EUDR(EU森林破壊防止規則)とは?対象製品・義務・スケジュールを徹底解

EUDR(EU森林破壊防止規則)とは?対象製品・義務・スケジュールを徹底解
法改正やルール

2024年に入り、EU域内のコーヒー豆の輸入業者が、アフリカなどの小規模農家からの調達を縮小し始めているというニュースが、海外メディアを通して度々報道されるようになりました。赤道を中心に北回帰線と南回帰線に挟まれたコーヒーベルトと呼ばれるエリアでは世界でも有数のコーヒー豆の生産・出荷国が集まっており、コーヒー栽培が国の主要な産業の一つとなっている国も多い中で、このような動きは小規模農家の貧困を深刻化させることが予想されています。

今回、EU域内の企業がこのような調達戦略に切り替え始めたきっかけは、2023年6月に発効したEU森林破壊防止規則(以降、EUDRと記載)にあります。EUDRの対象は、カカオ、コーヒー豆、パーム油、大豆、天然ゴム、牛、木材の7品目の一次産品とそれらを原料として加工された派生品にのぼる予定とされており、コーヒー豆と同様の経済的な影響の変化が今後EU域内外に拡大することも見込まれています。

そこで本コンテンツでは、EUDRに関する理解を深めるために、EUDRの概要や(企業にとってEUDRの対応に際し)課題となるポイント、またEUDRを受けた国内の動きを中心に解説していきます。

EUDRの概要について

EU Deforestation Regulationの略で、2023年6月29日にオペレーター(※1)やトレーダー(※2)と呼ばれる事業者(事業体)を対象に発効された、森林の破壊と劣化を防ぐための新たな規制を表しています。これはEU域内で暮らす人々の消費する製品が、世界中の森林破壊や森林劣化に関与していないことを保証するための規則となっています。またそれと同時に、対象品を持ち込む企業には、それらの生産地が森林破壊に加担していないことを証明することが求められているため、冒頭でもお伝えしたように、EU域内市場に対象となるものを出荷、又は輸出入を行う事業者の双方に影響を与える制度でもあります。加えて、対象がカカオ、コーヒー豆、パーム油、大豆、天然ゴム、牛、木材の7品目の一次産品とそれらを原料として加工された派生品となっている(※3)ため、事業者の層も、サプライチェーンに関わるスーパーマーケットや小売業者を含む、中小企業から大企業までの幅広い構造となっています。

EUDRの中で求められていることは、主に次の3点です。

①対象となるものが、森林の破壊や劣化に影響を与えていないこと。
②生産国の森林関連法以外にも、土地使用権や環境保護、労働権、人権などの幅広い領域の法制に従い、生産されたものであること。
③コンプライアンス違反がないことを示すデューデリジェンス(※4)の声明があること。

一方、EUDRには罰則規定も設けられています。EUDRに違反した場合は、罰金や収益の没収、取引の禁止などの直接的な損失に加え、EU域内市場へのアクセス権の喪失やブランドイメージの毀損等の間接的なダメージも予測されています。そのため、企業活動へ大きな影響力を与えることも相俟って、モニタリングのシステムも導入されています。

具体的に科せられる罰則の内容は、今後整備される各加盟国の法律に基づき多少は異なってくることが想定されるものの、その水準は以下のように規定するよう定められています。

—–

  • EU域内の年間総売上額の4%を上限とした罰金
  • 関連製品、又はその取引によって得た利益の没収
  • 最大12ヵ月間の公共調達プロセスや公的資金へのアクセスからの排除
  • 加盟国の法律の対象となっている取締役への個人責任
  • 関連製品のEU域内への市場投入・製品販売、またはEU域内からの輸出の一時的禁止

簡素化したデューデリジェンス手順の使用禁止

—–

また、モニタリングに際しては、森林破壊のリスクに応じて地域を高リスク・標準リスク・低リスクの3段階に分類する国別ベンチマークシステムが導入されています。各国の管轄当局によるモニタリングの実施にあたっては、リスク分類に応じて対象企業の割合が異なり、高リスク地域では9%、標準リスク地域では3%、低リスク地域では1%がモニタリングの対象となります。リスク分類の国別ベンチマークは、このあとのEUDRに関する今後のスケジュールでも述べるように、2024年12月末までに順次公表される予定となっています。

EUDRに関する今後のスケジュールは、以下の通りです。企業の規模ごとに、本規則の適用開始までにそれぞれ猶予期間が設けられています。具体的には、大企業は2024年12月30日から、中小企業は2025年6月30日から規則の適用開始が決定しています。

—–

  • 2023年6月29日:EUDR発効

― 国別ベンチマークシステムにおいて、「標準リスク」にすべての国または地域が割り当てられる

  • 2024年12月30日:大企業へのEUDRの適用開始

― EUTR(※5)が廃止される。但し、2023年6月29日以前に生産された木材等は、2027年12月31日までEUTRが適用され、2027年12月31日以降に市場投入される場合は、EUDRが適用される。

