グリーンメタノールとは?次世代クリーン燃料の可能性と最新動向について徹底解説!

カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギー由来のクリーン燃料が注目を集めています。その中でも「グリーンメタノール」は、従来の化石燃料に代わる持続可能なエネルギー源として期待されています。
本コンテンツでは、グリーンメタノールの概要や製造方法、環境への影響、世界の動向、日本の取り組み、そして今後の展望について詳しく解説します。
目次
グリーンメタノールとは?基本概念と特徴
グリーンメタノールとは?
グリーンメタノール(Green Methanol)は、再生可能エネルギーやCO₂回収技術を活用して製造される、環境負荷の少ないメタノールです。従来のメタノール(化石燃料由来)とは異なり、カーボンニュートラルな燃料として注目されています。
従来のメタノールは、主に天然ガスを原料として製造されており、その過程で大量の二酸化炭素(CO₂)が排出されるため、環境負荷が高いという課題がありました。しかし、グリーンメタノールは、再生可能エネルギーやバイオマス、そしてCO₂などを原料として製造されるため、製造過程におけるCO₂排出量を大幅に削減、あるいは実質的にゼロにすることが可能です。
グリーンメタノールの特徴
- CO₂排出量が大幅に削減可能
- 再生可能エネルギーを利用
- 既存のメタノールインフラを活用できる
- バイオメタノールやE-Methanol(合成メタノール)といった製造方法の多様性
グリーンメタノールは、持続可能なエネルギー供給を実現しながら、温室効果ガスの削減に貢献する次世代燃料とされています。
グリーンメタノールの定義
グリーンメタノールの定義は、原料の調達から製造、利用までのライフサイクル全体で、温室効果ガス排出量を大幅に削減したメタノールを指します。
グリーンメタノールの製造方法
バイオマス由来のグリーンメタノール製造
概要
木材、廃棄物、農業残渣などのバイオマスを原料としてメタノールを製造する方法です。バイオマスに含まれる炭素を有効活用することで、CO₂排出量を削減します。
製造プロセス
- バイオマスのガス化
バイオマスを高温で熱分解し、合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)を生成します。
- 合成ガスの精製
合成ガスから不純物を取り除き、メタノール合成に適した組成に調整します。
- メタノール合成
精製された合成ガスを触媒と反応させ、メタノールを合成します。
特徴
- 既存の技術を応用できるため、比較的早期に実用化が可能です。
- 地域で発生するバイオマス資源を活用することで、地産地消のエネルギー供給体系を構築できます。
- バイオマス資源の収集、輸送、保管などのコストが課題となります。
CO₂回収・利用(CCU)によるグリーンメタノール製造
概要
工場や発電所などから排出されるCO₂を回収し、水素と合成してメタノールを製造する方法です。排出されたCO₂を有効活用することで、大気中のCO₂濃度上昇を抑制します。
製造プロセス
- CO₂の回収
排出源からCO₂を分離・回収します。
- 水素の生成
再生可能エネルギーによる水の電気分解や、天然ガスの改質などにより水素を生成します。
- メタノール合成
回収したCO₂と生成した水素を触媒と反応させ、メタノールを合成します。
特徴
- 既存のCO₂排出インフラを活用できるため、大規模な導入が可能です。
- CO₂の有効利用により、循環型経済の構築に貢献します。
- 水素の製造コストやCO₂の回収コストが課題となります。
再生可能エネルギーを利用したグリーンメタノール製造(e-メタノール)
概要
太陽光や風力などの再生可能エネルギーで生成した水素と、回収したCO₂を合成してメタノールを製造する方法です。再生可能エネルギー由来の水素を使用することで、ライフサイクル全体のCO₂排出量を大幅に削減します。
製造プロセス
- 再生可能エネルギーによる発電
太陽光発電や風力発電などにより電力を生成します。
- 水の電気分解による水素生成
生成した電力を用いて水を電気分解し、水素を生成します。
- CO₂の回収
大気中や工場からCO₂を回収します。
- メタノール合成
回収したCO₂と生成した水素を触媒と反応させ、メタノールを合成します。
特徴
- 最もCO₂排出量の少ないグリーンメタノール製造方法です。
- 再生可能エネルギーの普及拡大とともに、生産量の増加が期待されます。
- 水素の製造コストやCO₂の回収コスト、再生可能エネルギーの発電量の変動などが課題となります。
