ISO 14060ファミリー規格の意義について、「ライフサイクルCO2」の視点から考える

2019年6月、経済産業省 資源エネルギー庁によって発信されたコンテンツの中では、「CO2排出量を考える上でおさえておきたい2つの視点」が描かれています。1つ目は、CO2排出量に関連する要因を分解することで、各要因への対策方法がわかる、という考え方です。これは以下の式にもお示ししたように、GDP(③×④)の成長を確保しつつ、CO2排出量削減を進めるためには、①「エネルギー供給の低炭素化」や②「省エネルギー」を図ることが必要になることを表しています。
経済産業省 資源エネルギー庁:「CO2排出量」を考える上でおさえておきたい2つの視点
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lifecycle_co2.html
そして、2つ目は今回のコンテンツで取り上げるISO 14000シリーズ(ISO 14060ファミリー規格も含む)に関係する内容となっており、「ライフサイクルCO2」という考え方です。
そこで本コンテンツでは、この2つ目の視点で挙げられている「ライフサイクルCO2」への理解を深め、またISO 14060ファミリー規格の意義について考えるにあたり、1章から3章までは、ISO 14000シリーズ、特にISO 14060ファミリー規格に関して押さえておくべきポイントを中心に解説していきます。そして、4章では、改めてこの「ライフサイクルCO2」に関する考え方について、ISOの観点を絡めてお伝えしていきます。
目次
ISO 14000シリーズとISO 14060ファミリー規格、JIS Q 14060ファミリー規格の関係性について
ISO 14060ファミリー規格は、環境マネジメントシステムに関する国際規格群であるISO 14000シリーズの一部で、温室効果ガスに関する規格群を表しています。ISOにかかるワードとして、「○○シリーズ」と「○○ファミリー」の二種類が存在し、厳密に言うと前者に関しては、ISOが制定した指針の一連の規格を表しており、後者に関しては特定の「ISO ○○」を中心に、関連のある要求事項の定義や運用のための各種のガイドラインを示した規格群となっています。しかし、多くの場合においてこの2つのワードは明確に使い分けられてはいないため、本コンテンツにおいてもISO 14000に関しては「ISO 14000シリーズ」、ISO 14060に関しては「ISO 14060ファミリー規格」として進めていきます。
ISO 14000シリーズとISO 14060ファミリー規格は包含関係にあることは先ほどもお伝えしましたが、もう少し細かくお伝えさせていただくと、ISO 14000シリーズ自体が、多くの企業などが認証取得に取り組んでいる環境マネジメントシステムの要求事項を規定したISO 14001を解説したりサポートしたりするなどの補填の役割を果たす環境関連の規格群となっています。これらの規格群は約50種類で構成されており、ISOでも中核の機能を担う品質マネジメントシステム関連のISO 9000シリーズ(約20種類)と比較しても、非常に多岐に渡る内容となっていることが分かります。
また、ISO 14060ファミリー規格とJIS Q 14060ファミリー規格においては、規格内容に関し大きく差異はありません。元来、JISの規格は外国語で作成されているISOの規格を日本語に訳したものとなっているため、内容については基本的に国際的基準とされているISO規格に準拠しており、整合させることが協定により義務付けられています。
ISO 14060ファミリー規格の果たす役割について
日本規格協会が発行する「温室効果ガス-第 3 部: 温室効果ガスに関する声明書の検証及び 妥当性確認のための仕様及び手引 JIS Q 14064-3:2023 (ISO 14064-3:2019)」によると、JIS Q 14060ファミリー規格が果たす役割として、以下のように述べられている。
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低炭素経済による持続可能な開発を支援し,全世界の組織,プロジェクトの推進者及び利害関係者に役立たせるため,JIS Q 14060 ファミリー規格は,GHG の排出量及び吸収量の定量化,モニタリング,報告,及び妥当性確認又は検証に,明確性及び一貫性を与えるものである。具体的には,JIS Q 14060 ファミリー規格の利用によって,次の事項が可能となる。
- GHG の定量化における環境の面からの完全性を高める。
- GHG の定量化,モニタリング,報告,検証及び妥当性確認の信頼性,一貫性及び透明性を高める。
- GHG マネジメントの戦略及び計画の策定及び実施を容易にする。
- 排出量の削減又は吸収量の増加による緩和活動の策定及び実施を容易にする。
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「温室効果ガス-第 3 部: 温室効果ガスに関する声明書の検証及び 妥当性確認のための仕様及び手引 JIS Q 14064-3:2023 (ISO 14064-3:2019)」より引用
このように、ISO(JIS Q)14060ファミリー規格は、GHGの排出量・除去量の定量化、モニタリング、報告、妥当性確認・検証に関する標準を提供しており、特に中核となるISO14068-1では、組織、製品・サービス、イベント、建築物等を対象としたカーボンニュートラル達成の標準を規定しています。また、企業の戦略計画や緩和措置、監視や報告、検証、および妥当性の確認を行うための活動の一助となることが想定されています。
ISO 14060ファミリー規格の構成について
ISO 14060ファミリー規格は、以下のような規格で構成されています。
規格番号 | JIS 規格名称/ISO 規格名称 |
ISO/AWI 14060 | ネットゼロに賛同する組織 |
ISO 14064-1:2018 | 温室効果ガス-第 1 部:組織における温室効果ガスの排出量及び吸収量の定量化及び報告のための仕様並びに手引 |
ISO 14064-1:2018/DAmd 1 | 温室効果ガス-第 1 部:組織における温室効果ガスの排出量及び吸収量の定量化及び報告のための仕様並びに手引―追補1 |