― 国別ベンチマークシステムにおいて、「高·低リスク」国のリストが公表される予定となっている。

― デューデリジェンス報告書の提出先となる情報システムが構築される予定となっている。

  • 2025年6月30日:中小企業へのEUDRの適用開始
  • 2028年6月30日(まで):税関システムとの連携に向けたインターフェースの開発

― 各国の税関システムとデューデリジェンス報告書の情報システムとの間で、データの伝送が可能なインターフェースの開発が予定されている。

—–

(※1)EU域内で取れた規制対象の原材料を使い何らかの加工を施す事業者や、EU域外へ規制対象の製品を輸出する事業者を指す。
(※2)基本的にはオペレーターから該当製品を買って市場に出す人たちで、オペレーター以外のすべての事業者を指す。
(※3)大規模な加工により、一次産品本来の森林破壊リスクから切り離されている派生品は、対象外とされている。企業はHSコードを附属書1および複合命名法に記載されているものと比較し、規制の基準に適合していることを確認することが求められている。
例:牛革製バッグ、パーム油入り石鹸
(※4)主に3つの手続きから構成されている。
①一次生産の場所と日付、樹種、関連商品が森林破壊を伴わない、かつ関連商品が現地の関連法に従って生産されたという決定的な証拠となる検証可能な情報の収集
②少なくとも毎年、特定の製品ごとにEUDRの不適合リスクを評価するためのリスクアセスメント
③サプライヤーが、リスクマネジメントの実践や方針策定、管理、手順等に適切に関わるためのリスク軽減
(※5)EU Timber Regulationの略で、2013年に発効されたEU木材規則を指す。

EUDRの対応における課題について

EUDRは、前身の規則であるEU木材規則(以降、EUTRと記載)の課題を補う形で発効されました。EUTRは、違法に伐採された木材および木材製品のEU域内市場への流通を禁止し、木材を市場に流通させる事業者の義務を定めたものでした。しかしその一方で、違法伐採以外の森林破壊や劣化には十分に対応できていない点が課題として挙げられていました。そこで、EUはEUTRを廃止し、森林破壊や劣化につながる特定製品の市場流通、輸出に焦点を当てたEUDRを新たに発効する経緯に至りました。そのためEUDRは、従前の規則に比べサステナビリティの観点では優れた制度となっていますが、EUDRの対応そのものを実行する上では、企業側はまだまだ多くの課題に直面することが想定されています。

例えば課題の一つとして、必要情報の取得の難しさが挙げられます。報告に際しては、対象品に関わるサプライチェーンを完全に把握し、生産地の地理情報等を取得することが求められています。これらの情報は細かな点まで把握することが必要であり、例えば規制対象品の生産されたすべての土地区画に関する位置情報および生産時期(日付または生産期間)なども必要な情報として挙げられているため、トレーサビリティの確保が重要となってきます。

また、生産国における関連法を順守確認の煩雑さも課題となり得ます。EUDRの扱う情報は多岐にわたるため、森林関連法に限らず対象となる法令が数多く存在します。そのため、環境的な側面だけでなく社会的な側面も織り込んだ統合的な判断と対応が必要になります。

その他にも、デューデリジェンス声明の情報を更新するにあたり、モニタリング体制を整備することも、企業側にとっては重要な任務の一つです。正確で透明性の高い情報を入手するためにも効率的にサプライチェーンの情報を収集する体制やシステムを早々に構築し、自社のスタイルに合わせて導入を検討していく必要があります。

このように、EUDRの対応を通し、対象となる企業は徹底して自社の製品のサプライチェーンに関わる情報を管理することが必須となり、そのために必要な自社の課題に向き合っていくことが不可欠となってきます。

EUDRを受けた国内(企業)の動きについて

以前、別のコンテンツで紹介したCSRD(詳しくは、「CSRDとは?企業が知っておくべき適用基準とNFRD/CSDDDの違いを解説」をご確認ください)のように、本規制も基本的には対象がEU域内となっており、一見すると国内企業の動きには大きな影響が無いのではと思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、EUDRもCSRDと同様に、EU域内でビジネスを行う日系企業は対象となる可能性があります。例えば、EU域内に子会社を構えるケースはさることながら、日本国内に親会社を構えるケースにおいても、EU域内に対象品を輸出する際には、EU域内の事業者からデューデリジェンスに協力するよう要請されることが推測されます。

また、EUDRの施行が進み、世界中で本規制の浸透が進んだ場合、「森林破壊フリー」が保証されている対象品の需要が高まることが想定されるため、従来の需給バランスが崩れ、関連する業界には大きな打撃が生じることも考えられます。これは日系企業に限ったことではありませんが、自社のサプライチェーンの見直しに迫られるきっかにも十分になり得ることが想定されます。

加えて、EUDRと似たような動きは、既に国内の法整備の一環においても見られている状況です。それは、2017年5月20日に施行された「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」、通称クリーンウッド法です。本法律は、農林水産省の外局にあたる林野庁によって定められましたが、努力義務として課される範囲にとどまっていたため、結果として合法性が確認された木材量は総需要量の約4割程度でした。そのため、2023年に「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、同年5月8日に公布されています。この改正法では、国内市場における木材流通の最初の段階での対応が重要であることを理由に、川上・水際の木材関連事業者に対し、素材生産販売事業者又は外国の木材輸出事業者から木材等の譲受け等を行う場合には、以下の3つを義務付けています。

①原材料情報の収集、合法性の確認
②記録の作成・保存
③情報の伝達

(第6条-第8条に該当)。

木材等の譲受け等に係る義務及び努力義務の内容

林野庁:運用説明資料(R7.3月版):合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)について
© https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/summary/attach/pdf/brochure-r7-01.pdf

まとめ

本コンテンツでは、EUDRによる規制の概要や対応における課題を確認していきながら、EUDRを受けた国内(企業)の動きについて解説してきました。

世界自然保護基金のデータによると、森林の消失や損傷は、地球温暖化の原因の約10%を占めている状況です。その一方で、現行のEUDRの規則は、条件を満たさない対象品のEU域内の市場への輸出を禁じたり、リスクの割り当てを行い、国や地域毎に異なる負担を課したりする点において、国際貿易を規律しているWTOの定めるルールに抵触する可能性も示唆されており、森林破壊や森林劣化を防ぐための重要な転換ポイントとして注目を集めています。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

関連記事一覧