スマートグリッドの基本からグローバルに広がる活用事例について

その他

2016年4月、一般家庭でも電力の購入先を選ぶことができる電力の小売全面自由化、いわゆる「電力自由化」が始まりました。それに伴い、「スマートグリッド」や「マイクログリッド」、「スマートメーター」、「HEMS機器」といった関連するワードを耳にする機会が増えたのではないでしょうか。

経済産業省 資源エネルギー庁:スマートメーターで変わる使用量の確認方法
© https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/fee/stracture/smartmeter.html

スマートグリッドは、電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化できる送電網を表しており、電力網と情報網を束ねることで、電気機器や家、工場、オフィスの消費電力をリアルタイムに見える化できることが一番の特徴です。また、電力供給全体の効率化に加え、EVや再生可能エネルギーの普及にも貢献する次世代型のインフラとしても期待を集めています。

更に、スマートグリッドを活用したスマートシティの登場により、私たちの生活やビジネスがどのように変化していくのかにも注目が集まっています。既に世界各国でスマートグリッドの実証実験は進められており、例えば横浜市の事例は、2010年8月11日に経済産業省により発表された「次世代エネルギー・社会システム実証マスタープラン」の一部です。

参照:横浜市地球温暖化対策事業本部地域温暖化対策課の記者発表資料
©︎ https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/zeikin/shizeikanren/chosakai/jisseki/zeiseikenkyukai/14kenkyukai.files/0009_20180717.pdf

そこで本コンテンツでは、これらの次世代型エネルギー社会システムを構築する上で要となるスマートグリッドについて、その特徴や導入事例を中心に詳しく解説していきます。

スマートグリッドとは

次世代送配電網を指しており、情報通信技術を活用して、再生可能エネルギー(分散型電源)を含んだ電力網全体の需給の効率化と最適化を行う仕組みを表しています。もう少し具体的にお伝えすると、スマートグリッドでは電力網全体の需要と供給のデータを収集・分析して、送電量をコントロールすることが可能です。

グリッドとは、電力用語で「送配電網」「送配電系統」を意味しており、発電所からの電力を一方的に送り出す従来型の送電網に対し、送電量をコントロールできる賢い(=スマートな)送電網として位置づけられています。

そのような中で、スマートグリッドに求められる役割は、時とともに変化しています。
元々は、2003年頃のアメリカで、大規模停電を防ぐために考案された電力供給システムでした。当時のアメリカ国内では、電力自由化などの影響により、電力の安定的な供給に課題があったことが起因しています。

電力中央研究所:低炭素社会を支える日本型「スマートグリッド」の実現に向けて
© https://criepi.denken.or.jp/koho/news/den458.pdf

しかし、2009年のオバマ政権時代にグリーン・ニューデール政策の一環としてスマートグリッドを提唱し、現在では、再生可能エネルギーの利用促進や新興国で急増する電力需要にも対応できる次世代電力供給システムとなることが求められています。実際に、今後も想定されるスマートグリッドの活用場面は、スマートハウス、スマートビルディング、スマートキャンパス、スマートメーター、スマートアプライアンス(*1)、スマートカーなど、多種多様です。ビジネス環境下でも、ITと電気の双方が用いられるあらゆる場面で、スマートグリッドが普及していくことが見込まれます。

一般社団法人 日本電機工業会:スマートグリッド
© https://jema-net.or.jp/Japanese/res/dispersed/data/s07.pdf

(*1)エネルギー消費を最適化する機能を持った家電製品。

スマートグリッドの導入目的とメリット・デメリットについて

ここまでの内容をふまえると、スマートグリッドを導入する目的は、「安定的な電力供給」と「再生可能エネルギーの効率的な導入」の2つです。更にこれらを細かく分類すると、以下の4つが挙げられます。

<導入目的>
1 老朽化した送配電網に関して保全コストを抑えながら更新し、安定的な供給と信頼性の向上を目指す。
対象例:アメリカなど

2 太陽光発電を始めとする自然エネルギーや再生可能エネルギーの大量導入による電力の安定供給と低炭素化を目指す。
対象例:日本、欧州など

3 エネルギー需要の充足や盗電による電力ロスを軽減することを目指す。
対象例:BRICSなどの新興国

4 低炭素型都市をゼロからの構築やエネルギーインフラに加え、生活・ビジネス・交通などの社会システム一式の輸出を目指す。
対象例:中国の沿岸部やポルトガル、シンガポールなど

また、導入に際するメリット、デメリットは以下のようになっています。
<メリット>
・電力を供給するにあたり、効率かつ適切に配分することができる。
・ネットワーク経由で家庭内や職場の電力消費量をリアルタイムに把握することができるため、正確な電力消費量の予測が可能である。
・街中のさまざまなデータを収集することができるため、インフラや施設運営を最適化することができる。
・分散型電源が災害時の電力供給・復旧に役立つ。

