脱炭素先行地域の基礎と、現状の取り組み状況について

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近年、地球規模での環境問題が取り沙汰される中、特定の地域が率先して環境保全活動に取り組む「脱炭素先行地域」の取り組みが注目を集めています。この記事では、脱炭素先行地域について、基本的な理解から具体的な事例、そして直面している課題や今後の展望までをわかりやすく解説していきます。

持続可能な未来に向けて、企業や一人ひとりができることについても考えてみましょう。

脱炭素先行地域の基本理解

脱炭素先行地域とは何か?

脱炭素先行地域とは、温暖化防止や環境保護のために、地域単位で炭素排出量を削減し、持続可能な社会づくりに向け、積極的に取り組む地域のことを指します。日本では2022年に制度化されました。脱炭素先行地域は、国や地域が自主的に設定する目標や計画に基づいて、低炭素社会の実現に向けた様々な政策や技術を導入し、脱炭素化の取り組みを実践しているモデルケースとなることが期待されています。

脱炭素地域づくり出所:環境省「脱炭素地域づくり 支援サイト」

そして、その地域から脱炭素化に向けた取り組みが全国に広まることを、脱炭素ドミノといいます。

それぞれの地域が脱炭素に向けた取り組みを計画的に行うために、政府は任意の地域に「地域脱炭素ロードマップ」を策定させています。

地域脱炭素を支える「地域脱炭素ロードマップ」とは?

自治体が地域の実情に応じて、温室効果ガス排出実質ゼロを達成するための具体的な計画や道筋を示したものです。主な内容は以下の通りです。

  • 2050年までの温室効果ガス排出削減目標の設定
    地域全体や分野別(産業、民生、運輸など)の削減目標を数値目標として設定します。
  • 分野別の対策・施策の立案
    エネルギー転換(再生可能エネルギーの導入拡大)、省エネルギー対策、CO2吸収源対策など、分野ごとに具体的な対策を検討・立案します。
  • 対策ごとのロードマップ作成
    導入時期やコスト試算、排出削減効果の見込みなどを明示し、実行の道筋を描きます。
  • 関係者の役割分担
    自治体、事業者、住民などステークホルダー間の役割分担を明確化します。
  • モニタリングと評価
    排出削減目標の達成状況や施策の効果を定期的にモニタリングし、評価するためのシステムが設けられます。必要に応じて、ロードマップの修正や調整が行われます。

全ての地域が策定されている訳ではありませんが、企業と地域が共に脱炭素化を目指す良い指針となるでしょう。

政府が制定する重点対策加速化事業について

政府は、令和6年3月4日(月)〜3月15日(金)に、重点対策加速化事業を募集しました。重点対策加速化事業は、「地域脱炭素ロードマップ」や地球温暖化対策計画等に基づき、脱炭素の基盤となる「重点対策」を全国で実施し、国・地方連携の下、地域での脱炭素化の取組を推進するものです。それぞれの地域で制定された事業のうち、次の取り組みには、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金が支給されます。

  1. 屋根置きなど自家消費型の太陽光発電
  2. 地域共生・地域裨益型再エネの立地
  3. 業務ビル等における徹底した省エネと改修時等のZEB化誘導
  4. 住宅・建築物の省エネ性能等の向上
  5. ゼロカーボン・ドライブ

重点対策加速化事業の交付限度額については、1計画あたり都道府県は15億円、指定都市・中核市・施行時特例市は12億円、その他市区町村は10億円となります。

意欲的な脱炭素先行地域の取り組み例

北九州市

北九州市は2022年4月に事業内容を提案し、脱炭素先行地域として選定されました。北九州市の取り組み内容は以下の通りです。

【水素社会の実現】

  • 水素ステーションを国内最多の11カ所に整備
  • 家庭用や業務用の定置型燃料電池(エネファーム)の導入を促進
  • 工場での水素利活用設備の導入を支援

【再生可能エネルギーの最大限導入】

  • 未利用地への大規模太陽光発電所の設置
  • バイオマス発電の本格導入
  • 洋上風力発電の導入に向けた調査研究

【スマートシティの推進】

  • AIやIoTを活用した次世代エネルギーマネジメントシステムの構築
  • 自動運転バスの実証実験
  • スマートホームやスマートビルディングの普及促進

【CO2排出削減・資源循環】

  • 工場からのCO2排出削減に向けた省エネ対策の推進
  • 下水汚泥や食品残渣からのバイオガス製造とエネルギー利用
  • 都市鉱山からの有価金属回収による資源循環

さいたま市

さいたま市も同年2022年4月に脱炭素先行地域として認定されています。さいたま市は、国立大学法人埼玉大学、学校法人芝浦工業大学、東京電力パワーグリッド株式会社埼玉総支社と共同で取り組みを行っており、「さいたま発の公民学によるグリーン共創モデルの実現」として以下の事業内容を提案しています。