これらの製造方法の組み合わせや、技術革新によって、グリーンメタノールの生産効率やコスト競争力は向上していくと考えられています。
グリーンメタノールの用途とメリット
グリーンメタノールの用途
グリーンメタノールは、さまざまな産業で利用されています。
① 燃料としての利用
- 船舶用燃料(IMO規制対応の代替燃料)
- 発電用燃料(CO₂排出削減を目的とした発電所への適用)
- 自動車用燃料(内燃機関への適用が可能)
② 化学原料としての利用
- プラスチック・化学製品の原料
- 接着剤・塗料の原料
- 再生可能な化学プロセスへの応用
③ 水素キャリア
- 水素を安全かつ高密度に貯蔵・輸送する手段としての利用。
グリーンメタノールのメリット
- CO₂排出量の削減:カーボンニュートラルな燃料として、CO₂排出を抑える。
- 燃料の多用途利用:既存のメタノール製造・流通インフラをそのまま活用できる。
- 再生可能エネルギーの活用:風力・太陽光発電と組み合わせて、持続可能な燃料供給が可能。
実際の企業の活用例
グリーンメタノールの実際の企業の活用事例は、多岐にわたる産業分野で展開されています。以下に、主要な事例をいくつかご紹介します。
海運業界における活用事例
国際海運からの温室効果ガス排出量削減は喫緊の課題であり、グリーンメタノールはその有力な解決策の一つです。既存の船舶エンジンを比較的容易に改造して利用できるため、導入のハードルが低いというメリットがあります。硫黄酸化物(SOx)や粒子状物質(PM)の排出も大幅に削減できるため、大気汚染対策にも貢献します。
マースク(Maersk)
デンマークの海運大手マースクは、グリーンメタノールを燃料とするコンテナ船の導入を積極的に進めています。これは、海運業界の脱炭素化をリードする重要な取り組みです。マースクは、グリーンメタノール燃料対応の「dual-fuelエンジン」を搭載する中型コンテナ船を複数隻発注しており、2020年代後半からの運航開始を予定しています。
参照 Maersk HP 「メタノール利用への歩み」
https://north-standard.com/ja/insights-and-resources/resources/news/maersk-methanol-journey
MaerskのHPでは、エネルギー移行持続可能性および脱炭素化の責任者による、メタノールに関するQ&Aが載せられています。これからの海運業界でのグリーンメタノール利用について、活用企業としての見聞を確認できるでしょう。
商船三井
商船三井は、メタノールを輸送し、かつ燃料をメタノールと重油のdual-fuelとする「Cypress Sun」を竣工しました。同社は世界最大級のメタノールフリートを保有・運行しており、グリーンメタノールの活用を推進しています。
参照 商船三井HP 「CO₂の再利用~環境循環型メタノールストーリー」
https://www.mol-service.com/ja/blog/environment-circulating-model-methanol-story
化学産業における活用事例
メタノールは、ホルムアルデヒド、酢酸、オレフィンなど、様々な化学製品の原料として利用されています。従来の化石燃料由来のメタノールをグリーンメタノールに代替することで、化学産業全体のCO₂排出量削減に貢献します。持続可能な化学製品の製造に向けた動きが加速しており、グリーンメタノールの需要は今後さらに拡大すると予想されます。
住友化学
住友化学は、島根大学と共同で、CO₂からメタノールを製造する新技術のパイロット設備を稼働させています。2030年の量産工場稼働を目指し、グリーンメタノールの製造技術開発を進めています。
参照 住友化学HP ニュース「CO2から高効率にメタノールを製造する革新的技術の確立へ~GI基金事業の実証に向けたCCUパイロット設備が完成~」
https://www.sumitomo-chem.co.jp/news/detail/20231212.html
JFEエンジニアリング
ごみ処理の過程で発生するCO₂を、有用な化学製品であるメタノールに変換することで、循環経済(サーキュラーエコノミー)の実現にも貢献する取り組みをおこなっています。
参照 JFEエンジニアリング ニュースリリース
https://www.jfe-eng.co.jp/news/2022/20220331.html
その他産業での活用事例
グリーンメタノールは、建設機械や農業機械の燃料としても利用できます。
将来的には、航空燃料としての活用も期待されています。グリーンメタノールを水素キャリアとして利用する研究も進んでいます。
出光興産
e-メタノールを原料としてジェット燃料やガソリン、化学原料などを製造して使うことを研究開発しています。