また、スマートグリッドを活用することにより発電計画や発電所・変電所の設置計画に役立つだけでなく、再生可能エネルギーの導入をサポートすることが可能であるため、脱炭素社会の構築にも貢献することが可能です。

<デメリット>
・導入にかかるコストが多額である。
・サイバーセキュリティリスクが増大する。

前者においては、この次世代型の電力網を全国に張り巡らす上で、従来の電力系統にかかるコストに比べて多額のコストが発生することが明らかになっています。また、企業や各家庭に設置するスマートメーターやHEMSにかかるコストも高額であるため、これらのコスト面はスマートグリッドの導入に際し大きな足枷となっています。また、このデメリットに派生するものとして、EVのコストダウンの事例があります。EVの製造コストが高い中で、コストダウンの手法の一つとしてEVとスマートグリッドを結びつける構想(*2)が控えています。
一方、後者においては既に海外ではマルウェアが電力会社のコントロールセンターに侵入し、大規模停電につながっている事例があります。

(*2)EV用電池を電力ネットワークにつなげ、EVに関わるコストを軽減させる構想。

スマートグリッドをめぐる国内外の動きについて

ここからは、スマートグリッドをめぐる各国の動向、又は企業による事例の一部をご紹介します。

<アメリカ>
EVの普及に力を入れるため、「夜間に電力系統からの電気をEVにためる」ためのインフラとしてスマートグリッドに注目しています。バイデン米政権の経済政策ではEV向けの充電設備の拡充や導入補助に1740億ドルの資金投入を計画するほか、電力インフラにも1000億ドル規模の投資が予定されています。スマートグリッドの活用には日系自動車メーカーもアメリカの企業などと連携して取り組んでいますが、領域や分野ごとに成功の明暗が分かれる可能性が予測されています。

<フランス>
大手電機メーカー・シュナイダーエレクトリックでは、スマートグリッドを利用しエネルギー管理を行っています。例えば、風力や太陽光発電などの自然エネルギーは環境への負荷は小さいですが、天候の影響を受けやすく稼働が不安定です。そのため、同社では正確な気象予報データを基に、日照時間から太陽光発電の出力を予測し足りない電気はガス火力発電などで補充することで、自然エネルギーの稼働計画をつくる実証実験を行っていました。

<中国>
ロシアやブラジル、インドなどの新興国特有の電力供給不足を解消し、再生可能エネルギーの有効利用、電力品質の向上、送電網の高度化を目的としたスマートグリッドの構築を進めています。ヨーロッパやアメリカとは異なり、送電側のみを対象としています。
また、政策としては、中国政府が2009年11月に「米中クリーンエネルギー技術に関する共同イニシアティブ」を発表しています。加えて、アメリカと再生可能エネルギーのパートナーシップを結び、中国におけるスマートグリッドのあり方をステークホルダ間で協議する「China Smart Grid Cooperative」を設立しています。

<韓国>
スマートグリッドを新たなビジネス機会と認識し、世界のスマートグリッド市場で3分の1のシェアを獲得することを目標に、省エネと再生可能エネルギーの大量導入を進めています。2009年にアメリカの協力のもと、済州道でスマートグリッド実証事業をスタートさせ、2010年にスマートグリッド国家ロードマップの作成、2011年には世界初の国レベルのスマートグリッド専門支援法(スマートグリッド法)を制定しています。具体的な施策としては、送電側は広域監視制御と蓄電池制御、需要家側はスマートメーターやPHEV・EV制御、デマンドレスポンスなどの普及に注力しています。

<日本>
スマートグリッドを活用する「スマートシティ」の取り組みが進められています。例えば、トヨタ自動車が静岡県裾野市で開発している「Woven City(ウーブン・シティ)」や、三井不動産などが主導する「柏の葉スマートシティ」などが挙げられます。しかし、これらの先進的な都市計画に対しては、地元コミュニティーとの連携が懸念事項とされています。

経済産業省 資源エネルギー庁:電力ネットワークの次世代化について
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/045_04_02.pdf

まとめ

本コンテンツでは、次世代型エネルギー社会システムの中で重要となるスマートグリッドについて、その特徴や導入事例をもとに解説してきました。

今回はスマートグリッド、つまりエネルギー分野においては”電気”の分野に着目してご紹介しました。しかし、都市インフラはエネルギー分野だけではないことも事実です。例えば、ブーズ・アレン・ハミルトン(*3)の試算によると2005-30年に世界の都市インフラに投じられる資金のうち、エネルギー関連は22%程度ですが、水関連ビジネスは50%以上を占めるというデータもあります。つまり、事業者は俯瞰的な視野を持って、自社のビジネスを通して貢献することができる環境保護や技術革新と向き合う必要があります。

(*3)アメリカのコンサルティング会社。

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