【再生可能エネルギーの最大限導入】

  • 市有施設への太陽光発電設備の計画的な導入
  • 未利用地を活用した大規模太陽光発電所の整備
  • バイオマス発電所の新設

【水素社会の実現】

  • 国内最大級の水素ステーションの整備
  • 水素を活用した定置型燃料電池の普及促進
  • 市営バスへの燃料電池バスの導入

【スマートシティの推進】

  • AI/IoTを活用した次世代エネルギーマネジメントシステムの構築
  • スマートホーム/スマートビルディングの実証
  • 自動運転バス等の次世代モビリティサービスの実証

【交通・モビリティの脱炭素化】

  • 普及啓発による次世代自動車(EV、FCV等)の普及促進
  • パーク&ライド駐車場の整備による公共交通利用促進

【CO2排出削減・資源循環】

  • 中小企業の省エネ・CO2削減対策支援
  • 食品残渣等からのバイオガス化とエネルギー利用
  • プラスチックごみの資源循環システムの構築

上二つの地域から見える脱炭素先行地域の実情

今回例として挙げた北九州市、さいたま市はどちらも2022年の第一回脱炭素先行地域選定において選出されています。前例がない中で脱炭素先行地域に応募(地域脱炭素の実行案を提出)するというのは、かなり地球温暖化への意識が高い街だと言えるでしょう。そこで、地域脱炭素にいち早く取り組んだ地域の実情を確かめるべく、北九州市にインタビューを行いました。

Q1どういった経緯で、取り組むことになったのでしょうか?
A1元々、市がマニフェストにゼロカーボンシティ推進を掲げていたからです。
Q2応募を決めてから実行まで、どれくらいの時間を要しましたか?
A2半年から1年ほどです。応募要否判断に時間を割いたため、実行過程だけであれば1年はかからない程度と記憶しております。
Q3どの段階で企業や大学と協働するようになったのでしょうか?
A3脱炭素先行地域の選定が決まったほぼ同時期、または、少し早い段階で協働する企業は決定しました。
Q4どのような企業と協働しているのでしょうか?
A4脱炭素先行地域の計画実現に向けて、エネルギー関連、自動車関連などの企業と協働してます。
Q5脱炭素先行地域認知後、どういった住民の反応がありましたか?
A5目に見える形で、住民の実生活に影響が及ぶことはないため、ネガティブな反応はありませんでした。
Q6脱炭素先行地域申請時、難しいと感じた点はどういった点でしょうか?
A6 我々は第1回の応募だったので、難しいと感じた点はありませんでした。ただ、今後、脱炭素先行地域に応募する市政は、過去の提案を確認した上で先進性を出す必要があるため、回を重ねるごとに難易度が上がっている印象です。

実際、インタビューした感触として、市政が初めから知識が豊富というわけではなく、脱炭素の専門家や、ソリューションを持つ企業を交えて地域の特色を生かした計画を提案していることを感じました。

脱炭素先行地域の取り組みにおける課題

  • 資金調達と経済的な課題

脱炭素化の取り組みは多額の初期投資だけでなく、その初期投資の資金調達や、投資回収の計画が重要です。今後、国や自治体の補助金制度、民間投資の活用、PPP(Public Private Partnership)などのスキームを活用できる環境整備が必要と考えています。

  • 住民の理解と参加の促進

地域住民の理解と参加が脱炭素化を成功させるためには不可欠です。環境教育の推進や市民参加型イベントの開催、意見交換の場を設定する等、住民が自らの意志で取り組みに参加できる体制作りも求められるでしょう。

  • 法規制と政策の整備

持続可能な脱炭素社会を実現するため、国や自治体レベルでの法規制整備や政策の策定が必要です。具体的な目標設定や支援策、制約事項などを明文化することで、地域全体としての取り組みを加速させることが可能になります。

脱炭素先行地域の今後の展望

今後、脱炭素先行地域は拡大します。その理由は、ゼロカーボンシティを宣言する自治体が多い点。また、それらの地域は地球温暖化の防止策としてだけではなく、地域課題の解決にも繋げていく意欲が見受けられるからです。いずれ、それぞれの地域が連携を深め、取り組みが先行する地域をモデルケースとして参考にし、他地域での脱炭素化の取り組みが広がることも期待できます。

現在、実証事業が中心でしたが、今後、実証の成果を活かした再生可能エネルギーや水素等の本格的な社会実装が進むと考えられます。その実装が進むと、コストの問題、脱炭素社会に合わせた制度設計の必要性などの課題が出てくる可能性が高く、企業と政府の協力がより重要となってくるでしょう。

また、地域、そして企業から脱炭素における取り組みを意欲的に始めることで、様々なステークホルダーの意識も高まり、脱炭素社会の実現が見えてくるはずです。

まとめ

このように、脱炭素先行地域は、地球環境の保全と地域社会の持続可能な発展を目指すための重要な取り組みです。今後も、地域ごとの特性を活かしながら、より効果的な活動が推進されていくことが期待されます。また、企業と地域が密に関わる機会でもあり、現在展開しているエネルギーや自動車分野だけではなく、他分野でも地域脱炭素に協働できる企業があれば参画していくことも大切でしょう。

そして何より、私たち一人ひとりが意識を持って日常生活の中でできることを実践していくことが、地球規模での環境問題の解決に繋がるのです。

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