、効率的なエネルギーシステム構築にも寄与します。

エネルギーミックスの課題

●導入コスト
●国民の理解
●再生可能エネルギーの課題

エネルギーミックスで採用される再生可能エネルギー発電は、導入費用が高額になる場合があります。国が予算を使用する場合、国民にしっかりと理解してもらうことが大切です。また、再生可能エネルギーは、自然環境や天候によって発電効率が変化します。エネルギーミックス戦略を効果的に進めるためには、蓄電技術も重要な課題といえます。

企業のエネルギー政策への取り組み方法7つ

エネルギー政策基本法には、企業がエネルギー政策に協力する責務が定められています。ここでは、実際にどのような形で企業がエネルギー政策に貢献していくのかを解説します。

参照:エネルギー政策基本法

エネルギー効率の向上に努める

企業がエネルギー効率を向上させるためには、省エネルギー技術の導入や既存設備の最適化が有効です。例えば、LED照明への切り替え、高効率の空調システムの導入、または製造プロセスの改善などが挙げられます。エネルギー効率の向上は、経営コストの削減にもつながります。

再生可能エネルギーを導入・利用する

再生可能エネルギーを導入・利用することで、化石燃料への依存度を減らすことができます。具体的な取り組みとして、企業の屋根や敷地内に太陽光パネルを設置することや、風力やバイオマスといった再生可能エネルギーの利用が挙げられます。

社屋や工場の立地条件によっては、より多くの再生可能エネルギーが発電可能です。自社で使用する以上の電力が発電できた際は売却も可能です。

CO2排出量の削減に努める

企業がCO2排出量を削減するには、工場生産プロセスだけでなく、ロジスティクスも考慮する必要があります。電気自動車(EV)の導入、または物流プロセスの最適化によってCO2削減に貢献できます。また、リモートワークを推奨することで、通勤で発生する自動車からのCO2削減も期待できます。

エネルギーの使用量を監視・管理する

エネルギーの使用量を効果的に監視・管理するためには、エネルギーマネジメントシステム(EMS)※の導入が効果的です。リアルタイムでエネルギー消費データを収集・分析し、無駄なエネルギー使用源を特定できます。

※ EMS(Energy Management System)は電気使用量を評価し、制御するシステムです。評価にはISO 50001が用いられます。
参照:資源エネルギー庁「ISO 50001(エネルギーマネジメントシステム)」

エネルギーの使用量が少ない製品・サービスをつくる

エネルギーの使用量が少ない製品やサービスは、エネルギー政策に寄与するだけでなく、消費者の経済的利益にもつながります。具体的な製品として、省エネ家電や低燃費カーが挙げられます。リターナル瓶システムや、中古品マーケットの提供など、製品の再利用を促すサービスも効果的です。

国や地域が実施するエネルギー政策に協力する

補助金/支援制度補助対象例
エネルギー効率向上補助金古い機器を省エネ型に更新
建物の断熱改善
再生可能エネルギー導入支援太陽光、風力発電設備の設置
CO2排出削減プロジェクト支援CO2排出削減プロジェクト
排出権取引市場への参加
低炭素技術の研究開発資金提供
EMS導入支援エネルギー使用量の監視・管理システム導入

政府や地方自治体の環境対策補助金や税制優遇措置を活用することで、企業はエネルギー政策へ協力することができます。もちろん、自社製品やサービスを独自にエコフレンドリーする取り組みは大切です。しかし、支援制度はエコシステムの導入コストを抑えることにもつながります。ビジネスに応じた支援制度を活用してみてはいかがでしょうか。

参照:資源エネルギー庁「省エネルギー投資促進に向けた支援補助金」

エネルギー使用に対する従業員の意識向上を行う

エネルギー使用に対する従業員の意識向上を進めることで、職場だけでなく、家庭や社会生活全般にもエコロジー活動が普及します。EMSなどを取り入れ、エネルギー使用量のデータを明確化し、従業員からのフィードバックや改善案を募集するといった取り組みも大切です。フォロワーシップが期待でき、従業員はより積極的にエネルギー政策に関与するようになります。

まとめ

以上、エネルギー政策の概要、基盤となる基本方針(S+3E)、エネルギーミックス、企業の具体的な取り組み方法について解説させていただきました。

企業は国や自治体のエネルギー政策にしっかりと貢献することで、社会的責任を果たすだけでなく、補助金や支援制度といった経済的なメリットも享受することができます。エネルギー政策への理解を深め、サステナブルな事業運営を進めていくことが大切です。

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