ISO 14064-2:2019 | 温室効果ガス-第 2 部:プロジェクトにおける温室効果ガスの排出量の削減又は吸収量の増加の定量化、モニタリング及び報告のための仕様並びに手引 |
ISO 14064-3:2019 | 温室効果ガス-第 3 部:温室効果ガスに関する声明の妥当性確認及び検証の仕様並びに手引 |
ISO/CD TS 14064-4 | 温室効果ガス — 第4部:組織のための温室効果ガス排出量の定量化および報告 — ISO 14064-1の適用に関する手引き |
ISO/WD 14064-5.2 | 温室効果ガス管理 — 第5部:検証および妥当性確認の温室効果ガスステートメント実施におけるリモート方法の利用に関するガイドライン |
ISO 14065:2020 | 環境情報を妥当性確認及び検証する機関の一般原則及び要求事項 |
ISO 14066:2023 | 環境情報-環境情報を検証および検証するチームの能力要求事項 |
ISO 14067:2018 | 温室効果ガス-製品のカーボンフットプリント-算定のための要求事項及び指針 |
ISO 14068-1:2023 | 気候変動対策 — ネットゼロへの移行 |
ISO/TR 14069:2013 | 温室効果ガス-組織の温室効果ガス排出量の定量化と報告- ISO14064-1 の適用のための手引 |
JSA:ISO14000 ファミリー規格の開発状況より筆者作成
その中でも、2章でも取り上げたように、ISO14068-1はカーボンニュートラルに関連する規格となっており、ISO 140060シリーズの中でも中心的な役割を担っています。ISO 14068-1:2023は、英国規格協会(BSI)が掲げるPAS 2060という規格の初版発行から13年を経てISOで発行されており、カーボンニュートラリティの達成と実証を目指す際の原則と要求事項を定めたものになっています。またこの規格では、経営のトップによるカーボンニュートラルへのコミットメントやカーボンニュートラルな経営計画に基づく温室効果ガスの排出削減と除去の強化の継続的な実施、残余排出のクレジットによる埋め合わせなどが求められています。ISO 14068-1:2023については、CARBONIX MEDIA内の「ISO 14068-1:2023について、詳しく解説」の中でより詳しく説明していますので、こちらも併せてご覧ください。
環境省:カーボン・オフセットの取組状況
© https://www.env.go.jp/content/000191679.pdf
「ライフサイクルCO2」とISOの関係性について
まず、「ライフサイクルCO2」とは、何らかのモノを製造するにあたり、原材料を集めたり精製したりする段階から消費者によってモノが使用され、廃棄されるまでの一連の流れのなかで排出されるすべてのCO2を含める考え方を表しています。特に、建築物はライフサイクルも長く、エネルギーの消費やGHGの排出が重要な環境要因として認識されていることも追い風となり、建築物に関する「ライフサイクルCO2」の浸透と見える化が加速している現状があります。また、これらの背景には、国が2030年度までの省エネルギー対策として設定した、「長期エネルギー需給見通し」(2015年7月)及び「地球温暖化対策 計画」(2016年5月)における5,030万kl 程度(原油換算ベース)のエネルギーの削減量を目指すための取り組みが活発化していることも挙げられます。
国土交通省:国土交通省における 省エネ対策の概要
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/pdf/032_02_00.pdf
この「ライフサイクルCO2」の考え方ですが、実は、1990年代頃から環境問題を議論する際に取り入れられるようになってきた「ライフサイクルアセスメント」という考え方に基づくものとなっています。具体的には、「ライフサイクルアセスメント(LCA)」は3つの要素で構成されており、「ライフサイクルエネルギー(LCE)」、「ライフサイクルコスト(LCC)」、そしてこの「ライフサイクルCO2(LCCO2)」に分けられます。
- ライフサイクルアセスメント(LCA)…ある製品・サービスのライフサイクル全体(資源採取から原料・製品生産、流通から消費、廃棄・リサイクルに至るまで)又はその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法。
- ライフサイクルエネルギー(LCE)…製品や建物などの調達から製造、使用、廃棄に至るまでの総エネルギーを算出する手法。
- ライフサイクルコスト(LCC)…製品や建物などの調達から製造、使用、廃棄に至るまでの総費用を算出する手法。
そして、「ライフサイクルCO2」を含む「ライフサイクルアセスメント」の考え方は、環境への配慮に大きな影響を与える考え方としてISOの中でもISO 14040(JIS Q 14040)の「環境マネジメント-ライフサイクルアセスメント-原則及び枠組み」から始まり、複数の項目にわたり定められています。これらの項目は、1章や2章で取り上げたISO 14060ファミリー規格とは一見すると関連性の低いもののようにとらわれがちですが、本質的には低炭素社会の実現に向けた対応策を検討する上では重複する内容となってきます。そのため、企業側は「ライフサイクルCO2」を減らす上で「ライフサイクルアセスメント」を理解し、この考え方に基づいて、必要に応じてISO 14060ファミリー規格の取得を検討することが必要になってくるでしょう。
まとめ
本コンテンツでは、「ライフサイクルCO2」への理解を深める過程で、1章では類似している規格間の関係性に着目し、2章ではISO 14060ファミリー規格の果たす役割をお伝えしてきました。また、3章ではファミリー内の構成を紹介し、4章で「ライフサイクルCO2」とISOの関係性について言及することで、環境問題に関連するISO 14000シリーズの規格の意義ついて解説してきました。
1章でもお伝えしたように、環境問題に関連するISOは種類も多く、内容も煩雑です。しかし一方で、これらの規格について独自で理解を深めるにあたっては、原文を入手し読み解くほか、なかなか正確な情報を入手することが難しいのも現状です。
本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