参照 出光興産HP「1分でわかる「e-メタノール」が広げる未来の可能性 – 出光興産」
https://www.idemitsu.com/jp/business/oil/lowcarbon/e-methanol_future.html
これらの事例は、グリーンメタノールが様々な産業で実用化されつつあることを示しています。今後、技術開発やインフラ整備が進むにつれて、さらに多くの企業がグリーンメタノールの活用を拡大していくことが期待されます。
世界のグリーンメタノール市場と動向
技術革新 |
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政策動向 |
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地域別の動向 |
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今後の展望と課題
今後の展望
- 市場の急速な拡大
脱炭素化への世界的な動きの加速、特に海運業界における国際的な排出規制の強化により、グリーンメタノールの需要は急速に拡大すると予測されます。経済産業省資源エネルギー庁によると、メタノールの世界市場規模は、2021年は353億2,000万ドル、2030年には546億3,040万ドルの収益を生み出し、 CAGR(年平均成長率)は+5.0%の成長と予測されています。
引用 経済産業省資源エネルギー庁HP
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/e_fuel/shoyoka_wg/pdf/003_06_00.pdf
- 技術革新によるコスト削減
グリーンメタノールの製造コストは、現状では化石燃料由来のメタノールよりも高いですが、技術革新により、コスト削減が進むと期待されます。特に、CO₂回収・利用(CCU)技術や、再生可能エネルギーを利用した水素製造技術の進歩が、コスト削減に大きく貢献すると考えられます。
- 政策支援の強化
各国政府が、グリーンメタノールの導入を促進するための政策や規制を強化することで、市場の成長を後押しすると考えられます。補助金や税制優遇措置などの導入により、企業の投資が促進され、グリーンメタノールの普及が加速すると期待されます。
- 水素キャリアとしての活用
グリーンメタノールは、水素キャリアとしての活用も期待されています。水素は、貯蔵や輸送が難しいという課題がありますが、グリーンメタノールに変換することで、既存のインフラを活用して効率的に輸送することが可能になります。
課題
- コストの高さ
グリーンメタノールの製造コストは、化石燃料由来のメタノールよりも高く、これが普及の大きな障壁となっています。特に、再生可能エネルギー由来の水素製造コストや、CO₂回収コストの削減が課題となります。
- 供給インフラの整備
グリーンメタノールの普及には、安定的な供給インフラの整備が不可欠です。製造プラントの建設、輸送・貯蔵施設の整備、燃料供給ステーションの設置など、大規模なインフラ投資が必要となります。
- 技術的な課題
グリーンメタノールの製造技術は、まだ発展途上の段階であり、効率性や安定性の向上、大規模生産への対応などが課題となります。特に、CO₂回収・利用(CCU)技術や、再生可能エネルギーを利用した水素製造技術の確立が重要です。
- 持続可能な原料の確保
バイオマス由来のグリーンメタノール製造においては、持続可能な原料の確保が課題となります。原料となるバイオマスの種類によっては、森林破壊や食料との競合などの問題が生じる可能性があります。
- 規制や認証制度の整備
グリーンメタノールの普及には、国際的な基準に沿った規制や認証制度の整備が不可欠です。グリーンメタノールの定義や製造方法、環境負荷の評価などに関する国際的な合意形成が求められます。
グリーンメタノールは、脱炭素社会の実現に向けた重要なエネルギー源として、大きな可能性を秘めています。課題を克服し、持続可能な社会の実現に貢献するために、技術開発、インフラ整備、政策支援、国際協力など、多岐にわたる取り組みが求められます。
まとめ
グリーンメタノールは、CO₂排出を削減しつつ、既存の燃料インフラを活用できる次世代クリーン燃料として注目されています。特に海運業界や発電業界での利用が期待されており、2030年以降の本格的な市場拡大が予測されています。
日本も、グリーンメタノールの開発と導入を進め、カーボンニュートラル社会の実現に向けた重要な役割を果たすことが求められています。今後の技術革新と政策支援により、グリーンメタノールが持続可能なエネルギーの柱となる未来が期待されます。

